ここでは東大数理の修士課程の院試の2022B11の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
非負実数列$\varepsilon=\{\varepsilon_{n}\}_{n=1}^\infty$をとり、$p\in[1,\infty)$に対して$\ell^p$空間の部分集合
$$
S=\left\{x=(x_n)_{n=1}^\infty\in\ell^p\middle|\forall n\quad |x_n|\leq\varepsilon_n\right\}
$$
を考える。このとき$S$が$\ell^p$のコンパクト集合であるための必要充分条件は$\varepsilon\in\ell^p$であることを示せ。
この問題の全有界性を示すパートは
ここ
に良さげな議論があったので参考にというかほぼパクリしました。
充分性から示す。まず実数$\epsilon>0$を任意にとる。$S$の元は$\varepsilon\in S$によって一様に抑えられているから、ある自然数$N:=N_{\epsilon}$が存在して、任意の数列$x\in S$について
$$
\sum_{n=N}^\infty|x_n|^p\leq\frac{\epsilon^p}{2}
$$
を満たしていることが従う。ここで$R:=\|\varepsilon\|_p$及び$r:=\frac{\epsilon}{\sqrt[p]{2(N-1)}}$とおく。ここで有限集合$A\subseteq\mathbb{R}$を
$$
[-R,R]\subseteq\bigcup_{a\in A}(a-r,a+r)
$$
を満たすようにとる。ここで有限集合$T\subseteq\ell^p$を
$$
T:=\left\{(a_1,a_2,\cdots,a_{N-1},0,0,\cdots)\middle|\forall i=1,\cdots ,N-1\quad a_i\in A\right\}
$$
と定める。いま任意の$x\in S$及び$i$について$x_i\in[-R,R]$であるから、各$i$について$x_i\in(b_i-r,b_i+r)$なる$b_i\in A$が取れる。ここで$y=(b_1,\cdots,b_{N-1},0,0,\cdots)$と置いたとき、
$$
\begin{split}
\|x-y\|_p^p&=\sum_{i=1}^{N-1}|x_i-b_i|^p+\sum_{i=N}^\infty|x_i|^p\\
&\leq(N-1)r^p+\frac{\epsilon^p}{2}\\
&=\epsilon^p
\end{split}
$$
つまり$x\in B(y,\epsilon)$がわかる(ここで$B(y,\epsilon)$は$y$を中心とした半径$\epsilon$の閉球)。以上から任意の$\epsilon>0$について有限集合$T\subseteq \ell^p$をうまくとることで$S\subseteq\bigcup_{y\in T}B(y,\epsilon)$と表せるから、$S$の全有界性が従う。次に$S$に於けるCauchy列$x^1,x^2,\cdots$をとり、その極限を$x$とする。以下$x^j$及び$x$の第$i$項を$x^j_i$及び$x_i$とおく。このとき
$$
|x_i-x^j_i|\leq\|x-x^j\|_p\xrightarrow{j\to\infty}0
$$
である。よって$x^j_i\xrightarrow{j\to\infty}x_i$であるから、$|x_i|\leq \varepsilon_i$が従う。よって$x\in S$である。以上より$S$の全有界性及び完備性が言えたから、$S$はコンパクトである。
次に必要性を示す。$\varepsilon\notin \ell^p$に対して、$S$に属する実数列の数列$x^1,x^2,\cdots$を
$$
x^i:=(\varepsilon_1,\cdots,\varepsilon_i,0,0,\cdots)
$$
とおく。このとき$\|x^i\|_p$は無限大に発散するから、$S$は有界ではない。特に$S$はコンパクトではない。