今回の目標は多重ゼータ値のインデックスに「微分」を定義し、そこから多重ゼータ値の関係式を導出することです。
この記事では多重ゼータ値を左向き、つまり
とします。
そしてインデックスの微分を定義します。
たとえば
このとき次の定理が成立します:
この定理を示すのが今回の目標です。
さっそくいきましょう。
まずは関数や記法を定義していきます。
差分作用素
3つの多重調和和を次で定義する:
ここで、
左辺の差分は
右辺は
ここで
次が成立:
両辺に差分作用素を適用する。左辺は
よく見ると同じ漸化式を満たしていることがわかる。
ここでこの証明の一番の要である定理を示します。教えてくださったたけのこ赤軍さんに感謝します。
定理2の
ここで
示したい等号の右辺を
と書き、
と定める。
このとき
ここで
実際
であるから
2行目の等号で
一方で双対インデックスの定義より、
なので場合分けして考える。
より
を示せば証明は完了する。
ここで、固定された
である。これを
定理3に定理4の式を代入すると次の展開公式が得られます。
次が成り立つ:
定理5は次のように書き換えられる:
両辺
次が成り立つ:
ここで、
調和積の性質より
最後に、この定理の証明で微分関係式の証明は完成します。
次が成り立つ:
差分作用素と微分作用素が可換であることを使う。
具体的には、
ここで次の式を示したい:
(i)
左辺は
右辺は
よって主張は正しい。
(ii)
仮定より、
以上より主張は正しい。
いま、
より両辺
これで微分関係式の証明は終了です:
定理6と定理7から得られる。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
P.S.
この証明のあとに微分関係式の拡張を思いついたので書いてみます。
定理7の証明の途中で次の式が得られました:
ここで
一方、
任意の
これは多重ゼータ値間の等式ではなく、純粋なインデックス間の等式です。
空インデックス
微分関係式にはもう一つの拡張の仕方があります。
次の数を考えてみましょう:
これも2通りの表示ができそうな気がします。
より、
問題は(1)のほうです。煩雑になるのが目に見えてますね。
一般の
次が成立:
よって次の定理が得られます:
試しに
左辺は
右辺は
よって
これは数値的に正しい式です。
さらに、1階の微分関係式
に
これを先程の結果と比較することでさらなる関係式が得られます。
一般の
進展があったら報告します。
最後まで読んでいただきありがとうございました。