可換環論の入門にふさわしい内容を持つアティマクですが,命題1.1の証明が書かれていないのが残念なので,補完の意味で残しておきます.以下,環と言えば,乗法の単位元1をもつ可換環を意味するものとします.
以下の命題を証明します.
$R$を環,$I$をそのイデアルとする.$f:R\rightarrow R/I$を自然な準同型とする.$R$の$I$を含むイデアル全体の集合を$\mathbb{X}$,$R/I$のイデアル全体の集合を$\mathbb{Y}$としたとき,$f^{-1}(-):\mathbb{Y}\rightarrow\mathbb{X}$は全単射で,包含関係を保存する.
$f(-):\mathbb{X}\rightarrow \mathbb{Y}$($f$が全射なので,イデアルの像がイデアルとなりwell-defined)が逆写像であることを見る.
$\mathbb{X}$の元$J$を任意に一つとり,$f^{-1}(f(J))=J$であることを確認する.集合論的に$f^{-1}(f(J))\supset J$は明らか.$r\in f^{-1}(f(J))$とすると,$f(r)\in f(J)$.つまり,$j\in J$が存在して$f(r)=f(j)$である.よって$r-j\in \text{Ker}f=I\subset J $であることから$r\in J$.
$\mathbb{Y}$の元$K$を任意に一つとり,$f(f^{-1}(K))=K$であることを確認する.これは,一般に$f(f^{-1}(K))\subset K$で,$f$が全射であることから逆の包含も言える.
包含関係を保存することは明らか.
今回の記事は以上になります.とりあえず,これでアティマクの最初の一歩は踏み出せたのではないでしょうか.それでは.