この記事では単調族定理の愚直な証明を与える. 諸々の概念の定義と単調族定理のより洗練された証明についてはmathpediaなどを参照.
$X$を集合, $\mathcal A$を$X$上の有限加法族とし, $\mathcal M(\mathcal A)$を$\mathcal A$で生成された単調族とする. このとき$\mathcal M(\mathcal A)$は有限加法族であり, したがって$\sigma$-加法族である.
順序数$\alpha$に対し集合族${\mathcal A}_\alpha$と${\mathcal B}_\alpha$を次のように帰納的に定める. まず${\mathcal A}_0={\mathcal B}_0 = \mathcal A$とおく. 一般の$\alpha>0$については$\bigcup_{\beta<\alpha}{\mathcal B}_\beta$の元の可算上昇列$(B_n)$の合併$\bigcup_n B_n$として書ける元の全体を${\mathcal A}_\alpha$とおき, ${\mathcal A}_\alpha$の元の可算下降列$(A_n)$の共通部分$\bigcap A_n$として書ける元の全体を${\mathcal B}_\alpha$とおく.
まず, 任意の$\alpha$について${\mathcal A}_\alpha, {\mathcal B}_\alpha$が${\mathcal M}(\mathcal A)$に含まれることを帰納的に示す. $\alpha =0$の場合は明らか. 一般の$\alpha$について, ${\mathcal A}_\alpha$の元$A$を取る. 定義より$\bigcup_{\beta<\alpha}{\mathcal B}_\beta$の元の可算上昇列$(B_n)$によって$A=\bigcup B_n$と書ける. 帰納法の仮定により$B_n\in {\mathcal M}(\mathcal A)$なので, 単調族の定義より$A=\bigcup B_n\in {\mathcal M}(\mathcal A)$. したがって${\mathcal A}_\alpha \subset {\mathcal M}(\mathcal A)$. また${\mathcal B}_\alpha$の元$B$を取ると, 定義によりこれは${\mathcal A}_\alpha$の元の可算下降列$(A_n)$の交わりとして書ける. よって$B$は特に${\mathcal M}(\mathcal A)$の元の可算降下列の交わりなので${\mathcal M}(\mathcal A)$に属す. したがって${\mathcal B}_\alpha\subset {\mathcal M}(\mathcal A)$.
次に, $\bigcup_\alpha {\mathcal A}_\alpha = {\mathcal M}(\mathcal A)$を示す. ここで, 十分大きい順序数$\alphaでは{\mathcal A}_\alpha$が一定になっていることに注意すれば, この合併が定義できることがわかる. さて, $\bigcup_\alpha {\mathcal A}_\alpha$が単調族であることを示せば良い. そこでまず$(A_n)$を$\bigcup_\alpha {\mathcal A}_\alpha$の可算上昇列とする. すると各$n$に対し順序数$\alpha_n$が存在して$A_n\in {\mathcal A}_{\alpha_n}$となっている. すべての$\alpha_n$より大きな$\alpha$を取れば$A_n\in {\mathcal A}_\alpha$である. よって$A_n\in {\mathcal B}_\alpha$なので$\bigcup A_n \in {\mathcal A}_{\alpha +1}\subset \bigcup_\alpha {\mathcal A}_\alpha$である. 次に$(A_n)$を$\bigcup_\alpha {\mathcal A}_\alpha$の可算下降列とする. すると先程と同様にある順序数$\alpha$が存在して$A_n\in {\mathcal A}_\alpha$とできる. したがって$\bigcap A_n\in {\mathcal B}_\alpha \subset {\mathcal A}_{\alpha + 1}\subset \bigcup_\alpha {\mathcal A}_\alpha$である. よって$\bigcup_\alpha {\mathcal A}_\alpha$は単調族であり, $\bigcup_\alpha {\mathcal A}_\alpha = {\mathcal M}(\mathcal A)$である.
これで${\mathcal M}(\mathcal A)$の具体的な構成を与えることができた. これを用いて定理を示す. まず$\varnothing\in {\mathcal A}$より$\varnothing \in {\mathcal M}(\mathcal A)$である. 次に$A, B\in {\mathcal A}_\alpha$に対し$A\cup B\in {\mathcal M}(\mathcal A)$であることを$\alpha$についての帰納法で示す. $\mathcal A$は有限加法族なので$\alpha =0$の場合は良い. 一般の$\alpha >0$について考える. すると$\bigcup_{\beta<\alpha} {\mathcal B}_\beta$の可算上昇列$(A_n)$, $(B_n)$が存在して$A=\bigcup A_n$, $B=\bigcup B_n$と書ける. 帰納包の仮定により$A_n\cup B_n\in {\mathcal M}(\mathcal A)$なので, $A\cup B = \bigcup A_n\cup B_n \in {\mathcal M}(\mathcal A)$. これで${\mathcal M}(\mathcal A)$が有限合併に閉じることがわかった.
最後に$A\in {\mathcal A}_\alpha$に対し$X-A\in {\mathcal M}(\mathcal A)$であることを帰納法で示す. $\alpha =0$の場合は良い. 一般の$\alpha >0$の場合を考える. $\bigcup_{\beta<\alpha}{\mathcal B}_\beta$の元の可算上昇列$(A_n)$が存在して$A= \bigcup A_n$と書ける. 各$n$に対し順序数$\alpha_n$が存在して$A_n\in {\mathcal B}_{\alpha_n}$とできる. したがって各$n$に対して${\mathcal A}_{\alpha_n}$の元の可算降下列$(A_{n,m})$があって$A_n=\bigcap A_{n,m}$とできる. すると帰納法の仮定により$X-A_{n,m}\in {\mathcal M}(\mathcal A)$なので$X-A = \bigcap_n\bigcup_m (X-A_{n,m})\in {\mathcal M}(\mathcal A)$.