線形代数の線形空間について一度まとめておきたいと個人的に思ったため、過去に書いたノートを元にして書いています。『線型代数入門(東京大学出版会)』を自主ゼミで読んでいた時のものなので、かなりノートの出来は悪いですが、それでもよければどうぞ。
集合$V$がつぎの二条件(I),(II)を充たすとき、$V$を複素線形空間あるいは複素ベクトル空間という。
(I)$V$の二元$x,y$に対して和と呼ばれる第三の元(これを$x+y$で表す)が定まり、つぎの法則が成り立つ。
(i)$(x+y)+z=x+(y+z)$(結合法則)
(ii)$x+y = y + x$(交換法則)
(iii)零ベクトルと呼ばれる特別な元(これを0と表す)がただ一つ存在し、$V$のすべての元$x$に対して、$0+x=x$が成り立つ
(iv)$V$の任意の元$x$に対して、$x+x'=0$となる$V$の元$x'$がただ一つ存在する。これを$x$の逆ベクトルといい、$-x$で表す
(II)$V$の任意の元と任意の複素数$a$に対し、$x$の$a$倍と呼ばれるもう一つの$V$の元(これを$ax$で表す)が定まり、次の法則が成り立つ。
(v)$(a+b)x=ax + bx$
(vi)$a(x+y)=ax+ay$
(vii)$(ab)x=a(bx)$
(viii)$1x=x$
以上の二条件(I),(II)を複素線形空間の公理という。
ただ一つの元$0$からなる集合$\{0\}$に、$0+0=0 , a0=0(a\in K)$として演算を定義すると、$\{0\}$は$K$上の線形空間である。
空間(平面)の幾何ベクトルの全体$V^3(V^2)$は周知の演算によって実線形空間である
$K$上の線形空間$V$から線形空間$V'$への写像$T$が二条件
$T(x+y)=Tx+Ty$ (9)
$T(ax) = aTx$ (10)
を充たすとき、$T$を$V$から$V'$への線形写像という。
$T$が$V$から$V'$への線形写像、$S$が$V'$から$V''$への線形写像ならば、合成写像$ST$は、
$ST = S \circ T$
で、$V$から$V''$への線形写像である。
$V$から$V'$への二つの線形写像$T_1 , T_2$に対し、和$T_1+T_2$を
$(T_1+T_2)(x) = T_1x+T_2x$
によって、定義する。
特に、$V$から$V$自身への線形写像を$V$の線形変換という。$V$の二つの線形変換の積(合成変換のことを積という)は、また$V$の線形変換である。
$V$から$V'$への線形写像$φ$が一対一かつ上への写像であるとき、$φ$は$V$から$V'$の上への同型写像、あるいは$V$と$V'$とのあいだの同型対応であるという。二つの$K$上の線形空間$V$と$V'$の間に同型対応が存在するとき、$V$と$V'$とは互いに同型であるといい、$V≅V'$で表す。
次の諸性質は明らかである。
(1)$V≅V$(反射律)
(2)$V≅V' \rightarrow V'≅V$(対称律)
(3)$V≅V' , V'≅V'' \rightarrow V ≅ V''$(推移律)
$K$上の線形空間を$V$とする。
$V$のベクトルを$a_1,a_2,\cdots,a_k$に対し、
$c_1a_1+c_2a_2+\cdots+c_ka_k$ ($c_i \in K (i=1,2,\cdots,k)$)
の形のベクトルを$a_1,a_2,\cdots,a_k$の線形結合という。ベクトル$a_1,a_2,\cdots,a_k$の間の関係
$c_1a_1+c_2a_2+\cdots+c_ka_k = 0$
を線形関係という。
$a_1,a_2,\cdots,a_k$がどんなベクトルであっても線形関係は必ず存在する。それは、$c_1=c_2=\cdots=c_k = 0$としたもので、自明な線形関係と呼ばれる。自明でない線形関係はいつでも存在するとは限らない。
$a_1,a_2,\cdots , a_k$の間に自明でない線形関係が存在するとき、$a_1,a_2,\cdots , a_k$を線形従属といい、自明でない線形関係が存在しないとき、$a_1,a_2,\cdots , a_k$は線型独立であるという。
$a_1,a_2,\cdots,a_k$が線型従属であるということと、そのうちのある一個が、他の$k-1$個のベクトルの線形結合として表されることは同値である。
証明
$a_1,a_2,\cdots,a_k$が線型従属ならば、自明でない線形関係
$c_1a_1+c_2a_2+\cdots+c_ka_k = 0$
が成り立ち、$c_p \ne 0(1\le p \le k)$となるものが存在する。
これより、$c_pa_p$以外をすべて右辺に移項し、両辺を$c_p$で割ってあげると、
$a_p = -\dfrac{c_1}{c_p}a_1 - \dfrac{c_2}{c_p}a_2 - \cdots - \dfrac{c_k}{c_p}a_k$
となる。よって、一つの元が$k-1$個のベクトルの線形結合として表すことができた。
逆を示す。
ある$p(1\le p \le k)$に対して、
$a_p = b_1a_1+b_2a_2+\cdots + b_ka_k$
ならば、$a_1,a_2,\cdots,a_p,\cdots,a_k$の間の線形関係
$b_1a_1+\cdots+b_{p-1}a_{p-1} - a_p + b_{p+1}a_{p+1}+\cdots + b_ka_k = 0$
は自明でない線形関係である。□
$a_1,a_2,\cdots,a_k$が線型独立であり、$a$が$a_1,a_2,\cdots,a_k$の線形結合として表されないならば、$k+1$個のベクトル$a_1,a_2,\cdots,a_k,a$も線形結合である。
証明
$a_1,a_2,\cdots,a_n,a$の間に線形関係
$c_1a_1+c_2a_2+\cdots+c_ka_k+ca=0$ (1)
があるとする。$c\ne 0$ならば、$a_1,a_2,\cdots,a_n $の線形結合として表され、仮定に矛盾する。したがって、$c=0$.
すると、(1)は$a_1,a_2,\cdots,a_n$の間の線形関係となるから、仮定より、
$c_1=c_2=\cdots=c_k=0$
よって、$a_1,a_2,\cdots,a_k,a$は線型独立である。□
ベクトル$c$が$b_1,b_2,\cdots,b_l$の線形結合であり、各$b_i(i=1,2,\cdots,l)$が$a_1,a_2,\cdots,a_k $の線形結合であれば、$c$は$a_1,a_2,\cdots,a_k$の線形結合である
線形結合$V$の有限個のベクトルが存在して、$V$の任意のベクトルが、これら有限個のベクトルの線形結合として表されるとき、$V$は有限次元という。有限次元でないとき、$V$は無限次元という。
線形空間$V$の有限個のベクトル$e_1,e_2,\cdots,e_n$が次の二つの二条件を満たすとき、$e_1,e_2,\cdots,e_n $は$V$の基底であるという。
(1)$e_1,e_2,\cdots,e_n$が線型独立である。
(2)$V$の任意のベクトルは$e_1,e_2,\cdots,e_n$の線形結合として表される。
$a_1,a_2,\cdots,a_k$が線型独立ならば、ベクトル$x$を$a_1,a_2,\cdots,a_k$の線形結合として表し方は高々一通りしかない。
基底をいうときには、ベクトルの順序が異なるものは異なる基底として考える。
$V$が零ベクトルだけからなる場合を除けば、基底は必ず存在する。
$V \ne \{0\}$のとき、$e_1,e_2,\cdots,e_r$($r$は0でもよい)が線型独立ならば、これに何個かのベクトルを付け加えることによって$V$の基底が得られる。
証明
$V$は有限次元であるから、有限個のベクトル$a_1,a_2,\cdots,a_k$が存在して、$V$の任意のベクトルは$a_1,a_2,\cdots,a_k$の線形結合である。
$V$のすべてのベクトルが$e_1,e_2,\cdots,e_r $の線形結合ならば、$< e_1,e_2,\cdots,e_r>$はすでに$V$の基底である。
$e_1,e_2,\cdots,e_r$の線形結合として表されないベクトルがあれば、命題3より、$ a_1,a_2,\cdots,a_k$のなかにそのようなものがある。
($a_1,a_2,\cdots,a_k$の中に$e_1,e_2,\cdots,e_r$の線形結合として表されないベクトルがあるということを上の文は説明している)
$a_1$が$e_1,e_2,\cdots,e_r$の線形結合として表されないベクトルとする。このベクトルを
$a_1 = e_{r+1}$
とおく。$e_1,e_2,\cdots,e_r,e_{r+1}$は命題2より線形結合である。これらがまだ基底にならない場合、$a_2,\cdots,a_k$のうち、$e_1,e_2,\cdots,e_r$の線形結合として表されないものを選んでそれを$e_{r+2}$とおく。
この操作を繰り返していくと、高々$k$回目で$V$の基底になる。□
$V \ne \{0\}$ならば基底が存在する
$V,V'$を$K$上の同型な線形空間とし、$φ$を$V$から$V'$への同型写像とする。$V$のベクトル$a_1,a_2,\cdots,a_n$が線型独立(あるいは線型従属)ならば、$V$のベクトル$φ(a_1),φ(a_2),\cdots,φ(a_n)$も線型独立(あるいは線型従属)である。
$V$が$n$個のベクトルから成る基底を持てば、$V$は$K^n$に同型である。
証明
$< e_1,e_2,\cdots,e_n>$が$V$の基底ならば、$V$の任意のベクトル$x$は一意に
$x = x_1e_1+x_2e_2+\cdots+x_ne_n$
と表される。
そこで、$V$から$K^n$への写像$φ$を
$φ(x)= {}^t(x_1,x_2,\cdots,x_n)$
と定義すれば、$φ$は$V$と$K^n$との間の同型対応を与える。□
$K^n$において$n$個より多くのベクトルは線型従属である。とくに、$m\ne n$ならば、$K^m$と$K^n$は同型でない。
証明
$K^n$の元$a_1,a_2,\cdots,a_m(m > n)$によって与えられる$m$個の未知数$x_1,x_2,\cdots,x_m$に関する$n$個の斉次一次方程式の系
$x_1a_1+x_2a_2+\cdots+x_ma_m = 0$
は自明でない解をもつ。
これは、$a_1,a_2,\cdots,a_m$が線型従属であることを意味する。
特に、$K^m$と$K^n$とが同型ならば、$K^m$の$m$個の単位ベクトル$e_1,e_2,\cdots,c_m$に対応する$K^n$の$m$個のベクトルは命題6より線型独立である。
したがって、$m\le n$ , 同様に$m\ge n$でなくてはならない。□
$K$上の線形空間$V$が$n$個のベクトルから成る基底を持つならば、$n$個より多くのベクトルは線型従属である。とくに、$V$の任意の基底は$n$個のベクトルより成る。
証明
命題7より$V$は$K^n$に同型である。したがって、命題6及び命題7より、$n$個より多くのベクトルは線型従属である。
$V$が$m$個の元より成る基底を持てば、命題7により$V$は$K^m$にも同型となるから、$m=n$にならなければならない。□
$V$の基底を含むベクトルの個数$n$(どの基底についても同じ数)を、線形空間$V$の次元といい、$dim V$と表す。
$V$の任意の部分集合$S$に対し、$S$の有限個のベクトル$e_1,e_2,\cdots,e_n$が次の二条件
(1)$e_1,e_2,\cdots,e_n$は線型独立である。
(2)$S$の任意のベクトルは$e_1,e_2,\cdots,e_n$の線形結合として表される。
を充たすとき、$\{e_1,e_2,\cdots,e_n\}$は$S$の極大線型独立系であるという。
$V$の有限部分集合$S$が$n$個の元からなる極大線型独立系を持つならば、$n$個より多くの$S$のベクトルは線型従属である。とくに、$S$の任意の極大線型独立系は$n$個のベクトルよりなる
$K$上の次元の等しい二つの線形空間は互いに同型である。
$V=\{0\}$には基底は存在しない。この空間の次元は0であると定める。