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京大数学科院試過去問解答例(2019専門02)

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初めに

ここでは京大RIMS数学教室の2019年度の専門科目02を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答ではないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2019専門02

有限群$G$に対して次の条件(i)を考える。

  1. 任意の自然数$n$に対して、位数$n$の部分群は高々一つしかない。

以下の問いに答えなさい。

  1. $G$を(i)を満たす有限アーベル群とする。$G$は巡回群であることを示しなさい。
  2. $G$が(i)を満たすとする。$H$$G$の正規部分群としたとき、剰余群$G/H$も(i)を満たすことを示しなさい。
  3. (i)を満たす有限群は巡回群以外にあり得ないことを示しなさい。

問題自体は丁寧に誘導に乗っていけば比較的スムースに解ける問題ですが、本記事ではデデキント群の構造定理を使う方針でいきます。強い主張で問題を殴るのは楽しいですね!

デデキント群の構造定理

まず群の性質として次のようなものを考えます。

任意の部分群が正規部分群であるような群をデデキント群と呼ぶ。デデキント群のうちアーベル群でないものをハミルトン群と呼ぶ。

これは条件(i)より弱い条件です。

アーベル群はデデキント群です。

位数$8$の四元数群$Q_8$はハミルトン群です。

$G=Q_8\times \mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$はハミルトン群ではありません。実際$(i,1)$に対して
$$ (j,0)(i,1)(j^{-1},0)=(i^{-1},1) $$
$(i,1)$の生成する群に含まれません。

ここではデデキント群の構造について考えていきます。以下の議論では交換子群が出てきますが、群$G$の元$x,y$の交換子は
$$ [x:y]:=x^{-1}y^{-1}xy $$
で定義します。

$G$$[G:G]\subseteq Z(G)$を満たしているとする。任意の$n$及び$a,b\in G$に対して次が成り立つ。

  1. $[a^n:b]=[a:b]^n$
  2. $(ab)^n=a^nb^n[a:b]^{-\frac{n(n-1)}{2}}$
  1. 帰納法で示す。$n=1$のとき示すことは何もない。$n=k$で成り立つとき
    $$ \begin{split} [a:b]^{k+1}&=[a:b]^k[a:b]\\ &=[a^k:b][a,b]\\ &=a^{-k}b^{-1}a^kba^{-1}b^{-1}ab\\ &=a^{-(k+1)}b^{-1}a^{k}b^{-1}bab\\ &=a^{-(k+1)}b^{-1}a^{k+1}b&=[a^{k+1}:b] \end{split} $$
    であるから$n=k+1$についても結果が従う。
  2. 帰納法で示す。$n=1$のとき示すことは何もない。$n=k$のとき成り立つと仮定する。このとき帰納法の仮定と(1)から
    $$ \begin{split} (ab)^{k+1}&=a^kb^k[a:b]^{-\frac{k(k-1)}{2}}(ab)\\ &=a^kb^kab[a:b]^{-\frac{k(k-1)}{2}}\\ &=a^{k+1}b^k[b^k:a]b[a:b]^{-\frac{k(k-1)}{2}}\\ &=a^{k+1}b^k[a:b]^{-k}b[b^{-1}:a^{-1}]^{\frac{k(k-1)}{2}}\\ &=a^{k+1}b^{k+1}[a:b]^{-\frac{k(k+1)}{2}}&=a^{k+1}b^{k+1}[a:b]^{-\frac{k(k+1)}{2}} \end{split} $$
    であるから結果が従う。

$p$を奇素数とする。位数$p$冪のデデキント群はアーベル群に限る。

$G$の位数が$p^n$とする。$n$に関する帰納法で示す。$n=1$のとき示すことは何もない。次に$n=k$のとき定理が成り立っているとする。ここで$|G|=p^{k+1}$とする。$G$の位数$p$の部分群$H$を任意に取ったとき、帰納法の仮定から$G/H$はアーベル群であり、これによって
$$ [G:G]\subseteq H $$
が従う。以下$[G:G]\neq\{1\}$として矛盾を導く。このとき$[G:G]$$G$の部分群で唯一の位数$p$の巡回群になる。非自明な$p$群は自明な中心を持たないことを考慮すると、$[G:G]\subseteq Z(G)$が従い、補題1から任意の$a,b\in G$に対して
$$ (ab)^n=a^nb^n[a:b]^{-\frac{n(n-1)}{2}} $$
が従う。$n=p$を代入すると、$p$は奇素数であることと$|[G:G]|=p$であることを考慮すれば、任意の$a,b\in G$に対して$(ab)^p=a^pb^p$であることがわかる。よって群準同型
$$ \begin{split} f:G&\to G\\ a&\mapsto a^p \end{split} $$
が定義され、$[G:G]=\mathrm{Ker}f$である。ここで$H=\mathrm{Im}f$$G$の指数$p$の正規部分群であり、補題1から任意の$a^p\in H$及び$b\in G$に対して
$$ [a^p:b]=[a:b]^p=1 $$
が成り立つから$H=Z(G)$が従う。このとき$G/Z(G)$が位数$p$の巡回群であることが従うが、これは$G$がアーベル群であることを意味し矛盾する。以上から$[G:G]=\{1\}$、つまり$G$はアーベル群である。

位数が$2$冪のハミルトン群$G$は、位数$8$の四元数群$Q_8$といくつかの$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$の直積に限る。

$|G|=2^{r+1}$とする。完全列
$$ 0\to Q_8\times (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^r\to G\to\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\to 0 $$
が取れたとする。そして$a\in G$が全射で$1+2\mathbb{Z}$に送られる元とする。$a$の位数は$2,4,8$のいずれかである。$a$と非可換な$Q_8\times (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^r$の元があったとする。このとき$a$$Q_8$の元$i,j,k$のいずれか$2$つと非可換であり、残りの一つと可換である。ここで$a^2$$i,j,k$と可換であるから$a^4=1$がわかる。ここで$ak^{-1}$$a$に置き換えることで
$$ a^2\in \{1\}\times (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^r $$
$$ a\in Z(G) $$
として良い。ここで$a^2\neq1$とすると、$G$$Q_8\times \mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$を含むが、これはデデキント群でないから矛盾する。よって$a^2=1$になるように$a$を取ることができる。以上から
$$ G=Q_8\times (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^{r+1} $$
である。
以下結果を示す。$|G|=8$のときにハミルトン群としてあり得るのは$Q_8$のみである。以下$|G|=2^n>8$とする。このとき$G$$Q_8$を正規部分群として含む。このとき群の列
$$ Q_8\triangleleft G_1\triangleleft G_2\triangleleft\cdots \triangleleft G_{n-2}=G $$
$|G_i/G_{i-1}|=2$になるようにとる。このとき前半の議論から順次
$$ G_i=Q_8\times(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^{i} $$
が従う。以上で示せた。

ハミルトン群の構造定理

有限ハミルトン群は

  1. 位数$8$の四元数群$Q_8$
  2. $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$の有限直積
  3. 位数が奇数の有限アーベル群

の直積である。

$G_p$$G$$p$シロー部分群とする。このとき$G$のデデキント性から相異なる$p,q$に対して$[G_p:G_q]\subseteq G_p\cap G_q=\{1\}$であることを考慮すれば
$$ G=\prod_{p}G_p $$
である。あとは補題1と補題2から従う。

京大RIMS数学教室2019専門02

以下問題1を解いていきます。再掲します。

2019専門02

有限群$G$に対して次の条件(i)を考える。

  1. 任意の自然数$n$に対して、位数$n$の部分群は高々一つしかない。

以下の問いに答えなさい。

  1. $G$を(i)を満たす有限アーベル群とする。$G$は巡回群であることを示しなさい。
  2. $G$が(i)を満たすとする。$H$$G$の正規部分群としたとき、剰余群$G/H$も(i)を満たすことを示しなさい。
  3. (i)を満たす有限群は巡回群以外にあり得ないことを示しなさい。
  1. (3)からすぐに従う。
  2. (3)からすぐに従う。
  3. 有限ハミルトン群の構造定理から$G$
    $$ G=Q_8\times (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^r\times H $$
    と書けるかアーベル群であるかのいずれかである(但し$r\in\mathbb{N}$であり、$H$は位数奇数の有限アーベル群)。$Q_8$は位数$4$の部分群を$3$つ持つから$G$はアーベル群である。また$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^2$は位数$p$の部分群を$p+1$つ持つから$G$$p$シロー部分群は巡回群である。以上から$|G|$を割り切る各素数$p_i$に対して自然数$a_i$が存在して
    $$ G=\prod_{i}\mathbb{Z}/p_i^{a_i}\mathbb{Z}=\frac{\mathbb{Z}}{\qty(\prod_ip_i^{a_i})\mathbb{Z}} $$
    であるから結果が従う。

ちゃんとした解答

まともな解答が御所望の方は 北窓さんの解答案 をご覧ください。掻い摘んで説明すると、定理4の要領で$p$群の場合に帰着し、非自明な$p$群は非自明な中心を持つことと
$$ G/Z(G) $$
が巡回群のとき$G$がアーベル群なこと、そして(1)(2)を用いて示されています。

投稿日:101
更新日:101

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