Maxwell方程式をDirac作用素を使ってDirac方程式っぽく書くことについて説明します。微分形式をClifford代数と見なせばほぼ自明です。
以下$(M,g)$を擬リーマン多様体とします。
$\{e_i\}$を$T_pM$の正規直交基底とし、$\{\theta^i\}$をその双対基底とします。$\{\gamma^i\}$を$\gamma^i\gamma^j+\gamma^j\gamma^i=-2\eta^{ij}$を満たすClifford代数の生成子とすると、$\theta^i\mapsto\gamma^i$により外積代数$\Lambda(T^*_pM)$はClifford代数$Cl((T^*_pM,\eta))$とベクトル空間として同型です。代数としての同型は、$\theta\in T_p^*M,\ \eta\in\Lambda^k(T^*_pM)$に対して、
\begin{align}
\theta\cdot\eta&=\theta\wedge\eta+\iota_{{}^\sharp \theta}\eta\\
\eta\cdot \theta&=(-1)^k(\eta\wedge \theta-\iota_{{}^\sharp \theta}\eta)
\end{align}
と定義して、$\Lambda(T^*_pM)$全体に自然に拡張することでClifford積$\cdot$が得られます。この微分形式に入るClifford代数の積を$\vee$と書いている文献もあります2。この対応により微分形式をClifford bundleの切断と見なしたものをClifford formなどと呼ぶことがあります。
$F\in\Omega^2(M)$をMaxwell場とします。すなわち
\begin{align}
dF&=0\\
d^\dagger F&=j,\ (j\in\Omega^1(M))
\end{align}
を満たすとします。このときClifford formに対してDirac作用素を
\begin{align}
D:=\theta^i\cdot\nabla_{e_i}
\end{align}
と定義します。さらにこれは
\begin{align}
D=\theta^i\wedge\nabla_{e_i}+\iota_{{}^\sharp\theta^i}\nabla_{e_i}=\theta^i\wedge\nabla_{e_i}-(-\iota_{{}^\sharp\theta^i}\nabla_{e_i})
=d-d^\dagger
\end{align}
となるので、Maxwell方程式は
$$
DF=-j
$$
となります。$d:\Omega^2\to\Omega^3,d^\dagger:\Omega^2\to\Omega^1$であることを考えれば代数の同型より逆も成り立つのでこれらは同値な方程式であることがわかります。
$d-d^\dagger$は複素幾何ではHodge-de Rham operatorなどと呼ばれます。
Maxwell方程式は$U(1)$ゲージ理論におけるYang-Mills方程式であるが、非可換ゲージ理論においても同様の書き換えが可能です。$G$をLie群、$\mathfrak{g}$をそのLie環とし、$P=P(M,G)$を$M$上の主$G$束、$\mathfrak{g}_{Ad}$を$G$の随伴表現に関する同伴束とし、$G$不変なファイバー内積が存在するとします。$P$の接続(ゲージ場)を$A$とし、$F=dA+\frac{1}{2}[A\wedge A]\in \Omega^2(\mathfrak{g}_{Ad})$とします。上の議論で$d$を$\Omega(\mathfrak{g}_{Ad})$に対する共変外微分$d^A$に、$d^\dagger$を$(d^A)^\dagger$に、$D$を$D^A=\theta^i\cdot\nabla^A_{e_i}$に置き換えると全く同様にBianchi恒等式$d^AF=0$とYang-Mills方程式$(d^A)^\dagger F=j$は$D^AF=-j$とできます。