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大学数学基礎解説
文献あり

一様な大数の法則について

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はじめに

本記事は一様な大数の法則に関する備忘録です. もし間違い等があればコメントいただけますと幸いです.

一様な大数の法則

一様な大数の法則はM-推定の漸近理論において必須の道具です.

記法
  • 位相空間Xに対してB(X)XのBorel集合族を表す.
  • B(θ,ρ)は中心θ, 半径ρの開球を表す. すなわち, B(θ,ρ)={θ~Θ|d(θ~θ)<ρ}.
  • a.s.はalmost surely (ほとんど確実に, 確率1での意) の略.
設定
  • (Ω,F,P)は確率空間.
  • (X,A)は可測空間.
  • (Θ,d)は距離空間.
  • {Xi}iN(Ω,F,P)上に定義されたX-値確率変数列.
  • qX×Θ上の実数値関数.
  • qは次で定まるX×Θ×R+上の実数値関数 :
    q(Xi,θ,ρ)=supθ~B(θ,ρ)q(Xi,θ~).

次の命題は各点での標本平均の概収束を保証します.

エルゴード定理 (Stoutbook1, Theorem 3.5.7)

{Xi}iNは強定常かつエルゴード的で, E[|X1|]<とする. このとき,
1ni=1nXiE[X1]a.s.
が成り立つ.

次の補題は一様な大数の法則を示すために必要です.

(吉田book2, 命題4.2)

次の5つの条件を仮定する.

  1. Θ0Θのコンパクト部分集合.
  2. {Xi}iNは強定常かつエルゴード的.
  3. P-a.s.ωΩに対して, Θθq(X1(ω),θ)Rは上半連続.
  4. θΘに対して, ρ(θ)が十分小さければ, Xxq(x,θ,ρ(θ))RA/B(R)-可測.
  5. 関数M:XRE[M(X1)]<なるものが存在して, supθΘq(X1,θ)M(X1) a.s.

このとき, 写像
ΘθE[q(X1,θ)]R
は上半連続であり,
lim supnsupθΘ01ni=1nq(Xi,θ)supθΘ0E[q(X1,θ)]a.s.
が成り立つ.

任意にθΘを固定する. 仮定[4]よりm0(θ)Nが存在して, mm0(θ)ならば, 各iについてΩωq(Xi(ω),θ,1/m)RF/B(R)-可測となる. また, 仮定[3]よりq(X1,θ,1/m)q(X1,θ) a.s. (m) であるから, 仮定[5]と合わせることにより単調収束定理が適用できて, 任意に固定されたε>0ARに対して, m1(θ,ε,A)Nが存在して, mm0(θ)m1(θ,ε,A)なるmに対して
E[q(X1,θ,1/m)A]E[q(X1,θ)A]+ε=E[q(X1,θ)]A+ε
となる (q(X1(),θ,1/m)F/B(R)-可測性とq(X1(ω),)の上半連続性よりq(X1(),θ)F/B(R)-可測となることに注意する). これよりmm0(θ)m1(θ,ε,A)ならば,
E[q(X1,θ)]supθ~B(θ,1/m)E[q(X1,θ~)]E[q(X1,θ,1/m)]E[q(X1,θ)]A+ε
となるから, 写像θE[q(X1,θ)]は上半連続である.

さて, m~(θ,ε,A)=m0(θ)m1(θ,ε,A)とおくとき, 開球の族{B(θ,1/m~(θ,ε,A))}θΘ0Θ0の開被覆であり, Θ0のコンパクト性より有限個の点θ1,,θJΘ0を選び, Θ0j=1JB(θj,1/m~(θj,ε,A))とできる. 今, m~j=m~(θj,ε,A), j=1,,Jと書くと,
supθΘ01ni=1nq(Xi,θ)max1jJsupθB(θ,1/m~j)1ni=1nq(Xi,θ)max1jJ1ni=1nq(Xi,θj,1/m~j)
となる. したがって, prop:1 (エルゴード定理) より, 確率1で
lim supnsupθΘ01ni=1nq(Xi,θ)lim supnmax1jJ1ni=1n(q(Xi,θj,1/m~j)A)=max1jJE[q(X1,θj,1/m~j)A]max1jJE[q(X1,θj)]A+εsupθΘ0E[q(X1,θ)]A+ε
となり, ε, Aは任意であるから, 目的の不等式を得る. (証明終)

以上の準備の下で, 一様な大数の法則は次で与えられます.

一様な大数の法則 (吉田book2, 命題4.3)

次の5つの条件を仮定する.

  1. Θ0Θのコンパクト部分集合.
  2. {Xi}iNは強定常かつエルゴード的.
  3. P-a.s.ωΩに対して, Θθq(X1(ω),θ)Rは連続.
  4. θΘに対して, Xxq(x,θ)RA/B(R)-可測.
  5. 関数M:XR+E[M(X1)]<なるものが存在して, supθΘ|q(X1,θ)|M(X1) a.s.

このとき, 写像
ΘθE[q(X1,θ)]R
は連続であり,
limnsupθΘ01ni=1n|q(Xi,θ)E[q(X1,θ)]|=0a.s.
が成り立つ.

写像θE[q(X1,θ)]の連続性は仮定[iii], [iv], [v]およびLebesgueの収束定理より分かる.

r(x,θ)=q(x,θ)E[q(X1,θ)]とおく. 定理を示すには
lim supnsupθΘ01ni=1nr(Xi,θ)0a.s.,lim infninfθΘ01ni=1nr(Xi,θ)0a.s.
を言えばよい.

任意にθΘ0を固定する. 仮定[i]よりΘ0は可分であるから, 各ρ>0についてΘ0B(θ,ρ)において稠密な点列{θj}jNがとれる. 今, 各xXに対してθr(x,θ)は連続であることに注意すると,
supθ~Θ0B(θ,ρ)r(x,θ~)=limJmax1jJr(x,θj)
となるから, 仮定[iv]より[4]がΘΘ0として関数rに対して成り立つ. また, 仮定[v]より
supθΘr(Xi,θ)supθΘ|q(x,θ)|+E[supθΘ|q(X1,θ)|]M(X1)+E[M(X1)]
となるから, [5]も関数rに対して成り立つ. したがって, lem:2より1つ目の目的の不等式を得る. rの代わりにrに対して同様の議論をすることにより2つ目の目的の不等式も得られる. (証明終)

参考文献

[1]
Stout, W. F., Almost Sure Convergence, Probability and Mathematical Statistics, Academic Press, 1974
[2]
吉田朋広, 数理統計学, 講座〈数学の考え方〉21, 朝倉書店, 2006
投稿日:127
更新日:213
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