こんにちは,itouです.
今回は前回確認した
三角形除去補題
アイタイ・セメレディの定理(コーナー定理ともいう)
ロスの定理
の流れを
ハイパーグラフ除去補題
多次元コーナー定理
有限版多次元セメレディの定理
へと一般化したものを見ていきます.少しで分かりにくいと思ったら前回の記事を参照してください.以下でとしたものが前回の流れです.
定義
下のある図も参考にして下さい.直積や非交和が出てくるので,混同しないようにしてください.説明の都合上,一部私が導入した記号,用語が出てきます.
部グラフデータ
をを満たす正整数とする.各に対してが空でない有限集合であり,各に対してであるとき,を部グラフデータという.
部グラフ
「頂点集合が個の部分に分けられていて,同じ部分に属する相異なる頂点たちが同じ辺の構成要素になることがないようなグラフ」のことを部グラフという.部グラフデータが与えられたとき,とおき,を自然にの部分集合と思うことによって,部グラフを自然に構成できる.このとき,をから構成される部グラフとよぶ.
以下を頂点集合の記号として用いますが,として考えてもらってよいです.
グラフ型
が有限集合を頂点集合とするグラフであり,各に対してが空でない有限集合であるときに,組をグラフ型とよぶ.
型の部グラフデータ
として,グラフ型と各ごとにであるような集合族に対して,は部グラフデータである.の部分集合を型の部グラフデータという.
は私のオリジナルの記号です.が(頂点)完全グラフなら,部グラフデータに一致します.
型の部グラフ
型の部グラフデータが与えられたとき,頂点集合をとおき,辺集合をとしたグラフを型の部グラフという.
の場合はとなります.
理解を助けるために,以下のように本書にはない用語を設定します.
用語 頂点小集合,辺小集合
各に対してを頂点小集合,各に対してを辺小集合という.
とが出てきて紛らわしいですが,の部分集合がで,によって個の頂点小集合のうちどの個を選ぶか指定し,その直積の部分集合を辺小集合というのです.とかいているのは,の場合とは違って選んでいない個の頂点小集合の組がある(つまりが空でない)からです.それら選んでいない辺を除いたのが型の部グラフデータです.
「三角形」に対応する言葉を導入しておきます.
用語 のコピー
グラフに対して,に含まれると同型なの部分グラフのことをに含まれるのコピーという.
を頂点グラフとする.
型の部グラフデータに対し,
と定める.
は除去すべきのコピーの頂点集合の集まりです.
上の概念を整理しましょう.
まず,頂点グラフ()を用意します.
次に,の個の頂点集合に対し,個の頂点小集合を持ってきて,それぞれ対応させます.(各の元の個数は自由です.)この組がグラフ型です.いま,の元は個の頂点小集合のうち個を指定しています.この個の頂点小集合から頂点を1つずつ選んで辺をつくります.そのような辺の個数は全部で個だけありますが,その部分集合をとします.(実際は部分集合の取り方を指定します.)これで辺小集合ができました.同じことをすべてのについてもやります.こうしてできたのが頂点小集合と頂点辺小集合の組,型の部グラフデータです.
改めて頂点集合をとおき,辺集合をとしたグラフを型の部グラフというのです.
イメージ
の場合のイメージです.
イメージ
図中の「と同型な部分3グラフ」が「のコピー」,「と同型な部分3グラフ」が「のコピー」です.
本題
ハイパーグラフ除去補題
正整数と正の実数に対して,が存在して,以下が成立する.を頂点数のグラフとし,グラフを任意に考えて,その頂点数をとおく.もしが高々個しかと同型な部分グラフを含まなければ,高々個の辺を消去することによって,と同型な部分グラフを含まないようなの部分グラフを得ることができる.
部ハイパーグラフ版ハイパーグラフ除去補題
正整数と正の実数に対して,が存在して,以下が成立する.をであるようなグラフ型,をの辺集合,とする.各ごとに集合
を考える.もし
が満たされるならば,各に対してであるような族が存在して,として
かつ任意のに対して
が成り立つ.
三角形除去補題と同様ハイパーグラフ除去補題にも2つのバージョンがありますが,以降単にハイパーグラフ除去補題と言ったら後者のグラフの言葉で書かれたものを指すことにします.
次元コーナー
を正整数とする.を用いてと表されるの部分集合のことを次元コーナーという.ここで,は次元ユークリッド空間の標準基底であり,零ベクトルとしている.であるような次元コーナーを非自明な次元コーナー,であるような次元コーナーを自明な次元コーナーとよぶ.
多次元コーナー定理
正整数および実数に対して,正整数が存在して,以下が成立する.を満たす任意の正整数に対して,であるような集合は非自明な次元コーナーを含む.
有限版多次元セメレディの定理
の部分集合と実数に対して,正整数が存在して,以下が成立する.を満たす任意の整数に対して,であるような集合は星座を含む.
ハイパーグラフ除去補題多次元コーナー定理
ならば多次元コーナー定理は自明.よってとします.実数を任意にとり,と定義します.ただし,.とし,を満たす集合をとります.
からグラフをつくっていきます.
頂点集合については,各に対し,を
と定義し,
とします.
ここで,のときは
のときは
とします.は上の超平面の格子点からなる集合です.これを単に超平面ということにします.定義からのときは,です.
辺集合を以下のようにしましょう.
ごとにとおき,集合を以下のように定義します.
ごとに超平面をとるとき,定義からは1元集合です.そこで
とします.まとめると,
からつくったグラフ
頂点集合
ここで,のときは
のときは
辺集合
ごとにとおき,集合を以下のように定義します.
このとき,集合は,対応
によって,に含まれる次元コーナー全体の集合と1対1対応します.
ただしは次元の標準基底です(上から番目の要素が1,他が0の列ベクトルを考えてください.は0ベクトルとします).
前回同様が非自明なコーナーを含むことを背理法で示しましょう.上の対応においての任意の元が自明な次元コーナーに対応していると仮定します.
このとき,
であるので,ハイパーグラフ除去補題より,各に対してが存在して,かつ任意のに対して
が成立します.
ここではグラフ型をすべて除去し終えたグラフです.
は除去すべきグラフ型の個数のことです.
仮定はの任意の元が自明な次元コーナーに対応していることを意味していました.の元である個の超平面の組は,そのうちの個から残りの1個が一意的に決まります.
よって次の写像:
は単射です.
よって,
となりますが,これはに矛盾し,証明が完了します.
多次元コーナー定理有限版多次元セメレディの定理に入る前に
本書では多次元コーナー定理有限版多次元セメレディの定理の証明に,加群,短完全系列,切断といった用語を用いていますが,なるべくそれらを使わず説明します.(加群だけ使います)(これらの概念はこれより後には出てきませんし,この証明を理解するには大きすぎる牛刀といったところなので詳しくはやりません).ベクトル空間が分かれば十分です.
ベクトル空間の説明(高校数学の美しい物語)
ベクトル空間とは体を用意して,の元を係数として代数構造をつくったものです.この係数として用意する集合を体ではなく環としたものを加群といいます.のとき,加群といいます.このあとは加群しか出てきません.
この後の証明に必要な知識
1.は加群とみなせる.とくに,加群の基底をとることで,の元を一意に表せる.(加群についてはこれさえ分かっていれば十分です.)
2.という集合の列を考えて,が単射,が全射,のとき,が存在して,である.(はの恒等写像)また,はと1対1対応する.
1についてはの
標準基底
をとることを考えるというだけです.
2については下の図を見て納得してください.
短完全系列のイメージ
よりの方が大きいので,からにいってもに戻ってくることができるというだけです.
(星座の)標準形状というものを導入します.
(星座の)標準形状
を正整数,をの有限部分集合とする.およびが成り立ち,がを加群として生成するとき,を標準形状とよぶ.
星座の形状は標準形状であるとして一般性を失わないことを確認しましょう.というのも任意の星座に対して,にが含まれていなければを追加し,さらに高々個の元を付け加えることで,得られる集合が自由加群を生成するようにします.するとは標準形状なので,星座が目的の集合内に存在するならその部分集合として,が含まれていることが示されます.よって標準形状の場合を考えて問題ありません.
多次元コーナー定理有限版多次元セメレディの定理
さて,証明に入ります.標準形状と実数を任意にとります.とし,と元にインデックスを振っておきます.(ただし)加群の全射写像を,各に対してとして定めます.(は標準基底では0ベクトル)
このとき,集合の列:
を考えます.
上で確認した通り,写像が存在します.1つ取って固定します.は加群とみなすことができます.このことは個の未知数に対し個の関係式を与えれば,自由度がになることよりわかります.
そのため基底をとることができ,がの基底となっていることが分かります.ただし,はの標準基底です.
(がが1次独立であることは,とよりわかります).
このの基底をなす個のベクトルをそれぞれ基底に関して成分表示した際の各成分の絶対値の最大値の倍をとします.
すなわち,
と成分表示するとき,たちの中の絶対値の最大値の倍をとします.
そして,と定めます.
を満たす任意の整数およびであるような集合をとります.に対して,
とおきます.このとき,およびが成り立っています.(なので)
のに関する各成分の絶対値は以下です.これはであるとき,において,各をさらにに関する1次結合で表して展開すると,と倍することに注意してわかります.
同様に,に関する各成分の絶対値は以下です.
以上により,の元のに関する各成分の絶対値はで上から抑えられます. よって,がわかりました.したがって,
であり,なるすべてのにも上の不等式が成立するので,
が示されました.とし,
としてを定めると,
となっています.およびに関する条件から,
とできます.なので,
多次元コーナー定理(定理3のステートメントでを,をとした)より,は非自明な次元コーナーを含みます.これをでで射影すると,がを含むことがわかります.は負である可能性もありますが,であったので,これは星座です.
これで多次元コーナー定理有限版多次元セメレディの定理
も示されました.
感想
結構大変でした.次はいよいよハイパーグラフ除去補題の証明にとりかかります.30ページぐらいあるので,一部を解説するだけになるかも.やる気次第です.
謝辞
ここまで読んで下さりありがとうございました。誤植等指摘お願いいたします.