まず, Tychonoffの定理とは何かを確認しておきましょう:
$\{X_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$をコンパクト空間の族とする. このとき$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$はコンパクトである.
この定理の証明には色々なやり方があり(本に載っている証明のほとんどがフィルターを使った証明です), その中にAlexander Subbasis Theorem(以下ASTとする)を用いたものがあります. よって本稿ではまずASTについて紹介し, それを用いてTychonoffの定理を証明しようと思います.
早速紹介に入ります. 以下$X,\,Y$を位相空間とします.
$\mathcal{S}$を$X$の部分基(準開基)とするとき, $\mathcal{S}$の要素からなる任意の被覆が有限部分被覆を持つならば$X$はコンパクトである.
さて, 定理の中身を見て似たような主張を見たことがあるなと感じた人もいるかも知れませんね. そうです, これは
「$f:X→Y$を写像, $\mathcal{S}$を$X$の部分基としたとき任意の$U\in\mathcal{S}$に対して$f^{-1}(U)$が開集合ならば$f$は連続」という主張とモチベーションとしては同じになります. つまり定義に必要な要素を任意の開集合から部分基の要素へと制限できるということです. では, 証明に入りましょう.
対偶を示す. $X$がコンパクトでないとき$X$の有限部分被覆を持たない開被覆$\mathcal{U}=\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$がある. いま$\mathcal{C}_{\mathcal{U}}$を$\mathcal{U}$を含む有限部分被覆を持たない$X$の開被覆全体の族とする. このとき$\mathcal{C}_{\mathcal{U}}$は集合の包含関係により半順序集合で, $\mathcal{C}$を任意の全順序部分集合とすると$\bigcup\mathcal{C}$は$\mathcal{C}$の上界である. よってZornの補題から$\mathcal{C}$の極大元$\mathcal{U}_{M}$が存在する. $\mathcal{S}\cap\mathcal{U}_{M}$が$X$を被覆すればよい. 各$x\in X$に対してある$\lambda\in\Lambda$が存在して$x\in U_{\lambda}$である. さらに有限個の$\mathcal{S}$の要素$S_{1},\ldots,S_{n}$を選んで$x\in S_{1}\cap\dots\cap S_{n}\subset U_{\lambda}$とできる. ここで$S_{1},\ldots,S_{n}$が$\mathcal{U}_{M}$の要素でないとする. このとき$\mathcal{U}_{M}$の極大性から任意の$i$で$\mathcal{U}_{M} \cup \{S_{i}\}$は$\mathcal{C}_{\mathcal{U}}$の要素でないから有限部分被覆をもつ. その有限部分被覆を$\{U_{i,j}\}_{1\le j\le n_{i}}\cup\{S_{i}\}$とすると
\begin{align}
X&=S_{i}\cup\bigcup_{j=1}^{n_i} U_{i,j}=\biggl(\bigcap_{i=1}^{n} S_{i}\biggr)\cup\bigcap_{i=1}^{n}\bigcup_{j=1}^{n_i} U_{i,j} \\&=U_{\lambda}\cup\bigcup_{i=1}^{n}\bigcup_{j=1}^{n_i} U_{i,j}
\end{align}
となり$\mathcal{U}_{M}$から有限部分被覆が取れて矛盾する. よって任意の$i$で$S_{i}\in\mathcal{U}_{M}$だから$\mathcal{S}\cap\mathcal{U}_{M}$は$X$を被覆する. //
ここから定理1を示していきますが, 証明に入る前にコンパクト性の定義の確認をします(以下言及せずに用います). 以下$\textbar A\textbar$を$A$の濃度とします. 位相空間$(X,\mathcal{O})$がコンパクトであるとは
\begin{align}
&\forall\mathcal{U}\subset\mathcal{O}\Bigl(X=\bigcup\mathcal{U}\Rightarrow\exists\mathcal{V}\subset\mathcal{U}\bigl(\textbar\mathcal{V}\textbar <\infty\land X=\bigcup\mathcal{V}\bigr)\Bigr)\\
&\Leftrightarrow\\
&\forall\mathcal{U}\subset\mathcal{O}\Bigl(\forall\mathcal{V}\subset\mathcal{U}\bigl(\textbar\mathcal{V}\textbar <\infty\Rightarrow X\ne\bigcup\mathcal{V}\bigr)\Rightarrow X\ne\bigcup\mathcal{U}\Bigr)
\end{align}
を満たすことです. では証明に入ります.
各$\lambda\in\Lambda$に対して$\mathcal{O}_{\lambda}$を$X_{\lambda}$の位相, $p_{\lambda}$を$X$から$X_{\lambda}$への射影で$\mathcal{S}=\{p_{\lambda}^{-1}(U):\lambda\in\Lambda,U\in\mathcal{O}_{\lambda}\}$とすると$\mathcal{S}$は$X$の部分基である. よって定理2からいかなる有限部分族も$X$を被覆しない$\mathcal{S}$の任意の部分族$\mathcal{A}$が$X$を被覆しないのなら$X$はコンパクトである. ここで各$\lambda\in\Lambda$に対して$\mathcal{B}_{\lambda}=\{U\in\mathcal{O}_{\lambda}:p_{\lambda}^{-1}(U)\in\mathcal{A}\}$と定める. このとき$\mathcal{B}_{\lambda}$の任意の有限部分族は$X_{\lambda}$の被覆でない(被覆であるとすると$\mathcal{A}$が$X$を被覆する有限部分族を持つことになり矛盾する)からコンパクト性より任意の$\lambda\in\Lambda$に対してある$x_{\lambda}$が存在して$x_{\lambda}\in X_{\lambda}\setminus\bigcup\mathcal{B}_{\lambda}$となる. さらに$\lambda$成分を$x_{\lambda}$とする点$x\in X$をとると$x\in X\setminus\bigcup\mathcal{A}$となる. よって$\mathcal{A}$は$X$の被覆でない. //
これで定理1の証明が終わりました. お疲れさまでした.
$\cdot$定理2の証明はあるpdfを参考にしたのですが, どれを読んだのか忘れたので参考文献には載せてません.
$\cdot$定理1の証明は[1]を参考にしました. コンパクト性の定義(の対偶を取ったバージョン)を元の証明では無断で用いていましたが, そこで筆者は大いに詰まったので証明する前に書いておきました.