この記事は参考文献 [1] 第 2 章 Fundamental groups in topology を参考にさせていただきました。
以下、$X$ を位相空間とします。
$1.$ $X$ 上の空間
位相空間 $Y$ と写像 $p:Y\to X$ の組 $(Y,\ p)$ が $X$ 上の空間であるとは $p$ が連続であることをいう。
$2.$ $X$ 上の被覆
$X$ 上の空間 $(Y,\ p)$ が$X$ 上の被覆であるとは次の条件 $(1),\ (2)$ を満たすことをいう:
$(1)$ 任意の $x\in X$ に対して $x$ の近傍 $V$ と $Y$ の開集合の族 $\lbrace U_i\rbrace_{i\in I}$ が存在して
$$ p^{-1}(V)=\displaystyle \bigcup_{i\in I}U_i,\ U_i\cap U_j = \emptyset(i\neq j)$$
となる。
$(2)$ $(1)$ の各 $i\in I$ に対して $p$ の $U_i$ への制限は $U_i$ から $V$ への同相写像である。
この $V$ を $X$ における $x$ の被覆近傍、$U_i$ を $Y$ における $V$ のシートと呼ぶ。
$3.$ $X$ 上同型
$(Y_1,\ p_1),\ (Y_2,\ p_2)$ を $X$ 上の空間とする。$(Y_1,\ p_1)$ と $(Y_2,\ p_2)$ が $X$ 上同型であるとは、同相写像 $f:Y_1\to Y_2$ が存在して $p_1 = p_2\circ f$ となることをいう。このとき、$(Y_1,\ p_1)\simeq_X (Y_2,\ p_2)$ と書く。この $f$ を $X$ 上 $(Y_1,\ p_1)$ から $(Y_2,\ p_2)$ への同型写像と呼ぶ。
$$ \xymatrix{ \large{Y_1} \ar[rr]^-{\Large{f}} \ar[rdd]_-{\Large{p_1}} & & \large{Y_2} \ar[ldd]^-{\Large{p_2}}\\ & \ar@{}[]^{\LARGE\circlearrowright} & \\ & \large{X} & \\ } $$
$X$ 上の被覆 $(Y,\ p)$ に対して以下が成り立つ:
$(1)$ $p:Y\to X$ は開写像である。よって被覆近傍は常に $X$ の開集合である。
$(2)$ 任意の $x\in X$ に対してファイバー $p^{-1}(x)$ は $Y$ の部分空間として離散位相空間である。
$I$ を離散位相空間、$p:X\times I\to X$ を射影とする。このとき $(X\times I,\ p)$ は $X$ 上の被覆である。これを$X$ 上の自明な被覆という。
実際に $(X\times I,\ p)$ は $X$ 上の被覆であることを示す。任意の $x\in X$ をとる。$X$ は $x$ の近傍であり、$p^{-1}(X) = X\times I = \displaystyle \bigcup_{i\in I} (X\times \lbrace i\rbrace)$ となる。$U_i := X\times \lbrace i\rbrace$ とおくと $U_i$ は $X\times I$ の開集合であり、$p$ の $U_i$ への制限は $U_i$ から $X$ への同相写像である。また $i\neq j$ ならば $U_i\cap U_j = \emptyset$ である。したがって $X$ は $X$ における $x$ の被覆近傍である。
自明な被覆では $X$ 自身が任意の $x\in X$ に対する被覆近傍である。
局所的に自明な被覆であることは被覆の特徴づけになります。次の命題は参考文献 [1] Proposition 2.1.3 を参考にさせていただきました。
$X$ 上の空間 $(Y,\ p)$ に対して次は同値である。
$(1)$ $(Y,\ p)$ は $X$ 上の被覆である。
$(2)$ 任意の $x\in X$ に対して $x$ の近傍 $V$ と $V$ 上の自明な被覆 $(V\times I,\ q)$ が存在して $(p^{-1}(V),\ p)\simeq_X (V\times I,\ q)$ となる。
$(1) \Longrightarrow (2)$
ファイバー $p^{-1}(x)\ (x\in X)$ を例 1 の $I$ として採用する。
$(2) \Longrightarrow (1)$
任意の $x\in X$ に対して、$X$ における $x$ の被覆近傍は自明な被覆を経由することによって得られる。
$(1) \Longrightarrow (2)$
$x\in X$ をとる。$(Y,\ p)$ は $X$ 上の被覆であるから、$x$ の被覆近傍 $V$ と $V$ のシートの族 $\lbrace U_i\rbrace_{i\in I}$ が存在する。$I$ に離散位相を入れ、
$$ p_i:U_i\to V\times I,\ u\mapsto (p(u),\ i)$$
と定めると $p_i$ は連続かつ開写像である。
$$ f:\displaystyle \bigcup_{i\in I} U_i\to V\times I$$
を $f(u)=p_i(u)$ と定める。ただし $i$ は $u\in U_i$ となる $i\in I$ である。$U_i\cap U_j = \emptyset\ (i\neq j)$ であるから $f$ は矛盾なく定義される。$f$ が同相写像であることを示す。まず全単射であることと連続であることは $f$ が各 $p_i$ の貼り合わせ(
命題 6.12 (連続写像の貼り合わせ)
)であることからしたがう。$f^{-1}$ が連続であることを示す。$W$ を $\displaystyle \bigcup_{i\in I} U_i$ の開集合とすると
$$
f(W) = f\left(W\cap \displaystyle \bigcup_{i\in I}U_i\right)
=\displaystyle \bigcup_{i\in I}f(W\cap U_i)
=\displaystyle \bigcup_{i\in I}p_i(W\cap U_i)
$$
となる。$p_i$ は開写像であるから $p_i(W\cap U_i)$ は $V\times I$ の開集合である。よって $f^{-1}$ は連続である。
$(2) \Longrightarrow (1)$
任意の $x\in X$ をとる。このとき、$x$ の近傍 $V$ と $V$ 上の自明な被覆 $(V\times I,\ q)$ が存在して $(p^{-1}(V),\ p)\simeq_X (V\times I,\ q)$ となる。$f:p^{-1}(V)\to V\times I$ をこの同型写像とする。$V$ は $X$ における $x$ の近傍であるから $x\in U\subset V$ となるような $X$ の開集合 $U$ が存在する。$q^{-1}(U) =\displaystyle \bigcup_{i\in I} (U\times \lbrace i\rbrace)$ であるから、$U_i := U\times \lbrace i\rbrace$ とおくと $p^{-1}(U) = \displaystyle \bigcup_{i\in I} f^{-1}(U_i)$ となる。$f^{-1}(U_i)$ は $p^{-1}(U)$ の開集合であるから $Y$ の開集合である。また、$f^{-1}(U_i) \cap f^{-1}(U_j) = \emptyset\ (i\neq j)$ である。よって $U$ は $x$ の $X$ における被覆近傍、$\lbrace f^{-1}(U_i)\rbrace_{i\in I}$ は $U$ の $Y$ におけるシートの族である。