※今回はテーマがテーマなので小説形式にしようかと思います。
50%は脚色です。
中学校の教科書で負の数の単元を眺めたら、とある疑問が浮かんだ。
「整数+虚数」はできないのに「整数+負の数」ができるのはなぜだか?
僕が調べものをするときにまず真っ先に開くWebサイトは、Wikipediaだ。Wikipediaには面白い記事が載っているのでよく読む。だが、今日のは「負の数が虚数と違い、実数と同列に扱うことができる理由」を探しに来た。
さっそく『正の数と負の数 - Wikipedia』のページを開いた瞬間、モニターに吸い込まれ、なんと異世界に転生してしまった。
負の数は現実世界だと、受け入れられるのに時間がかかったらしい。
理由はなんとなく分かる。1個のリンゴは存在するが、-3個のリンゴは存在しないからだ。
直観に反する事象は受け入れがたい。
また、昔は現代と違って宗教的理由も考慮しなくてはならない。例えば、無理数は今でこそ使われているが、ピタゴラス教団の教義に反するとされていた。
あのピタゴラスが無理数の存在を認めなかったのである。
その教義のため「無理数は、あります」と公言したメンバーの1人が処刑されてしまった。
もちろん現在は無理数が使われており、処刑されることもない。
最初に使われた記録があるのは7世紀インドだが、ヨーロッパでは17世紀くらいまでは負の数は受け入れられなかったらしい。ヨーロッパで受け入れられるようになったのはオイラー、ガウスなど、数学者のキセキの世代が活躍しはじめたあたりで、意外にも誕生年が虚数と近い。 それもそのはず、虚数には負の数が使われている。虚数を受け入れるには負の数も受け入れなければならない。
(※具体的な年号順は不明です。申し訳ありません。)
負の数は虚数と同じく存在しない。ー3個のリンゴも存在しないし、5$i$個のリンゴも存在しない。
しかし、負の数は虚数と違い、実数との演算が可能である。
この違いは何か。
そのカギはこの異世界にあるのだろう。
どうやらこの異世界には負の数が存在せず、すべての実数を以下のように表すことができる。
$(a,b) (a,b \in \mathbb{R}, a,b>0)$
(「実数を使って実数を表現するな」という野暮なことは言ってはいけない。負の数は必ずこの表記で、0および正の数はどちらの表記でもよい、というルールなら矛盾しないだろう。)
そして、以下のように演算する
$1.(a,b)+(c,d)=(a+c, b+d)$
$2.(a,b)×(c,d)=(ac+bd, ad+bc)$
「なぜこんなにややこしいんだ!」と叫びたくなった。この演算が合理的だと気付くのに数日はかかった。
この$(a,b)$という表記は、現実世界でいうと
$(a-b)$
に相当し、あらゆる実数を表せる。
例えば
$(8, 6) → 8-6=2$
$(6.52, 2) → 6.52-2=4.52$
$(5, 6) → 5-6=-1$
$(9, 10)→ 9-10=-1$
負の数の概念が存在しない代わりに、二つの正の数の差で表しているのだろう。
そうすると、上記の演算は現実世界では以下のように書き換えられる。
$1.(a,b)+(c,d)=(a+c, b+d)$
$\rightarrow (a-b)+(c-d)=(a+c)-(b+d)$
$2.(a,b)×(c,d)=(ac+bd, ad+bc)$
$\rightarrow (a-b)(c-d)=(ac+bd)-(ad+bc)$
よし、この異世界のルールになんとなく慣れてきたぞ!
また、この異世界では、例えば$(5, 6)$と$(9, 10)$は同じ数値としてみなすという。
分数でいう$\frac{2}{4}=\frac{4}{8}=\frac{1}{2}$のようなものだな。
つまり、同値関係~が
$(a, b)~(c, d) \Longleftrightarrow a+d=b+c$
で定義できるということだ。
例えば
$5+10=6+9=15$ より $(5,6)~(9,10)$
$4+285=5+284=289$ より $(4,5)~(284,285)$
この同値関係~は、$(5,6)$も$(9,10)$も$(4,5)$も$(284,285)$も、全て同じ数値であるということを示している。
そして、これらは全て現実世界の$-1$に相当する。
さらに、この異世界では順序も決まっていて、全順序が
$(a,b)≤(c,d) \Longleftrightarrow a+d ≤ b+c$
と定義されている。
例えば
$5+10 ≤ 6+13$ より $(5,6) ≤ (13,10)$
$2+8 ≤ 4+9$ より $(2,4) ≤ (8,9)$
これらは現実世界で言うとそれぞれ
$-1 ≤ 3$
$-2 ≤ -1$
に相当する。
これらの演算方法、同値関係、全順序から、「負の数は全て実数と同列に演算でき、実数直線上に表すことができる」ということがわかる。
気が付くと、研究室のパソコンの前で突っ伏していた。どうやらレポートに追われ、いつの間にか寝ていたようだ。さっそくこの奇妙な体験をゼミの先生に話した。
すると、ゼミの先生はこう答えた。
「私もそのパソコンで無理数のことを調べていたら過去にタイムスリップした夢を見たことがある。無理数を公表してピタゴラス教団に殺されたところで目が覚めたんだがね」
あれお前か。
同値関係、全順序には厳密な証明が必要なので、改めてここに記します。
同値関係
$(a, b)~(c, d) \Longleftrightarrow a+d=b+c (a,b,c,d \in \mathbb{R})$
1.反射律(自分自身は同値)
$a+b=b+a$ より $(a, b)~(a, b)$
2.対称律(同値な組は左右入れ替えても同値)
$(a, b)~(c, d) \Rightarrow a+d=b+c$
$\Leftrightarrow c+b=d+a$
$\Leftrightarrow (c, d)~(a, b)$
3.推移律(A $\Rightarrow$ B かつ B $\Rightarrow$ C のとき、A $\Rightarrow$ C)
$(a, b)~(c, d) かつ (c, d)~(e, f)$
$\Rightarrow a+d=b+c かつ c+f=d+e$
$\Leftrightarrow a+d+c+f=b+c+d+e$
$\Leftrightarrow a+f=b+e$
$\Leftrightarrow (a, b)~(e, f)$
全順序
$(a,b)≤(c,d) \Longleftrightarrow a+d ≤ b+c$
1.反射律(自分自身)
$a+b≤b+a$ より $(a, b)≤(a, b)$
2.反対称律(左右入れ替えて成り立つのは同値の場合のみ)
$(a, b)≤(c, d) かつ (c, d)≤(a, b)$
$\Rightarrow a+d≤b+c かつ b+c≤a+d$
$\Leftrightarrow a+d=b+c$
$\Leftrightarrow (a, b)=(c, d)$
3.推移律(A $\Rightarrow$ B かつ B $\Rightarrow$ C のとき、A $\Rightarrow$ C)
$(a, b)≤(c, d) かつ (c, d)≤(e, f)$
$\Rightarrow a+d≤b+c かつ c+f≤d+e$
$\Leftrightarrow a+d+c+f≤b+c+d+e$
$\Leftrightarrow a+f≤b+e$
$\Leftrightarrow (a, b)≤(e, f)$
4.完全律(必ず A≤B または B≤A のどちらかが成り立つ)
$(a, b)>(c, d) \Rightarrow a+d>b+c$
$\Leftrightarrow c+b< d+a$
$\Leftrightarrow (c, d)<(a, b)$
等号が成り立つ場合は同値関係「2.対象律」を参照