はじめまして!この記事では自己紹介とホモロジー代数における圏の特別な対象の性質について語っていきたいと思います
まえがき
大学1年生のいそべやんです。面白そうな数学の話題が好きで、特に解析的整数論に興味を持っています。今回は初投稿ではありますが、シリーズを通してホモロジー代数にまつわる補題(五項補題、蛇の補題...etc)について解説していきたいとおもいます...が、加群には触れません (*ただし気分によって変わる可能性あり)
この記事は圏論的に(つまりミッチェルの埋め込み定理を使わずに)ホモロジー代数の補題を証明することを目的としています。前提知識として簡単な圏論の知識が必要です。また解説の都合のため定義と性質が前後していたり、一般的に扱われている定義とは異なる弱い定義になっているものもあります。ご了承お願いします。厳密な定義、議論は参考文献[1][2][3]等を参照してください。
加群は出ない
必要な知識は簡単な圏の知識
一般的でない定義が出る
アーベル圏を知るまえに
早速ホモロジー代数について解説していきたいのですが、群論には群、環論には環、位相空間論には位相空間の定義が必要なように、ホモロジー代数にはアーベル圏(または加群)の定義が必要です。しかしアーベル圏の定義をするには特別な対象の定義が必要不可欠です。ということで第1回はこの「特別な対象、射、具体例、性質」について解説していきます。
零対象と零射
零対象
零対象
を圏とする。の対象が以下の条件を満たすとき零対象という。
の任意の対象に対して、からへの射が唯一存在する。
の任意の対象に対して、からへの射が唯一存在する。
「射が唯一存在する」とはどういうことかというと、例えば(1)は||と表せるということですね。
つまり「全てのに対して、からへの射が1本しかないよ」と言うことです。
を、対象を1のみ,射をのみの圏とする。この時、1はの零対象になる
を、対象を群,射を群準同型の圏とする。この時、自明群はの零対象になる
を、対象を基点付き位相空間,射を基点を保つ連続写像の圏とする。この時、基点のみの位相はの零対象になる
これら零対象には普遍性があります。
証明手法(任意)
証明
は零対象なので定義1の(1)よりとが存在します。
ここでとなりますが、定義1の(1)より、からへの射は1つしか存在しません。つまりとなります。も同様にと一致するので、
零対象には普遍性があることが分かったので零対象は0と表記することにします。
零射
先ほど定義した0を用いて次のような特別な射を考えることができます。
零射
0を対象に持つ圏の射に対して、あるが存在して以下の図式が可換の時、を零射と呼ぶ
つまりと0を経由した形に変形できるヤツを零射と呼んでいるんですね。
圏においてはの零射になる
圏において全ての元を単位元に送る準同型写像はの零射になる
圏に対して全ての元を基点に送る連続写像はの零射になる
実は零射は以下のようなことがわかっています。
任意の対象に対して、ある零射が唯一存在する
が零射なら、任意の,に対して、,は零射
定義1よりある射が存在するのでは零射となりからへの零射が存在する。
また射が零射ならある射が存在してと分解できる
ここで定義1より零射と対象の射は1つしかないので、となるのでとなり射の一意性が示せた
は零射なので、あるが存在してとなる。よってを用いてとなるのでは零射となる
同様にを用いて、となるのでは零射
これにより零射には一意性があることが分かったので、からへの零射をまたは単にと表します。
零対象と零射 まとめメモ
零対象を0と書く
からへの零射をとかく
零射は合成しても零射
モノ射とエピ射
モノ射とエピ射
モノ射とエピ射
を圏としをの射とする。
の任意の射に対して、が成り立つときをモノ射と言いと書ける
の任意の射に対して、が成り立つときをエピ射と言いと書ける
モノ射(エピ射)は右から(左から)合成して射が一致するなら合成前でも一致するということですね。自分のモノ射のイメージは下みたいな感じです。
ファスナーを半分閉めるようにモノ射はからまでスッと射を一本にしても可換が成り立つ感じです
を、対象が集合,射が写像の圏とする。単射はのモノ射になり、全射はのエピ射になる。
また単射はでモノ射になり、全射はでエピ射になる。
を、対象がハウスドルフ空間,射が連続写像となる圏とする。に対して、包含写像はのエピ射になる。
モノ射、エピ射には以下の性質が成り立ちます。
を圏の射とする
がモノ射ならもモノ射
がモノ射ならもモノ射
がエピ射ならもエピ射
がエピ射ならもエピ射
がを満たすとする。
はモノ射なので、
はモノ射なので、
よってはモノ射
がを満たすとすれば
はモノ射なのでとなる。
よってはモノ射
がを満たすとする。
はモノ射なので、
はモノ射なので、
よってはモノ射
がを満たすとすれば先程と同様に
となり、はエピ射なのでとなる。
よってはエピ射
モノ射やエピ射は単射や全射を一般化したような概念になっていることがわかりました。実際に具体圏では単射(全射)はモノ射(エピ射)になります。一方でモノ射(エピ射)が単射(全射)になるとは限りません。実はモノ射といっても、正規モノ、正則モノ、分裂モノ...といった多くの種類が存在します。今回はアーベル圏の準備が目的ですのでここでは触れません。
モノ射とエピ射 まとめメモ
がモノ射の時、射をと書ける
がエピ射の時、射をと書ける
がモノ射もモノ射、がエピ射もエピ射
直積 直和
直積
直積
を圏の対象とする。圏の対象と射が以下の性質を満たす時、をの直積と言い特にを射影という。
任意の圏の対象と射に対して、ある射がただ一つ存在して、以下の図式が可換になる。
なんだかごちゃごちゃしていて見にくいですね...ですので、ステップごとに定義を述べて可換図式を書いていくので一緒に追っていきましょう。
ステップ1
まずが存在する。
ステップ2
の三つ組が直積であるとは、
ステップ3
任意のと射に対して、
ステップ4
ある射がただ一つ存在して、
ステップ5
下の図式が可換(つまり)となる。
ということでした。直積は「始域が共通でとが終域の射のペア」から「が終域となる射」を作れるので、合成以外で射を作ることができるんですね!
圏においては対象との直積になる
圏において集合の直積と射影の組は集合の直積になる
圏において群の直積と射影の組は群の直積になる
また直積には普遍性があります。
証明
は直積なので、直積の普遍性よりが存在して、以下の図式が可換
同様には直積なので、直積の普遍性よりが存在して、以下の図式が可換になる
よっては以下の図式を可換にする。
ところで以下の図式も可換である
定義4の(1)から可換にするような射は一つしかない。
つまり||=1である。よってと分かった。同様にとわかるのでとなる。
直積には普遍性があることが分かったのでとの直積を、射影をとし、とを可換にするような射をと記述することにする。(つまり下の図のように記述する)
直和
直和
を圏の対象とする。圏の対象と射が以下の性質を満たす時、をの直和と言い、特にを入射という。
任意の圏の対象と射に対して、ある射がただ一つ存在して、以下の図式が可換になる。
またごちゃごごちゃしていて見にくいですね...同様に、ステップごとに定義を述べて可換図式を書いていきましょう。
ステップ1
まずが存在する。
ステップ2
の三つ組が直積であるとは、
ステップ3
任意のVと射に対して、
ステップ4
ある射がただ一つ存在して、
ステップ5
下の図式が可換(つまり)となる。
ということでした。直和の定義をよく見ると直積と似ていますね。直和の定義は実は直積の定義の矢印を反対にした双対なんです。
圏においては対象との直和になる
圏において集合の直和と入射の組は集合の直和になる
を、対象をベクトル空間,射を線形写像とする。圏においてベクトルの直和と入影の組はベクトルの直和になる
直和には直積と同様に普遍性があります。
証明
はの直和なので、直和の普遍性よりが存在して、以下の図式が可換になる
ところで以下の図式も可換である
定義5の(1)から可換にするような射は一つしかないのでと分かった。同様にとわかるのでとなる。
直和にも普遍性があることが分かったのでとの直和を、入射をとし、とを可換にするような射をと記述することにする。(つまり下の図のように記述する)
直積と直和 まとめメモ
との直積を、射影をと書く
との直積を、入射をと書く
とを可換にするような射をと書く
とを可換にするような射をと書く
核と余核
核
核
を0を持つ圏とする。の射に対して、対象と射の組が以下の条件を満たすとき、をの核という
はとなる。つまり以下の図式が可換
対象と射のペアがを満たすとする。この時ある射がただ一つ存在して、以下の図式が可換となる。
核の定義はなかなか厄介です。一体なぜこのような定義にしたのでしょうか?「ベクトル空間の核」から「圏の核」の定義へ一般化することを目指して追っていきましょう。
を線形写像としたときのベクトル空間の核の定義は
でした。この定義では元を取る集合論的な定義ですから、このままでは圏論ぽく一般化できません...
なので圏論チックに射(写像)だけを使って定義することを目指しましょう!
ベクトルの核の定義からは元を全て0へ送る写像になっていることが分かります。実は全ての元を0へ送る写像は上の零射になっています!(の零対象がベクトル空間{0}であることから従う)...①
または包含写像を用いてと書けますね!...②
これら①②から核の条件(1)を満たしてほしいことが分かります。
しかしこの条件では足りません...例えば、としても(1)の条件を満たしてしまいます。こういった核モドキ達をはじくために条件(2)があるんですね。
実際に(1)(2)の条件を課すことによって核に普遍性が生まれます。
はの核なので定義6の(1)より
またはの核なので定義6の(2)より、ある射が存在して、以下の図式が可換
同様にはの核なので定義6の(2)より、ある射が存在して、以下の図式が可換
よってにより以下の図式が可換になる
ところで以下の図式も可換になる
ここで定義6の(2)より射は一個しか存在しないのでとわかる。同様にとわかるので
普遍性があることがわかったので核をとあらわすことにします。
核にはうれしい性質が多くあります。
がを満たすとする。とおくと、
となる。よって核の定義より、以下の図式を可換にする射が唯一つ存在する。
ところでだったので以下の図式も可換である。
図式を可換にするような射は一つしか存在しないのでとなり、はモノ射である。
とが同型であればよい。
核の定義よりとなる
また零射の性質よりとなる。
ここではモノ射よりとなる
また定理7(1)よりはモノ射であるので、である。
よってとわかり、
余核
余核
を0を持つ圏とする。の射に対して、対象と射の組が以下の条件を満たすとき、をの余核という
はとなる。つまり以下の図式が可換
対象と射のペアがを満たすとする。この時ある射がただ一つ存在して、以下の図式が可換となる。
余核の定義は核の定義と似ていますね。実は核の定義から矢印を反対にして定義しなおすと余核になります。
核と同じように余核にも普遍性が生まれます。
はの余核なので定義7の(1)より
またはの余核なので定義7の(2)より、ある射が存在して、以下の図式が可換
同様にはの余核なので定義7の(2)より、ある射が存在して、により以下の図式が可換になる
ところで以下の図式も可換になる
ここで定義7の(2)より射は一個しか存在しないのでとわかる。同様にとわかるので
普遍性があることがわかったので余核をとあらわすことにします。
ところで余核とは何でしょうか?例えば、線形写像に対して、の余核とは商空間のことです。つまりの終域のうちの像をつぶしたような空間が余核ということなんですね
こうした余核にも核と同じようにうれしい性質があります。
がを満たすとする。とおくと、
となる。よって余核の定義より、以下の図式を可換にする射が唯一つ存在する。
ところでだったので以下の図式も可換である。
図式を可換にするような射は一つしか存在しないのでとなり、はエピ射である。
とが同型であればよい。
余核の定義よりとなる
また零射の性質よりとなる。
ここではエピ射よりとなる
また定理9(1)よりはエピ射であるので、である。よってとわかり、
像と余像
ところで核の反対語といえば何を思い浮かべますか?自分としては核の反対語は「像」という感じなんですが実際の核の双対は余核といわれるものでした。では「像」はどのように定義されるでしょうか?
実は、核と余核を駆使すると、像を作ることができるんです!
そして像と余像は以下の性質を持ちます。
に対して、の像と余像が存在するなら、以下の図式を可換にする射が唯一存在する。
証明手法(任意)
核の定義からは零射である。
より余像はの余核なので、以下の図式を可換にするような射が存在して、以下の図式を可換にする。
またであるが、なので、余核はエピ射より、またより、像はの核でもあるので、以下の図式を可換にするような射が唯一存在する。
ところで今定義した像は果たして我々が知っている像の定義になるでしょうか?
ベクトル空間で検証してみましょう
線形写像に対して、の余核とはでした。
ここでの核とは何でしょうか?
そう!ですね!ですからとなるんですね~
核と余核 まとめメモ
核と余核の射は合成すると零射になる。
核,余核の射はモノ射,エピ射となる。
核モドキから核への(可換にするような)射が唯一存在する。
余核から余核モドキへの(可換にするような)射が唯一存在する。
おわりに
今回はお読みいただきありがとうございました。初投稿ということで分かりにくい説明や誤字も多かいかもしれません。ですが、さらに成長して数学に挑んでいきたいです!次回はアーベル圏の定義とその具体例に入ります。