はじめまして!この記事では自己紹介とホモロジー代数における圏の特別な対象の性質について語っていきたいと思います
大学1年生のいそべやんです。面白そうな数学の話題が好きで、特に解析的整数論に興味を持っています。今回は初投稿ではありますが、シリーズを通してホモロジー代数にまつわる補題(五項補題、蛇の補題...etc)について解説していきたいとおもいます...が、加群には触れません (*ただし気分によって変わる可能性あり)
$\ $
この記事は圏論的に(つまりミッチェルの埋め込み定理を使わずに)ホモロジー代数の補題を証明することを目的としています。前提知識として簡単な圏論の知識が必要です。また解説の都合のため定義と性質が前後していたり、一般的に扱われている定義とは異なる弱い定義になっているものもあります。ご了承お願いします。厳密な定義、議論は参考文献[1][2][3]等を参照してください。
$\bullet$加群は出ない
$\bullet$必要な知識は簡単な圏の知識
$\bullet$一般的でない定義が出る
早速ホモロジー代数について解説していきたいのですが、群論には群、環論には環、位相空間論には位相空間の定義が必要なように、ホモロジー代数にはアーベル圏(または加群)の定義が必要です。しかしアーベル圏の定義をするには特別な対象の定義が必要不可欠です。ということで第1回はこの「特別な対象、射、具体例、性質」について解説していきます。
$\mathcal{C}$を圏とする。$\mathcal C$の対象$Z$が以下の条件を満たすとき零対象という。
$(1)\mathcal C$の任意の対象$X$に対して、$Z$から$X$への射が唯一存在する。
$(2)\mathcal C$の任意の対象$Y$に対して、$Y$から$Z$への射が唯一存在する。
「射が唯一存在する」とはどういうことかというと、例えば(1)は|$\mathrm{Hom}_{\mathcal C}(Z,X)$|$=1$と表せるということですね。
つまり「全ての$X$に対して、$Z$から$X$への射が1本しかないよ」と言うことです。
$\bullet\mathbb{1}$を、対象を1のみ,射を$\mathrm{id}_1$のみの圏とする。この時、1は$\mathbb{1}$の零対象になる
$\bullet\mathrm{Grp}$を、対象を群,射を群準同型の圏とする。この時、自明群は$\mathrm{Grp}$の零対象になる
$\bullet\mathrm{Top.}$を、対象を基点付き位相空間,射を基点を保つ連続写像の圏とする。この時、基点のみの位相は$\mathrm{Top.}$の零対象になる
これら零対象には普遍性があります。
$Z$と$Z'$が零対象なら$Z\simeq Z'$が成り立つ。
証明
$Z$は零対象なので定義1の(1)より$u:Z\to Z'$と$v:Z'\to Z$が存在します。
ここで$\mathrm{id}_Z,v\circ u\in\mathrm{Hom}(Z,Z)$となりますが、定義1の(1)より、$Z$から$Z$への射は1つしか存在しません。つまり$\mathrm{id}_Z=v\circ u$となります。$v\circ u$も同様に$\mathrm{id}_Z'$と一致するので、$Z\simeq Z'$
零対象には普遍性があることが分かったので零対象は0と表記することにします。
先ほど定義した0を用いて次のような特別な射を考えることができます。
0を対象に持つ圏$\mathcal C$の射$f:X\to Y$に対して、ある$u:X\to 0,v:0\to Y$が存在して以下の図式が可換の時、$f$を零射と呼ぶ
$$
\begin{xy}\xymatrix{X\ar[rr]^-{f}\ar[dr]_-{u}&&Y\ar|{\circlearrowleft}\\&0\ar[ur]_-{v}\ar@{}[u]|{\circlearrowright}&}\end{xy}
$$
つまり$f=v\circ u$と0を経由した形に変形できるヤツを零射と呼んでいるんですね。
$\bullet$圏$\mathbb{1}$において$\mathrm{id_1}$は$\mathbb{1}$の零射になる
$\bullet$圏$\mathrm{Grp}$において全ての元を単位元に送る準同型写像は$\mathrm{Grp}$の零射になる
$\bullet$圏$\mathrm{Top.}$に対して全ての元を基点に送る連続写像は$\mathrm{Top.}$の零射になる
実は零射は以下のようなことがわかっています。
$(1)$任意の対象$X,Y$に対して、ある零射$f:X\to Y$が唯一存在する
$(2)f:X\to Y$が零射なら、任意の$g:W\to X$,$h:Y\to Z$に対して、$f\circ g$,$h\circ f$は零射
$(1)$
定義1よりある射$u:X\to 0,v:0\to Y$が存在するので$v\circ u$は零射となり$X$から$Y$への零射が存在する。
$$
\begin{xy}
\xymatrix{X\ar[rr]^-{v\circ u}\ar[dr]_-{^\exists u}&&Y\ar|{\circlearrowleft}\\&0\ar[ur]_-{^\exists v}\ar@{}[u]|{\circlearrowright}&}
\end{xy}$$
また射$f:X\to Y$が零射ならある射$u':X\to 0,v':0\to Y$が存在して$f=v'\circ u'$と分解できる
$$
\begin{xy}
\xymatrix{X\ar[rr]^-{f}\ar[dr]_-{^\exists u'}&&Y\ar|{\circlearrowleft}\\&0\ar[ur]_-{^\exists v'}\ar@{}[u]|{\circlearrowright}&}
\end{xy}$$
ここで定義1より零射と対象の射は1つしかないので、$u=u',v=v'$となるので$f=v\circ u$となり射の一意性が示せた
$$
\begin{xy}
\xymatrix{X\ar[rr]^-{f=v\circ u}\ar[dr]_-{u'=u}&&Y\ar|{\circlearrowleft}\\&0\ar[ur]_-{v'=v}\ar@{}[u]|{\circlearrowright}&}
\end{xy}$$
$(2)$
$f$は零射なので、ある$u:X\to0,v:0\to Y$が存在して$f=v\circ u$となる。よって$u\circ g:W\to0,v:0\to Y$を用いて$f\circ g=(v\circ u)\circ g=v\circ (u\circ g)$となるので$f\circ g$は零射となる
$$
\begin{xy}
\xymatrix{W\ar[r]^-{g}\ar[rd]_-{u\circ g}\ar@{}@<2.0ex>[rd]|{\circlearrowright}&X\ar[d]^-{u}\ar[r]^-{f}&Y\ar@{}@<-1.5ex>[dl]|{\circlearrowleft}\\&0\ar[ur]_-{v}}\end{xy}$$
同様に$u:X\to0,h\circ v:0\to Z$を用いて、$h\circ f=h\circ(v\circ u)=(h\circ v)\circ u$となるので$h\circ f$は零射
$$
\begin{xy}
\xymatrix{X\ar[r]^-{f}\ar[rd]_-{u}\ar@{}@<2.0ex>[rd]|{\circlearrowright}&Y\ar[r]^-{h}&Z\ar@{}@<-1.5ex>[dl]|{\circlearrowleft}\\&0\ar[ur]_-{f\circ v}\ar[u]_-{v}}\end{xy}$$
これにより零射には一意性があることが分かったので、$X$から$Y$への零射を$0_{XY}$または単に$0$と表します。
零対象と零射 まとめメモ
$\bullet$零対象を0と書く
$\bullet$$X$から$Y$への零射を$0_{XY},0$とかく
$\bullet$零射は合成しても零射
$\mathcal C$を圏とし$f:X\to Y$を$\mathcal C$の射とする。
$(1)\mathcal C$の任意の射$g,g':W\to X$に対して、$f\circ g=f\circ g'\Rightarrow g=g'$が成り立つとき$f$をモノ射と言い$f:X\hookrightarrow
Y$と書ける
$(2)\mathcal C$の任意の射$h,h':Y\to Z$に対して、$h\circ f=h'\circ f\Rightarrow h=h'$が成り立つとき$f$をエピ射と言い$f:X\twoheadrightarrow
Y$と書ける
モノ射(エピ射)は右から(左から)合成して射が一致するなら合成前でも一致するということですね。自分のモノ射のイメージは下みたいな感じです。
$$\xymatrix{W\ar@/_9pt/[rr]_-{f\circ g'}\ar@/^9pt/[rr]^{f\circ g}&\circlearrowleft&Y}\Rightarrow\xymatrix{W\ar@{}[r]|{\circlearrowright}\ar@/_9pt/[r]_-{g'}\ar@/^9pt/[r]^{g}&X\ar[r]^{f}&Y}$$
ファスナーを半分閉めるようにモノ射は$\mathrm{cod} f(=Y)$から$\mathrm{dom} f(=X)$までスッと射を一本にしても可換が成り立つ感じです
$\bullet\mathrm{Set}$を、対象が集合,射が写像の圏とする。単射は$\mathrm{Set}$のモノ射になり、全射は$\mathrm{Set}$のエピ射になる。
$\bullet$また単射は$\mathbb{1},\mathrm{Grp},\mathrm{Top.}$でモノ射になり、全射は$\mathbb{1},\mathrm{Grp},\mathrm{Top.}$でエピ射になる。
$\bullet\mathrm{Haus}$を、対象がハウスドルフ空間,射が連続写像となる圏とする。$\mathbb{Q,R}$に対して、包含写像$i:\mathbb{Q\to R}$は$\mathrm{Haus}$のエピ射になる。
モノ射、エピ射には以下の性質が成り立ちます。
$f:X\to Y,g:Y\to Z$を圏$\mathcal C$の射とする
$(1)f,g$がモノ射なら$g\circ f$もモノ射
$(2)g\circ f$がモノ射なら$f$もモノ射
$(3)f,g$がエピ射なら$g\circ f$もエピ射
$(4)g\circ f$がエピ射なら$g$もエピ射
$(1)$
$h,h':W\to X$が$g\circ f\circ h=g\circ f\circ h'$を満たすとする。
$g$はモノ射なので、$f\circ h=f\circ h'$
$f$はモノ射なので、$h=h'$
よって$g\circ f$はモノ射
$(2)$
$h,h':W\to X$が$f\circ h=f\circ h'$を満たすとすれば
$f\circ h=f\circ h'$
$g\circ (f\circ h)=g\circ(f\circ h')$
$(g\circ f)\circ h=(g\circ f)\circ h'$
$g\circ f$はモノ射なので$h=h'$となる。
よって$f$はモノ射
$(3)$
$h,h':Z\to W$が$h\circ g\circ f=h'\circ g\circ f$を満たすとする。
$f$はモノ射なので、$h\circ g=h'\circ g$
$g$はモノ射なので、$h=h'$
よって$g\circ f$はモノ射
$(4)$
$h,h':Z\to W$が$h\circ g=h'\circ g$を満たすとすれば先程と同様に
$h\circ(g\circ f)=h'\circ(g\circ f)$
となり、$g\circ f$はエピ射なので$h=h'$となる。
よって$g$はエピ射
モノ射やエピ射は単射や全射を一般化したような概念になっていることがわかりました。実際に具体圏では単射(全射)はモノ射(エピ射)になります。一方でモノ射(エピ射)が単射(全射)になるとは限りません。実はモノ射といっても、正規モノ、正則モノ、分裂モノ...といった多くの種類が存在します。今回はアーベル圏の準備が目的ですのでここでは触れません。
モノ射とエピ射 まとめメモ
$\bullet f$がモノ射の時、射を$\hookrightarrow$と書ける
$\bullet f$がエピ射の時、射を$\twoheadrightarrow$と書ける
$\bullet g\circ f$がモノ射$\Rightarrow f$もモノ射、$g\circ f$がエピ射$ \Rightarrow g$もエピ射
$X,Y$を圏$\mathcal C$の対象とする。圏$\mathcal C$の対象$P$と射$ p_1:P\to X,p_2:P\to Y$が以下の性質を満たす時、$\langle P,p_1,p_2\rangle$を$X,Y$の直積と言い特に$p_1,p_2$を射影という。
$(1)$任意の圏$\mathcal C$の対象$U$と射$f:U\to X,g:U\to Y$に対して、ある射$u:U\to P$がただ一つ存在して、以下の図式が可換になる。
$$
\xymatrix{&^\forall U\ar@{}@<2.5ex>[ld]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<-2.5ex>[rd]|{\circlearrowleft}\ar[ld]_-{^\forall f}\ar@{..>}[d]|-{^{\exists!}u}\ar[rd]^-{\forall g}&\\X&P\ar[l]^-{p_1}\ar[r]_-{p_2}&Y}$$
なんだかごちゃごちゃしていて見にくいですね...ですので、ステップごとに定義を述べて可換図式を書いていくので一緒に追っていきましょう。
まず$X,Y$が存在する。
$$\xymatrix{X&&Y}$$
$\ $
$P,p_1:P\to X,p_2:P\to Y$の三つ組が直積であるとは、
$$
\xymatrix{X&P\ar[l]^-{p_1}\ar[r]_-{p_2}&Y}$$
$\ $
任意の$U$と射$f:U\to X,g:U\to Y$に対して、
$$
\xymatrix{&^\forall U\ar[ld]_-{^\forall f}\ar[rd]^-{\forall g}&\\X&P\ar[l]^-{p_1}\ar[r]_-{p_2}&Y}$$
$\ $
ある射$u:U\to P$がただ一つ存在して、
$$
\xymatrix{&^\forall U\ar[ld]_-{^\forall f}\ar@{..>}[d]|-{^{\exists!}u}\ar[rd]^-{\forall g}&\\X&P\ar[l]^-{p_1}\ar[r]_-{p_2}&Y}$$
$\ $
下の図式が可換(つまり$f=p_1\circ u,g=p_2\circ u$)となる。
$$
\xymatrix{&^\forall U\ar@{}@<2.5ex>[ld]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<-2.5ex>[rd]|{\circlearrowleft}\ar[ld]_-{^\forall f}\ar@{..>}[d]|-{^{\exists!}u}\ar[rd]^-{\forall g}&\\X&P\ar[l]^-{p_1}\ar[r]_-{p_2}&Y}$$
$\ $
ということでした。直積は「始域が共通で$X$と$Y$が終域の射のペア」から「$P$が終域となる射」を作れるので、合成以外で射を作ることができるんですね!
$\bullet$圏$\mathbb{1}$において$\langle 1,\mathrm{id}_1,\mathrm{id}_1\rangle$は対象$1$と$1$の直積になる
$\bullet$圏$\mathrm{Set}$において集合の直積と射影の組$\langle X\times Y,\mathrm{Pr}_1,\mathrm{Pr}_2\rangle$は集合$X,Y$の直積になる
$\bullet$圏$\mathrm{Grp}$において群の直積と射影の組$\langle G_1\times G_2,\mathrm{Pr}_1,\mathrm{Pr}_2\rangle$は群$G_1,G_2$の直積になる
また直積には普遍性があります。
$\langle P,p_1,p_2\rangle,\langle P',p_1',p_2'\rangle$を$X,Y$の直積とする。この時、$P\simeq P'$
証明
$P$は$X,Y$直積なので、直積の普遍性より$u:P'\to P$が存在して、以下の図式が可換
$$
\xymatrix{&P'\ar@{}@<2.5ex>[ld]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<-2.5ex>[rd]|{\circlearrowleft}\ar[ld]_-{p_1'}\ar@{..>}[d]|-{u}\ar[rd]^-{p_2'}&\\X&P\ar[l]^-{p_1}\ar[r]_-{p_2}&Y}$$
同様に$P'$は$X,Y$直積なので、直積の普遍性より$u':P\to P'$が存在して、以下の図式が可換になる
$$
\xymatrix{&P'\ar@{}@<2.5ex>[ld]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<-2.5ex>[rd]|{\circlearrowleft}\ar[ld]_-{p_1'}\ar@{..>}[d]|-{u}\ar[rd]^-{p_2'}&\\X&P\ar@{..>}[d]|-{u'}\ar[l]^-{p_1}\ar[r]_-{p_2}&Y\\&P'\ar@{}@<-2.5ex>[lu]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<2.5ex>[ru]|{\circlearrowleft}\ar[lu]^-{p_1'}\ar[ru]_-{p_2'}}$$
よって$u'\circ u$は以下の図式を可換にする。
$$
\xymatrix{&P'\ar@{}@<2.5ex>[ld]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<-2.5ex>[rd]|{\circlearrowleft}\ar[ld]_-{p_1'}\ar@{..>}[d]|-{u' \circ u}\ar[rd]^-{p_2'}&\\X&P'\ar[l]^-{p_1'}\ar[r]_-{p_2'}&Y}$$
ところで以下の図式も可換である
$$
\xymatrix{&P'\ar@{}@<2.5ex>[ld]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<-2.5ex>[rd]|{\circlearrowleft}\ar[ld]_-{p_1'}\ar@{..>}[d]|-{\mathrm{id}_{P'}}\ar[rd]^-{p_2'}&\\X&P'\ar[l]^-{p_1'}\ar[r]_-{p_2'}&Y}$$
定義4の(1)から可換にするような射は一つしかない。
つまり|$\{h\in\mathrm{Hom}(P',P')|p_1'=p_1'\circ h,p_2'=p_2'\circ h\}$|=1である。よって$\mathrm{id}_{P'}=u' \circ u$と分かった。同様に$\mathrm{id}_{P}=u\circ u'$とわかるので$P\simeq P'$となる。
直積には普遍性があることが分かったので$X$と$Y$の直積を$X\times Y$、射影を$\mathrm{Pr}_1:X\times Y\to X,\mathrm{Pr}_2:X\times Y\to Y$とし、$f:U\to X,g:U\to Y$と$\langle X\times Y,\mathrm{Pr}_1,\mathrm{Pr}_2\rangle$を可換にするような射を$f\times g:U\to X\times Y$と記述することにする。(つまり下の図のように記述する)
$$
\xymatrix{&U\ar@{}@<2.5ex>[ld]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<-2.5ex>[rd]|{\circlearrowleft}\ar[ld]_-{f}\ar@{..>}[d]|-{f\times g}\ar[rd]^-{g}&\\X&X\times Y\ar[l]^-{\mathrm{Pr}_1}\ar[r]_-{\mathrm{Pr}_1}&Y}$$
$X,Y$を圏$\mathcal C$の対象とする。圏$\mathcal C$の対象$Q$と射$ q_1:X\to Q,q_2:Y\to Q$が以下の性質を満たす時、$\langle Q,q_1,q_2\rangle$を$X,Y$の直和と言い、特に$q_1,q_2$を入射という。
$(1)$任意の圏$\mathcal C$の対象$V$と射$f:X\to V,g:Y\to V$に対して、ある射$v:Q\to V$がただ一つ存在して、以下の図式が可換になる。
$$
\xymatrix{&^\forall V\ar@{}@<2.5ex>[ld]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<-2.5ex>[rd]|{\circlearrowleft}&\\X\ar[ru]^-{\forall f}\ar[r]_-{q_1}&Q\ar@{..>}[u]|-{^{\exists!}v}&Y\ar[lu]_-{^\forall g}\ar[l]^-{q_2}}$$
またごちゃごごちゃしていて見にくいですね...同様に、ステップごとに定義を述べて可換図式を書いていきましょう。
まず$X,Y$が存在する。
$$\xymatrix{X&&Y}$$
$\ $
$Q,q_1:X\to Q,p_2:Y\to Q$の三つ組が直積であるとは、
$$
\xymatrix{X\ar[r]_-{q_1}&Q&Y\ar[l]^-{q_2}}$$
$\ $
任意のVと射$f:X\to V,g:Y\to V$に対して、
$$
\xymatrix{&^\forall V\\X\ar[ru]^-{\forall f}\ar[r]_-{q_1}&Q&Y\ar[lu]_-{^\forall g}\ar[l]^-{q_2}}$$
$\ $
ある射$v:Q\to V$がただ一つ存在して、
$$
\xymatrix{&^\forall V&\\X\ar[ru]^-{\forall f}\ar[r]_-{q_1}&Q\ar@{..>}[u]|-{^{\exists!}v}&Y\ar[lu]_-{^\forall g}\ar[l]^-{q_2}}$$
$\ $
下の図式が可換(つまり$f=v\circ q_1,g=v\circ q_2$)となる。
$$
\xymatrix{&^\forall V\ar@{}@<2.5ex>[ld]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<-2.5ex>[rd]|{\circlearrowleft}&\\X\ar[ru]^-{\forall f}\ar[r]_-{q_1}&Q\ar@{..>}[u]|-{^{\exists!}v}&Y\ar[lu]_-{^\forall g}\ar[l]^-{q_2}}$$
$\ $
ということでした。直和の定義をよく見ると直積と似ていますね。直和の定義は実は直積の定義の矢印を反対にした双対なんです。
$\bullet$圏$\mathbb{1}$において$\langle 1,\mathrm{id}_1,\mathrm{id}_1\rangle$は対象$1$と$1$の直和になる
$\bullet$圏$\mathrm{Set}$において集合の直和と入射の組$\langle X\amalg Y,i_1,i_2\rangle$は集合$X,Y$の直和になる
$\bullet\mathrm{Vect}$を、対象をベクトル空間,射を線形写像とする。圏$\mathrm{Vect}$においてベクトルの直和と入影の組$\langle V_1\oplus V_2,i_1,i_2\rangle$はベクトル$V_1,V_2$の直和になる
直和には直積と同様に普遍性があります。
$\langle Q,q_1,q_2\rangle,\langle Q',q_1',q_2'\rangle$を$X,Y$の直和とする。この時、$Q\simeq Q'$
証明
$Q,Q'$は$X,Y$の直和なので、直和の普遍性より$v:Q\to Q',v':Q'\to Q$が存在して、以下の図式が可換になる
$$
\xymatrix{&Q\ar@{}@<2.5ex>[ld]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<-2.5ex>[rd]|{\circlearrowleft}&\\X\ar[ru]^-{q_1}\ar[r]_-{q_1}&Q\ar@{..>}[u]|-{v'\circ v}&Y\ar[lu]_-{q_2}\ar[l]^-{q_2}}$$
ところで以下の図式も可換である
$$
\xymatrix{&Q\ar@{}@<2.5ex>[ld]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<-2.5ex>[rd]|{\circlearrowleft}&\\X\ar[ru]^-{q_1}\ar[r]_-{q_1}&Q\ar@{..>}[u]|-{\mathrm{id}_Q}&Y\ar[lu]_-{q_2}\ar[l]^-{q_2}}$$
定義5の(1)から可換にするような射は一つしかないので$\mathrm{id}_{Q}=v' \circ v$と分かった。同様に$\mathrm{id}_{Q'}=v\circ v'$とわかるので$Q\simeq Q'$となる。
直和にも普遍性があることが分かったので$X$と$Y$の直和を$X\sqcup Y$、入射を$i_1:X\to X\sqcup Y,i_2:Y\to X\sqcup Y$とし、$f:X\to V,g:Y\to V$と$\langle X\times Y,i_1,i_2\rangle$を可換にするような射を$f\sqcup g:X\sqcup Y\to V$と記述することにする。(つまり下の図のように記述する)
$$
\xymatrix{&V\ar@{}@<2.5ex>[ld]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<-2.5ex>[rd]|{\circlearrowleft}&\\X\ar[ru]^-{f}\ar[r]_-{i_1}&X\sqcup Y\ar@{..>}[u]|-{f\sqcup g}&Y\ar[lu]_-{g}\ar[l]^-{i_2}}$$
直積と直和 まとめメモ
$\bullet X$と$Y$の直積を$X\times Y$、射影を$\mathrm{Pr}_1:X\times Y\to X,\mathrm{Pr}_2:X\times Y\to Y$と書く
$\bullet X$と$Y$の直積を$X\sqcup Y$、入射を$i_1:X\to X\sqcup Y,i_2:Y\to X\sqcup Y$と書く
$\bullet $$f:U\to X,g:U\to Y$と$\langle X\times Y,\mathrm{Pr}_1,\mathrm{Pr}_2\rangle$を可換にするような射を$f\times g:U\to X\times Y$と書く
$\bullet $$f:X\to V,g:Y\to V$と$\langle X\times Y,i_1,i_2\rangle$を可換にするような射を$f\sqcup g:X\sqcup Y\to V$と書く
$\mathcal C$を0を持つ圏とする。$\mathcal C$の射$f:X\to Y$に対して、対象と射の組$\langle K,k\rangle$が以下の条件を満たすとき、$\langle K,k\rangle$を$f$の核という
$(1)f\circ k$は$0_{KY}$となる。つまり以下の図式が可換
$$\xymatrix{K\ar[r]^-{k}\ar[d]_-{0_{K0}}\ar@{}[rd]|{\circlearrowright}&X\ar[d]^-{f}\\0\ar[r]_-{0_{0Y}}&Y}$$
$(2)$対象と射のペア$\langle K',k'\rangle$が$(1)$を満たすとする。この時ある射$u:K'\to K$がただ一つ存在して、以下の図式が可換となる。
$$\xymatrix{K\ar[r]^-{k}&X\ar@{}@<-2.5ex>[dl]|{\circlearrowleft}\\K'\ar[u]^-{^{\exists!}u}\ar[ur]_-{k'}}$$
核の定義はなかなか厄介です。一体なぜこのような定義にしたのでしょうか?「ベクトル空間の核」から「圏の核」の定義へ一般化することを目指して追っていきましょう。
$f:V\to W$を線形写像としたときのベクトル空間の核の定義は
$\mathrm{Ker}f:=\{v\in V|f(v)=0\}$でした。この定義では元を取る集合論的な定義ですから、このままでは圏論ぽく一般化できません...
なので圏論チックに射(写像)だけを使って定義することを目指しましょう!
ベクトルの核の定義から$f|_{\mathrm{Ker} f}:{\mathrm{Ker} f}\to W$は元を全て0へ送る写像になっていることが分かります。実は全ての元を0へ送る写像は$\mathrm{Vect}$上の零射になっています!($\mathrm{Vect}$の零対象がベクトル空間{0}であることから従う)...①
また$f|_{\mathrm{Ker} f}$は包含写像$k:\mathrm{Ker}f\hookrightarrow V$を用いて$f|_{\mathrm{Ker} f}=f\circ k$と書けますね!...②
これら①②から核の条件(1)を満たしてほしいことが分かります。
しかしこの条件では足りません...例えば、$\langle 0,0_{0V}\rangle$としても(1)の条件を満たしてしまいます。こういった核モドキ達をはじくために条件(2)があるんですね。
実際に(1)(2)の条件を課すことによって核に普遍性が生まれます。
$\langle K,k\rangle,\langle K',k'\rangle$が$f:X\to Y$の核の時、$K\simeq K'$となる。
$\langle K',k'\rangle$は$f$の核なので定義6の(1)より$f\circ k'=0_{K'Y}$
$$\xymatrix{K'\ar[r]^-{k'}\ar[d]_-{0_{K0}}\ar@{}[rd]|{\circlearrowright}&X\ar[d]^-{f}\\0\ar[r]_-{0_{0Y}}&Y}$$
また$\langle K,k\rangle$は$f$の核なので定義6の(2)より、ある射$u:K'\to K$が存在して、以下の図式が可換
$$\xymatrix{K\ar[r]^-{k}&X\ar@{}@<-2.5ex>[dl]|{\circlearrowleft}\\K'\ar[u]^-{u}\ar[ur]_-{k'}}$$
同様に$\langle K',k'\rangle$は$f$の核なので定義6の(2)より、ある射$u':K\to K'$が存在して、以下の図式が可換
$$\xymatrix{K'\ar[dr]^-{k'}\\K\ar[u]^-{u'}\ar[r]^-{k}&X\ar@{}@<-2.5ex>[dl]|{\circlearrowleft}\ar@{}@<2.5ex>[ul]|{\circlearrowleft}\\K'\ar[u]^-{u}\ar[ur]_-{k'}}$$
よって$u'\circ u$により以下の図式が可換になる
$$\xymatrix{K'\ar[r]^-{k'}&X\ar@{}@<-2.5ex>[dl]|{\circlearrowleft}\\K'\ar[u]^-{u'\circ u}\ar[ur]_-{k'}}$$
ところで以下の図式も可換になる
$$\xymatrix{K'\ar[r]^-{k'}&X\ar@{}@<-2.5ex>[dl]|{\circlearrowleft}\\K'\ar[u]^-{\mathrm{id}_{K'}}\ar[ur]_-{k'}}$$
ここで定義6の(2)より射は一個しか存在しないので$\mathrm{id}_{K'}=u'\circ u$とわかる。同様に$\mathrm{id}_{K}=u\circ u'$とわかるので$K\simeq K'$
普遍性があることがわかったので核を$\langle \mathrm{Ker}f,\mathrm{ker}f\rangle$とあらわすことにします。
核にはうれしい性質が多くあります。
$f:X\to Y$の核を$\langle \mathrm{Ker}f,\mathrm{ker}f\rangle$とする。
$(1)\mathrm{ker}f$はモノ射
$(2)f$がモノ射なら$\mathrm{Ker(f)}$は零対象
$(1)$
$g,h:W\to \mathrm{Ker}f$が$\mathrm{ker}f\circ g=\mathrm{ker}f\circ h$を満たすとする。$\mathrm{ker}f\circ g=\mathrm{ker}f\circ h=\alpha$とおくと、
$f\circ\alpha=f\circ(\mathrm{ker}f\circ h)=(f\circ\mathrm{ker}f)\circ h=0_{\mathrm{Ker}f\ X}\circ h=0_{W\ X}$となる。よって核の定義より、以下の図式を可換にする射$u:W\to \mathrm{Ker}f$が唯一つ存在する。
$$\xymatrix{{\mathrm{Ker}f}\ar[r]^-{\mathrm{ker}f}&X\ar@{}@<-2.5ex>[dl]|{\circlearrowleft}\\W\ar[u]^-{^{\exists!}u}\ar[ur]_-{\alpha}}$$
ところで$\mathrm{ker}f\circ g=\mathrm{ker}f\circ h=\alpha$だったので以下の図式も可換である。
$$\xymatrix{{\mathrm{Ker}f}\ar[r]^-{\mathrm{ker}f}&X\ar@{}@<-2.5ex>[dl]|{\circlearrowleft}\\W\ar[u]^-{g}\ar[ur]_-{\alpha}}\ \xymatrix{{\mathrm{Ker}f}\ar[r]^-{\mathrm{ker}f}&X\ar@{}@<-2.5ex>[dl]|{\circlearrowleft}\\W\ar[u]^-{h}\ar[ur]_-{\alpha}}$$
図式を可換にするような射は一つしか存在しないので$g=u=h$となり、$\mathrm{ker} f$はモノ射である。
$(2)$
$0$と$\mathrm{Ker}f$が同型であればよい。
核の定義より$f\circ \mathrm{ker}f=0_{\mathrm{Ker}f\ Y}$となる
$$\xymatrix{{\mathrm{Ker}f}\ar[r]^-{\mathrm{ker}f}\ar@/^18pt/[rr]|{0_{\mathrm{Ker}f\ Y}}&X\ar[r]^-{f}&Y}$$
また零射の性質より$f\circ 0_{\mathrm{Ker}f\ X}=0_{\mathrm{Ker}f\ Y}$となる。
$$\xymatrix{{\mathrm{Ker}f}\ar[r]^-{0_{\mathrm{Ker}f\ X}}\ar@/^18pt/[rr]|{0_{\mathrm{Ker}f\ Y}}&X\ar[r]^-{f}&Y}$$
ここで$f$はモノ射より$\mathrm{ker}f=0_{\mathrm{Ker}f\ X}$となる
$$\xymatrix{{\mathrm{Ker}f}\ar@/_9pt/[rr]_-{f\circ0_{\mathrm{Ker}f\ X}}\ar@/^9pt/[rr]^{f\circ \mathrm{ker}f}&\circlearrowleft&Y}\Rightarrow\xymatrix{{\mathrm{Ker}f}\ar@{}[r]|{\circlearrowright}\ar@/_9pt/[r]_-{0_{\mathrm{Ker}f\ X}}\ar@/^9pt/[r]^{\mathrm{ker}f}&X\ar[r]^{f}&Y}$$
また定理7(1)より$0_{\mathrm{Ker}f\ X}(=\mathrm{ker}f)$はモノ射であるので、$\mathrm{id}_{\mathrm{Ker}f}=0_{\mathrm{Ker}f\mathrm{Ker}f}$である。
$$\xymatrix{{\mathrm{Ker}f}\ar@/_9pt/[rr]_-{0_{\mathrm{Ker}f\ X}\circ0_{\mathrm{Ker}f\mathrm{Ker}f}}\ar@/^9pt/[rr]^{0_{\mathrm{Ker}f\ X}\circ\mathrm{id}_{\mathrm{Ker}f}}&\circlearrowleft&X}\Rightarrow\xymatrix{{\mathrm{Ker}f}\ar@{}[r]|{\circlearrowright}\ar@/_9pt/[r]_-{0_{\mathrm{Ker}f\mathrm{Ker}f}}\ar@/^9pt/[r]^{\mathrm{id}_{\mathrm{Ker}f}}&{\mathrm{Ker}f}\ar[r]^{0_{\mathrm{Ker}f\ X}}&X}$$
よって$0_{0\mathrm{Ker}f}\circ0_{\mathrm{Ker}f0}=\mathrm{0_{00}}=\mathrm{id}_0,0_{\mathrm{Ker}f0}\circ0_{0\mathrm{Ker}f}=0_{\mathrm{Ker}f\mathrm{Ker}f}=\mathrm{id}_{\mathrm{Ker}f}$とわかり、$0\simeq\mathrm{Ker}f$
$\mathcal C$を0を持つ圏とする。$\mathcal C$の射$f:X\to Y$に対して、対象と射の組$\langle J,j\rangle$が以下の条件を満たすとき、$\langle J,j\rangle$を$f$の余核という
$(1)j\circ f$は$0_{XJ}$となる。つまり以下の図式が可換
$$\xymatrix{X\ar[r]^-{0_{X0}}\ar[d]_-{f}\ar@{}[rd]|{\circlearrowright}&0\ar[d]^-{0_{0J}}\\Y\ar[r]_-{j}&J}$$
$(2)$対象と射のペア$\langle J',j'\rangle$が$(1)$を満たすとする。この時ある射$u:J\to J'$がただ一つ存在して、以下の図式が可換となる。
$$\xymatrix{Y\ar@{}@<2.5ex>[dr]|{\circlearrowleft}\ar[dr]_-{j'}\ar[r]^-{j}&J\ar[d]^-{^{\exists!}u}\\&J'}$$
余核の定義は核の定義と似ていますね。実は核の定義から矢印を反対にして定義しなおすと余核になります。
核と同じように余核にも普遍性が生まれます。
$\langle J,j\rangle,\langle J',j'\rangle$が$f:X\to Y$の余核の時、$J\simeq J'$となる。
$\langle J',j'\rangle$は$f$の余核なので定義7の(1)より$j'\circ j=0_{XJ'}$
$$\xymatrix{X\ar[r]^-{0_{X0}}\ar[d]_-{f}\ar@{}[rd]|{\circlearrowright}&0\ar[d]^-{0_{0J}}\\Y\ar[r]_-{j}&J}$$
また$\langle J,j\rangle$は$f$の余核なので定義7の(2)より、ある射$u:J\to J'$が存在して、以下の図式が可換
$$\xymatrix{Y\ar@{}@<2.5ex>[dr]|{\circlearrowleft}\ar[dr]_-{j'}\ar[r]^-{j}&J\ar[d]^-{^{\exists!}u}\\&J'}$$
同様に$\langle J',j'\rangle$は$f$の余核なので定義7の(2)より、ある射$u':J'\to J$が存在して、$u'\circ u$により以下の図式が可換になる
$$\xymatrix{Y\ar@{}@<2.5ex>[dr]|{\circlearrowleft}\ar[dr]_-{j'}\ar[r]^-{j}&J\ar[d]^-{u'\circ u}\\&J}$$
ところで以下の図式も可換になる
$$\xymatrix{Y\ar@{}@<2.5ex>[dr]|{\circlearrowleft}\ar[dr]_-{j'}\ar[r]^-{j}&J\ar[d]^-{\mathrm{id}_J}\\&J}$$
ここで定義7の(2)より射は一個しか存在しないので$\mathrm{id}_{J}=u'\circ u$とわかる。同様に$\mathrm{id}_{J'}=u\circ u'$とわかるので$J\simeq J'$
普遍性があることがわかったので余核を$\langle \mathrm{Coker}f,\mathrm{coker}f\rangle$とあらわすことにします。
ところで余核とは何でしょうか?例えば、線形写像$f:V\to W$に対して、$f$の余核とは商空間$W/\mathrm{Im}f$のことです。つまり$f$の終域$(=W)$のうち$f$の像$(=\mathrm{Im}f)$をつぶしたような空間が余核ということなんですね
こうした余核にも核と同じようにうれしい性質があります。
$f:X\to Y$の余核を$\langle \mathrm{Coker}f,\mathrm{coker}f\rangle$とする。
$(1)\mathrm{coker}f$はエピ射
$(2)f$がエピ射なら$\mathrm{Coker(f)}$は零対象
$(1)$
$g,h:\mathrm{Coker}f\to Z$が$g\circ\mathrm{coker}f=h\circ\mathrm{coker}f$を満たすとする。$g\circ\mathrm{coker}f=h\circ\mathrm{coker}f=\beta$とおくと、
$\beta\circ f=g\circ\mathrm{coker}f\circ f=0_{XZ}$となる。よって余核の定義より、以下の図式を可換にする射$u:\mathrm{Coker}f\to Z$が唯一つ存在する。
$$\xymatrix{Y\ar@{}@<2.5ex>[dr]|{\circlearrowleft}\ar[dr]_-{\beta}\ar[r]^-{\mathrm{coker}f}&{\mathrm{Coker}f}\ar[d]^-{u}\\&Z}$$
ところで$g\circ\mathrm{coker}f=h\circ\mathrm{coker}f=\beta$だったので以下の図式も可換である。
$$\xymatrix{Y\ar@{}@<2.5ex>[dr]|{\circlearrowleft}\ar[dr]_-{\beta}\ar[r]^-{\mathrm{coker}f}&{\mathrm{Coker}f}\ar[d]^-{g}\\&Z}\ \xymatrix{Y\ar@{}@<2.5ex>[dr]|{\circlearrowleft}\ar[dr]_-{\beta}\ar[r]^-{\mathrm{coker}f}&{\mathrm{Coker}f}\ar[d]^-{h}\\&Z}$$
図式を可換にするような射は一つしか存在しないので$g=u=h$となり、$\mathrm{coker} f$はエピ射である。
$(2)$
$0$と$\mathrm{Coker}f$が同型であればよい。
余核の定義より$\mathrm{coker}f\circ f=0_{X\ \mathrm{Coker}f}$となる
$$\xymatrix{X\ar[r]^-{f}\ar@/^18pt/[rr]|{0_{X\ \mathrm{Coker}f}}&Y\ar[r]^-{\mathrm{coker}f}&{\mathrm{Coker}f}}$$
また零射の性質より$0_{Y\ \mathrm{coker}f}\circ f=0_{X\ \mathrm{Coker}f}$となる。
$$\xymatrix{X\ar[r]^-{f}\ar@/^18pt/[rr]|{0_{X\ \mathrm{Coker}f}}&Y\ar[r]^-{0_{Y\ \mathrm{coker}f}}&{\mathrm{Coker}f}}$$
ここで$f$はエピ射より$\mathrm{coker}f=0_{Y\ \mathrm{Coker}f}$となる
$$\xymatrix{X\ar@/_9pt/[rr]_-{0_{Y\ \mathrm{coker}f}\circ f}\ar@/^9pt/[rr]^{\mathrm{coker}f\circ f}&\circlearrowleft&{\mathrm{Coker}f}}\Rightarrow\xymatrix{X\ar[r]^{f}&Y\ar@{}[r]|{\circlearrowright}\ar@/_9pt/[r]_-{0_{Y\ \mathrm{Coker}f}}\ar@/^9pt/[r]^{\mathrm{coker}f}&{\mathrm{Coker}f}}$$
また定理9(1)より$0_{Y\ \mathrm{Coker}f}(=\mathrm{coker}f)$はエピ射であるので、$\mathrm{id}_{\mathrm{Coker}f}=0_{\mathrm{Coker}f\mathrm{Coker}f}$である。よって$0_{0\mathrm{Coker}f}\circ0_{\mathrm{Coker}f0}=\mathrm{0_{00}}=\mathrm{id}_0,0_{\mathrm{Coker}f0}\circ0_{0\mathrm{Coker}f}=0_{\mathrm{Coker}f\mathrm{Coker}f}=\mathrm{id}_{\mathrm{Coker}f}$とわかり、$0\simeq\mathrm{Coker}f$
ところで核の反対語といえば何を思い浮かべますか?自分としては核の反対語は「像」という感じなんですが実際の核の双対は余核といわれるものでした。では「像」はどのように定義されるでしょうか?
実は、核と余核を駆使すると、像を作ることができるんです!
$(1)\mathrm{Im}f:=\mathrm{Ker(coker}f),\mathrm{im}f:=\mathrm{ker(coker}f)$を像という
$(1)\mathrm{Coim}f:=\mathrm{Coker(ker}f),\mathrm{coim}f:=\mathrm{coker(ker}f)$を余像という
そして像と余像は以下の性質を持ちます。
$f:X\to Y$に対して、$f$の像と余像が存在するなら、以下の図式を可換にする射$z:\mathrm{Coim}f\to\mathrm{Im}f$が唯一存在する。
$$\xymatrix{X\ar[r]^-{f}\ar[d]_-{\mathrm{coim}f}\ar@{}[rd]|{\circlearrowright}&Y\\{\mathrm{Coim}f}\ar[r]_-{z}&{\mathrm{Im}f}\ar[u]_-{\mathrm{im}f}}$$
核の定義から$f\circ\mathrm{ker}f$は零射である。
$\mathrm{Coim}f=\mathrm{Coker(ker}f)$より余像は$\mathrm{ker}f$の余核なので、以下の図式を可換にするような射$u:\mathrm{Coim}f\to Y$が存在して、以下の図式を可換にする。
$$\xymatrix{X\ar[d]_-{\mathrm{coim}f}\ar[r]^-{f}&Y\ar@{}@<-2.5ex>[dl]|{\circlearrowleft}\\{\mathrm{Coim}f}\ar[ur]_-{u}}$$
また$\mathrm{coker}f\circ 0_{\mathrm{Coim}f\ Y}\circ\mathrm{coim}f=0_{X\ \mathrm{Coker}f}=\mathrm{coker}f\circ f=\mathrm{coker}f\circ u\circ\mathrm{coim}f$であるが、$\mathrm{coim}f:=\mathrm{coker(ker}f)$なので、余核はエピ射より、$\mathrm{coker}f\circ 0_{\mathrm{Coim}f\ Y}=\mathrm{coker}f\circ u=0_{\mathrm{Coim}f\ \mathrm{Coker}f}$また$\mathrm{Im}f:=\mathrm{Ker(coker}f)$より、像は$\mathrm{coker}f$の核でもあるので、以下の図式を可換にするような射$z:\mathrm{Coim}f\to\mathrm{Im}f$が唯一存在する。
$$\xymatrix{X\ar[r]^-{f}\ar[d]_-{\mathrm{coim}f}\ar@{}[rd]|{\circlearrowright}&Y\\{\mathrm{Coim}f}\ar[r]_-{z}&{\mathrm{Im}f}\ar[u]_-{\mathrm{im}f}}$$
ところで今定義した像は果たして我々が知っている像の定義になるでしょうか?
ベクトル空間で検証してみましょう
線形写像$f:V\to W$に対して、$f$の余核とは$W/\mathrm{Im}f$でした。
ここで$\mathrm{coker}f:W\to\mathrm{Coker}f(=W/\mathrm{Im}f)$の核とは何でしょうか?
そう!$\mathrm{Im}f$ですね!ですから$\mathrm{Im}f:=\mathrm{Ker(coker}f)$となるんですね~
核と余核 まとめメモ
$\bullet $核と余核の射は合成すると零射になる。
$\bullet $核,余核の射はモノ射,エピ射となる。
$\bullet $核モドキから核への(可換にするような)射が唯一存在する。
$\bullet $余核から余核モドキへの(可換にするような)射が唯一存在する。
今回はお読みいただきありがとうございました。初投稿ということで分かりにくい説明や誤字も多かいかもしれません。ですが、さらに成長して数学に挑んでいきたいです!次回はアーベル圏の定義とその具体例に入ります。