こんにちは.虚珀しえるです.
今回は多項式環の零因子について,相方の元は多項式ではなく単に定数に取れるという定理を示していきたいと思います.
$n=1$の場合は龍孫江さんのYouTubeチャンネルの方に解説動画が上がっていますが,それを参考にしています.また,アティマクの方にも第一章の演習問題2番の(iii)でヒント付きで出題されています.
一般の多項式環についての証明がわからなかったので,ChatGPTに聞いてみたら良さげな証明が返ってきたのでここに備忘録的に残しておきます.
また,係数がすべて零因子でも多項式として零因子になるかというとそういうわけでもねぇーぞという話も述べておきます.
以下,単に環と言ったら単位的可換環のことを指す.
$A$を環とする.
$x \in A$が零因子 $\underset{def}{\Longleftrightarrow}$ $\exists y \in A \setminus \{0\}, xy = 0$.
零環において零因子は存在しない.
一方,零環でない環では必ず$0$という零因子が存在する.
$A$を環として、$A[X_1,\cdots,X_n]$を$A$係数$n$変数多項式環とする.
このとき,$f \in A[X_1,\cdots,X_n]$が零因子ならば,$\exists a \in A \setminus \{0\}, af = 0$.
(これは逆は明らかである.)
したがって,特に$f$の係数は全て零因子である.
$A$が零環ならば,明らかに$A[X_1,\cdots,X_n]$も零環である.
ゆえに,$A[X_1,\cdots,X_n]$に零因子は存在しないため,空虚の真が成立する.
よって以下,$A$は非零環であると仮定する.
$X:=X_1$と書く.
$f \in A[X]$は$A[X]$の零因子なので,
$$\exists g(X) \in A[X], g \neq 0, fg=0.$$
ここで,このような$g$の中で,次数は最小になるように取っておく.
すなわち,
$$\forall \tilde{g} \in A[X], (\tilde{g} \neq 0, f \tilde{g} = 0) \implies \deg g \leq \deg \tilde{g}.$$
このとき,$a_i, b_j \in A$を用いて$f:=\sum_{i=0}^n a_i X^{n-i}, g:=\sum_{j=0}^m b_j X^{m-j}$とおく.
すなわち,
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} f=a_0X^n+a_1X^{n-1}+\cdots+a_n, \\ g=b_0X^m+b_1X^{m-1}+\cdots+b_m. \end{array} \right. \end{eqnarray}
ただし,$a_0 \neq 0, b_0 \neq 0$である.
ここで,各$k=0,1,\cdots,n$に対し$a_kg=0$を帰納的に示す.
$k=0$の場合,$fg=0$の最高次係数を比較して,$a_0b_0=0$.
すると,$a_0g=\sum_{j=1}^m a_0b_jX^{m-j}$であって,$\deg (a_0g) < \deg g$である.
一方で,$f \cdot (a_0g) = a_0 \cdot (fg) = a_0\cdot 0 = 0 $.
よって,$g$の次数の最小性により,$a_0 g = 0$でなくてはならない.
$k>0$の場合,$a_0g=a_1g=\cdots=a_{k-1}g=0$と仮定する.
$\tilde{f}:=f-\sum_{i=0}^{k-1}a_i X^{n-i} = \sum_{i=k}^n a_i X^{n-i}$とおく.
すると$\tilde{f}g = fg-\sum_{i=0}^{k-1}a_i g \cdot X^{n-i} = 0$である.
ここで,この最高次係数を比較することで,$a_kb_0 = 0$が従う.
$a_kg = \sum_{j=1}^m a_k b_j X^{m-j}$であって,$\deg(a_kg) < \deg g$である.
また,$f \cdot (a_k g) = a_k \cdot (fg) = a_k \cdot 0 = 0$.
よって,$g$の次数の最小性より,$a_kg = 0 $が従う.
以上より,$a_0g = a_1g = \cdots = a_n g = 0$が従う.
特に,$a_0 b_0 = a_1b_0 = \cdots = a_n b_0 = 0$である.
したがって,$b_0 f =0$である.
ここで,$b_0 \neq 0$であるから,$n=1$の場合は示された.
$f \in A[X_1,\cdots,X_n]$を零因子とする.
このとき,$\exists g \in A[X_1,\cdots,X_n] \setminus \{0\}, fg = 0$.
$N:=\max \{\deg f, \deg g\}+1$とおく.
ただし,$f=0$の場合は$\deg f =-\infty$と解釈できるが,$\deg g \geq 0$なので$N \geq 1$である.
もし$N=1$なら$\deg g = 0$であり,すなわち$g \in A$とわかり,この場合も明らか.
よって,$N \geq 2$と仮定してよい.
次の準同型を考える.ただし$A[T]$は$T$を不定元とする一変数多項式環である.
$$\varphi:A[X_1,\cdots,X_n] \to A[T], X_i \mapsto T^{N^{i-1}}.$$
(これは代入写像なので環準同型である.)
さて,$N$次未満の多項式$h \in A[X_1,\cdots,X_n]$に対し,$\varphi(h)=0 \implies h=0$を示す.
$\because$ マルチインデックス$\alpha=(\alpha_1,\cdots,\alpha_n)$及び係数$\lambda_\alpha \in A$を用いて$h(X_1,\cdots,X_n)=\sum_{\alpha} \lambda_\alpha X_1^{\alpha_1}\cdot \cdots \cdot X_n^{\alpha_n}$と表しておく.
$\varphi(h) = 0$より,$\sum_{\alpha} \lambda_\alpha T^{\alpha_1+\alpha_2 N + \cdots + \alpha_n N^{n-1}}= 0$である.
ここで,各$\alpha_i$について,$\alpha_i \leq \alpha_1+ \cdots + \alpha_n < N $であるから,マルチインデックス$\alpha=(\alpha_1,\cdots,\alpha_n)$が相異なれば$N$進数の一意性により$\alpha_1+\alpha_2 N + \cdots + \alpha_n N^{n-1} $も相異なる.
($N$進法の定義のため$N\geq 2$を用いていることに注意しておく.)
ゆえに,$\lambda_\alpha=0$が従う.
したがって,$h=0$が従う.
これを用いて,今$g\neq 0, \deg g < N$より,$\varphi(g) \neq 0$.
一方$fg=0$より$\varphi(f)\varphi(g) = 0$である.
ゆえに,$\varphi(f)$は$A[T]$の零因子である.
よって$n=1$の場合の結果を用いて,$\exists a \in A \setminus \{0\}, a\varphi(f)= 0$.
ここで,$a \in A$より$\varphi(a)=a$に注意して,$\varphi(a f) = a \varphi(f)=0$である.
今,$\deg (af) \leq \deg f < N$なので,$af = 0$が従う.
以上より,$\exists a \in A \setminus \{0\}, af = 0$が得られた.$\square$
係数が全て$A$の零因子の多項式でも,$A[X_1,\cdots,X_n]$の零因子であるとは限らない.
$A=\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$とする.
$f(X):=\bar{2}X+\bar{3} \in A[X]$を考える.
$\bar{2} \cdot \bar{3} = \bar{0}$で,$\bar{2} \neq \bar{0}, \bar{3} \neq \bar{0}$なので,$\bar{2}, \bar{3}$は$A$の零因子である.
しかし,任意の$a \in A \setminus \{\bar{0}\}$に対し$a f(X) \neq \bar{0}$である.
実際に計算してみると,$\bar{1} f(X) = f(X), \bar{2}f(X)=\bar{4}X, \bar{3}f(X) = \bar{3}, \bar{4} f(X) = \bar{2}, \bar{5} f(X)= \bar{4}X+\bar{
3}$であり,これはどれも$\bar{0}$でない.
したがって先ほど示した定理より$f(X)$は$A[X]$の零因子ではない.