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ある漸化式の計算と内容の検討

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本記事の内容

Mathお様投稿の記事「自作漸化式」 にある漸化式を解いてみた.
ある程度結果を得たので記事にしたい.
なお、以下元記事解答の内容も含めてネタバレであるため,
先に問題を解きたいという方は一旦上記リンクから元記事に進まれることをお勧めする.

問題の漸化式と元記事での解答方針

$$ 数列\{a_n\}は $$
$$ a_1=2,a_{n+1}=1+\frac{n(n+2)}{a_n}を満たしている. $$
$$ 数列\{a_n\}の一般項をnを用いて表せ. $$

この問題に対して元記事では
$$ b_n=a_{n}-(n+1) $$
と置いてうまく漸化式を変形することで
$$ b_{n+1}=-\frac{(n+1)b_n+1}{b_n+(n+1)} \cdots(※) $$

を得て,さらにここから多少の変形により$b_{n+1}に\tanh$
加法定理を適用する形で計算を進めている.
以降の詳細については Mathお様投稿の元記事 を見ていただく
こととして,以下では別の方針で問題にあたる.

一次分数変換の利用

さて、別の方針と言いつつ、(※)の式はそのまま利用したい。
$$ b_{n+1}=-\frac{(n+1)b_n+1}{b_n+(n+1)} $$
を元記事では$\tanh$の加法定理とみなして計算を進められているが
$b_{n+1}はb_n$の一次分数変換であるとみることもできる.
つまり数列$\{b_n\}$はひとつ前の項に延々とある種の一次分数変換を
施すことで得られる数列であるということができる.

一次分数変換と行列

よく知られた事実として一次分数変換は複素数$\mathbb{C}$(に$\{\infty\}$を加えたもの)
に対する行列の作用と見なせ,一次分数変換の合成は行列の積に対応する.
このことから、元の問題は次のように言い換えられることがわかる.

一次分数変換を行列Aによって
$$ Az= \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right) \end{eqnarray}z=\frac{az+b}{cz+d}とあらわした時, $$

$$ b_1=0,b_{n}=T_{n-1}b_1, T_1= \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} 2 & 1 \\ -1 & -2 \end{array} \right) \end{eqnarray} $$
$$ T_{n+1}= \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} (n+2) & 1 \\ -1 & -(n+2) \end{array} \right) \end{eqnarray}T_n $$
$$ で表されるb_nの一般項をnを用いて表せ. $$

行列の積の計算の問題になった.

計算

$$ 上記T_nの計算を進める.次を示す. $$

$$ T_{n}= \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} x_n & y_n \\ (-1)^ny_n & (-1)^nx_n \end{array} \right) \end{eqnarray} $$

数学的帰納法で示す.n=1のとき
$$ T_1= \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} 2 & 1 \\ -1 & -2 \end{array} \right) \end{eqnarray}よりx_1=2,y_1=1で成り立つ. $$

$$ n=kで成り立つと仮定する.このとき $$
$$ T_{k+1}= \left( \begin{array}{cc} (k+2) & 1 \\ -1 & -(k+2) \end{array} \right) \left( \begin{array}{cc} x_k & y_k \\ (-1)^ky_k & (-1)^kx_k \end{array} \right) $$
$$ \quad =\left( \begin{array}{cc} (k+2)x_k+(-1)^ky_k & (k+2)y_k+(-1)^kx_k \\ -x_k-(k+2)(-1)^ky_k & -y_k-(k+2)(-1)^kx_k \end{array} \right) $$
$$ \quad =\left( \begin{array}{cc} (k+2)x_k+(-1)^ky_k & (k+2)y_k+(-1)^kx_k \\ (-1)^{k+1}\{(k+2)y_k+(-1)^kx_k\} & (-1)^{k+1}\{(k+2)x_k+(-1)^ky_k\} \end{array} \right) $$

となり$n=k+1$の時も成り立つ.

行列の項が実質2つしかないことと,ついでにそれらが満たす漸化式もわかったのでさらに計算を進める.
上記補題の証明中の項の内容から
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} x_{n+1}=(n+2)x_n+(-1)^ny_n \cdots (1)\\ y_{n+1}=(n+2)y_n+(-1)^nx_n \cdots (2) \end{array} \right. \end{eqnarray}
という連立漸化式を得られる.
(1)+(2),(1)-(2)を計算すると
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} x_{n+1}+y_{n+1}=\{(n+2)+(-1)^n\}(x_n+y_n) \\ x_{n+1}-y_{n+1}=\{(n+2)-(-1)^n\}(x_n-y_n) \end{array} \right. \end{eqnarray}

$(-1)^n$が邪魔なので$n=2k$とすると
$$ x_{2k+1}+y_{2k+1}=(2k+3)(x_{2k}+y_{2k}) $$
$$        =(2k+3)(2k)(x_{2k-1}+y_{2k-1}) $$
$$        =(2k+3)(2k)(2k+1)(2k-2)(x_{2k-3}+y_{2k-3}) $$
$$        =(2k+3)(2k)(2k+1)(2k-2)\cdots7\cdot4\cdot5\cdot2(x_{1}+y_{1}) $$
$$        =(2k+3)(2k)(2k+1)(2k-2)\cdots7\cdot4\cdot5\cdot2\cdot3 $$
$$        =(2k+3)\cdot(2k+1)! $$

となる.$n=2k-1$のときは最初の$(2k+3)$が消えるので
$$ x_{2k}+y_{2k}=(2k+1)!=(2k+1)(2k)! $$
これより
$$ x_n+y_n=(\frac{2n+3+(-1)^{n+1}}{2})n! $$
同様に
$$ x_{2k+1}-y_{2k+1}=(2k+1)(x_{2k}-y_{2k}) $$
$$        =(2k+1)(2k+2)(x_{2k-1}+y_{2k-1}) $$
$$        =(2k+1)(2k+2)(2k-1)(2k)(x_{2k-3}-y_{2k-3}) $$
$$        =(2k+1)(2k+2)(2k-1)(2k)\cdots5\cdot6\cdot3\cdot4(x_{1}-y_{1}) $$
$$        =(2k+1)(2k+2)(2k-1)(2k)\cdots5\cdot6\cdot3\cdot4\cdot1 $$
$$        =(2k+2)/2*(2k+1)! $$
となる。$n=2k-1$のときは最初の$(2k+1)$が消えて$(2k+2)$が余るので
$$ x_{2k}-y_{2k}=(2k+2)/2*(2k)! $$
これより
$$ x_n-y_n=(\frac{n+\frac{3}{2}+\frac{(-1)^n}{2}}{2})n! $$
よって
$$ x_n=\frac{1}{2}\{(\frac{2n+3+(-1)^{n+1})}{2})n!+(\frac{n+\frac{3}{2}+\frac{(-1)^n}{2}}{2})n!\} $$
$$ x_n=(\frac{3n+\frac{9}{2}+\frac{(-1)^{n+1}}{2}}{4})n!=(\frac{6n+9+(-1)^{n+1}}{8})n! $$
$$ y_n=(\frac{2n+3+(-1)^{n+1})}{2})n!-(\frac{6n+9+(-1)^{n+1}}{8})n! $$
$$ y_n=(\frac{2n+3+3(-1)^{n+1})}{8})n! $$

元の問題の答え

$$ b_1=0,b_{n}=T_{n-1}b_1, T_1= \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} 2 & 1 \\ -1 & -2 \end{array} \right) \end{eqnarray} $$
$$ T_{n+1}= \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} (n+2) & 1 \\ -1 & -(n+2) \end{array} \right) \end{eqnarray}T_n $$

$$ b_{n}=T_{n-1}b_1,T_{n}=\begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} x_n & y_n \\ (-1)^ny_n & (-1)^nx_n \end{array} \right) \end{eqnarray}より $$
$$ b_{n}=\begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} x_{n-1} & y_{n-1} \\ (-1)^{n-1}y_{n-1} & (-1)^{n-1}x_{n-1} \end{array} \right) \end{eqnarray}0=\frac{x_{n-1}\cdot0+y_{n-1}}{(-1)^{n-1}y_{n-1}\cdot0+(-1)^{n-1}x_{n-1}}=(-1)^{n-1}\frac{y_{n-1}}{x_{n-1}} $$
$$ b_n=(-1)^{n-1}\frac{2n+1+3(-1)^{n}}{6n+3+(-1)^{n}}=\frac{(2n+1 )(-1)^{n-1}-3}{6n+3+(-1)^{n}} $$
$$ a_n=n+1+\frac{(2n+1 )(-1)^{n-1}-3}{6n+3+(-1)^{n}} $$
めでたく元記事と答えが一致した.

元記事解答との関連性

さて,まぁ別解を名乗ってもよかろうというぐらいには別の内容になったと思われるが,関連性がないかと言われればそうではない.
元記事では$\tanh$の加法定理が解答の重要部分に現れるが
当解答でもその片鱗を見出すことができる。
それは当解答で頑張って計算した$T_n$の部分にある
$$ T_1= \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} 2 & 1 \\ -1 & -2 \end{array} \right) \end{eqnarray} $$
$$ T_{n+1}= \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} (n+2) & 1 \\ -1 & -(n+2) \end{array} \right) \end{eqnarray}T_n $$
という$T_n$の定義について、
行列式の絶対値が1になるよう行列のスカラー倍で調整する。
(一次分数変換を行列で書く時行列のスカラー倍は結果に影響を及ぼさない)
$$ T'_1= \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} 2/\sqrt{3} & 1/\sqrt{3} \\ -1/\sqrt{3} & -2/\sqrt{3} \end{array} \right) \end{eqnarray} $$
$$ T'_{n+1}= \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} (n+2)/\sqrt{(n+1)(n+3)} & 1/\sqrt{(n+1)(n+3)} \\ -1/\sqrt{(n+1)(n+3)} & -(n+2)/\sqrt{(n+1)(n+3)} \end{array} \right) \end{eqnarray}T'_n $$
$T'_1$について$(2/\sqrt{3})^2- (1/\sqrt{3})^1=1 $であり
$(2/\sqrt{3})\geq1$より$2/\sqrt{3}=\cosh\theta_1,1/\sqrt{3}=\sinh\theta_1$と置くことができて
$$ T'_1= \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} \cosh\theta_1 & \sinh\theta_1 \\ -\sinh\theta_1 & -\cosh\theta_1 \end{array} \right) \end{eqnarray} $$
同様に
$$ \left( \begin{array}{cc} (n+2)/\sqrt{(n+1)(n+3)} & 1/\sqrt{(n+1)(n+3)} \\ -1/\sqrt{(n+1)(n+3)} & -(n+2)/\sqrt{(n+1)(n+3)} \end{array} \right)= \left( \begin{array}{cc} \cosh\eta_n & \sinh\eta_n \\ -\sinh\eta_n & -\cosh\eta_n \end{array} \right) $$
と置ける.
$$ T'_2= \left( \begin{array}{cc} \cosh\eta_1 & \sinh\eta_1 \\ -\sinh\eta_1 & -\cosh\eta_1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{cc} \cosh\theta_1 & \sinh\theta_1 \\ -\sinh\theta_1 & -\cosh\theta_1 \end{array} \right) $$
$$  = \left( \begin{array}{cc} \cosh\eta_1\cosh\theta_1- \sinh\eta_1 \sinh\eta_1 & \cosh\eta_1\sinh\theta_1-\sinh\eta_1\cosh\theta_1 \\ -\cosh\eta_1\sinh\theta_1+\sinh\eta_1\cosh\theta_1 & -\cosh\eta_1\cosh\theta_1+ \sinh\eta_1 \sinh\eta_1 \end{array} \right) $$
$$  = \left( \begin{array}{cc} \cosh(\theta_1-\eta_1) & \sinh(\theta_1-\eta_1) \\ -\sinh(\theta_1-\eta_1) & - \cosh(\theta_1-\eta_1) \end{array} \right) $$
から$T'_n$も同様に$\cosh,\sinh$で書けることが分かり
$b_n$$\tanh$で書けそうなことが見て取れる.
(ただしここから$\eta_n$がうまく処理できるのかについては検討できていない)

終わりの余談

紙の上で計算できたと思ってから,mathlogでの記事にしている間に
$x_n$の計算方法が2度更新され,当初は結果から逆算したような
天下りな計算が結構あったところ,今の内容はだいぶましになった.

また$b_n$ほど対称性の高くなる置き換えを見つけられなくても
$a_n$から一次分数変換,行列,項のなす漸化式と進む方法であれば
答えにたどり着けそうだとこの記事を書き終わったあたりで気づいた.
漸化式の計算は大分面倒くささが増すので,上記のほうがいいのは間違いないと思われる.

投稿日:2023715

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