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群に関する条件の性質

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はじめに

$A,B$を単位元を持つ自明でない可換環とし、$f:A→B$を環準同型とする。このとき$B$の素イデアル$P$の逆像がAの素イデアルであることはどのように示すだろうか。直接元をとっても確かめられるが、$A→B→B/P$から$A→B/P$が得られ、この核が$f^{-1}(P)$であることから、$A/f^{-1}(P)$が自然に$B/P$の部分環と見なせ、一般に整域の部分環で自明でないものは整域であることからも示すことができる。
これは環において整域という条件が部分環にも引き継がれることを利用している。これに似たことを群についても考えたいので、この記事を書こうと思う。この記事の目標は命題3である。
自明な群は0で表すとする。

準備

最初に書いた部分環に引き継がれる条件の群論バージョンを与える。

条件とは任意の群に対して満たされるかそうでないかであり、それは群の同型のみに依る。

群に関する条件$p$が遺伝的とは、群$G$が条件$p$を満たすとする。$f:H→G$が単射なら$H$も条件$p$を満たすものとする。

定義から、$G$が条件$p$を満たすなら$G$の任意の部分群も$p$を満たす。

定義1の条件$p$は整域と同じようなものなので、次が成り立つ。

群準同型$f:K→G$を取り、条件$p$は遺伝的とする。
このとき剰余群$G/H$が条件$p$を満たすなら、剰余群$K/f^{-1}(H)$も条件$p$を満たす。

$K→G→G/H$の写像の合成の核が$f^{-1}(H)$であることから、準同型定理より、$K/f^{-1}(H)→G/H$が単射になることに従う。

$S_p(G)$$G/H$が性質$p$を満たすような正規部分群$H$全体とすれば、$f:K→G$から、$φ:S_p(G)→S_p(K)$$H\in S_p(G)$に対して$φ(H)=f^{-1}(H)\in S_p(K)$で定められる。これは環におけるスペクトルの類似である。

条件$p$は例えばアーベル群、p群、有限群、巡回群などがある。
これらの条件のうち最初の3つは有限個の直積をとっても保たれる条件であり、最初は任意個の直積においても保たれる。
条件$p$がこのような性質を持つとき、次が分かる。

条件$p$が遺伝的であるとする。このとき$p$の条件として(i),(ii)は同値である。
(i)任意の群の族${(G_i)}_{i\in I}$について、族のそれぞれの群が$p$を満たすなら、$\prod_{i\in I}G_i$$p$を満たす。
(ii)任意の群$G$について、群$G$の正規部分群の族$(H_i)_{i\in I}$$S_p(G)$に含まれるなら$\bigcap_{i\in I}H_i\in S_p(G)$である。
また(i),(ii)の添え字集合$I$を有限集合に限っても同値である。

(i)$\Longrightarrow$(ii)
$(H_i)_{i\in I}\subset S_p(G)$を取る。$G/H_i$は条件$p$を満たすため、$\prod_{i\in I}G/H_i$$p$を満たすため、$G→\prod_{i\in I}G/H_i$の核が$\bigcap_{i\in I}H_i$であることに従う。
(ii)$\Longrightarrow$(i)
それぞれが$p$を満たす群の族$(G_i)_{i\in I}$を取る。ここで、$j\in I$に対して、$\prod_{i\in I}G_i/\prod_{i\in I,i≠j}G_i\simeq G_j$だから、$(\prod_{i\in I,i≠j}G_i)_{j\in I}$$S_p(\prod_{i\in I}G_i)$に含まれ、この共通部分が自明であることに従う。
有限の場合も同様である。

例えば$H_1,H_2$$G$の正規部分群かつ$H_1\cap H_2=0$であり、$G/H_i(i=1,2)$がアーベル群ならば$G$自身もそうであることはアーベル群の直積もアーベル群であることに従うのである。

群の関手と条件の対応

これから群の圏$\mathfrak{Grp}$から$\mathfrak{Grp}$へのある関手と、ある群の条件は一対一対応することを示す。
まず関手の方を定義する。

$j:\mathfrak{Grp}→\mathfrak{Grp}$ を次を満たす関手とする: $j(G)$$G$の正規部分群となり、$f:G→K$に対し、$j(f):j(G)→j(K)$$f$の制限として得られるものとし、任意の群$G$に対して、$j(G/j(G))=0$を満たすようなものとする。このような関手$j$全体を$\mathfrak{J}$で表す。

このような条件を満たす関手$j$から$j_*(G)=G/j(G)$とすることで$j_*$も関手とみなせる。この時、$j$に関する条件は$j_*(j_*(G))=j_*(G)$と言い換えられる。逆にこのような条件を満たす$j_*$から$j$も得られるため、これらは一対一対応することに注意する。
次に群の条件を定義する。

遺伝的かつ命題2の(i),(ii)を満たす条件全体を$\mathfrak{P}$とする。

このとき次が成り立つ。

$\mathfrak{J}$$\mathfrak{P}$は一対一対応する。この対応は次で得られる。
$j\in \mathfrak{J}$に対して、$P(j)\in \mathfrak{P}$を「群$G$$P(j)$を満たす$\Longleftrightarrow$$j(G)=0$」で定める。
$p\in \mathfrak{P}$に対して、$J(p)\in \mathfrak{P}$を群$G$に対して$J(p)(G)$$S_p(G)$に属する部分群の共通部分と定める。

証明はいくつかの補題に分ける。

写像$P:\mathfrak{J}→\mathfrak{P}$,$J:\mathfrak{P}→\mathfrak{J}$はwell-definedである。

$P:\mathfrak{J}→\mathfrak{P}$がwell-definedであることを示そう。
$G$$P(j)$を満たすとする。このとき、$j(G)=0$より、$H→G$を単射とすれば、$j(H)→j(G)=0$も単射なので、$j(H)=0$より$H$$P(j)$を満たす。
また、群の族$(G_i)_{i\in I}$のそれぞれが$P(j)$を満たす、つまり$j(G_i)=0$とする。
このとき、$G_i/j(G_i)=G_i$なので、
$p_i:\prod_{i\in I}G_i→G_k(k\in I)$を射影とすると、
$\prod_{i\in I}G_i→\prod_{i\in I}G_i/j(\prod_{i\in I}G_i)→G_k/j(G_k)=G_k(k\in I)$
と射影が分解され、直積の普遍性から、
$\prod_{i\in I}G_i→\prod_{i\in I}G_i/j(\prod_{i\in I}G_i)→\prod_{i\in I}G_i$
が得られる。ここでこの写像の合成が恒等写像になることから、特に一つ目の写像は単射で、よって$j(\prod_{i\in I}G_i)=0$を得る。
次に$J:\mathfrak{P}→\mathfrak{J}$がwell-definedであることを示す。
$J(p)(G)=\bigcap_{H\in S_p(G)}H$より$J(p)(G)$$G$の正規部分群である。
ここで$f:G→G’$から、
$J(p)(G)=\bigcap_{H\in S_p(G)}H→\bigcap_{H’\in S_p(G’)}f^{-1}(H)→\bigcap_{H’\in S_p(G’)}H=J(p)(G’)$
が得られる。ここで一つ目が包含写像、二つ目は$f$から従う写像である。よって$J(p)$は関手であり、$J(p)(G)\in S(G)$に注意すると、$J(p)(G/J(p)(G))=0$を得る。

次は$P\circ J$が恒等的であることを示そう。

任意の$p\in \mathfrak{P}$に対して、$P(J(p))=p$である。

$G$$P(J(p))$を満たすのは、$J(p)(G)=0$と同値で、$J(p)(G)\in S_p(G)$より、$G$$p$を満たすことと同値である。

最後に$J\circ P$が恒等的であることを示す。

$j\in \mathfrak{J}$に対して、$J(P(j))=j$である。

まず$J(P(j))(G)$とは$G/H$$P(j)$を満たす$H$全体の共通部分であり、これは$j(G/H)=0$となる$H$全体の共通部分となる。ここで$j(G/j(G))=0$から、もし$j(G/H)=0$なら$j(G)\subset H$を示せば良い。
$j(G/H)=0$なる$H$に対し、
$G→G/H$が自然な射影として得られる。ここで、$j(G)→j(G/H)→G/H$から$j(G)→G/H$を得て、この写像の像は0である。またこの写像は$j(G)→G→G/H$とも分解できるため、$j(G)\subset H$を得る。

例えば、条件$p$をアーベル群とすれば$J(p)(G)=[G,G]$である。

定理3

$j_*$$\mathfrak{Grp}^{\mathfrak{Grp}}$の対象で、$j_*\circ j_*=j_*$であり恒等関手$id$からの自然変換$id→j_*$がエピなら、関手$j_*$$j_*(G)=G$となる$\mathfrak{Grp}$の対象$G$全体から決まる。

$j_*(G)=G/j(G)$となる関手$j$が存在することと定義2の後の注意と定理3から従う。

ある条件を満たす対象だけ着目すれば全体が分かるという点で、ある意味、群論や環論における準同型定理のようではないだろうか。

この議論を一般化する。

$C$が(1)well-copowered、(2)極限に閉じていて(3)関手$I:C^{\mathbb{2}}→C$があり、$f:A→B$に対して$A→I(f)→B$$f$をエピとモノに分解し、かつ他に$A→K→B$がエピとモノに分解されるなら$I(f)\simeq K$となるものとする。
$\mathfrak{J}$$j:C→C$が関手であって、$Id\Rightarrow j$が各対象でエピかつ$j\circ j=j$を満たし、終対象を$1$とすれば$1\simeq j(1)$を満たす$j$全体とし、$\mathfrak{P}$$p$$C$の条件であって、$ G$$p$を満たすなら、$H→G$がモノなら$H$$p$を満たし、$(G_i)_{i\in I}$$C$の対象の族とし、それぞれが$p$を満たすなら、$\prod_{i\in I}G_i$$p$を満たし、終対象も$p$を満たす$p$全体とする。
このとき$\mathfrak{J}$$\mathfrak{P}$$P:\mathfrak{J}→\mathfrak{P}$$J:\mathfrak{J}→\mathfrak{P}$によって一対一対応する:$P(j)$を「$G$$P(j)$を満たす$\Leftrightarrow$$j(G)\simeq G$」とし、$J(p)(G)$$G→K$がエピかつ$K$$p$を満たす$K$全体を$(K_i)_{i\in I}$で表し、$g:G→\prod_{i\in I}K_i$を自然な射とすれば$I(g)$とする。

本質的には群の場合と証明はほとんど変わらない。

$J,P$はwell-definedである。

$P$がwell-definedであることを示す。
$j\in \mathfrak{J}$をとる。$G$$P(j)$を満たすとする。このとき$H→G$をモノとする。このとき$j(G)=G$を満たすことから$H→j(H)→j(G)\simeq G$より射の合成はモノだから一つ目の射もモノである。よって一つ目の射がモノかつエピだから、エピとモノの分解の一意性より$H\simeq j(H)$を得る。
次にそれぞれが$p$を満たす対象の族$(G_i)_{i\in I}$を取る。$p_j:\prod_{i\in I}G_i→G_j$を取ると、この射は$\prod_{i\in I}G_i→j(\prod_{i\in I}G_i)→j(G_j)\simeq G_j$と分解されるため、$\prod_{i\in I}G_i→j(\prod_{i\in I}G_i)→\prod_{i\in I}G_i$が恒等射の分解となり、一つ目の射がモノかつエピだから同型となる。
$J$がwell-definedであることを示す。
対象$G$に対し、$S_p(G)$$G→K$がエピかつ$K$$p$を満たすようなものの$K$全体とする。ここで任意の対象$G$に対して$1\in S_p(G)$なので$S_p(G)$は空でないことに注意する。
このとき$f:A→B$を射としたとき、$φ:S_p(B)→S_p(A)$を次で定める。$K\in S_p(B)$に対して、$A→B→K$から$A→K$を得て、このエピとモノの分解によって、$A→K’→K$を得る。このとき$φ(K)=K’$とする。
さて$f:A→B$$C$の射とする。このとき、$a:A→\prod_{H\in S_p(A)}H,b:B→\prod_{L\in S_p(B)}L$を取る。また自然な射$\prod_{H\in S_p(A)}H→\prod_{H\in φ(S_p(B))}H$があり、$f$によって引き起こされる射$\prod_{H\in φ(S_p(B))}→\prod_{L\in S_p(B)}L$が得られるため、$ψ:\prod_{H\in S_p(A)}H→\prod_{L\in S_p(B)}L$が得られる。ここで$ψ\circ a=b\circ f$であるため、$J(p)(A)=I(a)→I(b)=J(p)(B)$を得るため$J(p)$は関手であることが分かる。$A→I(a)=J(p)(A)$がエピであり、$J(p)(A)$$p$を満たす。ここで$G$$p$を満たすならば$J(p)(G)\simeq G$を示す。なぜなら、$G\in S_p(G)$であるから$G→\prod_{H\in S_p(G)}H$がモノであるためである。よって$J(p)\circ J(p)=J(p)$を得る。

$P\circ J=id_{\mathfrak{P}}$

$p\in \mathfrak{P}$を取る。$G$$P(J(p))$を満たすのは$J(p)(G)=G$と同値であり、これは補題8の証明を参考にして$G$$p$を満たすことと同値である。

$J\circ P=id_{\mathfrak{J}}$

$j\in \mathfrak{J}$を取る。$K\in S_{P(j)}(G)$に対し$G→j(G)→j(K)\simeq K$が得られるため、$j(G)→K$はエピである。よって、$j(G)→\prod_{K\in S_{P(j)}(G)}K$はモノなので、$J(P(j))(G)=j(G)$が得られる。

命題7の(1),(2),(3),(4)を満たす圏は$Set,\mathfrak{Grp},Ring$や任意個の直積を持つアーベル圏などです。(他にもあれば教えてください。)
例えばRingにおいて、冪零元が存在しないというのを条件とすると$\mathfrak{P}$に属するので、$j(A)=A/\sqrt{(0)}$は関手となります。

終わりに

最後にいい感じの一般化ができたのではないでしょうか。さらなる一般化を見つけた人は教えてください。次の方向の一般化は定理3の系ですかね。冪等な関手であって自然変換がエピ$j’\Rightarrow j$なら$j’$の情報と$C$の幾つかの対象の情報のみで$j$が決定できるかどうか。また、冪等とは限らない恒等関手からの自然変換がエピな関手$j$に対して$J(P(j))$という冪等で自然変換がエピな関手を与えるのは前層から層への層化に似ているため、その随伴性も調べてみたいです。

投稿日:727
更新日:2秒前
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投稿者

高三。代数好き

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