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大学数学基礎解説
文献あり

数学初心者が写像について学びを深める……

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自己紹介とこの記事を書くことに至ったきっかけ

初めまして.悪い人と申します.2024年時点で地の底で数学科B2をやっています.

この度初めてMathlogに対して記事を投稿するということを行いますので,バカみたいな間違いを犯している可能性もありますから,その際はどうか優しくご指摘をいただければ幸いです.

さて,本題に移ります.集合論の写像について学んでいるとふと不満が沸き上がってきたのですよ.

写像f:ABとし,Aの部分集合P1,P2,PBの部分集合Qに対して,
f(P1P2)f(P1)f(P2),f1(f(P))P,f(f1(Q))Q.
そして,逆の包含関係が成り立つためには上二つは単射で,一番下のは全射でなければならない,と.
そして,大体逆像に関してはイコールで成り立っている…….

ぼく「Huh?」

この悩みを少しでも減らしたい! ということで,写像の一般化としての対応を考えることで,このことについて考察してみたわけです.

色々ネットで調べてみると,写像の一般化はなんやかんやあって二項関係で考えれるよ~みたいな記述がよくあったんですが,よくわからなかったので今回は二項関係のことは考えず,あくまで写像の一般化として考えていきたいと思います.

写像を一般化してみる

対応

二つの集合A,Bがあるとする.このとき,対応Γ:ABを次のように定める.
・任意のAの元aに対しBの部分集合Bが存在して,Γ(a)=Bとなる.
このとき,集合A始集合,集合B終集合ということにする.

いくつか注意を述べます.

まず,写像というのは終集合の一つの元のみ持つ部分集合を返しているというよりも,終集合のある一つの元を返していると解釈されるのが一般的なため,その齟齬に注意せずに安易にこれが写像の一般化であると言ってしまうのはヤバそうです.

また,Bの部分集合としてを取って,Γ(a)=となってもよいです.これは写像との違いの一つと言えるでしょう.

次に,対応の像について定義しておきます.

対応の像

対応Γ:ABがあるとする.
aAに対するBの部分集合Γ(a)を対応Γによるaという.
さらに,Aの空でない部分集合Aに対してΓ(A)={bB | aA,bΓ(a)}と定め,これを対応ΓによるAという.
ただし,Γ()=と規約する.

ここで,容易にわかるとおり,Γ({a})=Γ(a)であることに注意します.
念のため確認しておくと,
Γ({a})={bB | a{a},bΓ(a)}={bB | bΓ(a)}=Γ(a).

さて,わかりやすさのため対応の例について考えてみましょう.

対応の具体例

対応f:RRを以下のように定める.
f(x)={yR | x2+y2=1}.
このとき,f(12)={32,32}となる.また,f(2)=となる.
開区間(0,2)fによる像f((0,2))={yR | x(0,2),yf(x)}を考えるとf((0,2))=(1,1)となる.

次に考えていくことは,対応がどういう状況で写像になるのかということです.
先ほど安易に対応を写像の一般化と見なすのはヤバそうだと注意しましたが,とはいえ対応の始集合の全ての元に対して一元集合を返すものを考えれば,それは写像と同一視できそうですね.

もしかしたら今から定義していく色々な言葉は普通に使われる文脈とは違った意味で定義をしていることがあるかもしれません.

今回ばかりはそういうものだと思ってください.

さて,左全域・右全域であるということについて定義したいと思います.

左全域・右全域

対応Γ:ABがあるとする.
dom(Γ)={aA | Γ(a)}Γ定義域と言うことにする.
また,ran(Γ)=Γ(A)Γ値域と言うことにする.

dom(Γ)=Aの場合,Γ左全域的対応であるといい,単に左全域ということにする.
ran(Γ)=Bの場合,Γ右全域的対応全射であるといい,単に右全域ということにする.

左全域というのは任意のAの元aに対してΓ(a)は空集合でないということを意味します.すなわち,写像であるための必要条件です.
一方,右全域というのは任意のBの元bに対してあるAの元aが存在してbΓ(a)ということで,これは全射な写像の必要条件と言えそうですね.

左全域・右全域の具体例

対応f:[0,)Rを以下のように定める.
f(x)={yR | x=y2}.
このとき,dom(f)={x[0,) | f(x)}を考えると,dom(f)=[0,)となる.したがって,対応fは左全域である.
また,ran(f)=f([0,))={yR | x[0,),yf(x)}を考えると,ran(f)=Rとなる.したがって,対応fは右全域でもある.

次に,左一意・右一意について定義していきます.

左一意・右一意

対応Γ:ABがあるとする.
a,aA,[Γ(a)Γ(a)a=a]が成り立つとき,Γ左一意的対応単射であるといい,単に左一意ということにする.

aA,bB,[Γ(a)Γ(a)={b}]が成り立つとき,Γ右一意的対応部分写像であるといい,単に右一意ということにする.

左一意というのは単射な写像の一般化になっています.Γ(a)Γ(a)というのは,もしΓが写像なら(一元集合の共通部分が空でないということは同じ一元集合であるということなので)Γ(a)=Γ(a)ということですから,単射の一般化であると言えそうです.
一方で,部分写像というのは空集合にならないものは一元集合を返すということですから,写像であるための必要条件と言えそうですね.

左一意の具体例

対応f:RRを以下のように定める.
f(x)={yR | x=siny}.

このときf(1)={π2+2nπ | nZ}, f(1)={π2+2nπ | nZ}, x(1,1) ならばf(x)={arcsinx+2nπ | nZ}{arcsinx+(2n+1)π | nZ}, x[1,1]ならばf(x)=となっている.

Rの任意の元x,xに対し,xxであるとき,f(x)f(x)=となっているから,対偶を取ればfは左一意的とわかる.

右一意の具体例

対応f:RRを以下のように定める.
f(x)={yR | y=lnx}.
ここで,Rの任意の元xに対しx0ならf(x)=, 0<xならf(x)={lnx}となる.したがって,fは右一意的(部分写像)であることがわかる.

さて,写像というのは左全域な部分写像(左全域的かつ右一意的な対応)であると言えるわけです.
ここでは逆にこれを定義としてしまいます.

写像

対応Γ:ABが写像であるとは,左全域的かつ右一意的な対応のことである.

必要のため,対応が等しいということについての定義をしておきます.

対応の相等

Γ:AB,Δ:CDが等しいということを以下のように定める.
A=C,B=D
aA,Γ(a)=Δ(a)
このとき,Γ=Δと表す.

また,写像における逆写像だとか,逆像という概念に関して,逆対応というものについて定義します.

逆対応

Γ:ABに対し逆対応Γ1を次のように定める.
Γ1:BAである.
bBに対しΓ1(b)={aA | bΓ(a)}

おそらく本来ならば逆対応の条件を満たす二つの対応を取った時それは等しくなるから,一意に存在するという証明をしなければならないところですが,その証明はここでは省略します.

逆対応の像について,BBに対し,Γ1(B)={aA | bB,aΓ1(b)}={aA | BΓ(a)}となっていることについて注意しておきます.
写像の逆対応の像についてΓ(a)は一元集合となりますから,これを一つの元と同一視すると,BΓ(a)という条件はΓ(a)Bとなり,逆像の定義と同一視することができます.

さて,逆対応に関する命題として2つのことが言えますので確認しておきます.

逆対応の逆対応は元々の対応と一致する.
すなわち,対応Γ に対して,(Γ1)1=Γが成り立つ.

対応Γ:ABがあるとする.
まず逆対応の逆対応と元々の対応について,その始集合,終集合は一致する.
また任意のaAに対して,
(Γ1)1(a)={bB | aΓ1(b)}={bB | bΓ(a)}=Γ(a).
したがって,(Γ1)1=Γが成立する.

(1). 左全域な対応の逆対応は右全域.
(2). 右全域な対応の逆対応は左全域.
(3). 左一意な対応の逆対応は右一意.
(4). 右一意な対応の逆対応は左一意.

(1). Γ:ABを左全域な対応とする.
ran(Γ1)={aA | bB,aΓ1(b)}={aA | bB,bΓ(a)}={aA | Γ(a)}=A.
すなわち,Γ1:BAは右全域な対応である.

(2). Γ:ABを右全域な対応とする.
dom(Γ1)={bB | Γ1(b)}={bB | aA,bΓ(a)}=B.
すなわち,Γ1:BAは左全域な対応である.

(3). Γ:ABを左一意な対応として,bB,Γ1(b)と仮定する.
すると,aΓ1(b)となるaAが存在して,bΓ(a)である.

もしaΓ1(b)であったとすると,bΓ(a)である.
Γが左一意的であるから,Γ(a)Γ(a)ゆえ,a=a

したがって,Γ1(b)は一元集合{a}となる.
すなわち,Γ1:BAは右一意的となる.

(4). Γ:ABを右一意的な対応として,b,bB,Γ1(b)Γ1(b)と仮定する.
するとaΓ1(b)Γ1(b)となるaAが存在して,bΓ(a),bΓ(a)である.

Γは右一意な対応であるから,Γ(a)ゆえ,Γ(a)は一元集合であるから,b=bでなければならない.
したがって,Γ1:BAは左一意的となる.

写像の定義と逆対応の命題を考えれば,逆像というのは右全域的かつ左一意的な対応の像であるということが言えそうですね.
また,ある写像に関して,逆写像が存在するというのは逆対応が左全域的かつ右一意的な対応になるために,元々の写像が右全域的かつ左一意的な写像でなければならなくて,結果として左全域・右全域・左一意・右一意の全てを満たすこととなるんですね.

最後に,集合論の写像で学んだ不満というのを少しだけ解消していきたいと思います.

対応Γ:ABがあるとする.
A1,A2,AAの任意の部分集合とする.

(1). A1A2Γ(A1)Γ(A2)
(2). Γ(A1A2)=Γ(A1)Γ(A2)
(3). Γ(A1A2)Γ(A1)Γ(A2)
(4). Γが左一意 Γ(A1A2)Γ(A1)Γ(A2)
(5). Γが左全域 Γ1(Γ(A))A
(6). Γが左一意 Γ1(Γ(A))A

以下例えばPQを示すときの「Pから元を任意に取る」というのは,P=である場合は明らかにPQであるから,PとしてPから元を取ったものだとする.

(1). bΓ(A1)とすると,aA1,bΓ(a)
A1A2より,aA2,bΓ(a)である.
したがって,bΓ(A2)

(2). まず,bΓ(A1A2)とする.
このとき,aA1A2,bΓ(a)

もしaA1である場合には,bΓ(A1)
もしaA2である場合には,bΓ(A2)
いずれにせよ,bΓ(A1)Γ(A2)となる.

一方,bΓ(A1)Γ(A2)とする.
もし,bΓ(A1)である場合には,a1A1,bΓ(a1)
a1A1A2,bΓ(a1)であるから,bΓ(A1A2)となる.

もし,bΓ(A2)である場合には,a2A2,bΓ(a2)
a2A1A2,bΓ(a2)であるから,bΓ(A1A2)となる.

いずれにせよ,bΓ(A1A2)となる.
以上より,Γ(A1A2)=Γ(A1)Γ(A2)がわかる.

(3). bΓ(A1A2)とする.
すなわち,aA1A2,bΓ(a)である.

aA1,bΓ(a)であり,aA2,bΓ(a)であるということだから,bΓ(A1)Γ(A2)である.

(4). []:Γを左一意とする.
bΓ(A1)Γ(A2)を任意に取る.
すると,a1A1,bΓ(a1),a2A2,bΓ(a2)である.
つまり,bΓ(a1)Γ(a2)である.

よってΓ(a1)Γ(a2)であって,Γが左一意だからa1=a2となる.
したがって,a=a1=a2とすれば,aA1A2,bΓ(a)ゆえ,bΓ(A1A2)
すなわち,Γ(A1A2)Γ(A1)Γ(A2)

[]:Γ(A1A2)Γ(A1)Γ(A2)とする.
Γ(a)Γ(a)を満たすa,aAを任意に取る.

ここで仮定より,Γ(a)Γ(a)=Γ({a})Γ({a})Γ({a}{a})
aaと仮定すると,Γ({a}{a})=Γ()=となって,Γ(a)Γ(a)=となる.
これはΓ(a)Γ(a)と矛盾するから,a=aである.

以上より,Γは左一意となる.

(5). []:Γを左全域として,aAを任意に取る.

aAであって,Γが左全域だから,Γ(a)である.
aAゆえ,a=aとすれば,aAΓ(a)Γ(a)である.
aAΓ(a)Γ(a),bB,aA,bΓ(a),bΓ(a),bB,bΓ(A),aΓ1(a),bΓ(A),aΓ1(b),aΓ1(Γ(A)).
したがって,AΓ1(Γ(A))を満たす.

[]:AΓ1(Γ(A))として,aAを任意に取る.

もしΓ(a)=と仮定すると,
{a}Γ1(Γ({a}))=Γ1(Γ(a))=Γ1()=

となって,{a}=となるが,これは矛盾である.
したがって,Γ(a)である.

すなわち,Γは左全域である.

(6). []:Γを左一意として,aΓ1(Γ(A))を任意に取る.
aΓ1(Γ(A)),bΓ(A),aΓ1(a),bB,bΓ(A),bΓ(a),bB,aA,bΓ(a)Γ(a),aA,Γ(a)Γ(a).
ここで,Γが左一意だから,a=aとなる.
よって,aAとなるから,Γ1(Γ(A))A

[]:Γ1(Γ(A))Aとする.

Γが左一意であることを示すために,Γ(A1)Γ(A2)Γ(A1A2)を示す.
bΓ(A1)Γ(A2)を任意に取る.

ここで,i=1,2として,Γ1(b)Γ1(Γ(Ai))を示す.
aΓ1(b)を任意に取る.

するとbΓ(Ai),aΓ1(b)であるので,aΓ1(Γ(Ai))である.
よって,Γ1(b)Γ1(Γ(Ai))である.
仮定より,Γ1(Γ(Ai))Aiゆえ,Γ1(b)Ai
したがって,Γ1(b)A1A2

このとき,aΓ1(b)ならaA1A2ゆえ,aA1A2,bΓ(a)である.
すなわち,bΓ(A1A2)
以上より,Γ(A1)Γ(A2)Γ(A1A2)ゆえ,Γは左一意となる.

反例的なモノ1

対応f:RRを以下のように定める.
f(x)={yR | y=x2}.

このときAの部分集合としてA1=[2,1],A2=[1,2]を取る.
A1A2=なので,f(A1A2)=である.
一方で,f(A1)=[1,4],f(A2)=[1,4]なので,f(A1)f(A2)=[1,4]である.

よってf(A1A2)f(A1)f(A2)となるA1,A2が存在するので,命題3 (4)よりfは左一意でない.

反例的なモノ2

対応f:RRを以下のように定める.
f(x)={yR | y=x}.

このときAの部分集合としてA=[1,2]を取る.
すると,f([1,2])=[0,2]f1([0,2])=[0,2]である.
すなわち,f1(f(A))AとなるAが存在するので,命題3 (5)よりfは左全域ではない.

反例的なモノ3

対応f:RRを以下のように定める.
f(x)={yR | y=9x2}.

このときAの部分集合としてA=[1,2]と取る.
すると,f([1,2])=[5,22]f1([5,22])=[2,1][1,2]となる.
すなわち,f1(f(A))AとなるAが存在するので,命題3 (6)よりfは左一意でない.

以下の系は,命題3のそれぞれΓΓ1と置き換えたりしつつ,命題1,2を適用すれば導けます.(具体的な証明は省略)

命題3

対応Γ:ABがあるとする.
B1,B2,BBの部分集合とする.

(1). B1B2Γ1(B1)Γ1(B2)
(2). Γ1(B1B2)=Γ1(B1)Γ1(B2)
(3). Γ1(B1B2)Γ1(B1)Γ1(B2)
(4). Γが右一意 Γ1(B1B2)Γ1(B1)Γ1(B2)
(5). Γが右全域 Γ(Γ1(B))B
(6). Γが右一意 Γ(Γ1(B))B

以上のことを考えると,命題3 系(4)から,写像の逆像の共通部分と共通部分の逆像は等しいというのは,写像が右一意な対応になってるから言えるんですね.

おわりに

命題3について,写像であるという厳しい条件のものに限らずに,対応でも同じようなことが言えそうだということがわかりました.
そもそも写像ってなんなんだろ~っていうところから集合論の教科書に書いてあったよくわからん式について考察を深めることで,色々学びになりました.
それではまたいつか~.

参考文献

投稿日:202445
OptHub AI Competition

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