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束(lattice)の代数構造や, いろいろ

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0. はじめに

束についてたくさん書きました.

1. Notations

  1. $\mathbb N:=\{1,2,3,\ldots\}$:自然数全体の集合.
  2. 集合$A$に対して$2^A$$A$の冪集合とする.

2. 基礎的な定義と束の代数構造

  1. $(L,\leqq)$を半順序集合とする. 任意の非空有限部分集合$A\subseteq L$が上限と下限を持つとき, $(L,\leqq)$束(lattice)という. 順序$\leqq$を明示して言わなくてもわかる場合は, 単に$L$を束という. また,
    \begin{gather} \bigvee A:=\sup(A),\quad \bigwedge A:=\inf(A) \end{gather}
    として, それぞれ$A$の結び, 交わりという.
  2. $A=\{a_1,\dots,a_n\}\subseteq L$のとき, $\displaystyle\bigvee A$ ($\displaystyle\bigwedge A$)を単に$\displaystyle\bigvee_{i=1}^n a_i$, または$a_1\vee\dots\vee a_n$ ($\displaystyle\bigwedge_{i=1}^n a_i$, または$a_1\wedge\dots\wedge a_n$)とかくこともある. このときそれらは$a_1,\dots,a_n$の結び(交わり)という.
ハッセ図1

ハッセ図とは, 半順序集合を視覚的に捉える方法である. これを用いると, 矢印をたどることで元の大小関係がわかる.
$A=\{a,b,c\},\ L=2^A$とすると, $(L,\subseteq)$は束となる. このとき, $L$のハッセ図は以下のようになる.
\begin{xy} \xymatrix { &\{a,b,c\}&\\ \{a,b\}\ar[ru]&\{a,c\}\ar[u]&\{b,c\}\ar[lu]\\ \{a\}\ar[u]\ar[ru]|{\text{ }}&\{b\}\ar[lu]\ar[ru]&\{c\}\ar[lu]|{\text{ }}\ar[u]\\ &\emptyset \ar[lu]\ar[u]\ar[ru]& } \end{xy}
これを見ると$\{a\}$$\{b\}$の結びは$\{a,b\}$, 交わりは$\emptyset$であると視覚的に理解することができる.

ハッセ図2

$L=\{1,2,3,4,6,12\}$とする. $a,b\in \mathbb N$のときに$a$$b$を割り切るとき, $a|b$とかく. このとき$(L,|)$は束となる. 以下にそのハッセ図を示す.
\begin{xy} \xymatrix { &12&\\ 4\ar[ru]&&6\ar[lu]\\ 2\ar[u]\ar[rru]&&3\ar[u]\\ &1\ar[lu]\ar[ru]& } \end{xy}
このとき結びは最小公倍数, 交わりは最大公約数になっていることがわかる.

例2ではハッセ図がかけるように$\mathbb N$の有限部分集合$\{1,2,3,4,6,12\}$を考えたが, $(\mathbb N,|)$自体も束となり, 例2と同様に結びが最小公倍数, 交わりが最大公約数となる.

束ではない半順序集合

以下のハッセ図に対応する半順序集合は束ではない. なぜならば$d$$e$の上界は$\{a,b,c\}$であるが, $b$$c$は比較不可能のため, 上限が決められないからである. $b$$c$の下限についても同様の理由で決められない.
\begin{xy} \xymatrix{ &a&\\ b\ar[ur]&&c\ar[ul]\\ d\ar[u]\ar[urr]&&e\ar[u]\ar[ull]|{\text{ }}\\ &f\ar[ur]\ar[ul]& } \end{xy}

実は, 束$(L,\leqq)$は, ある演算規則を持った代数系$(L,\vee,\wedge)$を考えることと全く同じである. そのことを述べているのが次の命題1と2である.

束の代数構造

$L$を束とする. このとき$L$の二項演算$\vee,\wedge$を, 2元の上限と下限を対応させるものと定義すると, $(L,\vee,\wedge)$は任意の$a,b,c\in L$に対して以下の3条件を満たす.

  1. (交換則)
    \begin{gather} a\vee b=b\vee a,\\ a\wedge b=b\wedge a. \end{gather}
  2. (結合則)
    \begin{gather} a\vee (b\vee c)=(a\vee b)\vee c,\\ a\wedge (b\wedge c)=(a\wedge b)\wedge c. \end{gather}
  3. (吸収則)
    \begin{gather} a\vee(a\wedge b)=a,\\ a\wedge(a\vee b)=a. \end{gather}

それぞれの条件が成立していることを見ていく.

  1. $a$$b$の上限(下限)は$b$$a$の上限(下限)なのですぐに分かる.
  2. $d=b\vee c$とおくと, $b,c\leqq d$なので$b,c\leqq a\vee d$. また$a\leqq a\vee d$でもあるので$a\vee d$$\{a,b,c\}$の上界である. つまり$a\vee b\vee c\leqq a\vee d$. 次に, $k$$\{a,b,c\}$の任意の上界とすると, $k$$\{b,c\}$の上界でもあるので, $d\leqq k$. 当然$a\leqq k$なので$a\vee d\leqq k$. よって$a\vee d$$\{a,b,c\}$の最小上界(つまり上限)であることが示された. つまり$a\vee b\vee c= a\vee d=a\vee (b\vee c)$. また$a\vee b\vee c=(a\vee b)\vee c$も同様に示すことができるので, 結びに関する結合則は示された. 交わりに関しても同様の議論により成立することがわかる.
  3. $a\leqq a\vee(a\wedge b)$である. また, $a$$\{a,a\wedge b\}$の上界なので, $a\vee(a\wedge b)\leqq a$となり, 題意は示された. $a\wedge(a\vee b)=a$も同様の議論により示すことができる.
順序の復元

$L$を集合, $\vee,\wedge$$L$上の二項演算として, $(L,\vee,\wedge)$が命題1の条件1.から3.を満たすなら, $a,b\in L$として
\begin{gather} a\leqq b:\Leftrightarrow a\wedge b=a \end{gather}
で定義される$\leqq$は半順序となり, $(L,\leqq)$は束となる.

  1. まずは$\leqq$が半順序となることを示す.
    1. (反射律) 下界の定義から$a\wedge a=a$だから$a\leqq a$とわかる.
    2. (反対称律) $a\leqq b$かつ$b\leqq a$とすると, $\leqq$の定義から$a\wedge b=a=b$とわかり, $a=b$がわかる.
    3. (推移律) $a\leqq b$かつ$b\leqq c$とすると$a\wedge b=a$かつ$b\wedge c=b$. このとき
      \begin{eqnarray} a\wedge c&=&(a\wedge b)\wedge c\\ &=&a\wedge(b\wedge c)\\ &=&a\wedge b\\ &=&a. \end{eqnarray}
      したがって$a\leqq c$とわかる.
  2. 次に$(L,\leqq)$が束となることを確かめる. 非空有限部分集合$\{a_1,\dots,a_n\}\subseteq L$として$k=a_1\vee(a_2\vee(\cdots\vee(a_{n-1}\vee a_n)\cdots))$とすると, 結合則と交換則, さらに吸収則により$i=1,\dots,n$に対して$a_i\wedge k=a_i$とわかる. よって$a_i\leqq k$. また$l\in L$$\{a_1,\dots,a_n\}$の任意の上界とすれば$a_{n-1}\vee a_n\leqq l,\ a_{n-2}\vee(a_{n-1}\vee a_n)\leqq l,\ldots$となる. これを繰り返して$k\leqq l$を得る. これは$k$$\{a_1,\dots,a_n\}$の上限であることを表す. 下限の存在も同様にすれば示すことができる.

束を代数系として捉えることができたので, 部分束や準同型などを代数的側面から定義することができる.

部分束

$L$を束, $M\subseteq L$とする. このとき任意の$a,b\in M$に対して$a\vee b, a\wedge b\in M$となるとき, $M$は束となる. これを$L$部分束という.

部分束

$L=\{1,2,3,4,6,12\}$とすると, $(L,|)$$(\mathbb N,|)$の部分束である.

準同型
  1. $L,M$を束, $f:L\to M$とする. このとき任意の$a,b\in L$に対して
    \begin{align} &f(a\vee_L b)=f(a)\vee_Mf(b),\\ &f(a\wedge_L b)=f(a)\wedge_Mf(b) \end{align}
    を満たすなら, $f$束の準同型という.
  2. $f:L\to M$が全単射な束の準同型で, $f^{-1}$も準同型ならば, $f$束の同型という. この状況で$L\cong M$とかき, $L$$M$は束の同型であるという.
  1. $L,M,N$を束, $f:M\to N,\ g:L\to M$を束の準同型とすると, $f\circ g:L\to N$も束の準同型である.
  2. $f:M\to N$が全単射な束の準同型であれば$f$は束の同型である.
  1. 以下の等式により題意は成立.
    \begin{eqnarray} f\circ g(a\vee b)&=&f(g(a\vee b))\\ &=&f(g(a)\vee g(b))\\ &=&f(g(a))\vee f(g(b))\\ &=&f\circ g(a)\vee f\circ g(b),\\\\ f\circ g(a\wedge b)&=&f(g(a\wedge b))\\ &=&f(g(a)\wedge g(b))\\ &=&f(g(a))\wedge f(g(b))\\ &=&f\circ g(a)\wedge f\circ g(b). \end{eqnarray}
  2. 以下の等式に$f^{-1}$を作用させれば題意は成立.
    \begin{eqnarray} f(f^{-1}(a\vee b))&=&a\vee b\\ &=&f(f^{-1}(a))\vee f(f^{-1}(b))\\ &=&f(f^{-1}(a)\vee f^{-1}(b)),\\\\ f(f^{-1}(a\wedge b))&=&a\wedge b\\ &=&f(f^{-1}(a))\wedge f(f^{-1}(b))\\ &=&f(f^{-1}(a)\wedge f^{-1}(b)). \end{eqnarray}

次に, 束に付随する基礎的な概念についていくつか定義する.

  1. $L$が最大元$\top$と最小元$\bot$を持つとき, $L$有界束という.
  2. $L$が分配束を持つとき, つまり任意の$a,b,c\in L$に対して
    \begin{align} &a\vee(b\wedge c)=(a\vee b)\wedge(a\vee c),\\ &a\wedge(b\vee c)=(a\wedge b)\vee(a\wedge c). \end{align}
    が成り立つとき, $L$分配束という.
  3. $L$の任意の部分集合について上限を持つときは$L$結びについて完備といい, 下限を持つときは$L$交わりについて完備という. $A\subseteq L$の上限(下限)が存在するとき, $\displaystyle\bigvee A$ ($\displaystyle\bigwedge A$)とかく. 結びと交わり両方について完備な束を完備束という.
  4. $L$の任意の高々加算無限部分集合について上限を持つときは$L$結びについて$\sigma$-完備といい, 下限を持つときは$L$交わりについて$\sigma$-完備という. 結びと交わり両方について$\sigma$-完備な束を$\sigma$-完備束という.
有限束$\Rightarrow$有界束

$L$が有限なら, $\displaystyle\bigvee L$$L$の最大元に, $\displaystyle\bigwedge L$$L$の最小元になる.

3. さまざまな束

ハイティング代数

有界な分配束$L$が二項演算$\to$をもち, 任意の$a,b,c\in L$に対して
\begin{gather} a\leqq (b\to c)\Leftrightarrow a\wedge b\leqq c \end{gather}
が成立するとき$L$ハイティング代数という.

フレーム

$L$は完備束であるとする. このとき任意の$S\subseteq L$と任意の$a\in L$に対して
\begin{gather} a\wedge\left(\bigvee_{s\in S}s\right)=\bigvee_{s\in S}(a\wedge s) \end{gather}
が成り立つとき, $L$フレーム(frame)という.

ハイティング代数とフレームについては, セクション4. にていくつかの性質をみる.

原子的束
  1. $L$を, 最小元$\bot$を持つ束とする. $a\in L\backslash\{\bot\}$として$\bot< x\leqq a$を満たす$x\in L$$x=a$を除いて存在しないとき(つまり$a$$\bot$のすぐ上の元), $a$$L$原子(atom)という. $L$の原子全体の集合を$\text{Atom}(L)$とかく.
  2. $L$原子的(atomic)であるとは, 任意の$x\in L$が, $x$以下の原子全体の結びとして書けるときをいう. つまり任意の$x\in L$に対して$A_x:=\{a\in \text{Atom}(L)\mathrel |a\leqq x\}$としたときに$\displaystyle x=\bigvee A_x$とかけるような束のこと.
  3. $L$が最大元$\top$を持つとすると, $a\in L\backslash\{\top\}$で, $\top$のすぐ下の元を余原子(co-atom)という. 任意の$x\in L$$x$以上の余原子全体の交わりで書けるとき, $L$余原子的(co-atomic)であるという.
冪集合の束

例1を見ると, これは原子的束になっている. そのことを具体的に見ていこう.

  1. $\{a\}$よりも下にある原子は自分自身$\{a\}$のみ. さらに$\displaystyle\{a\}=\bigvee\{\{a\}\}$である.
  2. $\{a,b\}$よりも下にある原子は$\{a\},\{b\}$の2つ. さらに$\{a,b\}=\{a\}\vee\{b\}$である.
  3. $\{a,b,c\}$よりも下にある原子は$\{a\},\{b\},\{c\}$の3つ. さらに$\{a,b,c\}=\{a\}\vee\{b\}\vee\{c\}$である.
  4. 少しややこしいが, 最小元$\emptyset$も原子の結びで書けることが確かめられる. $\emptyset$よりも下にある原子は存在しない. なので$A_\emptyset=\emptyset$だが, $\displaystyle\bigvee A_\emptyset=\bigvee \emptyset=\emptyset$(空集合の上界は$L$全体で, その中の最小値(上限)は$\emptyset$)である.

これらのようなことが例1の任意の元にて成立する.

任意の有限な冪集合の束が原子的であることは, 命題6と命題7により明らかになる.

$a\in\text{Atom}(L),\ b,c\in L$とすると
\begin{gather} a=b\vee c\Rightarrow a=b\text{または}c. \end{gather}

背理法により示す. 結びの定義より$b\leqq a$かつ$c\leqq a$だが, 背理法の仮定から$a$$b$でも$c$でもないので$b< a$かつ$c< a$である. ここで$a$は原子だから$b=c=\bot$. このとき$a=b\vee c=\bot$なので$a$が原子であることに矛盾.

Boole束

$L$を有界な分配束とする. 任意の$a\in L$補元を持つとき, つまり, ある$a'\in L$が存在して
\begin{align} &a\vee a'=\top,\\ &a\wedge a'=\bot. \end{align}
を満たすとき, $L$Boole束(Boole代数)という.

Boole束の性質
  1. Boole束$L$の任意の元は補元を唯一つもつ.
  2. $(a')'=a$.
  3. $(a\vee b)'=a'\wedge b'$.
  4. $a\leqq b\Rightarrow b'\leqq a'$.
  5. $\top'=\bot$.
  1. $a\in L$の補元を$b,c\in L$とする. このとき
    \begin{eqnarray} b&=&b\wedge\top\\ &=&b\wedge(a\vee c)\\ &=&(b\wedge a)\vee(b\wedge c)\\ &=&\bot\vee(b\wedge c)\\ &=&b\wedge c. \end{eqnarray}
    同様にすると$c=b\wedge c$が得られ, $b=c$となる.
    1. より$a'$の補元は唯一つ. よって示された.
  2. 以下の式より題意は成立.
    \begin{eqnarray} (a\vee b)\vee(a'\wedge b')&=&a\vee b\vee(a'\wedge b')\\ &=&a\vee ((b\vee a')\wedge(b\vee b'))\\ &=&a\vee b\vee a'\\ &=&\top,\\\\ (a\vee b)\wedge(a'\wedge b')&=&(a\vee b)\wedge a'\wedge b'\\ &=&((a\wedge a')\vee(b\wedge a'))\wedge b'\\ &=&b\wedge a'\wedge b'\\ &=&\bot. \end{eqnarray}
  3. $a\leqq b\Leftrightarrow a\wedge b=a\Leftrightarrow a'\vee b'=a'\Leftrightarrow b'\leqq a'$より従う.
  4. $\top'=(a\vee a')'=a'\wedge a=\bot$.

任意の集合$A$に対して$(2^A,\subseteq)$はBoole束である.

  1. (束であること) $2^A$は結び$\cup$, 交わり$\cap$を持つ束である. これらが命題1の条件を満たすことの確認は省略する.
  2. (有界性) $2^A$は最大元$A$, 最小元$\emptyset$をもつ.
  3. (分配性) 集合の性質であるので省略.
  4. (補元) $S\in 2^A$の補元は$A\backslash S\in 2^A$(つまり$S$の補集合)である.
Boole束の例 $\sigma$-加法族

$A$を集合として, $A$上の$\sigma$-加法族とは, $(2^A,\subseteq)$の部分Boole束$(\Sigma,\subseteq)$で, $\sigma$-完備であるもののこと.

$M\subseteq L$がBoole束$L$部分Boole束であるとは, $M$$L$の最大元と最小元を持ち, さらに$M$$L$上の結びと交わり, さらには補元を取る操作について閉じているときを指す.

有限Boole束$L$は原子的である.

  1. まずは任意の$a\in L\backslash\{\bot\}$に対して$x\leqq a$となる$x\in\text{Atom}(L)$が存在することを背理法により示す. 背理法の仮定より$a$は原子でないので$\bot< a_1< a$となる$a_1$が存在する. 背理法の仮定より$a_1$も原子ではない. 同様の議論を繰り返すことにより原子ではない元の無限降下列$\bot<\dots< a_2< a_1< a$が得られるが, $L$が有限であることに矛盾する.
  2. 次に, 任意の$x\in L$に対して$\displaystyle s=\bigvee A_x$として, $\displaystyle x=s$であることを示す.
    1. ($s\leqq x$の証明) $A_x$の定義より, 任意の$a\in A_x$に対して$a\leqq x$なので, $x$は$A_x$の上界である. $s$は$A_x$の上限なので$s\leqq x$である.
    2. ($x\leqq s$の証明) 背理法により示す. $d=x\wedge s'$とおく. もし$d=\bot$とすると$d\vee s=\bot\vee s\Rightarrow x\vee s=s$であるから$x\leqq s$だが, 背理法の仮定に反する. したがって$d\ne\bot$. よって, $a\leqq d$となるある$a\in \text{Atom}(L)$が存在する. $d=x\wedge s'$だから$a\leqq x$かつ$a\leqq s'$であるが, このことから$a\in A_x$である. よって$a\leqq s$であることがわかるが, $a\leqq s'$であることを考慮すると$a\leqq s\wedge s'=\bot$となり$a$が原子であることに矛盾.

次の定理は, (命題6と合わせると)$L$が有限集合なら「$L$はBoole束$\Leftrightarrow$$L$は冪集合の束」が成立することを主張している.

有限Boole束の表現

$L$が有限Boole束ならば, $L\cong 2^{\text{Atom}(L)}$.

$f:L\to 2^{\text{Atom}(L)}$
\begin{gather} f(x):=A_x \end{gather}
と定義すると, これが束の同型であることを示す.

  1. (準同型性)
    1. $a,b\in L$として$f(a\wedge b)=f(a)\cap f(b)$を示す.
      \begin{eqnarray} x\in f(a\wedge b)&\Leftrightarrow&x\text{は原子で}x\leqq a\wedge b\\ &\Leftrightarrow&x\text{は原子で}x\leqq a\text{かつ}x\leqq b\\ &\Leftrightarrow&x\in f(a)\cap f(b). \end{eqnarray}
    2. $a,b\in L$として$f(a\vee b)=f(a)\cup f(b)$を示す.
      1. ($\supseteq$) $x\in f(a)$ならば$x\leqq a$なので$x\leqq a\vee b$. よって$x\in f(a\vee b)$である. $x\in f(b)$の場合も同様にすれば良い.
      2. ($\subseteq$) $x\in f(a\vee b)$とすると$x\leqq a\vee b\Leftrightarrow x=x\wedge(a\vee b)=(x\wedge a)\vee(x\wedge b)$である. 命題3より$x=x\wedge a$または$x=x\wedge b$であるが, つまり$x\in f(a)\cup f(b)$である.
  2. (単射性) $f(x)=f(y)$とすると, $L$が原子的なので両辺結びをとることで$\displaystyle \bigvee f(x)=\bigvee f(y)\Leftrightarrow x=y$となる.
  3. (全射性) 任意の$S\in 2^{\text{Atom}(L)}$は有限集合である. この$S$の要素を$s_1,\dots ,s_n$とする. $\displaystyle x=\bigvee S$として, $f$の準同型性と$S$の元は原子であることを用いると
    \begin{eqnarray} f(x)&=&f\left(\bigvee_{i=1}^n s_i\right)\\ &=&\bigcup_{i=1}^n f(s_i)\\ &=&\bigcup_{i=1}^n\{s_i\}\\ &=&S. \end{eqnarray}
オーソモジュラー束

有界束$L$が以下2条件を満たすとき, $L$オーソモジュラー束という.

  1. 任意の$a\in L$は直交補元$a^\bot\in L$をもつ. つまり, $a^\bot$$a$の補元であり, 対合性($(a^\bot)^\bot=a$)があり, さらに任意の$a,b\in L$に対して$a\leqq b\Leftrightarrow b^\bot\leqq a^\bot$が成り立つ.
  2. (オーソモジュラー則) もし$a\leqq b$ならば
    \begin{gather} a\vee(a^\bot\wedge b)=b. \end{gather}
モジュラー束

$L$がモジュラー則を満たすとき, つまり$a\leqq c$を満たす任意の$a,b,c\in L$に対して
\begin{gather} a\vee(b\wedge c)=(a\vee b)\wedge c \end{gather}
が成り立つとき, $L$モジュラー束という.

4. 積演算の追加

剰余束
  1. $L$が結合的な二項演算$*$と, 二項演算$/$を持ち, $a\leqq (c/b)\Leftrightarrow a*b\leqq c$を満たすとき, $L$右剰余束という. $L$$*$についての単位元を持つなら$L$単位的右剰余束という.
  2. $L$が結合的な二項演算$*$と, 二項演算$\backslash$を持ち, $a\leqq (b\backslash c)\Leftrightarrow b*a\leqq c$を満たすとき, $L$左剰余束という. $L$$*$についての単位元を持つなら$L$単位的左剰余束という.
  3. 右剰余束かつ左剰余束$(L,*,/,\backslash)$のことを単に剰余束という.
  4. 剰余束$(L,*,/,\backslash)$が積$*$に関して可換であれば, $a/b=b\backslash a$とわかる. このようなことから$(a:b):=a/b$とする. これはイデアル商とよばれる.
剰余束の例

有界な分配剰余束$L$において積が$*=\wedge$であるとき, 任意の$a,b\in L$に対して$(b\to a):=(a:b)$とすればこれはハイティング代数そのものである. つまり剰余束の性質はそのままハイティング代数に受け継がれる.

商の一意性

$L$を右剰余束とすると, 積$*$に対して演算$/$により取りうる演算結果は一意的である.

$L$上の二項演算$/_1,/_2$で, 任意の$a,b,c\in L$に対して
\begin{align} &a\leqq (c/_1b)\Leftrightarrow a*b\leqq c,\tag{i}\\ &a\leqq (c/_2b)\Leftrightarrow a*b\leqq c\tag{ii} \end{align}
が成り立つとして, $/_1=/_2$を導く. 上の関係は任意の$a\in L$で同値であるので, $a=c/_1b$の場合を考える. まず$(c/_1b)\leqq (c/_1b)$は真であるので関係$(\text{i})$より$(c/_1b)*b\leqq c$である. よって関係$(\text{ii})$によって$(c/_1b)\leqq (c/_2b)$とわかる. 今度は$a=c/_2b$として同様にすれば$(c/_2b)\leqq (c/_1b)$が得られる. 以上より任意の$b,c\in L$に対して$(c/_1b)= (c/_2b)$であることが示された.

積の単調性
  1. $L$を右剰余束とすると, $a,b,k\in L$に対して
    \begin{gather} a\leqq b\Rightarrow a*k\leqq b*k. \end{gather}
  2. $L$を左剰余束とすると, $a,b,k\in L$に対して
    \begin{gather} a\leqq b\Rightarrow k*a\leqq k*b. \end{gather}
  1. $a\leqq b$とする. まず, $b*k\leqq b*k\Leftrightarrow b\leqq(b*k)/k$. よって$a\leqq (b*k)/k\Leftrightarrow a*k\leqq b*k$.
    1. と同様にすればよい.
商の単調性, 反単調性
  1. $L$を右剰余束とすると, $a,b,k\in L$に対して
    \begin{gather} a\leqq b\Rightarrow a/k\leqq b/k. \end{gather}
  2. $L$を左剰余束とすると, $a,b,k\in L$に対して
    \begin{gather} a\leqq b\Rightarrow k\backslash a\leqq k\backslash b. \end{gather}
  3. $L$を剰余束とすると, $a,b,k\in L$に対して
    \begin{gather} a\leqq b\Rightarrow \begin{cases} k/b\leqq k/a,\\ b\backslash k\leqq a\backslash k. \end{cases} \end{gather}
  1. $a/k\leqq a/k$だから$(a/k)*k\leqq a$. 仮定$a\leqq b$と合わせて$(a/k)*k\leqq b\Leftrightarrow a/k\leqq b/k$となる.
    1. と同様にすれば良い.
  2. $k/b\leqq k/b$であることから$(k/b)*b\leqq k$. 仮定$a\leqq b$と積の単調性より$(k/b)*a\leqq(k/b)*b$. よって$(k/b)*a\leqq k\Leftrightarrow k/b\leqq k/a$が示される. $b\backslash k\leqq a\backslash k$も同様にすれば示せる.
クオンタール

$L$が完備束であり, 結合的な二項演算$*$を持ち, $*$が結びに対して分配的であるとき, つまり
\begin{align} &a*\left(\bigvee_{\lambda\in\Lambda}b_\lambda\right)=\bigvee_{\lambda\in\Lambda}(a*b_\lambda),\\ &\left(\bigvee_{\lambda\in\Lambda}b_\lambda\right)*a=\bigvee_{\lambda\in\Lambda}(b_\lambda *a) \end{align}
を満たすとき, $L$クオンタール(quantale)という. $L$$*$についての単位元を持つなら$L$単位的クオンタールという.

クオンタールの例

クオンタール$L$において積が$*=\wedge$であるとき, これはフレームそのものである. つまりクオンタールの性質はそのままフレームに受け継がれる.

積の単調性

$L$をクオンタールとすると, $a,b,k\in L$に対して
\begin{gather} a\leqq b\Rightarrow \begin{cases} a*k\leqq b*k,\\ k*a\leqq k*b. \end{cases} \end{gather}

$a\leqq b$とすると, これは$a\vee b=b$と同値である. また$(a\vee b)*k=(a*k)\vee(b*k)$なので$b*k=(a*k)\vee(b*k)$であることがわかり, つまり$a*k\leqq b*k$である. 同様にすれば$k*a\leqq k*b$も示すことができる.

  1. クオンタール$L$上の二項演算$/$
    \begin{gather} (c/b) :=\bigvee\{a\in L\mathrel |a*b\leqq c\} \end{gather}
    と定義すれば$(L,*,/)$は右剰余束となる.
  2. クオンタール$L$上の二項演算$\backslash$
    \begin{gather} (b\backslash c) :=\bigvee\{a\in L\mathrel |b*a\leqq c\} \end{gather}
    と定義すれば$(L,*,\backslash)$は左剰余束となる.
  1. $a\leqq c/b\Leftrightarrow a*b\leqq c$を確かめればよい.

    1. ($\Rightarrow$について)
      \begin{eqnarray} (c/b)*b&=&\left(\bigvee\{x\in L\mathrel |x*b\leqq c\}\right)*b\\ &=&\bigvee\{x*b\in L\mathrel |x*b\leqq c\}\\ &\leqq&c.\\\\ \therefore a*b&\leqq&(c/b)*b\leqq c. \end{eqnarray}
    2. ($\Leftarrow$について) 仮定より
      \begin{gather} a\in\{x\in L\mathrel |x*b\leqq c\} \end{gather}
      であるが, このことから
      \begin{eqnarray} a&\leqq&\bigvee\{x\in L\mathrel |x*b\leqq c\}=c/b. \end{eqnarray}
  2. 上と同様にすれば示すことができる.

次の定理と命題13により, 「$L$は完備な剰余束$\Leftrightarrow$$L$はクオンタール」ということができる.

完備な剰余束$L$はクオンタールである.

まずは
\begin{gather} \left(\bigvee_{\lambda\in\Lambda}b_\lambda\right)*a=\bigvee_{\lambda\in\Lambda}(b_\lambda*a) \end{gather}
を示す.

  1. ($\geqq$について) 結びの定義より
    \begin{gather} b_\lambda\leqq\bigvee_{\lambda\in\Lambda}b_\lambda \end{gather}
    である. さらに右剰余束の積の単調性より
    \begin{gather} b_\lambda*a\leqq\left(\bigvee_{\lambda\in\Lambda}b_\lambda\right)*a \end{gather}
    である. よって$\displaystyle\left(\bigvee_{\lambda\in\Lambda}b_\lambda\right)*a$$\{b_\lambda *a\}_{\lambda\in\Lambda}$の上界であるので
    \begin{gather} \bigvee_{\lambda\in\Lambda}(b_\lambda*a)\leqq \left(\bigvee_{\lambda\in\Lambda}b_\lambda\right)*a \end{gather}
    となる.
  2. ($\leqq$について) 結びの定義より
    \begin{gather} b_\lambda*a\leqq\bigvee_{\lambda\in\Lambda}(b_\lambda*a) \end{gather}
    であるが, 任意の$x,y,z\in L$に対して$x\leqq (z/y)\Leftrightarrow x*y\leqq z$が成り立つことから
    \begin{gather} b_\lambda\leqq\left(\bigvee_{\lambda\in\Lambda}(b_\lambda*a)\right)/a \end{gather}
    である. よって$\displaystyle\left(\bigvee_{\lambda\in\Lambda}(b_\lambda*a)\right)/a$$\{b_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$の上界であるので
    \begin{gather} \bigvee_{\lambda\in\Lambda}b_\lambda\leqq\left(\bigvee_{\lambda\in\Lambda}(b_\lambda*a)\right)/a \end{gather}
    であり, したがって
    \begin{gather} \left(\bigvee_{\lambda\in\Lambda}b_\lambda\right)*a\leqq\left(\bigvee_{\lambda\in\Lambda}(b_\lambda*a)\right) \end{gather}
    となる.

同様に
\begin{gather} a*\left(\bigvee_{\lambda\in\Lambda}b_\lambda\right)=\bigvee_{\lambda\in\Lambda}(a*b_\lambda) \end{gather}
も示すことができる.

完備なハイティング代数$L$はフレームである.

5. Birkhoffの表現定理

Birkhoffの表現定理とは, 定理8の主張の一般化である.

  1. $L$を束とする. $p\in L$$L$の最小元でなく, 任意の$x,y\in L$に対して「$p=x\vee y$ならば$p=x$または$p=y$」が成立するならば$p$$L$結び既約元という. $L$の結び既約元全体の集合を$P(L)$とかく.
  2. 半順序集合$(P,\leqq)$に対して, $I\subseteq P$が「$x\in I,\ y\in P$かつ$y\leqq x$ならば$y\in I$」を満たすとき, $I$$P$順序イデアルという. $P$の順序イデアル全体の集合を$J(P)$とかく.

ここで半順序集合$P$の順序イデアル全体の集合$J(P)$は, 包含関係により束になることに注意.
$L$を束とする. $\phi:L\to2^{P(L)}$を, 任意の$x\in L$に対して
\begin{gather} \phi(x):=\{p\in P(L)\mid p\leqq x\} \end{gather}
と定義する.

\begin{gather} \phi(L)\subseteq J(P(L)). \end{gather}

$p\in\phi(x),\ q\in P(L),\ q\leqq p$とすると, $\phi(x)$の定義から$p\leqq x$なので, 推移律より$q\leqq x$. したがって$q\in\phi(x)$.

$L$を有限束とする. このとき任意の$x\in L$に対して以下が成立.
\begin{gather} x=\bigvee\phi(x). \end{gather}

$\displaystyle y(x)=\bigvee\phi(x)$とおいて, 背理法で示す. $A:=\{x\in L\mid y(x)\ne x\}$とすると, $A$は有限集合であることから$A$は極小元を持つ. 極小元の一つを$x_0$とおく. $x_0$$\phi(x_0)$の上界なので, $y(x_0)\leqq x_0$である. $y(x_0)\ne x_0$であることと合わせると$y(x_0)< x_0$である.

  1. $x_0\in P(L)$のとき, $x_0\in\phi(x_0)$であるが, $y(x_0)< x_0$であることに矛盾.
  2. $x_0\notin P(L)$のとき, $y(x_0)< x_0$であることを考慮すると$\bot\ne x_0$である. よって$x_0=a\vee b$となる$\bot< a< x_0,\ \bot< b< x_0$が存在する. $x_0$$A$の極小元であることから$a,b\notin A$であるので
    \begin{align} &a=\bigvee \phi(a),\\ &b=\bigvee \phi(b) \end{align}
    となる. よって
    \begin{eqnarray} x_0&=&a\vee b\\ &=&\left(\bigvee \phi(a)\right)\vee\left(\bigvee \phi(b)\right)\\ &=&\bigvee(\phi(a)\cup\phi(b)) \end{eqnarray}
    である. ここで$p\in\phi(a)$ならば$p\leqq a< x_0$なので, $p\in\phi(x_0)$である. したがって$\phi(a)\subseteq\phi(x_0)$である. よって$\phi(a)\cup\phi(b)\subseteq\phi(x_0)$であるので
    \begin{gather} \bigvee(\phi(a)\cup\phi(b))\leqq\bigvee\phi(x_0)=y(x_0). \end{gather}
    これは$y(x_0)< x_0$に矛盾する.

$L$を分配束, $p\in P(L)$とする. $x,y\in L$について$p\leqq x\vee y$ならば$p\leqq x$または$p\leqq y$.

$p=p\wedge(x\vee y)=(p\wedge x)\vee(p\wedge y)$であることと$p$$L$の結び既約元であることから$p=p\wedge x$または$p=p\wedge y$. したがって$p\leqq x$または$p\leqq y$となる.

Birkhoffの定理

$L$を有限分配束とすると,
\begin{gather} L\cong J(P(L)). \end{gather}

写像$\phi$が束同型となることを示す.

  1. (準同型性)
    1. (交わりについて) $p\in P(L)$とすると,
      \begin{eqnarray} p\in\phi(x\wedge y)&\Leftrightarrow& p\leqq x\wedge y\\ &\Leftrightarrow& p\leqq x\text{かつ}p\leqq y\\ &\Leftrightarrow& p\in\phi(x)\cap\phi(y) \end{eqnarray}
      である.
    2. (結びについて) $\phi(x\vee y)=\phi(x)\cup\phi(y)$を示せば良い.
      1. ($\supseteq$) $p\in\phi(x)$ならば$p\leqq x\leqq x\vee y$なので$p\in\phi(x\vee y)$である. $p\in\phi(y)$の場合も同様にして$p\in\phi(x\vee y)$であるから$\phi(x\vee y)\supseteq\phi(x)\cup\phi(y)$である.
      2. ($\subseteq$) $p\in\phi(x\vee y)$ならば$p\in P(L)$かつ$p\leqq x\vee y$であるが, 補題17より$p\leqq x$または$p\leqq y$となる. よって$p\in\phi(x)\cup\phi(y)$であるので$\phi(x\vee y)\subseteq\phi(x)\cup\phi(y)$である.
  2. (単射性) $\phi(x)=\phi(y)$とする. 補題16より
    \begin{gather} x=\bigvee\phi(x)=\bigvee\phi(y)=y. \end{gather}
  3. (全射性) 任意の$I\in J(P(L))$に対して
    \begin{gather} x=\bigvee_{q\in I}q \end{gather}
    とおく. このとき$I=\phi(x)$となることを確かめる.
    1. ($\subseteq$) $p\in I(\subseteq P(L))$に対して$\displaystyle p\leqq \bigvee I=x$であるので$p\in\phi(x)$.
    2. ($\supseteq$) $p\in\phi(x)$とすると, $\displaystyle p\leqq \bigvee I=\bigvee_{q\in I}q$であるが, 補題17よりある$q_0\in I$が存在して$p\leqq q_0$. $I$は順序イデアルであり, $q_0\in I,\ p\leqq q_0$であることから$p\in I$.
有限Boole束

$L$を有限Boole束とする.
まずは$P(L)=\text{Atom}(L)$を示す.

  1. ($\supseteq$) 命題4より$P(L)\supseteq\text{Atom}(L)$である.
  2. ($\subseteq$) $x\in P(L)$のときは, $x\ne\bot$なので$\text{Atom}(L)$の定義より$a\leqq x$となる$a\in\text{Atom}(L)$が存在する. ここで$x=a$を示す. 分配則より$x=(x\wedge a)\vee(x\wedge a')$と書けるが, $x$が結び既約元であることから$x=x\wedge a$または$x=x\wedge a'$である. $x=x\wedge a'$ならば$x\leqq a'$であり, $a\leqq x$と合わせると$a\leqq a'\Leftrightarrow a=a\wedge a'=\bot$となり矛盾する. よって$x=x\wedge a$である. $a\leqq x\Leftrightarrow a=x\wedge a$と合わせると$x=a\in\text{Atom}(L)$となる.

さらに$\text{Atom}(L)$は属する互いの元が比較不可能のため, $J(\text{Atom}(L))=2^{\text{Atom}(L)}$である. よって定理8の帰結$L\cong J(P(L))=J(\text{Atom}(L))=2^{\text{Atom}(L)}$が得られる.

6. 名前のついた束の記号

以下に, さまざまな具体的な束の記号を紹介する. ただし$V_4$はクラインの四元群のこと.

記号名前定義説明
$2^A$または$\mathscr P(A)$集合$A$の冪集合束元:$A$の部分集合全体, 順序:包含関係.
$D(n)$$n\in\mathbb N$の(正の)約数束元:$n$の正の約数, 順序:整除関係.例2の$L$$D(12)$のことである.
$\text{Sub}(G)$$G$の部分群束元:$G$の部分群全体, 順序:包含関係.
$\text{Sub}_{\text N}(G)$$G$の正規部分群束元:$G$の正規部分群全体, 順序:包含関係.$\text{Sub}(G)$の部分束.
$\text{Id}(A)$$A$のイデアル束元:$A$のイデアル全体, 順序:包含関係.
$\text L(M)$環上の加群$M$の部分空間束元:$M$の部分加群全体, 順序:包含関係.
$\Pi_n$分割束元:$n$元集合の分割全体, 順序:分割の細分.
$C_n$鎖(Chain)全順序集合$\{1,2,\dots,n\}$のこと.
$B_n$原子を$n$個持つBoole束定義8参照.$2^{\{1,\dots,n\}}$と同型.
$M_3$ダイヤモンド束(Diamond Lattice)下にハッセ図を示す.$\text{Sub}(V_4),\Pi_3$と同型. モジュラー則は成り立つが, 分配則は成り立たない最も単純な例.
$N_5$ペンタゴン束(Pentagon Lattice)下にハッセ図を示す.モジュラー則が成り立たない最も単純な例.
$[a,b]_L$$L$の2元$a,b\in L$の区間$[a,b]_L:=\{x\in L\mid a\leqq x\text{かつ}x\leqq b\}.$$L$の部分束.

ここで, $M_3,N_5$はそれぞれハッセ図を用いると以下の通り.
\begin{xy} \xymatrix{ &&&\bullet&&\\ M_3&=&\bullet\ar[ur]&\bullet\ar[u]&\bullet\ar[lu]&\\ &&&\bullet\ar[lu]\ar[u]\ar[ru]&&\\ &&&\bullet&&\\ &&\bullet\ar[ru]&&&\\ N_5&=&&&\bullet\ar[luu]&\\ &&\bullet\ar[uu]&&&\\ &&&\bullet\ar[lu]\ar[ruu]&& } \end{xy}

7. 群の諸定理の束の言葉への書き換え

以下にいくつかの定理を束の言葉で書き換える. (証明などは各自群論の教科書参考のこと.) 以下の定理は環や加群などについても類似のものが同様に成立する.
以下では$G$を群としている.

$H\in\text{Sub}_{\text N}(G)\subseteq\text{Sub}(G)$としたときに, $H$$\text{Sub}(G)$上で補元$H'$を持てば, 群の同型
\begin{gather} G\cong H\rtimes H' \end{gather}
が成り立つ. 特に$H$$\text{Sub}_{\text N}(G)$上で補元$H'$を持てば, 群の同型
\begin{gather} G\cong H\times H' \end{gather}
が成り立つ.

第二同型定理(ダイヤモンド定理)

$H\in\text{Sub}_{\text N}(G),\ K\in\text{Sub}(G)$としたときに, 群の同型
\begin{gather} (H\vee K)/H\cong K/(H\wedge K) \end{gather}
が成立する.

補足:下図を思い浮かべれば良い. (ハッセ図ではないが, 矢印は$\text{Sub}(G)$上の順序を表すことに注意)
\begin{xy} \xymatrix{ &G&\\ &H\vee K\ (=HK)\ar[u]&\\ H\ar[ru]&&K\ar[lu]\\ &H\wedge K\ (=H\cap K)\ar[lu]\ar[ru]&\\ &\{1_G\}\ar[u]& } \end{xy}

第四同型定理(部分群の対応)

$H\in\text{Sub}_{\text N}(G)$としたときに, 束の同型
\begin{gather} \text{Sub}(G/H)\cong[H,G]_{\text{Sub}(G)},\\ \text{Sub}_{\text{N}}(G/H)\cong[H,G]_{\text{Sub}_{\text{N}}(G)} \end{gather}
が成り立つ.

第四同型定理のこの同型は, 共役作用と可換である.
群論というよりガロア理論の話題であるが, 以下の定理の書き換えも可能である.

ガロアの基本定理

$L/K$が有限次ガロア拡大のとき, 以下の4つが成り立つ.

  1. 束の同型
    \begin{gather} f:\text{Subgrp}(\text{Gal}(L/K))\to ([K,L]_{\text{Subfield}(L)})^{\text{op}} \end{gather}
    が成り立つ.
  2. $\text{Gal}(L/K)\curvearrowright \text{Subgrp}(\text{Gal}(L/K))$$\text{Gal}(L/K)\curvearrowright [K,L]_{\text{Subfield}(L)}$を, 前者は共役として, 後者は$K$準同型として作用を考える. このとき作用と$f$が可換になる.
  3. $f$を制限することで, 束の同型
    \begin{gather} f_{\text{N}}: \text{Subgrp}_{\text{N}}(\text{Gal}(L/K))\to (\text{Gext}(L/K))^{\text{op}} \end{gather}
    が得られる. ここで$\text{Gext}(L/K)\subseteq [K,L]_{\text{Subfield}(L)}$は, $L/K$の中間体であって, $K$のガロア拡大となるもの全体としている.
  4. $\text{Gal}(f_{\text{N}}(H)/K)\cong \text{Gal}(L/K)/H$.

ここで$(-)^{\text{op}}$は順序関係を逆転させる, つまり双対順序を考えるという意味である.
ガロアの基本定理は, ガロア群$\text{Gal}(L/K)$の2つの表現$\text{Subgrp}(\text{Gal}(L/K)),[K,L]_{\text{Subfield}(L)}$反同型であることと, 任意の作用によって不動な点が正規部分群(ガロア拡大)に対応することを主張している.

8. おまけ 4元集合の冪集合($\cong$16元Boole束)のハッセ図

$A=\{a,b,c,d\}$のときの$(2^A,\subseteq)$のハッセ図を以下に示す. これは4次元超立方体となっている. この図を見ると, ある点の補元は, ちょうど対蹠点に位置することがわかる(これらのことは例1でも同様に考えることができる).
\begin{xy} \xymatrix{ \{a,b,c\}\ar[rdd]&&&&&&&\{a,c\}\ar[lllllll]\ar[llldd]|{\text{ }}&&\\ &&\{b,c\}\ar[llu]\ar[rdd]&&&&&&&\{c\}\ar[llldd]\ar[llu]\ar[lllllll]\\ &\{a,b,c,d\}&&&\{a,c,d\}\ar[lll]|(.501){\text{ }}|(.66){\text{ }}&&&&&\\ &&&\{b,c,d\}\ar[llu]|(.483){\text{ }}&&&\{c,d\}\ar[llu]\ar[lll]&&&\\ &&&&&&&&&\\ &\{a,b,d\}\ar[uuu]&&&\{a,d\}\ar[uuu]|(.624){\text{ }}\ar[lll]|(.66){\text{ }}|(.342){\text{ }}&&&&&\\ &&&\{b,d\}\ar[llu]|(.483){\text{ }}\ar[uuu]&&&\{d\}\ar[llu]\ar[uuu]\ar[lll]&&&\\ \{a,b\}\ar[uuuuuuu]\ar[ruu]&&&&&&&\{a\}\ar[uuuuuuu]|(.673){\text{ }}|(.85){\text{ }}\ar[lllllll]|(.597){\text{ }}|(.6712){\text{ }}\ar[llluu]|{\text{ }}&&\\ &&\{b\}\ar[uuuuuuu]\ar[llu]\ar[ruu]&&&&&&&\emptyset\ar[lllllll]\ar[llu]\ar[uuuuuuu]\ar[llluu] } \end{xy}

投稿日:916
更新日:17日前
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