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CW複体のホモロジー群の計算例 (球面, トーラス, 実射影平面, クラインの壺)

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本稿では, かんたんな空間のCW複体のホモロジーを計算します.

CW複体のホモロジーは, 特異ホモロジーなどに比べるとたいていの場合計算しやすいので, さまざまな場面で役に立つと思います.

まず, n1に対して,

  • Dnn次元閉球体. i.e. Dn:={xRn:x1}
  • Sn1Dnの境界. i.e. Sn1:={xRn:x=1}
  • BnDnの内部. i.e. Bn:={xRn:x<1}

と表します. n=1のときは, D1は閉区間[1,1], S0は2点{1,1}です. n=0に対しては,

  • D0, B0は1点.
  • S1=

と定義します. B0が1点であることに注意して下さい.

CW複体

単体複体や特異複体のホモロジーでは, 図形を三角形, 四面体, etcに分割しましたが, CW複体では各次元の球体に分割します. そのために, n1に対して, nスケルトンと呼ばれる位相空間Xnを以下のように定義します.

まず, X1=とします. Xn1が得られたとして, Xnを次のように構成します.

Bnと同相な位相空間einの族(ein)iIと, 各iに対してeinの境界einSn1からXn1への連続写像fin:einXn1を与えます. 組(ein,fin)nセルと呼びます. 混乱のおそれが無ければ, 単にeinnセルと呼びます.

einの境界をfinに沿って貼り合わせることで, Xnを構成します. すなわち, Xn:=Xn1ieinであり, yeinfin(y)Xn1を同一視します.

X:=nXnとします. Xの部分集合Uが開集合であるのは, すべてのn1に対してUXnが開集合であるときと定義します. Xにこの位相を入れたものを, CW複体といいます.

nセルeinに対して, Din=eineinと書きます. nセルeinに対して, 特性写像Φin:DinXが, 合成Din=einein(id,fin)einXi1XnXで定まります.

以上を具体的にいえば, 以下のようになります.

X0は点の離散空間.

X1は, X0にふくまれる点を開区間と同相な空間Di1でつないだ空間.

X2は, 閉円板D2と同相な曲面Di2の和で, 各2セルei2の境界ei2X1に含まれる0セルおよび1セルの有限和になっているもの.

...

Xnは, Dnと同相な空間Dinの和で, 各nセルeinの境界einXn1に含まれる0,1,,n1セルの有限和になっているもの.

逆に, 位相空間Xが与えられたとき, Xを上記のようなセルeinX (n0, iI)の和

X=Xn=Xn1(ineinn)=Xn2(in1ein1n1)(ineinn)=(i0ei00)(i1ei11)(ineinn)

に分割できれば, XをCW複体とみなすことができます. ただし, XをCW複体に分割する方法は, もしあったとしても, 一通りとは限りません.

n次元球面Sn

pSnとする. SnpBnと同相なので, e0=p, en=Snpとして, Sn

X0=X1==Xn1=e0,Xn=e0en

とCW複体に分割できる.

実射影空間RPn

RP1R. n2に対して, RPnRnRPn1. したがって, e0=, e1=R, e2=R2,,en=Rnとして, RPn

X0=e0,X1=e0e1,,Xn=e0e1en

とCW複体に分割できる.

2次元トーラスT2

2次元トーラスT2は, 長方形ABCDの辺ABと辺DC, 辺BCと辺ADを, それぞれこの向きに同一視した位相空間である. したがって,

e0=A=B=C=D,e11=AB=DC, ee1=BC=AD,e2=ABCD

として, CW複体に分割できる.

チェイン複体とホモロジー

CW複体X=nXnが与えられたとき, Xのチェイン複体

n+1Cn(X)n2C1(X)1C0(X)00

を以下のように定義します.

まず, Cn(X)Xnセル(ein)iIで生成される自由アーベル群とします.

nセル(ein,fin), n1セル(ejn1,fjn)に対して, 連続写像di,jn:Sn1Sn1を以下の写像の合成で定義します.

  • Φin|Din1:Sn1ein
  • fin:einXn1
  • q:Xn1Xn1/(Xn1ejn1)
  • Xn1/(Xn1ejn1)Sn1

最初の写像は, nセルの境界einSn1との自然な同型です. 2つめの写像は, nセルの境界からn1スケルトンXn1への写像です. 3つめの写像は, Xn1ejn1以外のセルの点をすべて1点に同一視する同値関係を入れたときの商写像です. 最後の写像は, Djn1=ejn1ejn1においてejn1を1点に縮めてできる同型です.

nセルeinに対して, 境界準同型n

n(ein)=jdeg(di,jn) ejn1

で定義します. ここで, degdi,jn:Sn1Sn1の写像度です. これは, 各セルeinに向きをつけることで, 「境界einを一周するあいだにejn1を何回通ったか(逆走する場合は1回と考える)」で計算することができます.

任意のn1に対して, n1nをみたすことが示せます. nC(Xn,Xn1)全体に線型に拡張することで, チェイン複体C(X)のホモロジー群が

Hi(C)=Ker i/Im i+1 (i=0,1,)

で定義されます. これは, 特異ホモロジー群Hi(X,Z)と同型になります.

ホモロジー群の計算例

n次元球面Sn

すでに述べたように, Snは以下のようにCW複体に分割できます.

pSnとし, e0=p, en=Snpとして,

X0=X1==Xn1=e0,Xn=e0en.

よって,

C0=Z e0Ci=0 (i=1,,n1)Cn=Z en.

境界準同型i (i=0,1,,n)はすべて自明なので,

Hi(Sn,Z)={Z (i=0,n)0 (i0,n).

2次元トーラスT2

T2は長方形ABCDの辺ABDC, 辺BCADをこの向きに同一視して得られます. したがって, T2

e0=A=B=C=De11=AB=DC, e21=BC=ADe2=ABCD

と分割できます. よって,

C0=Ze0C1=Ze11Ze21C2=Ze2.

境界準同型は, 0, 1は自明で, 2e2の境界は, AB=e11, BC=e21, CD=BA=e11, DA=CB=e21の和なので,

2(e2)=e1+e2e1e2=0.

よって,

H0(T2,Z)=Ker 0/Im 1=C0/0ZH1(T2,Z)=Ker 1/Im 2=C1/0ZZH2(T2,Z)=Ker 2=C2Z.

クラインの壺K

クラインの壺Kは, 長方形ABCDの辺ABとDC, 辺BCDAをこの向きに同一視して得られます. したがって,

e0=A=B=C=De11=AB=DC, e21=BC=DAe2=ABCD

と分割できます. よって,

C0=Ze0C1=Ze11Ze21C2=Ze2.

境界準同型は, 0, 1は自明で, e2の境界は, AB=e11, BC=e21, CD=BA=e11, DA=BC=e21の和なので,

2(e2)=e11+e21e11+e22=2e21.

よって,

H0(K,Z)=Ker 0/Im 1=C0/0ZH1(K,Z)=Ker 1/Im 2=C1/2Ze21Z(Z/2Z)H2(K,Z)=Ker 2=C1Z.

実射影平面RP2

実射影平面RP2は, 長方形ABCDの辺ABCD, 辺BCDAをこの向きに同一視して得られます. したがって,

e10=A=C, e20=B=De11=AB=CD, e21=BC=DAe2=ABCD

と分割できます. よって,

C0=Ze10Ze20C1=Ze11Ze21C2=Ze2.

境界準同型は, 0は自明. 1

1(e11)=e20e101(e21)=e10e20.

e2の境界は, AB=e11, BC=e21, CD=AB=e11, DA=BC=e21の和なので,

2(e2)=e11+e21+e11+e21=2(e11+e21).

よって,

H0(RP2,Z)=Ker 0/Im 1=C0/Z(e20e10)ZH1(RP2,Z)=Ker 1/Im 2=Z(e11+e21)/2Z(e11+e21)Z/2ZH2(RP2,Z)=Ker 2=0.

投稿日:10日前
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投稿者

名古屋の大学院生です。整数論を研究したいです。

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  7. 実射影平面$\mathbb{R}P^2$