全微分というのを1年生の微分積分学で習ったと思います.その定義は大雑把に言えば次のようなものでした.
$$df=\frac{\partial f}{\partial x_1}dx_1+\frac{\partial f}{\partial x_2}dx_2+\cdots+\frac{\partial f}{\partial x_n}dx_n$$
そしてこれは座標によらないのでした.つまり,
$$df=\frac{\partial f}{\partial y_1}dy_1+\frac{\partial f}{\partial y_2}dy_2+\cdots+\frac{\partial f}{\partial y_n}dy_n$$
という別の表示があった時,形式的に次のような関係があるのでした.
$$d x_i=\sum_{j=1}^n \frac{\partial x_i}{\partial y_j}dy_j\quad\cdots(1)$$
この関係は微分の連鎖律から求めることができます.
さて,多様体論を勉強すると,接ベクトル空間が次のような微分作用素を基底としたものとして定まりました.
$$\left\{\frac{\partial}{\partial x_1},\frac{\partial}{\partial x_2},\cdots,\frac{\partial}{\partial x_n}\right\}$$
別の座標系で
$$ \left\{\frac{\partial}{\partial y_1},\frac{\partial}{\partial y_2},\cdots,\frac{\partial}{\partial y_n}\right\}$$
と表示されているとき,これらの間には
$$\frac{\partial}{\partial x_i}=\sum_{j=1}^n\frac{\partial y_j}{\partial x_i}\frac{\partial}{\partial y_j}\quad\cdots(2)$$
という関係がありました.
さて,$dx_i$のような記号に数学的にきちんと意味づけをするためにはどうすればよいでしょうか?ヒントとしては$(1)$と$(2)$をよく見ることです.
答えですが,$dx_i$を$\dfrac{\partial}{\partial x_i}$の双対基底として見てあげることで$(2)$から$(1)$を導くことができます.以下で詳しく見ていきます.
双対基底なので
$$(dx_i)\left(\frac{\partial}{\partial x_j}\right)=\delta_{ij}$$
が成り立ちます.よって
$$\delta_{ij}=(dx_i)\left(\sum_{k=1}^n\frac{\partial y_k}{\partial x_j}\frac{\partial}{\partial y_k}\right)=\sum_{k=1}^n \frac{\partial y_k}{\partial x_j} (dx_i)\left(\frac{\partial}{\partial y_k}\right)$$
が成り立ち,ゆえに,
$$(dx_i)\left(\frac{\partial}{\partial y_k}\right)=\frac{\partial x_i}{\partial y_k} $$
である.
$$dx_i=\sum_{j=1}^na_{ij}dy_j$$
として代入すれば,
$$a_{ik}=\frac{\partial x_i}{\partial y_k}$$
である.よって示された.
上の一般化をしたいと思います.今度は重積分について考えます.
$2$重積分を考えるとき,異なる座標系で積分するとき,次の公式が成り立ちます.
$$\int_D f(x,y)dx dy=\int_Ef(x(u,v),y(u,v))\left|\frac{\partial(x,y)}{\partial (u,v)}\right|dudv$$
$dxdy,dudv$のところだけを抜き出すと,
$$dxdy=\left|\frac{\partial(x,y)}{\partial (u,v)}\right|dudv$$
ヤコビアンの絶対値は積分値がマイナスにならないように付けているものであったので一般的な状況を考えるためにここでは外して考える.すると,行列式の交代性により便宜的に次のように考えた方が良いことが分かる.つまり,$dxdy$を$dx\wedge dy$と書き,$dx\wedge dy=-dy\wedge dx$とし,$dudv$についても同様に考える.すると,
$$dx\wedge dy=\frac{\partial(x,y)}{\partial (u,v)}du\wedge dv=\frac{\partial(x,y)}{\partial (v,u)}dv\wedge du$$
が成り立つようになる.
このような記号を数学的に定式化していきましょう.これは先ほど手に入れた余接ベクトル空間の外積代数の元として実現できます.こうすると例えば基底として$\{dx_1,dx_2\}$と$\{dy_1,dy_2\}$を取ってきたとき,$2$次の外積余接ベクトル空間の元として$dx_1\wedge dx_2$と$dy_1\wedge dy_2$の関係は,
\begin{align*}
dx_1\wedge dx_2&=\left(\frac{\partial x_1}{\partial y_1}dy_1+\frac{\partial x_1}{\partial y_2}dy_2\right)\wedge\left(\frac{\partial x_2}{\partial y_1}dy_1+\frac{\partial x_2}{\partial y_2}dy_2\right)\\ &=\frac{\partial(x_1,x_2)}{\partial (y_1,y_2)}dy_1\wedge dy_2
\end{align*}
となり,欲しかった関係が得られる.
というのを書きたかったのですか,こいつ内容が深すぎて書くだけの知識がまだ僕に足りないというのが実情です.すみません.ストークスの定理やドラームコホモロジーなど内容が盛りだくさんで余力が足りないのです.
双対空間のありがたみが分かったような気がします.