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複二次式のガロア群の分類

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あぶすと

a,bを自然数としよう.例えば二重根号a+bQに添加した体Q(a+b)Q上のガロア閉包Mにおけるガロア群Gal(M/Q)を求める,みたいな問題はよくあって,解き方さえ知っていればだいたい流れで分かるよね.という話をまとめてみる.基本的な体論の用語,あるいはガロア理論は既知とします.

a+bQ上の最小多項式.

基本的に,a+bQ上の最小多項式Fα(x)を求めるときは,α=a+bとおいて両辺を二乗すれば
α2=a+bα2a=b
と変形して,もう一度二乗して式を整理すれば
α42aα2+a2b=0
となる.係数はすべて整数だから,特にF(x)=x42ax2+a2bQ[x]なる多項式はα=a+bを根に持つ.よってFα(x)f(x)を割り切って,もしF(x)Q上既約ならF(x)=Fα(x)となるのだから,F(x)の既約性の判定がすぐにできたら嬉しい.そして実はa,bの値だけから判定ができる.

複二次式の可約性

u,vZとし,f(x)=x4+ux2+vとおく.f(x)Q上可約であることと,次の2つの条件のいづれかを満たすことは同値になる.

  1. u24vが平方数になる.
  2. vが平方数で,かつ2vuもまた平方数になる.

f(x)Q上可約であるとする.このときf(x)は3次式と1次式の積,あるいは2次式同士の積でかける.前者なら特にf(x)は有理数根をもち,したがってそれは整数でなければならない.その根をkとおけば,kもまたf(x)の根になる.したがってc,dZを用いて
f(x)=(x2+cx+d)(x2k2)
と分解できる.これを典型して計算して係数比較すれば
c=0,dk2=u,k2d=v
となる.このとき
u24v=(dk2)24(k2d)=(d+k2)2
となる.d=u+k2だからdもまた整数ゆえ,u24vは平方数となる.

後者の場合を考える.c,d,e,fQとおいて,具体的に
f(x)=(x2+cx+d)(x2+ex+f)
と書けたとすると,計算して係数比較することで
c+e=0,d+ce+f=u,ed+cf=0,df=v
が成り立つ.1つ目と3つ目の式からc(df)=0が成り立つから,c=0またはd=fが成り立つ.

c=0のとき,2つ目,4つ目の式よりd+f=u,df=vが成り立つから,d,fは整数係数の二次方程式x2ux+v=0の根になる.これが有理数解を持つのだから,判別式u24vは平方数でなければならない.

d=fのとき,4つ目の式からd2=vvZだからdZであり,したがってvは平方数となる.また2つ目の式からu=2dc2となる.これを整理すればc2=2vuとなり,2vuZだからcZで,したがって2vuもまた平方数となる.

逆を示す.1.の場合は,自然数nを用いてu24v=n2とおけば
(x2+un2)(x2+u+n2)=x4+(un2+u+n2)x2+un2u+n2=x4+ux2+u2n24=f(x)
となる.2.の場合は,n,mを自然数として v=n2,2vu=m2とおけば
(x2+mx+n)(x2mx+n)=(x2+n)2(mx)2=x4+(2nm2)x2+n2=f(x)
なので,どの場合でもf(x)Q上可約となる.

証明自体は,愚直に既約性を確認するときと全く同様.だから難しくない.

この命題から,α=a+bを根に持つ複二次式F(x)=x42ax2+a2bQ上での可約性と条件

  1. (2a)24(a2b)=4bは平方数になる.
  2. a2bは平方数で,かつ2a2b(2a)=2a2b+2aが平方数になる.

のうちいづれかを満たすことは同値になることが分かる.1.はbが平方数となることと同値だから,

1'. bは平方数になる.
2. a2bは平方数で,かつ2a2b(2a)=2a2b+2aが平方数になる.

F(x)Q上での可約性の判定法となる.翻ってこの否定を取れば,F(x)Q上での既約性は

1'. bは平方数でない.
2. a2bは平方数でない.またはa2bは平方数だが2a2b+2aが平方数でない.
の両方を満たすことと同値になる.

命題1を使ってみる.例えばf(x)=x410x2+1の既約性は,(10)241=96で,これは平方数でなく,また21(10)=12もまた平方数でないことから従う.

f(x)=x4+4の可約性を見よう.1.は満たさないが,4は平方数でかつ24=4もまた平方数だから既約となる.より一般に,f(x)=x4+a (aZ)Q上可約であることとa=4n4 (nZ)と表されることは同値になる.

他にも例えばf(x)=x4+3x2+2は(普通に因数分解できるがそれはそれとして),2.は満たさないが1.を満たしているからQ上可約である.

Q(a+b)/Qの拡大次数.

まずQ(a+b)/Qの拡大次数[Q(a+b):Q]a+bQ上の最小多項式の次数に一致するから,前節を使って考えてあげればいい.2条件

1'. bは平方数でない.
2. a2bは平方数でない.またはa2bは平方数だが2a2b+2aが平方数でない.

を満たす場合はF(x)=x42ax2+a2bが欲しい最小多項式になるから,[Q(a+b):Q]=4となる.

次にF(x)Q上可約である場合を考える.このとき

1'. bは平方数になる.
2. a2bは平方数で,かつ2a2b+2aが平方数になる.

のいづれかが成り立つ.1'.が成り立つとして,b=n2 (nZ)とおくとa+b=a+nとなる.もしa+nが平方数でないならa+nQ上の最小多項式がx2(a+n)になるので,[Q(a+b):Q]=2である.そうでないなら[Q(a+b):Q]=1となる.

次に2.が成り立つとして,このもとでa2b=n2,2a2b+2a=m2 (n,mZ)とおいて,a,bについて解けば
{a=m22nb=m24(m24n)
となる.2(n+a)=m2ゆえm24の倍数だから,m24nが平方数であることとbが平方数となることは同値.この場合は1'.に帰着すればいいから,m24nは平方数でないとしてよい.一方で
f(x)=(x2+mx+n)(x2mx+n)
と因数分解できたから,a+bx2+mx+n,x2mx+nの少なくとも一方の根となる.ところでこの二つの二次式の判別式はm24nで,これは平方数でないとしているからこれらは有理数根を持たない.つまりx2+mx+n,x2mx+nQ上既約で,[Q(a+b):Q]=2となる.以上をまとめれば次を得る.

Q(a+b)/Qの拡大次数は次のように分類できる.

  1. F(x)=x42ax2+a2bQ上既約ならば,[Q(a+b):Q]=4
  2. bが平方数のもとでa+bが平方数でない,またはbが平方数でなくかつF(x)Q上可約ならば[Q(a+b):Q]=2
  3. ba+bが平方数ならば[Q(a+b):Q]=1

一般にQ上の1次,2次拡大は代数拡大は常にガロア拡大になるから,考えるべきは1.の場合に限る.

F(x)のガロア群.

すぐに分かるようにF(x)=x42ax2+a2bの根は
a+b, a+b, ab, ab
で尽くされる.α=a+b,β=abとおくと,F(x)Q上の最小分解体はQ(α,β)となり,これがQ(α)/Qのガロア閉包になる.

F(x)=x42ax2+a2bQ上既約であるとしよう.この場合,

  1. bが平方数でなく,かつa2bが平方数でない.
  2. bが平方数でなく,かつa2bは平方数だが2a2b+2aが平方数でない.

のどちらか一方が成り立つ.2.から調べることとして,仮定からαβQだからβQ(α)となる.つまりQ(α)=Q(α,β)となるからQ(α)/Qはガロア拡大で,ϕ,ψGal(Q(α)/Q)をそれぞれ
ϕ(α)=α, ψ(α)=β
とおけば,
ϕ2(α)=ϕ(α)=ϕ(α)=α,ψ2(α)=ψ(β)=a2bψ(α)1=α,ϕψϕψ(α)=ϕψϕ(a2bα1)=ϕψ(a2bϕ(α)1)=ϕψ(a2b(α)1)=ϕ(a2bψ(α)1)=ϕ(α)=α
なので,Gal(Q(α)/Q)は部分群としてϕ,ψ | ϕ2,ψ2,ϕψϕψC2×C2をもち,また|Gal(Q(α)/Q)|=4だからGal(Q(α)/Q)C2×C2となる.ただしC2は2次巡回群のことを表す.

ここまでをまとめておく.

a,bNα=a+bとおき,Q(α)/Qのガロア閉包をMとおく.このとき

  1. b,a+bがともに平方数なら,Gal(M/Q)={1}
  2. 次のいづれかの条件を満たすとき,Gal(M/Q)C2
     (1) bは平方数だが,a+bは平方数でない.
     (2) bは平方数でなく,a2bは平方数で,かつ2a2b+2aが平方数になる.
  3. bは平方数でなく,a2bは平方数で,かつ2a2b+2aが平方数でない場合,Gal(M/Q)C2×C2

残りはbが平方数でなく,かつa2bが平方数でない場合である.

a2b<0の場合.

まずa2b<0の場合から考えてみる.

βQ(α).

もしβQ(α)ならαβ=a2bQ(α)Rだが,a2b<0だからこれは矛盾.

したがって真の拡大Q(α)Q(α,β)=Mが得られる.よって[M:Q]=[M:Q(α)][Q(α):Q]=4[Q(α,β):Q(α)]>4だから[M:Q]8となる.またϕGal(M/Q)α,βの対応先を定めれば決まって,具体的にはα,α,β,βのいづれかで,特に全単射になるようなϕの候補は
ϕ:αα, ββ,αα, ββ,αα, ββ,αα, ββ,αβ, βα,αβ, βα,αβ, βα,αβ, βα,
の8通り.したがって[M:Q]=8となる.ところでGal(M/Q)4次対称群S4の部分群と同型になるわけだが,シローの定理からS4のシロー2部分群は4次二面体群D4にすべて共役だから(不安なら具体的に群の表示を計算しても良い),Gal(M/Q)D4となる.

a2b>0の場合.

a2b=bk2 (kZ)なる形なら,α2=a+bなので,bQ(α)となるので,この場合はβ=kbα1だからQ(α,β)=Q(α)となる.この場合はGal(M/Q)は位数4の群で,またϕGal(M/Q)ϕ(α)=βで与えると,
ab=β2=ϕ(α2)=a+ϕ(b)
ゆえϕ(b)=bとなって,
ϕ2(α)=ϕ(β)=ϕ(kbα1)=kϕ(b)ϕ(α)1=kb(kb)1α=α,ϕ4(α)=ϕ2(α)=α
ゆえ,ϕは位数4の元となって,Gal(M/Q)C4であると分かる.

そうでない場合はβQ(α)に含まれているかどうかはすぐに分からない(いまから示すが,(たぶん)含まれない).まず,α=a+b,β=abとおいて
1α=βαβ=βa2b
だから,βQ(α)a2bQ(α)は同値である.以降,b,a2bは平方数でなく,a2b>0で,a2b=bk2 (kZ)なる形で表せないとする.

Qベクトル空間Q(α)において,1,b,α,αbは線形独立.

s,t,u,vQに対してs+tb+uα+vαb=0が成り立つとする.このとき
s+tb+uα+vαb=sta+ta+tb+uαvaα+vaα+vαb=(sta)+tα2+(uva)α+vα3
となる.これが0に等しく,また1,α,α2,α3Qベクトル空間Q(α)の基底だからv=0,uva=0,t=0,sta=0となって,s,t,u,v=0を得る.

頑張って計算してみよう.a2bQ(α)を仮定する.このときある有理数s,t,u,vを用いて
a2b=s+tb+uα+vαb
と表せるから,これを2乗して計算してみると,
a2b=(s+tb+uα+vαb)2=s2+bt2+u2α2+bv2α2+2stb+2suα+2svαb+2tuαb+2btvα+2uvα2b=s2+bt2+u2(a+b)+bv2(a+b)+2stb+2suα+2svαb+2tuαb+2btvα+2uv(a+b)b=(s2+bt2+u2a+bv2a+2uvb)+(u2+bv2+2st+2uva)b+(2su+2btv)α+(2sv+2tu)αb
となるから,
a2b=s2+bt2+u2a+bv2a+2uvb,0=u2+bv2+2st+2uva,0=2su+2btv,0=2sv+2tu
が係数を比較することで得られる.u=0とすれば
a2b=s2+bt2+bv2a,0=bv2+2st,0=tv,0=sv
が成り立つ.もしv=0なら2つ目の式からst=0ゆえ,s,tのいづれかが0になる.s=0なら1つ目の式からa2b=bt2なる形になる.tは有理数だから互いに素なp,qZを用いてt=p/qと書けて,したがってa2b=b(p2/q2)となる.左辺は整数だからb=kq2 (kN)と表せて,結局a2b=kp2となるが,いまはこのような場合は考えていないのだからs0となる.t=0ならa2b=s2となって,左辺が整数だから右辺もそうで,a2bが平方数となるからこの場合も矛盾して,結局v0となる.

よってs=0,t=0が成り立たなければならないが,この場合は2つ目の式からb0ゆえv=0が成り立ってしまうので,u0となる.すると
t=vus
となるから
0=susbv2u=su(u2bv2)
を得る.このときu2bv2=0なら,素因子の個数を数えることでbが平方数となって矛盾.したがってs=0となるしかなく,したがってt=0となる.このとき
a2b=u2a+bv2a+2uvb,0=u2+bv2+2uva
となる.2つ目の式から
2uva2=u2a+bv2a
が成り立つから,これを1つ目の式に代入して
a2b=2uva2+2uvb2uv(a2b)
となる.仮定からa2b0でないから,uv=1/2となるのでv=1/2uとなる.このとき
0=u4au2+b4
となるので
u2=a±a2b2>0
が成り立つ.有理数の平方が無理数になることはないから,±a2b=2u2aQとなる.つまりa2bは平方数でなければならないが,これは矛盾.やったね!

a,bNα=a+bとおく.このときb,a2bは平方数でなく,a2b>0で,a2b=bk2 (kZ)なる形で表せないとすると,a2bQ(α)が成り立つ.

したがって特に、「b,a2bは平方数でなく,a2b>0で,a2b=bk2 (kZ)なる形で表せない」場合は,真の拡大Q(α)Q(α,β)を得て,あとはa2b<0の場合の議論と同じものを回せばよい.

まとめ

a,bNα=a+bとおき,Q(α)/Qのガロア閉包をMとおく.このとき

  1. b,a+bがともに平方数なら,Gal(M/Q)={1}
  2. 次のいづれかの条件を満たすとき,Gal(M/Q)C2
     (1) bは平方数だが,a+bは平方数でない.
     (2) bは平方数でなく,a2bは平方数で,かつ2a2b+2aが平方数になる.
  3. bは平方数でなく,a2bは平方数で,かつ2a2b+2aが平方数でない場合,Gal(M/Q)C2×C2
  4. ba2bは平方数でなく,a2b=bk2 (kZ)なる形で表せる場合,Gal(M/Q)C4.
  5. 上記のいづれでもない場合,Gal(M/Q)D4.

間違ってたらコメントください.

投稿日:20241224
更新日:20241224
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  1. あぶすと
  2. $\sqrt{a+\sqrt{b}}$$\Qbb$上の最小多項式.
  3. $\bisq/\Qbb$の拡大次数.
  4. $F(x)$のガロア群.
  5. $a^2-b<0$の場合.
  6. $a^2-b>0$の場合.
  7. まとめ