0
大学数学基礎解説
文献あり

「代数学の基本定理」の証明

57
0
$$$$

補題

代数学の基本定理の証明を行う.証明の方針は,野村隆昭先生の「複素関数論講義」(共立出版)を参考にした.

$K \subset \mathbb{C} $をコンパクト集合とし,$f$$K$上の連続関数とする.このとき,像$f(K)$もコンパクトである.

$f(K)$が有界閉集合であることを示せばよい.

$f(K)$が有界でないなら,点列$\lbrace z_n \rbrace\in K(n=1,2, \cdots )$で,$\left| f(z_n) \right|\rightarrow \infty$となるものが存在する.$K$は有界なので,Bolzano-Weierstrassの定理から,部分列$\lbrace z_n \rbrace$が存在して,ある$z_0\in \mathbb{C}$に収束する.$K$は閉集合ゆえ,$z_0\in K$である.関数$f$は連続ゆえ,$\left| f(z_{n_k}) \right| \rightarrow \left| f(z_0) \right| $となるが,これは$\lbrace z_n \rbrace$の取り方に反する.ゆえに,$f(K)$は有界集合である.

また,$w_0\in \mathrm{Cl}(f(K))$として,$f(z_n)\rightarrow w_0$となる点列$z_n \in K$をとる.$f$は連続ゆえ,ある$\alpha \in \mathbb{C}$ が存在して,$z_n \rightarrow \alpha,f(\alpha)=w_0$となる.$K$は閉集合ゆえ,$\alpha \in K$だから,$w_0=f(\alpha)\in f(K)$.したがって,$f(K)$は閉集合である.

$\mathrm{Cl}(f(K))$$f(K)$の閉包を表す.

補題1と同じ仮定で,$\left| f \right|$$K$で最大値も最小値もとる.

$\left| f \right|$の像$\left| f \right|(K)$$\mathbb{R}$に含まれる有界閉集合である.したがって,$a_0\coloneqq \inf \left| f \right| (K), b_0\coloneqq \sup \left| f \right| (K)$はともに有限値であり,しかも$\left| f \right| (K)$に属する.明らかに,$a_0$$\left| f \right|$の最小値,$b_0$$\left| f \right|$の最大値である.

$\mathbb{C}$上の多項式$P(z)$の絶対値$|P(z)|$は,$\mathbb{C}$において最小値をとる.

$P(z)$が定数のときは明らか.$n \geq 1$とし,$P(z)=a_nz^n+ \cdots +a_1z+a_0(a_n \neq 0)$とおく。$ z \neq 0$のとき,
\begin{align} |P(z)| & = \left| z^n \right| \left| a_n+\displaystyle\frac{a_{n-1}}{z}+ \cdots \displaystyle\frac{a_1}{z^{n-1}}+\displaystyle\frac{a_0}{z^n} \right| \\ & \geq \left| z \right| ^n \left( \left| a_n \right| - \frac{ \left| a_{n-1} \right| }{ \left| z \right| } -\cdots -\frac{ \left| a_{0} \right| }{ \left| z \right|^n }\right) \end{align}
であるから,$z \rightarrow \infty$として,$\left| P(z) \right|\rightarrow \infty$を得る.ゆえに,
\begin{gather} \exists L \gt 0 \mathrm{s.t.} \left| z \right| \gt L \Longrightarrow \left| P(z) \right| \gt \left| P(0) \right| . \end{gather}
集合$\lbrace z\in \mathbb{C} : \left| z \right| \leq 1 \rbrace$は有界閉集合,すなわちコンパクト集合なので,補題2より$\left| P(z) \right|$はこの集合上で最小値$m$をもち,$m \leq \left| P(0) \right| $であるから,この$m$$\mathbb{C}$全体における$\left| P(z)\right|$の最小値である.

代数学の基本定理

代数学の基本定理

$P(z)$$\mathbb{C}$係数の$n( \geq 1)$次多項式とする.$P(z)$は重複も込めて,ちょうど$n$個の根をもつ.

背理法

$P(z)$$\mathbb{C}$$0$にならないと仮定する.このとき,補題3により,$\left| P(z) \right|$はある$a \in \mathbb{C}$で正の最小値をもつ.

さて,$Q(z)\coloneqq \displaystyle\frac{P(z+a)}{P(a)} $とおくと,$\left| Q(z) \right|$$z=0$で最小値$1$をもつ.

ここで,$Q(z)=1+bz^k+$(高次の項)$(0 \neq b \in \mathbb{C})$とする.$-\displaystyle\frac{1}{b}$$k$乗根を1個選んで$\omega$とする.$Q(t\omega)$ $(t\in \mathbb{R})$を考えると,$Q(t\omega) =1-t^k+o(t^k)$ $(t\rightarrow 0)$となるので,
\begin{align} \lim_{t \to +0} \frac{1- \left| Q(t\omega) \right| }{t^k} & = \lim_{t \to +0} \frac{1- \left( 1-t^k+o(t^k) \right) \overline{\left ( 1-t^k+o(t^k) \right)} }{t^k \left( 1+ \left| Q(t\omega) \right| \right) } \\ & = \lim_{t \to +0} \frac{2t^k+o(t^k)}{t^k \left( 1+ \left| Q(t\omega) \right| \right)} \\ & = \lim_{t \to +0} \frac{2+o(1)}{1+ \left| Q(t\omega) \right| } \\ & = \frac{2}{1+1} \\ & = 1 . \end{align}
ゆえに$t$が十分小のとき,$1-\left| Q(t\omega) \right| \gt 0$,すなわち$\left| Q(t\omega) \right| \lt 1$である.これは,$\left| Q(z) \right|$の最小値が$1$であることに矛盾する.

したがって,任意の$n$次多項式$P(z)$(ただし$n \geq 1$)は$\mathbb{C}$に根をもち,$P(\alpha)=0$となる$\alpha \in \mathbb{C}$があることがわかる.因数定理より$P(z)=(z-\alpha)R(z)$と書けることがわかり,$(n-1)$次の多項式$R(z)$に再び今の議論を適用する.そしてこの議論を繰り返して次数を下げていくことにより,$P(z)$が,重複も込めて,ちょうど$n$個の根をもつことがわかる.

参考文献

[1]
野村隆昭, 複素関数論講義, 共立出版, 2021
投稿日:13日前
更新日:13日前
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

囃子
囃子
5
315
大学で主に数学や教育学を学んでいます。このブログでは、数学や数学教育にまつわる日々の学びや考えを発信していくつもりです。趣味は和太鼓/和楽器の演奏🥁

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中