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大学数学基礎解説
文献あり

なぜ集合と写像の圏では単射の双対は全射になってしまうのか

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はじめに

一般に、epic(epimorphism)と全射は一致しない。にも関わらず、全射のことをepicと呼び、epicのことを全射と訳す和書を私はいくつも持っている。
なぜepicと全射を同一視してしまうのか?恐らく、集合と写像の圏というポピュラーな圏でepicと全射が一致するからだと思われる。
そこで本稿では、どういう条件が重なるとepicと全射が一致しうるのかを初等圏論で検証していく。

3行まとめ

  • epicとは別に、extremal epimorphismあるいはcoverと呼ばれる特別な射があり、全射は主にこっちと一致する。
  • 集合と写像の圏では任意の単射(monic)が正則monicである。こういう圏では、任意のepicはcoverであることが示せる。
  • 正則monicではないmonicを有する圏では、epicだがcoverではない射が存在しうる。

本題

monicと単射、epic,coverと全射

monic、epicとは、特殊な性質の射を表す言葉である。

monic,epic

$m$monicとは、任意の射$x,x’$に対し、$m\circ x = m\circ x’$ならば$x = x’$が成り立つことをいう。
monicの定義 monicの定義
$e$epicとは、任意の射$x,x’$に対し、$x \circ e = x’ \circ e$ならば$x = x’$が成り立つことをいう。
epicの定義 epicの定義

ところで集合論では、単射と全射という特殊な種類の写像があった。比較のために定義を書き出しておく。

単射、全射

写像$m\colon X \to Y$単射とは、任意の$x,x' \in X$に対し、$x \neq x'$ならば$m(x) \neq m(x')$が成り立つことをいう。
写像$c\colon X \to Y$全射とは、任意の$y \in Y$に対し、ある$x \in X$が存在して、$y = c(x)$が成り立つことをいう。
全単射とは、全射かつ単射である写像のことをいう。

単射の定義は、monicの定義の対偶によく似ており、実際に集合と写像の圏のmonicである。一方で、全射の定義はepicの定義とは似ても似つかない。
写像$c\colon X \to Y$が全射であることは、$c$による$X$の像が$Y$と一致することと同値である。
$$ c(X) = \{ y \in Y \mid \text{ある } x \in X \text{ で } y = c(x)\} = Y $$
これを言い換えると、$c$$Y$の真部分集合を経由して分解することが不可能だということである。
そういう性質を抽象化した定義ならば圏論の射にもある。

extremal epimorphismあるいはcover

$c$extremal epimorphismあるいはcoverであるとは、
$c = m \circ c'$という任意の分解に於いて、$m$がmonicならば$m$は同型射であることをいう。
coverの定義 coverの定義

圏論では、部分対象はmonicで表される。射$c$がcoverであるということは、$c$は終域の真部分対象を経由して分解できないことを意味する。epicの定義よりもcoverの方が、全射の特徴づけと似ていることが分かる。
実際に、集合と写像の圏では、全射であることとcoverであることが同値になることを示そう。

$f\colon A \to B,g \colon B \to C$を写像とする。$g\circ f$が全射ならば、$g$は全射である。

$g \circ f$が全射であるとき、任意の$c \in C$に対しある$a \in A$が存在して、$c = g(f(a))$が成立。
よって、任意の$c \in C$に対し、ある$b \in B$が存在して、$c = g(b)$が成り立つ。これは$g$が全射であることを示している。

写像$c\colon X \to Y$が全射であることは、$c$が集合と写像の圏に於いてcoverであることと同値。

まず、coverならば全射であることを示す。$c\colon X \to Y$がcoverであるとき、$c = X \overset{c'}{\to} c(X) \overset{i}{\hookrightarrow} Y$と分解したときに、
coverの定義より$c(X) \overset{i}{\hookrightarrow} Y$は同型射でなければならず、これは$c(X) = Y$$i = 1_Y$であることを意味する。
次に全射ならばcoverであることを示す。$c\colon X \to Y$が全射であるとき、$c = m \circ c'$と任意に分解して、$m$がmonic(則ち単射)だと仮定する。
このとき$m\circ c'$が全射ならば$m$も全射であるから、$m$は全射かつ単射、則ち全単射ということになる。したがって$m$は同型射であるから、$c$はcoverの定義を満たす。
(集合と写像の圏では全単射が同型射という事実は既知とさせてもらう。)

単射かつ全射であることは全単射の定義であるが、これと類似した特徴が同型射にもある。

$f\colon A \to B$がmonicかつcoverであることと、$f$が同型射であることとは同値。

$(\Longrightarrow)$
$f = f \circ 1_A$という分解を考えると、$f$はmonicであるから、coverの定義より同型射でなければならない。
$(\Longleftarrow)$
まず$f$がcoverであることを示す。$f$の任意の分解
$$ f = A \overset{f'}{\to} B' \overset{m}{\to} B $$
を与えて、$m$はmonicだと仮定する。
$f$は同型射なので、$f$の逆射を後ろから合成して
$$ 1_B = m \circ f' \circ f^{-1} $$
が成立する。また、
$$ m\circ f' \circ f^{-1} \circ m = f \circ f^{-1} \circ m = m = m \circ 1_{B'} $$
であるから、$m$がmonicであることより
$$ f' \circ f^{-1}\circ m = 1_{B'} $$
が従う。よって$m$$f'\circ f^{-1}$の逆射であるから、$m$は同型射である。
したがって$f$はcoverの定義を満たす。

!FORMULA[75][-1842024830][0] $f’\circ f^{-1} \circ m = 1_{B’}$
次に、$f$がmonicであることを示す。任意の射$x,y$を取り、$f \circ x = f \circ y$が成り立つとする。
$f$の逆射$f^{-1}$を後ろから合成すれば、$x = y$が従う。よって$f$はmonicである。
以上より、$f$はmonicかつcoverである。

イコライザと正則monic

イコライザ

$f,g \colon A \to B$イコライザとは、対象と射の組$(E,e)$で、
任意の$x \colon X \to A$に対し、$f \circ x = g \circ x$ならば
ある一意的な射$\overline{x}\colon X \to E$が存在して$x = e \circ \overline{x}$が成り立つことをいう。
イコライザの定義 イコライザの定義
$e$はイコライザの射影と呼ばれる。

イコライザの射影は常にmonicである。

$(E,e)$$x,y $のイコライザとする。このとき$f,g \colon X \to E$を任意に取り、$e \circ f = e \circ g$が成り立つと仮定すると、
$x \circ e \circ f = y \circ e \circ f,x \circ e \circ g = y \circ e \circ g$が成り立つので、イコライザの普遍性より$f = g$。これにより$e$はmonicの定義を満たす。
イコライザの射影はmonic イコライザの射影はmonic

正則monic

$m \colon M \to A$正則monicとは、$(M,m)$がある$f,g \colon A \to B$のイコライザであることをいう。
正則monicの定義 正則monicの定義

さて、集合と写像の圏では、任意のmonic(単射)が正則monicであることを示そう。鍵となるのは、特性関数と呼ばれる写像の存在である。

特性関数

任意の集合$X$を取り、$X$の任意の部分集合$M \subseteq X$を取る。このとき$M$と一対一に対応する写像$\chi_M \colon X \to \{0,1\}$が次のように定義される。
$$ \chi_M \colon X \to \{0,1\},x \mapsto \begin{cases} 1 & x \in M\\ 0 & x \not \in M \end{cases} $$
この$\chi_M$を、$M$の特性関数と呼ぶ。

合成写像$g\circ f$が単射ならば$f$は単射。

単射の定義より、任意の$x,x'$に対し、$x \neq x'$ならば$(g \circ f)(x) \neq (g \circ f)(x')$
写像のwell-defined性の対偶より、$g(f(x)) \neq g(f(x'))$ならば$f(x) \neq f(x')$
よって、任意の$x,x'$に対し、$x \neq x'$ならば$f(x) \neq f(x')$

任意の単射$m \colon M \to A$に対し、$m = M\overset{m'}{\to}m(M) \overset{i}{\hookrightarrow} A$と分解すると、$m'$は全単射。

仮定より$i \circ m'$は単射なので、$m'$は単射。また値域の定義より、任意の$a \in m(M)$に対し、ある$x \in M$$i(a) = i(m'(x))$を満たすものが存在する。
包含写像は単射なので、$a = m'(x)$が従い、よって$m'$は全射である。以上より、$m'$は単射かつ全射である。

$m \colon M \to A$を任意の単射とする。このとき、$(M,m)$$m(M)$の特性関数$\chi_{m(M)}$と定数関数$c_1 \colon A \to \{0,1\},\forall a \mapsto 1$のイコライザである。

$M = \emptyset$の場合、$(M,m)$は空集合と空写像$\emptyset \to A$の組である。$\chi_{\emptyset}(a) = 0(\forall a \in A)$であるから、
$\chi_\emptyset \circ f = c_1 \circ f$を満たす$f$は空写像$\emptyset \to A$しかあり得ない。
このとき$\overline{f}\colon \emptyset \to M$として空写像上の恒等写像が一意的に存在し、
$f= m\circ \overline{f}$が成り立つので、$(M,m)$はイコライザの定義を満たす。
$M \neq \emptyset$の場合を考える。
写像$f\colon X \to A$を任意に取り、$f$$\chi_{m(M)} \circ f = c_1 \circ f$を満たすと仮定する。
このとき$\chi_{m(M)}(f(X)) = c_1(f(X)) = \{1\}$が成り立つから、順像と逆像の関係より$f(X) \subseteq \chi_{m(M)}^{-1}\{1\}$、よって$f(X) \subseteq m(M)$である。
図8のように$f = i \circ j \circ f'$と分解する。いま$m' \colon M \to m(M)$は全単射であるから、写像$m'^{-1}\circ j \circ f' \colon X \to M$が存在して、$m\circ m'^{-1}\circ j \circ f' = f$を満たす。
一意性は$m$がmonicであることから従い、したがって$(m,M)$は確かに$\chi_{m(M)}$$c_1$のイコライザである。
任意の単射は特性関数と定数関数のイコライザ 任意の単射は特性関数と定数関数のイコライザ

epicとcoverが一致する十分条件

まず、coverがepicになるための十分条件を確認しよう。

$f,g\colon A \to B$のイコライザを$(E,e)$とするとき、$f = g$であることと$e$が同型射であることは同値。

$(\Longrightarrow)$ $f = g$より、$f \circ 1_A = g \circ 1_A$であるから、イコライザの普遍性より一意的な射$\eta \colon A \to E$が存在して$e\circ \eta = 1_A$が成立。
よって$e\circ \eta \circ e = e = e \circ 1_E$が成り立つが、イコライザの普遍性より$\eta \circ e = 1_E$でなければならない。
よって$\eta = e^{-1}$で、$e$は同型射である。
相等しい射のイコライザの射影は同型射 相等しい射のイコライザの射影は同型射
$(\Longleftarrow)$ $e$が同型射であるとき、$f\circ e = g \circ e$より$f = g$

イコライザを持つ圏では、任意のcoverはepicである。

$c\colon A \to B$を任意のcoverとする。射$x,y \colon B \to C$を任意に取り、
$x \circ c = y \circ c$と仮定する。イコライザを持つ圏ならば$x,y$のイコライザが存在するので、
それを$(E,e)$とすると、普遍性より$c = e \circ c'$を満たす$c'\colon A \to E$が一意に存在する。
$e$はイコライザの射影であるからmonicなので、coverの定義より$e$は同型射でなければならない。
これは$x=y$と同値であるから、$x \circ c = y \circ c$ならば$x = y$。よって$c$はepic。
イコライザがあれば任意のcoverはepic イコライザがあれば任意のcoverはepic

集合と写像の圏$\mathbf{Set}$はイコライザを持つので、したがって全射はepicである。
問題は逆向きである。$\mathbf{Set}$では、任意のmonicが正則monicであることを示した。
この特徴を持つ圏では、任意のepicはcoverであることが示せる。

$\mathcal{A}$では任意のmonicが正則monicであると仮定する。このとき$\mathcal{A}$の任意のepicはcoverである。

$e \colon X \to Y$を任意のepicとする。$e = m \circ e'$と任意に分解し、$m$はmonicだとする。
このとき、仮定から$m$は正則monicであり、ある$f,g\colon Y \to Z$に対し$f\circ m = g \circ m$が成り立つ。
すると$f \circ m \circ e' = g \circ m \circ e'$であるから、$f \circ e = g \circ e$が成り立つ。$e$はepicなので$f = g$が従うが、これは$m$が同型射であることを示している。
よって$e$はcoverである。
任意のmonicが正則ならばepicはcover 任意のmonicが正則ならばepicはcover

$\mathbf{Set}$では、任意のepicはcoverであり、かつ任意のcoverはepicである。則ち、epicと全射は正確に一致する。

$\mathbf{Set}$の場合を一般化したのが次の系である。興味のある人は証明に取り組んでみると良い。

有限完備かつ部分対象分類子を持つ圏では、epicとcoverは一致する。

群と群準同型の圏$\mathbf{Grp}$では、融合積の存在によって任意の単射準同型が正則monicであることが示せる。
よって次の系が成り立つ。

$\mathbf{Grp}$では、任意のepicは全射準同型である。

epicがcoverとは限らない例

任意のmonicがいつも正則monicとは限らない。

可換環と、単位元を保存する環準同型の圏$\mathbf{CRing}$

$$ m \colon \mathbb{Z} \hookrightarrow \mathbb{Q} $$
$m$は単射準同型であり、monicである。しかし正則monicではない。$\mathbb{Q}$から任意の可換環$A$に対し、環準同型$\mathbb{Q} \to A$が存在するならば一意であり、
命題8より$(\mathbb{Z},m)$が何らかの射のイコライザならば$m$は同型射でなければならない。同型射とは全単射環準同型のことであるから、$m$は同型射ではない。よって$m$は正則monicではない。
$m$はepicである。$\mathbb{Q}$から任意の可換環$A$への環準同型は存在すれば一意だから、$m$はtrivialにepicの定義を満たす。
$m$はcoverではない。monicかつcoverであることは同型射であることと同値である。今$m$はmonicだが同型射ではない。
以上より、環準同型$m \colon \mathbb{Z} \hookrightarrow \mathbb{Q}$はepicだがcoverではない。実際、全射準同型でもない。

$\mathbf{Set}$では、coverは全射と一致した。代数の圏の多くでも、coverは全射準同型と一致する。しかし次の例が示すように、必ずしもcoverと全射が素朴に一致するとは限らず、全射にさらに条件が追加される場合もある。

位相空間と連続写像の圏$\mathbf{Top}$

$\mathbf{Top}$では、正則monicではないmonicが存在する。例えば$1_{\mathbb{N}} \colon (\mathbb{N},\mathcal{P}(\mathbb{N})) \to (\mathbb{N},\{ \emptyset,\mathbb{N} \})$は単射連続写像であるが、
これが何らかのイコライザの射影であるためには$\mathbb{N}$$1_{\mathbb{N}}$の始位相が入っていないといけない。離散位相は明らかにそれより強い。
$\mathbf{Top}$に於けるcoverとはどんな連続写像だろうか?$\mathbf{Top}$には商位相空間が存在するため、任意の連続写像は商位相空間を経由して一意に分解される。
商位相空間の普遍性 商位相空間の普遍性
ここで、$\overline{f}$は常に単射であることが容易に示せる。よって、$f$がcoverのとき、$\overline{f}$は同型射でなければならない。
このことは、coverの終域には終位相が入っていることを要請する。則ち、$\mathbf{Top}$に於けるcoverとは、全射連続写像のうち終域に終位相が入っているもののことをいう。
それでは、$\mathbf{Top}$に於けるepicとはどんな連続写像かというと、これは単なる全射連続写像のことである。

epic、coverと全射の対応は、一筋縄ではいかない。

参考文献

[1]
Peter J. Freyd, Andre Scedrov, Categories,Allegories, North-Holland Mathematical Library, North-Holland, 1990
投稿日:2日前
更新日:14時間前
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