【修正履歴】
エネルギー運動量テンソル(Energy-Momentum Tensor, EMT)は「時間あるいは空間一定面を横切るエネルギーおよび運動量の流束を表す物理量」です(天文学辞典 https://astro-dic.jp/energy-momentum-tensor/ より)。これはまたニュートン力学における応力テンソルの相対論的拡張とも言えます。
本記事では、場の理論における3つの違うEMTの定義
に関して述べます。そして具体的にU(1)ゲージ理論
に対してEMTを構成することで、それぞれのEMTの欠点・利点に言及します。
エネルギーと運動量はそれぞれ時間並進および空間並進に対するネーターカレントです。正準エネルギー運動量テンソルは、座標の並進変換により定義される以下のEMTです。
座標の微小な並進変換
よって
となる。この
ここで
よって
これが任意の
U(1)ゲージ理論に対し
これをみると以下のような特徴があることがわかります:
canonical EMTはネーターカレントという「正統な」EMTではあるのですが、これらのあまり嬉しくない特徴を持ちます。さらに系によっては計算が次の章で紹介するEMTと比較して大変というおまけもつきます。これはその定義に場の微分が含まれることによります。もっともU(1)ゲージ理論の場合はcanonical EMTでも計算は簡単です。内部自由度が存在したり、非線形表現の場を含む理論のように場の運動項が単純ではない場合、計算が面倒になります。
Einstein-Hilbert作用に物質場を取り入れ、計量テンソルによる変分に関し停留条件を課し、これとEinstein 方程式を比較することでEMTを定義することができます。それが以下のEMTです。
ここで
以下
Einstein-Hilbert作用に物質場を取り入れたものは以下。
これを変分すると次のようになる:
クリストッフェル記号の変分
これが任意の
であり、Einstein eq.と比較することで右辺が
この定義から導かれるU(1)ゲージ理論のEMTは、
となります。ここで
この定義は大変よい性質を持ちます:
canonical EMTを改良します。EMTには全微分の不定性が存在することから、
を得ます。これは
上で付加した項は天下り的に導入しましたが、このような改良を系統的に行う方法が存在し、Belinfante improvementなどと呼びます。またこの方法で得られるEMTはBelinfante-Rosenfeld stress-energy tensorと呼ばれます。
Belinfante-Rosenfeld stress-energy tensor
ここで
ここで
具体的に、
spinorの場合は以下:
ここで
以下Belinfante-Rosenfeld stress-energy tensorが対称になることを示します。
以下Ref.[3]に基づく。
次が成立すると仮定する:
ここで
で定義する。すると
が成立する。これらより
となることがわかる。よってこのとき
さて、Lorentz変換に対する座標および場の変換性は無限小変換に対し以下である:
よって
となる。この変換に対するネーターカレントは以下:
これは
よって、並進変換に関して不変な理論がLorentz 不変でもあれば、canonical EMTの反対称部分は
として、
のように定めれば確かに
Belinfanteテンソルの構成は、Lorentz変換のネーターカレントである「4元角運動量」にcanonical EMTが出現し、その反対称部分が具体的に全微分で書けるという事実に基づきます。
U(1)ゲージ理論、すなわち
これらより
Canonical EMTは
であるから、
これは確かに
おしまい。