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苦しんで学ぶ自然数の構成からの可換環論(一意分解環)

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本投稿は
ペアノ理論に関しては瀬山 士郎氏著作の「数をつくる旅5日間」を、
環論に関しては雪江明彦氏著作の代数学2 環と体とガロア理論を参考にしています。

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本稿では集合というものは以下を満たしているものとする。(Wikipedia参考)

①外延性公理(A と B が全く同じ要素を持つのなら A と B は等しい)

∀A∀B(∀x(x∈A⇔x∈B)→A=B)

②置換公理("関数クラス"による集合の像は集合である)

ψを命題変数と論理演算子で表される論理式とする。
∀x∀y∀z((ψ(x,y)∧ψ(x,z))→y=z)→∀X∃A∀y(y∈A⇔∃x∈Xψ(x,y))
(※)
この集合Aを以降{y∈A|∃x∈X, ψ(x,y)}のような形で表す。

③正則公理(空でない集合は必ず自分自身と交わらない要素を持つ)

∀A(A≠∅→∃x∈A,∀t∈A(t∉x))

④対の公理(任意の要素 x, y に対して、xとyのみを要素とする集合が存在する)

∀x∀y∃A∀t(t∈A⇔(t=x∨t=y))

⑤空集合の公理(いかなる元も属さない集合φが存在する)

∃A∀x(x∉A)

⑥和集合の公理(集合の元に対する和の概念(和集合)が存在する)

∀X∃A∀t(t∈A⇔∃x∈X(t∈x))

⑦無限公理(空集合φを元とし、任意の元xに対してx∪{x}を要素に持つ集合が存在する)

∃A(∅∈A∧∀x∈A(x∪{x}∈A))

⑧べき集合公理(与えられた集合から、その部分集合の全体として新たに作り出される集合のこと):

∀A∃𝓟∀B[B∈𝓟⟺∀C(C∈B⇒C∈A)]
(※𝓟はAの冪集合と呼ばれ𝓟(A)で表す。)

唯一つであることと固有名詞

数学では文字を使って置き換えることが多いが、
「書き記す行為の延長で文字に置き換える事」は必ずしも正しく置き換えられているとは限らない。
例えば一般的な「山」という文字・概念に対して、「今度山に行きたいね」と言われても「どこ?」となる。
これが「富士山に行きたい」であればお互い理解しあえる。
すなわち、文字には複数の領域を持つもの(変項)と唯一つの固有名詞(定項)が存在する。
円周率ももし、円の大きさなどによって「直径/円周」が不定のものである世界だとΠと置いたところで
個々人の認知により計算結果が変わってしまう。
このように文字を置いて名付ける行為を行うのであれば、誰もがその文字を使って正しく計算できる必要が出てくる。
そのため、数学では特に「唯一つであること」を示すことは重要な立ち位置である。

和集合の公理について

外延性の公理から、Xに対して和集合の公理が存在を主張する集合はただ一つであることが言える。
これを X の和集合と呼び、⋃Xで表す。⋃{x,y}をx∪yで表す。

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外延性の公理から、xとyに対して対の公理が存在を主張する集合はただ一つであることが言える。
これを{x,y}で表す。また、{x,x}を{x}で表す。
いま{x},{x,y}⊂X∪Yなので、{x},{x,y}はともにべき集合𝓟(X∪Y)の元である。
従って{{x},{x,y}}となる集合の存在が言える。

順序対

集合X,Yからそれぞれ1つずつ同時に取り出した元x,yによる{{x},{x,y}}をx,yの順序対と呼び、(x,y)のように表す。

(x,y)={{x},{x,y}}、(y,x)={{y},{y,x}}なので(x,y)≠(y,x)である。

直積集合

集合X,Yの順序対(x,y)全体の集合を直積集合と呼び、X×Yと表す。

写像

集合X,Yにおける対(ペア)について、
あるx∈Xに対してy∈Yが唯一つに定まる対(x,y)の集合fを写像と呼び、
f:X⇒Y, x⇒yのように表す。
(※(x,y)∈f⊂X×Yである)

定義域

集合X,Yにおける写像f:X⇒Y, x⇒yに対して、xを写像fの定義域と呼ぶ。

値域

集合X,Yにおける写像f:X⇒Y, x⇒yに対して、yを写像fの値域と呼び、f(x)のように表す。

演算

任意の集合X,Yに対して、写像f:X×X⇒Yを演算と呼ぶ。

閉じた演算

任意の集合Xにおいて、演算f:X×X⇒Xは閉じた演算であるという。

代数系

任意の集合Xに対して演算∘が定義され、かつ演算∘に関して閉じている時、この集合(X;∘)を代数系と呼ぶ。

単位元

代数系(X;∘)における任意の元a∈Xで、a∘e=e∘a=aを満たすようなe∈Xが存在する時、この元eを演算∘における単位元と呼ぶ。

逆元

代数系(X;∘)における任意の元a∈Xとその単位元e∈Xに対して、a∘x=x∘a=eを満たすようなx∈Xが存在する時、
この元xを逆元と呼び、x=a⁻¹と表す。

交換法則

代数系(X;∘)における任意の元a,b∈Xで、a∘b=b∘aが成り立つ時、演算∘は交換法則を満たしていると呼ぶ。

結合法則

代数系(X;∘)における任意の元a,b,c∈Xで、a∘(b∘c)=(a∘b)∘cが成り立つ時、演算∘は結合法則を満たしていると呼ぶ。
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以下を満たす集合をSとする

・いかなる元も属さない集合φが存在する。(空集合の公理)
・集合の元に対する和の概念(和集合)が存在する。(和集合の公理)
・空集合φを元とし、任意の元xに対してx∪{x}を要素に持つ集合が存在する。(無限公理)

φ∈Sに対して、Sの定義(無限公理)からφ∪{φ}∈Sである。
この時、φ∪{φ}=φを仮定するとφ∈{φ}∪φなのでφ∈φとなるがこれは空集合の定義に矛盾する。
故に、φ≠xとなるx∈Sが存在する。

φ∈Sに対して、φ∪{φ}={φ}, {φ}∪{{φ}}={φ, {φ}}, {φ, {φ}}∪{{φ, {φ}}}={φ, {φ}, {φ, {φ}}},…,x, x∪{x},…
であり、
写像fᵢ:S⇒S(i∈S)をfᵩ(x)=x∪{x}かつ、m,n∈Sに対してfₙ(m∪{m})=fn∪{n}(m)を満たすように定め、
演算FをF:S×S⇒S,(m,n)⇒fₘ(n)で定義する。
(※fᵩ(x)はxの次を表した値域で、fₙ(x)はxのn個先を表した値域である。)

数学的帰納法

Sが以下の性質を満たす時、Sをℕで表す。
(I)Sはφを含む。
(II)m∈Sならばfᵩ(m)∈Sである。

「「m=2、n=1」からの二重帰納法」

集合AをA={u∈S|fᵥ(u∪{u})=fᵥ(u)∪{fᵥ(u)}}で定める。(φ≠m∪{m})
この時、A={u∈S|fᵥ(u∪{u})=fᵥ(u)∪{fᵥ(u)}}⊂Sである。
(I)<補題2>の写像fᵢの定義からfᵩ(φ)=φ∪{φ}であり、fᵩ(φ∪{φ})=φ∪{φ}∪{φ∪{φ}}={φ∪{φ}}より
φ∈A⊂Sである。
(II)m,nがAに含まれる時,fₙ(m∪{m})=fₙ(m)∪{fₙ(m)}である。
nを固定し、fᵩ(m∪{m})の場合を考えるとmもy∪{y}という形である事に注意すれば
fₙ(fᵩ(m∪{m}))=fₙ((m∪{m})∪({m∪{m}}))=fₙ(m∪{m})∪{fₙ(m∪{m})}であり、
m∪{m}∈A⊂Sであることが分かる。
(III)m,nがAに含まれる時,fₙ(m∪{m})=fₙ(m)∪{fₙ(m)}である。
mを固定し、m∪{m}=xに対してf(n∪{n})(x)の場合を考えると、
<補題2>の写像fᵢの定義からf(n∪{n})(x)=fₙ(x∪{x})である。
従って、(II)の結果からf(n∪{n})(x)=fₙ(x∪{x})=fₙ(x)∪{fₙ(x)}となり、
n∪{n}∈A⊂Sであることが分かる。
以上、二重帰納法から任意の元m,n∈ℕに対して、fₙ(m∪{m})=fₙ(m)∪{fₙ(m)}が成り立つ。

集合AをA={u∈S|fᵤ(φ)=u∪{u}}で定める。
この時、A={u∈S|fᵤ(φ)=u∪{u}}⊂Sである。
(I)<補足2>の写像fᵢの定義からfᵩ(φ)=φ∪{φ}であり、φ∈A⊂Sである。
(II)mがAに含まれるならば,fₘ(φ)=m∪{m}であり、fᵩ(m)の場合を考える。
<補題2>の写像fᵢの定義と<補題3>から、f fᵩ(m) =fm∪{m}(φ)=fₘ(φ∪{φ})=fₘ(φ)∪{fₘ(φ)}であり、
いま、m∈Aなので仮定からfₘ(φ)∪{fₘ(φ)}=m∪{m}∪{m∪{m}}となる。
すなわちm∪{m}∈A⊂Sであることが分かり、数学的帰納法から任意の元m∈ℕに対して、fₘ(φ)=m∪{m}が成り立つ。

和の交換法則

集合AをA={u,v∈S|fᵤ(v)=fᵥ(u)}で定める。
この時、A={u,v∈S|fᵤ(v)=fᵥ(u)}⊂Sである。
(I)<補題2>の写像fᵢの定義からfᵩ(n)=n∪{n}であり、<補題4>よりfₙ(φ)=n∪{n}なのでfᵩ(n)=fₙ(φ)である。
(II)mがAに含まれるならば,fₘ(n)=fₙ(m)であり、
<補題3>,<補題4>と<補題2>の写像fᵢの定義からf fᵩ(m) =fm∪{m}(n)=fₘ(n∪{n})=fₘ(n)∪{fₘ(n)}である。
いま、m∈Aなので仮定からfₘ(n)∪fₘ({n})=fₙ(m)∪{fₙ(m)}であり、
再び<補題4>からfₙ(m)∪{fₙ(m)}=fₙ(m∪{m})=fₙ(fₘ(φ))となるので、
f fᵩ(m) =fₙ(fₘ(φ))が得られる。
以上より、mに関する数学的帰納法から任意の元m,n∈ℕに対して、fₘ(n)=fₙ(m)が成り立つ。

和の結合法則

集合AをA={u,v,w∈S|f fᵤ(v) =fᵤ(fᵥ(w))}で定める。
この時、A={u,v,w∈S|f fᵤ(v) =fᵤ(fᵥ(w))}⊂Sである。
(I)<補題4>からf fᵤ(v) =fᵤ(v)∪{fᵤ(v)}であり、<補題3>よりfᵤ(v)∪{fᵤ(v)}=fᵤ(v∪{v})=fᵤ(fᵥ(φ))であるので
f fᵤ(v) =fᵤ(fᵥ(φ))となる。
(II)wがAに含まれているとする。
<補題3>,<補題4>と<補題2>の写像fᵢの定義からf fᵤ(v) =f fᵤ(v) =f fᵤ(v) ∪{f fᵤ(v) }であり、
いまw∈Aなので仮定からf fᵤ(v) =fᵤ(fᵥ(w))である。
従って、f fᵤ(v) ∪{f fᵤ(v) }=fᵤ(fᵥ(w))∪{fᵤ(fᵥ(w))}=fᵤ(fᵥ(w)∪{fᵥ(w)})=fᵤ(fᵥ(w∪{w}))=fᵤ(fᵥ(fᵩ(w)))であり、
f fᵤ(v) =fᵤ(fᵥ(fᵩ(w)))が得られる。
以上より、wに関する数学的帰納法から任意の元u,v,w∈ℕに対して、f fᵤ(v) =fᵤ(fᵥ(w))が成り立つ。

和の消約法則

集合AをA={w∈S|fᵤ(w)=fᵤ(z)ならばw=z}で定める。
この時、A={w∈S|fᵤ(w)=fᵤ(z)ならばw=z}⊂Sである。
(I)fᵤ(φ)=fᵤ(z)の時、z≠φとなるz∈Sが存在すると仮定する。
この時、zはx∪{x}という形を取るので<補題3>,<補題4>からu∪{u}=fᵤ(φ)=fᵤ(z)=fᵤ(x∪{x})=fᵤ(x)∪{fᵤ(x)}となるのでu=fᵤ(x)である。(※)
(※正則公理からu≠{u}であることと、外延性公理から保証される。)
しかしこれはx=φであっても矛盾である。
故に、背理法からz=φであり、φ∈A⊂Sである。
(II)wがAに含まれているとする。
fᵤ(w∪{w})=fᵤ(z)を満たすzに対して、z=φと仮定すると(I)からφ∈Aなのでw∪{w}=φとなり矛盾するのでz≠φである。
すなわち、zはx∪{x}という形を取っている。
この時、<補題3>から
fᵤ(w∪{w})=fᵤ(x∪{x})

fᵤ(w)∪{fᵤ(w)}=fᵤ(x)∪{fᵤ(x)}
であり、fᵤ(w)=fᵤ(x)となる。
いま、m∈Aなので仮定からw=xであり、w∪{w}=x∪{x}=zである。
すなわち、w∪{w}∈A⊂Sである。
以上より、wに関する数学的帰納法から任意の元w,z∈ℕに対して、fᵤ(w)=fᵤ(z)ならばw=zが成り立つ。

<補題2>で定めた演算Fをと呼び、F((m,n))=fₘ(n)=m+nで表す。

φ∈Sに対して、写像gᵢ:S⇒Sをgᵩ(x)=xかつg₍ₘ₊ᵩ₎(x)=gₘ(x)+xを満たすように定め、
演算GをG:S×S⇒S,(m,n)⇒gₘ(n)で定義する。

集合AをA={u∈S|gᵤ(φ)=u}で定める。
この時、A={u∈S|gᵤ(φ)=u}⊂Sである。
(I)<補題8>の写像gᵢの定義からgᵩ(φ)=φなのでφ∈A⊂Sである。
(II)mがAに含まれるならば,仮定からgₘ(φ)=mである。₊₋₌₍ ₎
<補題8>の写像gᵢの定義と仮定からg₍ₘ₊ᵩ₎(φ)=gₘ(φ)+φ=m+φなので、fᵩ(m)=m∪{m}=m+φ∈A⊂Sである。
以上より、mに関する数学的帰納法から任意の元m∈ℕに対して、gₘ(φ)=mが成り立つ。

分配法則

集合AをA={u,v,w∈S|gᵤ(v+w)=gᵤ(v)+gᵤ(w)}で定める。
この時、A={u,v,w∈S|gᵤ(v+w)=gᵤ(v)+gᵤ(w)}⊂Sである。
(I)<補題8>の写像gᵢの定義からgᵩ(v+w)=v+w=gᵩ(v)+gᵩ(w)となるので、φ∈A⊂Sである。
(II)uがAに含まれるならば,仮定からgᵤ(v+w)=gᵤ(v)+gᵤ(w)である。
<補題8>の写像gᵢの定義と仮定からg₍ᵤ₊ᵩ₎(v+w)=gᵤ(v+w)+(v+w)=(gᵤ(v)+gᵤ(w))+(v+w)であり、
和の交換法則から(gᵤ(v)+gᵤ(w))+(v+w)=(gᵤ(v)+v)+(gᵤ(w)+w)=g₍ᵤ₊ᵩ₎(v)+g₍ᵤ₊ᵩ₎(w)となる。
すなわち、g₍ᵤ₊ᵩ₎(v+w)=g₍ᵤ₊ᵩ₎(v)+g₍ᵤ₊ᵩ₎(w)であり、fᵩ(u)=u∪{u}=u+φ∈A⊂Sである。
以上より、mに関する数学的帰納法から任意の元u∈ℕに対して、gᵤ(v+w)=gᵤ(v)+gᵤ(w)が成り立つ。

積の交換法則

集合AをA={u,v∈S|gᵤ(v)=gᵥ(u)}で定める。
この時、A={u,v∈S|gᵤ(v)=gᵥ(u)}⊂Sである。
(I)<補題8>の写像gᵢの定義からgᵩ(n)=nであり、<補題9>よりgₙ(φ)=nなのでgᵩ(n)=gₙ(φ)である。
(II)mがAに含まれるならば,仮定からgₘ(n)=gₙ(m)である。
<補題8>の写像gᵢの定義と仮定、分配法則からg₍ₘ₊ᵩ₎(n)=gₘ(n)+n=gₙ(m)+n=gₙ(m)+gₙ(φ)=gₙ(m+φ)となるので、
fᵩ(m)=m∪{m}=m+φ∈A⊂Sである。
以上より、mに関する数学的帰納法から任意の元m∈ℕに対して、gₘ(n)=gₙ(m)が成り立つ。

積の結合法則

集合AをA={u,v,w∈S|g gᵤ(v) =gᵤ(gᵥ(w))}で定める。
この時、A={u,v,w∈S|g gᵤ(v) =gᵤ(gᵥ(w))}⊂Sである。
(I)<補題9>からg gᵤ(v) =gᵤ(v)、gᵤ(gᵥ(φ))=gᵤ(v)なのでg gᵤ(v) =gᵤ(gᵥ(φ))である。
(II)wがAに含まれるならば,仮定からg gᵤ(v) =gᵤ(gᵥ(w))である。
<補題8>の写像gᵢの定義と仮定、分配法則から
g gᵤ(v) =g gᵤ(v) +g gᵤ(v) =gᵤ(gᵥ(w))+gᵤ(v)=gᵤ(gᵥ(w)+v)=gᵤ(gᵥ(w)+gᵥ(φ))=gᵤ(gᵥ(w+φ))となるので
fᵩ(w)=w∪{w}=w+φ∈A⊂Sである。
以上より、wに関する数学的帰納法から任意の元w∈ℕに対して、g gᵤ(v) =gᵤ(gᵥ(w))が成り立つ。

任意の元m∈ℕに対して、<補題9>からφ×m=m×φ=gₘ(φ)=mなのでφは演算×の単位元である。

積の消約法則

A={w∈S|gₘ(w)=gₘ(z)ならばw=z}
を定める。
この時、A={w∈S|gₘ(w)=gₘ(z)ならばw=z}⊂Sである。
(Ⅰ)gₘ(φ)=gₘ(z)の時、z≠φを仮定する。
この時、zはz=x∪{x}という形をとっている。従って、m=gₘ(φ)=gₘ(z)=gₘ(x∪{x})=gₘ(x+φ)=gₘ(x)+gₘ(φ)=gₘ(x)+mとなるがこれは矛盾である。
故に、背理法からz=φとなりφ∈Aである。
(ⅠⅠ)w∈Aとすると仮定からgₘ(w)=gₘ(z)ならばw=zが成り立つ。
gₘ(w∪{w})=gₘ(p)に対して、P=φとすると(Ⅰ)からφ∈Aなのでw∪{w}=φとなり矛盾する。
従って、p≠φであり、pはp=x∪{x}という形をとっている。この時、
gₘ(w∪{w})=gₘ(x∪{x})

gₘ(w+φ)=gₘ(x+φ)

gₘ(w)+gₘ(φ)=gₘ(x)+gₘ(φ)
となり、和の消約法則からgₘ(w)=gₘ(x)が得られる。
この時、仮定からw=xなのでw∪{w}=x∪{x}=pとなり、w∪{w}∈A⊂Sである。
以上、wに関する数学的帰納法から
gₘ(w)=gₘ(z)ならばw=zが成り立つ。

<補題8>で定めた演算Gをと呼び、G((m,n))=gₘ(n)=m×nで表す。

自然数

φ∈ℕに対して、これまで定めてきた
φ,φ∪{φ}={φ}, {φ}∪{{φ}}={φ, {φ}}, {φ, {φ}}∪{{φ, {φ}}}={φ, {φ}, {φ, {φ}}},…,x, x∪{x},…
自然数と呼び、改めて1,2,3,…と表す。

0は定義したℕに含まれない。というよりまだ概念が存在していない状況である。

本稿では省略するが、有理数全体ℚを定義、構成していくと任意の元a∈ℚに対して、
a+x=x+a=aを満たすxが存在するようになる。
このxを0と書く。
また、a+b=0を満たす逆元bも存在し演算+における逆元をb=-aと表す。

整数

すべての自然数と0、各自然数の演算+における逆元全体をまとめて整数と呼ぶ。

除法の定理

a, bを0を含めた自然数とする。
a=0の時,a=b×0+0と書けて、a=1ならばa=1×1+0と書ける。
次に、a≠0より小さい自然数について
a=bq+r, 0≦r<b · · · · · ·(∗)
を満たす整数q,rが存在すると仮定する。
a<bならばq=0, r=aとおくことでa=b×0+a=bq+rが得られる。
a≧bならば,0≦a−b<aなので仮定からa−b=bq'+r'、0≦r'<bを満たす整数q',r'が存在する。
この式を整理すると,a=b(q'+1)+r'、 0≦r'<bとなるので、q=q'+1、r=r'とおけば (∗) が成り立つ。
以上、数学的帰納法から0を含めたどんな自然数a, b についても
a=bq+r, 0≦r<b · · · · · ·(∗)
を満たす整数q,r が存在する。
次に (∗) を満たす整数q,rがもう一組あったとし,それをq₁,r₁とする。
このとき、
a=bq+r、0≦r<b
a=bq₁+r₁、0≦r₁<b
と書けて、bq+r=bq₁+r₁となる。 · · · · · ·(∗∗)
ここで、q≠q₁と仮定すると
q₁>qならば,整理してb(q₁−q)=r−r1である。
ここでq₁−q≧1なので左辺についてb(q₁−q)≧bとなるが、右辺=r−r₁<bなので矛盾する。
q₁<qならば整理してb(q−q₁)=r₁−rとなるので同様に矛盾する。
従って、q=q₁である。
これを (∗∗) に代入すればr=r₁を得る。
よって (∗) を満たすq,rはただ一組である。

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ある演算∘における単位元と、すべての元a∈Gに対する逆元a⁻¹をもつ空でない代数系(G;∘)に対して、
任意の元a,b,c∈Gで結合法則を満たす時、集合Gをと呼ぶ。

可換群

群(G;∘)の任意の元a,bがa∘b=b∘aを満たしているとき、Gを特に可換群と呼ぶ。

部分群

群Gにおける部分集合HがGの演算によりまた群となる時、HをGの部分群と呼ぶ。(※)

注意の見出し

例えば、{-1,1}⊂ℤであるが、ℤは和に関して群を成しており、対して{-1,1}は積に関して群を成している。
この状況でℤの単位元0は0∉{-1,1}であり、すなわちお互いの単位元は一致していない。

演算∘の単位元を1とし、群Gにおける部分集合Hが部分群であるとする。
この時、1ʜ∈H⊂Gがあり、群の定義から1ʜ⁻¹があるので1ʜ∘ɢ(1ʜ)⁻¹=1ɢとなる。
また、部分群の定義から1ʜ∘ʜ(1ʜ)⁻¹=1ʜであるがHの演算とGの演算は一致するので1ɢ=1ʜ∈Hとなる。
また、HはGの演算により群となっているのでx,y∈Hに対して代数系における演算の定義からx∘y∈Hを満たしている。
さらに、任意のx∈Hに対して、yをH上でのxの逆元とするとx∘y=1ʜ=1ɢよりyがG上での逆元であることも言える。
逆に、1ɢ∈HとするとH≠φである。
また、x,y∈Hに対してらx∘y∈Hならばz∈Hにおいて(x∘y)∘z∈H⊂Gを満たす。
(x∘y)∘z≠x∘(y∘z)と仮定するとGが群で結合法則を満たしてると矛盾するのでH上でも結合法則が成り立つ。
さらに、すべてのx∈Gでx∘1ɢ=1ɢ∘x=xなので特にすべてのx=h∈Hでも満たし1ʜ=1ɢが言える。
この時、x∈Hに対して、G上の逆元x⁻¹がx⁻¹∈Hならばx∘x⁻¹=1ɢ=1ʜとなるのでH上でも逆元である。
以上より、

HG {1ɢ∈Hx,yHxyHxHGx¹x¹H

が成り立つ。

集合Aに2つの演算(∘,*)が定義されており、∘に関してAは可換群であるとする。
すべてのa,b,c∈Aに対して、
(1)結合法則 a*(b*c)=(a*b)*c
(2)分配法則 a*(b∘c)=(a*b)∘(a*c)、(a∘b)*c=(a*c)∘(b*c)
(3)1*a=a*1=aを満たす演算*の単位元1ᴀが存在する
を満たす集合Aをと呼ぶ。

可逆元

環Aにおけるある元a∈Aに対して、演算*における逆元a⁻¹∈Aが存在する時aを特に可逆元と呼ぶ。

非可逆元

環Aにおけるある元a∈Aが演算*における逆元a⁻¹∈Aを持たない時、aを特に非可逆元と呼ぶ。

非可逆元p₁,p₂,…,pₙの積p₁*p₂*…*pₙは可逆元であると仮定する。
この時、p₁*p₂*…*pₙの逆元(p₁*p₂*…*pₙ)⁻¹が存在し、これをaとおくとa*(p₁*p₂*…*pₙ)=1ᴀである。
結合法則より(a*p₁*p₂*…*p₍ₙ₋₁₎)*pₙ=1ᴀと書けるがpₙが非可逆元であることに矛盾する。
以上からp₁*p₂*…*pₙも非可逆元である。

可換環

環Aにおける任意の元a,b∈Aがa*b=b*aを満たす時、Aを特に可換環と呼ぶ。

以下整数全体の集合ℤにおける演算はℕの演算(+, ×)に等しくℕ⊂ℤであると見なす。

整数全体の集合ℤは可換環である。

整数環

演算(+, ×)をもつ整数全体の集合ℤを本稿では整数環と呼ぶ。

部分環

環AとAの部分集合Bに対して、Aの演算(∘,*)によりBは環であり、かつ1ᴀ∈Bである時、BをAの部分環と呼ぶ。

注意の見出し

B⊂AでBは環となるものの、1ᴀ≠1ʙとなるものも存在することに注意。

可除環

2つの演算(∘,*)に関して環である集合Kに対して、任意の元a∈Kが演算*において可逆元を成す時、Kを可除環と呼ぶ。

可除環Kの任意の元a,bが演算*においてa*b=b*aを満たす時、Kをと呼ぶ。
ℚは有理数全体の集合とする。
以下実数全体の集合ℝにおける演算はℕ,ℤ,ℚの演算(+, ×)に等しくℕ⊂ℤ⊂ℚ⊂ℝであると見なす。

実数全体の集合ℝは体である。
(証明をするとしたらデデキント切断を定義の上実数を作るところからになる)

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零因子

環Aの任意の元a∈Aに対して、b∈A-{0ᴀ}がありa*b=0ᴀとなる時、aを零因子と呼ぶ。

整域

環Aの任意の元a,b∈A-{0ᴀ}に対して、a*b≠0ᴀとなる時、Aを整域と呼ぶ。

環Aが整域の時、任意の元a,b∈A-{0ᴀ}でa*b≠0ᴀとなるが零因子が0ᴀ以外に存在すると仮定するとそれをx≠0ᴀとおけば
x∈A-{0ᴀ}でa*x=0ᴀ、x*b=0ᴀとなるが整域の定義に矛盾する。すなわち、零因子は0ᴀのみである。
逆に、環Aの零因子が0ᴀのみならば零因子の定義から任意の元a,b∈A-{0ᴀ}についてa*b≠0ᴀである。
以上から、「Aは整域である」⇔「零因子は0ᴀのみである」が成り立つ。

当たり前な定理に見えるかもしれないが、たとえば,
(a,b)⊗(c,d)=(a×b,c×d)という演算が成り立つ世界では
(0,2)⊗(1,0)=(0,0)
というものが存在する。
(行列がこの例に当てはまる)

任意の体Kに対して、a∈K-{0ᴀ}が零因子であると仮定する。
この時、a*b=0ᴀを満たすb∈K-{0ᴀ}が存在する。
Kは体なのでaの逆元a⁻¹が存在して
0ᴀ=a⁻¹*0ᴀ=a⁻¹*(a*b)=(a⁻¹*a)*b=b
となるがb∈K-{0ᴀ}であることに矛盾する。
故に、Kの零因子は0ᴀのみであり、定理20より任意の体は整域であることがわかる。

部分環もまた整域であること

Aを整域、BをAの部分環とする。
任意のa,b∈B-{0ᴀ}に対して、B⊂Aよりa,bはAの元としてa≠0ᴀ、b≠0ᴀであり、かつAは整域なのでa*ᴀb≠0ᴀである。
部分環BはAの演算(∘,*)によるのでBの元としてa*ʙb≠0ᴀとも表せる。
従って、Bも整域である。

定理21よりℝは整域であり、
またℤ⊂ℚ⊂ℝなので定理22から整数環ℤも整域である。

左イデアル

環Aと部分集合I⊂Aに対して、
(1)IはAの演算∘に関して部分群である
(2)任意の元a∈A,x∈Iに対して、a*x∈Iである
上記(1),(2)を満たすIをAの左イデアルと呼ぶ。(※)

右イデアル

環Aと部分集合I⊂Aに対して、
(1)IはAの演算∘に関して部分群である
(2)任意の元a∈A,x∈Iに対して、x*a∈Iである
上記(1),(2)を満たすIをAの右イデアルと呼ぶ。(※)

(※)必ずしも1ᴀ∈Iとは限らないのでイデアルは部分環ではない。

両側イデアル(以降単にイデアルと呼ぶ)

環Aと部分集合I⊂Aに対して、
(1)IはAの演算∘に関して部分群である
(2)任意の元a∈A,x∈Iに対して、a*x∈Iかつx*a∈Iである
上記(1),(2)を満たすIをAの両側イデアルと呼ぶ。

Aが可換環である時、
任意の左イデアルIはa∈A,x∈Iに対して、x*a=a*x∈Iであり、
任意の右イデアルJはa∈A,x∈Jに対して、a*x=x*a∈Jである。
故に、可換環におけるイデアルは両側イデアルである。

環Aと一元集合{0ᴀ}に対して、
(1){0ᴀ}≠φであり、0ᴀ=0ᴀ∘0ᴀ∈{0ᴀ}である
(2)任意の元a∈A,0ᴀ∈{0ᴀ}に対して、a*0ᴀ=0ᴀ*a=0ᴀ∈{0ᴀ}である
以上から、{0ᴀ}は環Aの両側イデアルである。

可換環Aにおける両側イデアルIが1ᴀ∈Iである時、
任意の元a∈Aに対して、イデアルの定義(2)からa=1ᴀ*a=a*1ᴀ∈IなのでA⊂Iである。
すなわち、A=Iである。

可換環Aにおけるある元a∈Aに対して可逆元a⁻¹が存在し、Aの両側イデアルIがa⁻¹∈Iである時、
イデアルの定義(2)から1ᴀ=a⁻¹*a=a*a⁻¹∈Iなので<定理25>よりA=Iである。

可換環AのイデアルI,Jに対して、I∘J={x∘y|x∈I,y∈J}を定める。
(1)0ᴀ∈I,0ᴀ∈Jより0ᴀ=0ᴀ∘0ᴀ∈I∘Jである。
また、任意のx,y∈I∘Jに対してx=a∘b, y=c∘dとなるa,c∈I, b,d ∈Jが存在する。
この時、イデアルの定義(1)からa∘c∈I, b∘d∈Jなのでx∘y=(a∘b)∘(c∘d)=(a∘c)∘(b∘d)∈I∘Jである。
さらに、x∈I∘Jならばx=a∘bとなるa∈I, b∈Jが存在し、a⁻¹∈I, b⁻¹∈Jも存在するので
x⁻¹=(a∘b)⁻¹=b⁻¹∘a⁻¹=a⁻¹∘b⁻¹∈I∘Jである。
故に、<定理16>からI∘JはAの演算∘に関して部分群である
(2)任意の元a∈A,z∈I∘Jに対して、定義からz=x∘y(x∈I,y∈J)という形である。
a*x∈I、a*y∈Jなのでa*z=a*(x∘y)=a*x∘a*y∈{x∘y|x∈I,y∈J}=I∘Jとなる。
以上より、I∘JはAのイデアルである。

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単項イデアル

可換環AとそのイデアルI⊂Aに対して、ある元z∈Iと任意の元a∈Aによるz*a全体の集合を単項イデアルと呼び、zAなどと表す。(※)

(※)zで生成されたイデアルとも言う。

素イデアル

可換環とそのイデアル𝖕⊊Aに対して、a,b∉𝖕ならばa*b∉𝖕を満たす𝖕をAの素イデアルと呼ぶ。

素元

整域Aと0ᴀ≠a∈Aに対して、aで生成されるイデアルaAが素イデアルである時、aを素元と呼ぶ。

(素数が素元であること)

p∈ℤを素数とする。pは2以上なのでℤにおいて非可逆元である。
整数環ℤは<系1>より整域であり、
b×c=p×k∈pℤをみたすような b,c,k∈ℤに対して、
除法の定理より、bとcを次のように表せる。
・b=xp+r₁ (0<r₁<p),
・c=yp+r₂ (0<r₂<p)
(※x, y, r₁, r₂は全て整数)
この時、b×c=(xp+r₁)(yp+r₂)=(xyp)p+(xr₂)p+(r₁y)p+r₁r₂であり、
b×c-((xyp)+(xr₂)+(r₁y))p=r₁r₂となる。
いまb×cはpの倍数であり、((xyp)+(xr₂)+(r₁y))pもpの倍数なので、右辺のr₁r₂もpの倍数である。
すなわち、r₁はpの倍数またはr₂はpの倍数である。
r₁がpの倍数の時、b=xp+r₁=xp+pk₁=(x+k₁)p∈pℤ
r₂がpの倍数の時、c=yp+r₂=yp+pk₂=(y+k₂)p∈pℤ
(※k₁, k₂は整数)
故に、「b×c∈pℤならばb∈pℤまたはc∈pℤ」であり、これは素イデアルの定義の対偶(※)なのでpℤは素イデアルである。
以上より、素数pは素元である。

(※対偶は「a*b∈Pならばa∈Pまたはb∈P」である)

既約元

整域Aと0ᴀ≠a∈Aに対して、aは可逆元ではなく、またb,c∈Aにおいて
a=b*cならばbまたはcがAの可逆元になっている時、aを既約元と呼ぶ。

整域Aと0ᴀ≠a∈Aに対して、aを素元とする。この時、aAは素イデアルなのでaA≠Aであり、
aは可逆元ではない。また、b,c∈Aに対してa=b*cとするとb*c=a*1ᴀ∈aAであり、
aAは素イデアルなのでbまたはcがaAの元である。
b∈aAの時、b=a*dを満たすd∈Aがあり、b*c=aより(a*d)*c=aとなる。
すなわち、a*(d*c-1ᴀ)=0と書けてa∈Aは整域なのでd*c-1ᴀ=0、すなわちd*c=1ᴀとなる。
従って、cは可逆元である。
また、c∈aAの時、c=a*fを満たすfがあり、b*c=aよりb*(a*f)=aとなる。
すなわち、a*(b*f-1ᴀ)=0ᴀと書けてa∈Aは整域なのでb*f-1ᴀ=0ᴀ、すなわちb*f=1ᴀとなる。
従って、bは可逆元である。
以上より、整域Aの素元は既約元(非可逆元)である。

置換

集合Aにおける全単射写像σ:A→Aを置換と呼ぶ。(集合の元の並び替えである。)

整域Aの任意の素元pが相異なる素元q₁,q₂,…,qₘによりm≧2でp=q₁*q₂*…*qₘと表せたと仮定する。
p=q₁*q₂*…*qₘ∈pAより素イデアルの定義の対偶(※)からq₁∈pAまたはq₂∈pAまたは…またはqₘ∈pAである。
(※対偶は「a*b∈Pならばa∈Pまたはb∈P」である)
故に、置換s∈𝔖ₙによる並び替えによりqₛ₍₁₎∈pAと表せばa∈Aによりqₛ₍₁₎=a*pである。
従って、p=qₛ₍₁₎qₛ₍₂₎…*qₛ₍ₘ₎=(a*p)*qₛ₍₂₎…*qₛ₍ₘ₎であり、p*(1ᴀ-a*qₛ₍₂₎…*qₛ₍ₘ₎)=0ᴀよりa*qₛ₍₂₎…*qₛ₍ₘ₎=1ᴀとなるが
(a*qₛ₍₂₎
…*qₛ₍ₘ₋₁₎)*qₛ₍ₘ₎=1ᴀについてqₛ₍ₘ₎は非可逆元なので矛盾する。
すなわち、m<2(素元の数は1つ)であり、その素元をqₛ₍₁₎と表すとp=qₛ₍₁₎である。

同伴

整域Aと0ᴀ≠a∈Aに対してa,b∈Aを既約元とし、可逆元u∈Aについてa=b*uを満たす時、
a, bは同伴であるという。

一意分解環

整域Aの任意の元a≠0ᴀが可逆元である、もしくは有限個の素元p₁, p₂,…,pₙを用いて
a=p₁*p₂*…*pₙと表せるとき、Aを一意分解環と呼ぶ。

整域Aの素元p₁,p₂,…,pₙ、q₁,q₂,…,qₘ(n≦m)に対して、0ᴀ≠a∈Aが可逆元でない時、a=p₁*p₂*…*pₙ=q₁*q₂*…*qₘと表せたとする。
任意のx∈Aについて(p₁*p₂*…*pₙ)*x=p₁*(p₂*…*pₙ*x)∈p₁Aよりq₁*q₂*…*qₘ=p₁*p₂*…*pₙ*1ᴀ∈p₁*p₂*…*pₙA⊂p₁Aであり、
p₁は素元でp₁Aは素イデアルなのでq₁,q₂,…,qₘのいずれかはp₁Aの元である。
いま、置換s∈𝔖ₙによる並び替えによりqₛ₍₁₎∈p₁Aと表すと<定理12>よりp₁とqₛ₍₁₎は既約元である。
また、qₛ₍₁₎=p₁u₁(u₁∈A)とした時p₁∈p₁Aはp₁Aが素イデアルであることより可逆元ではなく、
u₁を可逆元でないと仮定するとqₛ₍₁₎が既約元であることに矛盾する。
従って、u₁は可逆元であり、p₁とqₛ₍₁₎は同伴である。
この時、p₁*p₂*…*pₙ=q₁*q₂*…*(p₁*u₁)*…*qₘであり、積は可換なのでp₁*(p₂*…*pₙ-u₁*q₁*q₂*…*qₘ)=0ᴀと書ける。
Aは整域でp₁≠0ᴀなのでp₂*…*pₙ=u₁*q₁*q₂*…*qₘである。
以降、p₂とqₛ₍₂₎,p₃とqₛ₍₃₎,…,p₍ₙ₋₁₎とqₛ₍ₙ₋₁₎が同伴で可逆元u₂,u₃,…,u₍ₙ₋₁₎に対して、pₙ=(u₂*u₃*…*u₍ₙ₋₁₎)*(q₍₎*…*q₍₎)と書けたと仮定する。
(※q₍₎はq₁,q₂,…,qₘのいずれかであることを表す。)
いま、u₁⁻¹,u₂⁻¹,…,u₍ₙ₋₁₎⁻¹が存在するのでこれらを両辺に掛けてq₍₎*…*q₍₎=u₍ₙ₋₁₎⁻¹*…*u₂⁻¹*u₁⁻¹*pₙ∈pₙAであり、
pₙAは素イデアルなのでq₍₎*…*q₍₎のいずれかはpₙAの元である。
そのpₙAの元をqₛ₍ₙ₎とすれば上記と同様に<定理12>よりpₙとqₛ₍ₙ₎は既約元であり、
qₛ₍ₙ₎=pₙ*uₙ(uₙ∈A)とした時pₙ∈pₙAはpₙAが素イデアルなので可逆元でないことよりuₙは可逆元である。
すなわち、pₙとqₛ₍ₙ₎は同伴であり、数学的帰納法より仮定が示された。
また、pₙ=(u₁*…*u₍ₙ₋₁₎)*(q₍₎*…*(pₙ*uₙ)*…*q₍₎)なのでpₙ*(1ᴀ-((u₁*…*u₍ₙ₋₁₎)*(q₍₎*…*q₍₎)))=0ᴀであり、
Aが整域でpₙ≠0ᴀであることより1ᴀ=(u₁*…*uₙ)*(q₍₎*…*q₍₎)と書ける。
もしn<mならばq₍₎Aが素イデアルであることよりq₍₎はすべて非可逆元であり矛盾する。
以上から、a=p₁*p₂*…*pₙ=q₁*q₂*…*qₘと表せるならばm=nであり、置換s∈𝔖ₙに対してpᵢとqₛ₍ᵢ₎(i=1,2,…,n)は同伴である。

一意分解環Aの任意の元aはAの演算*により可逆元uと有限個の素元p₁, p₂,…,pₙを用いて
a=u*p₁ˣ¹*p₂ˣ²*…*pₙˣⁿ(x₁,x₂,…,xₙは非負整数)と表せる。

一意分解環Aに対して、既約元a∈Aが素元p₁, p₂,…,pₙによりn≧2でa=p₁*p₂*…*pₙと表せたと仮定する。
b=p₂*…*pₙとおくとa=p₁*bであり、p₁は非可逆元である。
一方、aは既約元なのでbが可逆元という事になるが非可逆元の積も非可逆元なので矛盾する。
すなわち、n<2(素元の数は1つ)であり、その素元をp₁と表すとa=p₁である。
以上から一意分解環における既約元は素元である。

ユークリッド環

整域Aと写像φ:A-{0ᴀ}⇒ℕに対して、a,b∈Aでb≠0ᴀならばq,r∈Aがありa=q*b∘rかつr=0ᴀまたはφ(r)<φ(b)を満たす時、Aをユークリッド環と呼ぶ。

整域ℤに対して、写像φ:ℤ-{0ᴀ}⇒ℕ, x⇒|x|を定める。
この時、除法の定理から任意のa, b∈ℤについて
a=bq+r, 0≦r<b · · · · · ·(∗)
を満たす整数 q, r が存在する。
φ(r)=|r|<|b|=φ(b)も満たしているのでℤはユークリッド環である。

単項イデアル整域

整域Aの任意のイデアルがa∈AによりaAと表せる時、aAを特に単項イデアル整域と呼ぶ。

Aを写像φ:A-{0ᴀ}⇒ℕをもつユークリッド環、I⊂AをAの任意のイデアルとする。
I={0ᴀ}ならばAは0ᴀによる単項イデアル整域である。
I≠{0ᴀ}ならばある元x≠0ᴀ∈Iについてφ(x)=min{φ(a)|I∋a≠0ᴀ}と定める。
いま、任意のz∈Iに対して、q,r∈Aがありz=q*x∘rでr=0ᴀまたはφ(r)<φ(b)を満たす。
この時、z,q*x∈Iなのでイデアルの定義(1)より-q*x∈Iがありr=z∘(-q*x)∈Iとなるのでxの定め方からr=0ᴀである。
従って、z=q*x∈xAとなる。
x∈IなのでIがイデアルであることより任意のx*a∈xAはa∈Aでx*a∈I、すなわちxA⊂Iである。
故に、I=xAとなり、ユークリッド環は単項イデアル整域であることがわかる。

任意の単項イデアル整域Aに対して、r≠0ᴀを既約元とし、a,b∈A,a∉rAでa*b∈rAとする。
<定理27>よりaA∘rAもAのイデアルであるから単項イデアル整域の定義より
aA∘rA=cAとなるc∈Aがあり、a=a1ᴀ∘r0ᴀ∈aA∘rA=cAであるが、a∉rAなのでrA⊊cAである。
r∈rA∉cAよりr=c*dとなるd∈Aがあるがrは既
約元なのでcまたはdが可逆元であるがdが可逆元ならばc=r*d⁻¹∈rAよりrA=cAとなり矛盾するのでCが可逆元である。
すなわち、cA=Aであり1ᴀ∈Aがあるのでa*x∘r*y=1ᴀを満たすx,y∈Aが存在する。
両辺にbを掛けてb=a*b*x∘b*r*yであるが、
a*b, b*r∈rAなのでイデアルの定義(1)よりb=a*b*x∘b*r*y∈rAとなりrAは素イデアルである。
すなわち、rは素元である。
次に、p≠0ᴀ∈Aを可逆元ではなく、また有限個の既約元の積で書けないと仮定する。
いま、pは既約元でない。
可逆元ではないa₁,p₁∈Aを用いてp=a₁*p₁と書くとa₁,p₁のどちらも有限個の既約元の積で書けるならpも有限
個の既約元の積で書けることになるので矛盾であり、どちらかは有限個の既約元の積で表せない。
その元をp₁とすれば任意のp*x∈pAに対して、p*x=(a₁*p₁)*x∈p₁AなのでpA∉p₁Aである。
可逆元ではないpᵢ, p₍ᵢ₊₁₎,a₍ᵢ₊₁₎∈Aに対して、p=a₍ᵢ₊₁₎*p₍ᵢ₊₁₎でpᵢA∉p₍ᵢ₊₁₎Aを満たすように同様の操作を繰り返し、
p=p₀,p₁,p₂,・・・でp₀A⊊p₁A⊊p₂A⊊・・・となるものを作る。
いま、イデアルの定義(1)より0ᴀ∈pᵢAなので0ᴀ∈∪pᵢAと表せる。
また、任意のx,y∈∪pᵢAに対して十分大きいjがありx,y∈pⱼAとなるのでx∘y∈pⱼA⊂∪pᵢAである。
同様に、x∈∪pᵢA,q∈Aならば、十分大きなjでx∈pⱼAがあり、x*q∈pⱼA⊂∪pᵢAである。
故に、∪pᵢAはAのイデアルである。
Aは単項イデアル整域なので∪pᵢA=zAとなるz∈Aがある。
z∈zA=∪pᵢAなので十分大きいjがあり、z∈pⱼAであるが、∪pᵢA=zA⊂pⱼA⊊p₍ⱼ₊₁₎A⊂∪pᵢAとなり矛盾である。
従って、p≠0ᴀ∈Aは有限個の既約元の積で表せる。
上述より既約元は素元なのでAの任意の可逆元でない元は有限個の素元の積で表せることになり、
単項イデアル整域は一意分解環であることが示された。

整数環ℤの任意の元aは<定理33>, <定理34>から整数環ℤが一意分解環であることより<系3>から
有限個の素数p₁, p₂,…,pₙを用いて(ℤの可逆元は-1,1のみであることに注意して)、
a=±p₁ˣ¹*p₂ˣ²*…*pₙˣⁿ(x₁,x₂,…,xₙは非負整数)と表せる。

投稿日:212
更新日:225
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