以下の命題を示します.
をノルム空間, をからへの有界線形作用素全体のなすノルム空間とする. がバナッハ空間ならば, もバナッハ空間である.
まず, バナッハ空間の復習をします.
ノルム空間
を絶対値が定義された体(たとえばやなど). を上のベクトル空間とする(有限次元とは限らない). 写像がのノルムであるとは, 以下の条件をみたすことである:
- に対して, .
- , に対して, .
- に対して, (三角不等式).
ノルム空間とは, ベクトル空間とのノルムの組のことである. 誤解のおそれがなければ, 単にのことをノルム空間と呼ぶ.
以下の文章ではつねに, は実数体または複素数体のどちらかとします.
をノルム空間とします. に対して, をとの距離と定めることにより, は位相空間になります. したがって, の点列の収束性を考えることができます.
バナッハ空間
をノルム空間とする. がバナッハ空間であるとは, の任意のコーシー列が, の点に収束することである.
ユークリッド空間
ユークリッド空間およびは, 通常の絶対値によりバナッハ空間となる.
空間 ()
を測度空間, を非負整数とする. 上の可測関数に対して, を以下で定める(はとなることもある):
を, 上の可測関数で, をみたすもの全体のなすベクトル空間とする.
はノルム空間にはならない. 実際, 測度0の集合上を除いてとなるがではない可測関数に対しては, が成り立たない. そこで, 次の同値関係を考える.
を, をみたす可測関数全体のなすの部分空間とする. 商空間
の元に対しても, ノルムが自然に定まり, はバナッハ空間となる. を空間という.
空間 ()
を測度空間とする. 上の可測関数に対して, を以下で定める(はとなることもある):
を, をみたす可測関数全体のなすベクトル空間とする. はバナッハ空間となる. 例2と同様に, の場合もを空間という.
続いて, ノルム空間の間の写像について考えます.
関数解析の本では, からへの「作用素」という言葉は, の部分集合上で定義された写像を指すことが多いかも知れませんが, ここでは全体で定義されているものだけを扱います.
有界作用素
, を上のノルム空間とする. 線形写像が, からへの有界作用素であるとは, ある正の数が存在して, 任意のに対して, が成り立つことである.
が有界作用素であれば, あるが存在して, 任意のに対して,
が成り立ちます. したがって, 有界作用素は連続写像になります. 逆に, ノルム空間の間の線形写像が連続であれば, は有界作用素になります. 実際, もしが有界作用素でなければ, 自然数に対して, の元が存在して,
が成り立ちます. とおけば, ですが なので, は連続ではありません.
続いて, 有界作用素のノルムを定義します.
作用素のノルム
, を上のノルム空間, を有界作用素とする. の部分集合を
と定義する. のノルムを, の下限と定める.
が有界作用素であれば, は空ではなく, 下に有界なので, 必ず下限を持ちます. 実際には,
と, はの閉集合になるので, は最小値を持ちます.
続いて, 作用素の空間にノルム空間の構造を入れます.
, を上のノルム空間, をからへの有界作用素全体の集合とする. , に対して, 線形写像, を
で定める. このとき, 線形写像, は有界作用素になり, は作用素のノルムによってノルム空間になる.
まず, が和とスカラー倍について閉じていることを示す. , とする. すべてのに対して,
が成り立つから, , は有界作用素である.
続いて, がノルム空間になることを示す.
まず, を示す. ならば, すべてのに対してなので, . よって, . 逆も全く同様.
次に, に対してを示す. ならなので, 上の証明より. とする. すべてのに対して,
であるから, である. もし, だったとすると,
となり, の最小性に反する.
最後に, を示す. すべてのに対して,
であるから, .
最後に, がバナッハ空間になることを示します.
命題1の証明
をのコーシー列とする. 線形写像を以下で定める:
とする. であり, はコーシー列なので, . よって, はのコーシー列である. はバナッハ空間なので, となるが存在する. と定める. 和とスカラー倍は極限で保たれるので, は線形写像である.
まず, が有界作用素であることを示す. そのためにが有界であることを見る. 実際, 十分大きなをとれば, に対してはとできるので, とおけば, . よって, すべてのに対して.
続いて, を示す. 正の数を任意にとる. 十分大きなをとれば, に対して, がすべてのに対して成り立つ. とすれば . は任意(によらず)だったので, .