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バナッハ空間への有界作用素の空間がバナッハ空間になること

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以下の命題を示します.

$(A, ||\cdot||_A), (B, ||\cdot||_B)$をノルム空間, $\mathrm{Hom}(A, B)$$A$から$B$への有界線形作用素全体のなすノルム空間とする. $B$がバナッハ空間ならば, $\mathrm{Hom}(A, B)$もバナッハ空間である.

まず, バナッハ空間の復習をします.

ノルム空間

$(K, |\cdot|_K)$を絶対値が定義された体(たとえば$\mathbb{R}$$\mathbb{C}$など). $V$$K$上のベクトル空間とする(有限次元とは限らない). 写像$||\cdot||_V: V \rightarrow \mathbb{R}$$V$ノルムであるとは, 以下の条件をみたすことである:

  1. $x \in V$に対して, $||x||_V = 0 \Leftrightarrow x = 0$.
  2. $a \in K$, $x \in V$に対して, $||a x||_V = |a|_K ||x||_V$.
  3. $x, y \in V$に対して, $||x + y||_V \le ||x||_V + ||y||_V$(三角不等式).

ノルム空間とは, ベクトル空間$V$$V$のノルム$||\cdot||_V$の組$(V, ||\cdot||_V)$のことである. 誤解のおそれがなければ, 単に$V$のことをノルム空間と呼ぶ.

以下の文章ではつねに, $K$は実数体$\mathbb{R}$または複素数体$\mathbb{C}$のどちらかとします.

$(V, ||\cdot||_V)$をノルム空間とします. $x, y \in V$に対して, $||x - y||_V$$x$$y$の距離と定めることにより, $V$は位相空間になります. したがって, $V$の点列の収束性を考えることができます.

バナッハ空間

$(V, ||\cdot||_V)$をノルム空間とする. $V$バナッハ空間であるとは, $V$の任意のコーシー列$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$が, $V$の点に収束することである.

ユークリッド空間

ユークリッド空間$\mathbb{R}^n$および$\mathbb{C}^n$は, 通常の絶対値によりバナッハ空間となる.

$L^p$空間 ($p \lt \infty$)

$(X, \mathcal{M}_X, \mu_X)$を測度空間, $p$を非負整数とする. $X$上の可測関数$f: X \rightarrow K$に対して, $||f||_p$を以下で定める($||f||_p$$\infty$となることもある):

$$ ||f||_p := (\int_{X} |f(x)|^p d\mu)^{1/p} . $$

$L'^p(X)$を, $X$上の可測関数$f: X \rightarrow K$で, $||f||_p \lt \infty$をみたすもの全体のなす$K$ベクトル空間とする.

$(L'^p(X), ||\cdot||_p)$はノルム空間にはならない. 実際, 測度0の集合上を除いて$f(x) = 0$となるが$f = 0$ではない可測関数$f$に対しては, $||f||_p = 0 \Rightarrow f = 0$が成り立たない. そこで, 次の同値関係を考える.

$N \subset L'^p(X)$を, $||f||_p = 0$をみたす可測関数全体のなす$L'^p(X)$の部分空間とする. 商空間

$$ L^p(X) := L'^p(X)/N $$

の元に対しても, ノルム$||\cdot||_p$が自然に定まり, $(L^p(X), ||\cdot||_p)$はバナッハ空間となる. $(L^p(X), ||\cdot||_p)$$L^p$空間という.

$L^p$空間 ($p = \infty$)

$(X, \mathcal{M}_X, \mu_X)$を測度空間とする. $X$上の可測関数$f: X \rightarrow K$に対して, $||f||_\infty$を以下で定める($||f||_\infty$$\infty$となることもある):

$$ ||f||_\infty := \inf \{a \in \mathbb{R}| \mu (|f(x)| > a) = 0 \}. $$

$L^\infty(X)$を, $||f||_\infty \lt \infty$をみたす可測関数$f: X \rightarrow K$全体のなす$K$ベクトル空間とする. $(L^\infty(X), ||\cdot||_\infty)$はバナッハ空間となる. 例2と同様に, $p = \infty$の場合も$(L^p(X), ||\cdot||_p)$$L^p$空間という.

続いて, ノルム空間の間の写像について考えます.

関数解析の本では, $A$から$B$への「作用素」という言葉は, $A$の部分集合上で定義された写像を指すことが多いかも知れませんが, ここでは$A$全体で定義されているものだけを扱います.

有界作用素

$(A, ||\cdot||_A)$, $(B, ||\cdot||_B)$$K$上のノルム空間とする. 線形写像$T: A \rightarrow B$が, $A$から$B$への有界作用素であるとは, ある正の数$M$が存在して, 任意の$a \in A$に対して, $||T(a)||_B \le M ||a||_A$が成り立つことである.

$T: A \rightarrow B$が有界作用素であれば, ある$M \gt 0$が存在して, 任意の$a, a' \in A$に対して,

$$ ||T(a) - T(a')||_B = ||T(a - a')||_B \le M ||a - a'||_A $$

が成り立ちます. したがって, 有界作用素は連続写像になります. 逆に, ノルム空間の間の線形写像$T: A \rightarrow B$が連続であれば, $T$は有界作用素になります. 実際, もし$T$が有界作用素でなければ, 自然数$n = 1, 2, \cdots$に対して, $A$の元$a_1, a_2, \cdots$が存在して,

$$ ||T(a_n)||_B \gt n ||a_n||_A $$

が成り立ちます. $\displaystyle a'_n := \frac{a_n}{n||a_n||}$とおけば, $||a'_n|| \rightarrow 0$ $(n \rightarrow 0)$ ですが$||T(a'_n)||_B > 1$ $(n=1, 2, \cdots)$なので, $T$は連続ではありません.

続いて, 有界作用素のノルムを定義します.

作用素のノルム

$(A, ||\cdot||_A)$, $(B, ||\cdot||_B)$$K$上のノルム空間, $T: A \rightarrow B$を有界作用素とする. $\mathbb{R}_{\gt 0}$の部分集合$C_T$

$$ C_T := \{c \in \mathbb{R}| \text{すべての} x \in A \text{に対して} ||T(x)||_B \le c ||x||_A \} $$

と定義する. $T$ノルム$||T||$を, $C_T$の下限と定める.

$T$が有界作用素であれば, $C_T$は空ではなく, 下に有界なので, 必ず下限を持ちます. 実際には,

$$ C_T = \bigcap_{\substack{x \in A \\ x \neq 0}} [\frac{||T(x)||_B}{||x||_A}, \infty) \subset \mathbb{R} $$

と, $C_T$$\mathbb{R}$の閉集合になるので, $C_T$は最小値を持ちます.

続いて, 作用素の空間にノルム空間の構造を入れます.

$(A, ||\cdot||_A)$, $(B, ||\cdot||_B)$$K$上のノルム空間, $\mathrm{Hom}(A, B)$$A$から$B$への有界作用素全体の集合とする. $T, S \in \mathrm{Hom}(A, B)$, $c \in K$に対して, 線形写像$T + S$, $cT: A \rightarrow B$

\begin{eqnarray} (T + S)(a) &:=& T(a) + T(b) \\ (cT)(a) &:=& cT(a) \end{eqnarray}

で定める. このとき, 線形写像$T + S$, $cT$は有界作用素になり, $\mathrm{Hom}(A, B)$は作用素のノルムによってノルム空間になる.

まず, $\mathrm{Hom}(A, B)$が和とスカラー倍について閉じていることを示す. $T, S \in \mathrm{Hom}(A, B)$, $c \in K$とする. すべての$a \in A$に対して,

\begin{eqnarray} ||(T + S)(a)||_B &\le& ||T(a)||_B + ||S(a)||_B \le (||T|| + ||S||)||a||_A \\ ||(cT)(a)||_B &\le& |c|_K \ ||T|| \ ||a||_A \end{eqnarray}

が成り立つから, $T + S$, $cT$は有界作用素である.

続いて, $\mathrm{Hom}(A, B)$がノルム空間になることを示す.

まず, $||T|| = 0 \Leftrightarrow T = 0$を示す. $||T|| = 0$ならば, すべての$a \in A$に対して$||T(a)||_B \le 0 ||a||_A = 0$なので, $T(a) = 0$. よって, $T = 0$. 逆も全く同様.

次に, $c \in K$に対して$||cT|| = |c|_K ||T||$を示す. $c = 0$なら$cT = 0$なので, 上の証明より$||cT|| = 0$. $c \neq 0$とする. すべての$a \in A$に対して,
$$ ||cT(a)||_B \le |c|_K ||T|| \ ||a||_A $$
であるから, $||cT|| \le |c|_K ||T||$である. もし, $||cT|| \lt |c|_K ||T||$だったとすると,
$$ ||T(ca)||_B \le \frac{||cT||}{|c|_K} ||ca||_A \lt ||T|| \ ||ca||_A $$
となり, $||T||$の最小性に反する.

最後に, $||T + S|| \le ||T|| + ||S||$を示す. すべての$a \in A$に対して,
$$ ||(T + S)(a)||_B \le ||T(a)||_B + ||S(a)||_B \le (||T|| + ||S||) ||a||_A $$
であるから, $||T + S|| \le ||T|| + ||S||$. $\square$

最後に, $\mathrm{Hom}(A, B)$がバナッハ空間になることを示します.

命題1の証明

$(T_n)_{n \in \mathbb{N}}$$\mathrm{Hom}(A, B)$のコーシー列とする. 線形写像$T: A \rightarrow B$を以下で定める:

$a \in A$とする. $||T_n (a) - T_m (a)||_B \le ||T_n - T_m|| \ ||a||_A$であり, $(T_n)_{n \in \mathbb{N}}$はコーシー列なので, $||T_n - T_m|| \rightarrow 0$ $(n, m \rightarrow \infty)$. よって, $(T_n (a))_{n \in \mathbb{N}}$$B$のコーシー列である. $B$はバナッハ空間なので, $\displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty}T_n (a) = b_a$となる$b_a \in B$が存在する. $T(a) := b_a$と定める. 和とスカラー倍は極限で保たれるので, $T$は線形写像である.

まず, $T$が有界作用素であることを示す. そのために$(||T_n||)_{n \in \mathbb{N}}$が有界であることを見る. 実際, 十分大きな$N \in \mathbb{N}$をとれば, $n \gt N$に対しては$||T_n|| \lt ||T_N|| + 1$とできるので, $M = \max \{||T_1||, \cdots , ||T_{N-1}||, ||T_N|| + 1 \}$とおけば, $||T_n|| \le M$ $(n=1, 2, \cdots)$. よって, すべての$a \in A$に対して$||T(a)|| \le M ||a||_A$.

続いて, $T_n \rightarrow T$ $(n \rightarrow \infty)$を示す. 正の数$\epsilon$を任意にとる. 十分大きな$N \in \mathbb{N}$をとれば, $n, m \gt N$に対して, $||T_n (a) - T_m (a)|| \lt \epsilon ||a||_A$ がすべての$a \in A$に対して成り立つ. $m \rightarrow \infty$とすれば$||T_n(a) - T(a)|| \lt \epsilon ||a||_A$ $(a \in A)$. $\epsilon$は任意($a$によらず)だったので, $||T_n - T|| \rightarrow 0$ $(n \rightarrow \infty)$.

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更新日:129

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投稿者

名古屋の大学生です。整数論を研究したいです。

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