この記事の目標は, 行列と呼ばれる数学において基本的な概念を知り, その演算や正則行列などの特殊な行列に慣れることです.
内容としては次の順番で進めます.
※前提知識として, ちょっとした集合論と高校数学のベクトルおよび複素数平面を仮定します。
あまり行列という言葉に聞き覚えがないかもしれませんが, 高校数学で習ったベクトルは, $m\times 1$行列 (縦ベクトル)あるいは, $1 \times n$行列 (横ベクトル) のことです. 行列は高校で習うベクトルの拡張と思えばよいでしょう.
さっそく行列を定義してみましょう.
$m,n \in \mathbb{N}$ に対して, $mn$個の $a_{ij} \in \mathbb{C} \quad(i=1,...,m ~,~ j=1,...,n)$ を以下のように並べたものを, (複素)$m \times n$ 行列(matrix)という.
$A=\begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n}\\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n}\\
\vdots & \vdots & & \vdots\\
a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn}
\end{pmatrix}$
以下この行列をAとする.
定義をしたので, 実際に例を見てみましょう!!
行列自体はただ複素数を並べただけのものなので, 難しくないですね!!
行列の定義において, 成分は複素数の元であると課しましたが, 本当はもっと広く体(大雑把に言って"四則演算ができるもの")や環(大雑把にいって"割り算以外の四則演算ができるもの")であってもよいです.
ここでは簡単のために, 複素数に限定します.
二つの行列が与えられたとき, その二つの行列が同じとはどういうときでしょうか??
感覚的には, 型が同じで各成分が同じときに, 二つの行列は同じと定めたいですよね.
実際その通りに定めてみましょう!!
$A=(a_{ij}):m\times n$行列 $, B=(b_{ij}):k \times l$行列
二つの行列$A$と$B$が 等しい とは, 次の二つの条件を満たすことである.
このとき, A=B と表記する.
実際に二つの行列が等しいか等しくないかを判別してみましょう!
[1] $A=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix},\quad B=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix}$
このとき, $A$と$B$はともに $2\times2$ 行列であり, 対応するすべての成分が等しいので, $A=B$ である.
[2] $C=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix},\quad D=\begin{pmatrix}1&2\\3&5\end{pmatrix}$
このとき, $C$と$D$はともに $2\times2$ 行列であるが, $(2,2)$成分が異なるので, $C\neq D$ である.
以上, 行列の定義と二つの行列が等しいことの定義でした!
行列とは複素数をただ並べただけのものでした. 流石にそれだけではなにもできないので, 次は行列に和やスカラー倍や積と呼ばれる演算を定めてみましょう!!
まずは行列の和とスカラー倍を定義しましょう. 高校で習うベクトルの拡張と思えばそれぞれ各成分を足し合わせる, 各成分をスカラー倍すると定めればよさそうです.
$A=(a_{ij}):m\times n$行列$, B=(b_{ij}):m\times n$行列
$A$と$B$の 和 (sum) とは, (i,j)成分が $a_{ij}+b_{ij}$ となっている $m \times n$行列のことである.
この行列を $A+B$ と表記する.
$A+B=$ $\begin{pmatrix} a_{11}+b_{11} & a_{12}+b_{12} & \cdots & a_{1n}+b_{1n}\\ a_{21}+b_{21} & a_{22}+b_{22} & \cdots & a_{2n}+b_{2n}\\ \vdots & \vdots & & \vdots\\ a_{m1}+b_{m1} & a_{m2}+b_{m2} & \cdots & a_{mn}+b_{mn} \end{pmatrix}$
$A=(a_{ij}):m\times n$行列$, c\in\mathbb{C}$
$A$の c倍 とは, $(i,j)$成分が $ca_{ij}$ となっている$m\times n$行列のことである.
この行列を $cA$ と表記する.
$cA=$ $\begin{pmatrix} ca_{11} & ca_{12} & \cdots & ca_{1n}\\ ca_{21} & ca_{22} & \cdots & ca_{2n}\\ \vdots & \vdots & & \vdots\\ ca_{m1} & ca_{m2} & \cdots & ca_{mn} \end{pmatrix}$
[1] $A=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix},\quad B=\begin{pmatrix}5&6\\7&8\end{pmatrix}$
$A+B = \begin{pmatrix} 1&2\\ 3&4 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} 5&6\\ 7&8 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1+5&2+6\\ 3+7&4+8 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 6&8\\ 10&12 \end{pmatrix}$
[2] $A=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix}$
$2A = 2\begin{pmatrix} 1&2\\ 3&4 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 2\cdot1&2\cdot2\\ 2\cdot3&2\cdot4 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 2&4\\ 6&8 \end{pmatrix}$
特に難しいことはありませんね!!
一応ですが, 行列の和は同じ型の行列同士でのみ定義されていることに注意しましょう!
次に行列の積を定義しましょう. もしかすると初見では難しいかもしれませんが, 具体例を見てみるとやってることが分かりやすいと思います!
ちなみに, 積という言葉が入っていますが, 高校でやったベクトルの内積やベクトル積(外積)は全く別の概念なので注意してください.
$A=(a_{ij}):m\times n$行列 , $ B=(b_{ij}):n\times l$行列
$A$と$B$の 積 (product) とは, $(i,j)$成分が
$\displaystyle\sum_{k=1}^{n}a_{ik}b_{kj}$ となっている $m\times l$行列のことである.
この行列を $AB$ と表記する.
$AB= \begin{pmatrix} \displaystyle\sum_{k=1}^{n}a_{1k}b_{k1} & \displaystyle\sum_{k=1}^{n}a_{1k}b_{k2} & \cdots & \displaystyle\sum_{k=1}^{n}a_{1k}b_{kl} \\ \displaystyle\sum_{k=1}^{n}a_{2k}b_{k1} & \displaystyle\sum_{k=1}^{n}a_{2k}b_{k2} & \cdots & \displaystyle\sum_{k=1}^{n}a_{2k}b_{kl} \\ \vdots & \vdots & & \vdots \\ \displaystyle\sum_{k=1}^{n}a_{mk}b_{k1} & \displaystyle\sum_{k=1}^{n}a_{mk}b_{k2} & \cdots & \displaystyle\sum_{k=1}^{n}a_{mk}b_{kl} \end{pmatrix}$
和やスカラー倍に比べてすごく複雑ですね...
実際に具体例を見て理解を深めましょう!!
[1] $A=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix},\quad B=\begin{pmatrix}5&6\\7&8\end{pmatrix}$ とすると,
$AB =\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix} \begin{pmatrix}5&6\\7&8\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}1\cdot5+2\cdot7&1\cdot6+2\cdot8\\3\cdot5+4\cdot7&3\cdot6+4\cdot8\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}19&22\\43&50\end{pmatrix}$
[2] $A=\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\end{pmatrix},\quad B=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\\5&6\end{pmatrix}$ とすると,
$AB =\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1&2\\3&4\\5&6\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}1\cdot1+2\cdot3+3\cdot5&1\cdot2+2\cdot4+3\cdot6\\4\cdot1+5\cdot3+6\cdot5&4\cdot2+5\cdot4+6\cdot6\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}22&28\\49&64\end{pmatrix}$
なんとなく感覚がつかめたでしょうか??
$(i,j)$成分を求めるときは, $A$の$i$行とBの$j$列の対応する成分を掛けた後すべてを足し合わせてるんですね~
(先人たちがなぜこのように定義しようと思ったのかは僕は知りませんが, こう定義すると凄く便利なんです!)
行列の積は左から掛ける行列の列数と右側から掛ける行列の行数が一致しているときに定義されることに注意しましょう!
さて, 演算を定めたことで, 次の演算法則がなりたちます.
確認してみましょう.
$A,B,C:$行列 , $a,b \in \mathbb{C}$
それぞれの両辺がきちんと定義されているとき, 以下の演算法則が成立する.
やる気が出れば自分でやってみてください!! 最後は難しいかも...
(打つのがめんどくさいなんて言えない...)
このような類は自分で具体例を作って計算してみることをおすすめします.
行列の演算法則に載せなかった通り, 行列の積の順番は勝手に入れ替えてはいけません!!(つまり一般的に交換法則は成立しないです!!)
実際, $A:m \times n$行列 , $B:n \times l$行列 であるとき, そもそも $m \neq l$ なら$BA$という行列の積は定義できないし, $m=l$ でも,
例えば
$A=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix},\ B=\begin{pmatrix}1&0\\1&1\end{pmatrix}$ とすると, $AB=\begin{pmatrix}2&1\\1&1\end{pmatrix}\neq\begin{pmatrix}1&1\\1&2\end{pmatrix}=BA$
となり, 可換ではないです!!
以上, 行列の演算の定義とその諸性質でした!
行列をいくつかのブロックに区切ってみると, 行列の積をサイズの小さな行列の積にできて, 便利な時があります. ここでは行列の区分けについて軽く解説します.
まずは, 行列の区分けについて紹介します.
$A=(a_{ij}):m\times n$行列.
$A$を, $p-1$本の横線と$q-1$本の縦線によって, $pq$個の区画に分ける. 上から$i$番目, 左から$j$番目の区画の行列を$A_{ij}$とするとき,
$A= \begin{pmatrix} A_{11}&A_{12}&\cdots&A_{1q}\\ A_{21}&A_{22}&\cdots&A_{2q}\\ \vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\ A_{p1}&A_{p2}&\cdots&A_{pq} \end{pmatrix}$ と書く. これを行列$A$の 区分け と呼ぶ
このとき, 各$A_{ij}$を$A$の ブロック (block)という.
行列の区分けが時々便利なのは, 区分けの仕方がよければ次のようにあたかもブロックを行列の成分のように思って計算できるからです.
(i) $A,B:m \times n$行列とし, 同じように区分けした以下のものを考える.
$A= \begin{pmatrix} A_{11}&A_{12}\\ A_{21}&A_{22} \end{pmatrix}, \quad B= \begin{pmatrix} B_{11}&B_{12}\\ B_{21}&B_{22} \end{pmatrix}$
このとき, $A+B= \begin{pmatrix} A_{11}+B_{11}&A_{12}+B_{12}\\ A_{21}+B_{21}&A_{22}+B_{22} \end{pmatrix}$
(ii) $A:l\times m$行列, $B:m\times n$行列 とし, $A$の列方向と$B$の行方向の区分けを一致させた以下のものを考える.
$A= \begin{pmatrix} A_{11}&A_{12}\\ A_{21}&A_{22} \end{pmatrix}, \quad B= \begin{pmatrix} B_{11}&B_{12}\\ B_{21}&B_{22} \end{pmatrix}$
このとき, $AB= \begin{pmatrix} A_{11}B_{11}+A_{12}B_{21}&A_{11}B_{12}+A_{12}B_{22}\\ A_{21}B_{11}+A_{22}B_{21}&A_{21}B_{12}+A_{22}B_{22} \end{pmatrix}$
やる気が出れば自分でやってみてください!!
(打つのがめんどくさいなんて言えない...)
ちなみに, (ii)の「列方向と$B$の行方向の区分けを一致させた以下のものを考える」という条件は各ブロックの積が定義できるようにするための条件です.
$A= \begin{pmatrix} \begin{array}{cc|cc} 1&1&1&1\\ 1&1&1&1\\ \hline 0&0&1&1 \end{array} \end{pmatrix}, \quad B= \begin{pmatrix} \begin{array}{cc|c} 1&1&1\\ 1&1&1\\ \hline 0&0&1\\ 0&0&1 \end{array} \end{pmatrix}$ とする.
このとき,
$AB=
\begin{pmatrix}
A_{11}&A_{12}\\
A_{21}&A_{22}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
B_{11}&B_{12}\\
B_{21}&B_{22}
\end{pmatrix}$
$= \begin{pmatrix} A_{11}B_{11}+A_{12}B_{21}&A_{11}B_{12}+A_{12}B_{22}\\ A_{21}B_{11}+A_{22}B_{21}&A_{21}B_{12}+A_{22}B_{22} \end{pmatrix}$
$= \begin{pmatrix} \begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix} + \begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix} \begin{pmatrix}0&0\\0&0 \end{pmatrix} & \begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix} + \begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix} \\ \begin{pmatrix}0&0\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix} + (1\quad1) \begin{pmatrix}0&0\\0&0\end{pmatrix} & \begin{pmatrix}0&0\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix} + \begin{pmatrix}1&1\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix} \end{pmatrix}$
$= \begin{pmatrix} \begin{pmatrix}2&2\\2&2\end{pmatrix}& \begin{pmatrix}4\\4\end{pmatrix} \\ \begin{pmatrix}0&0\end{pmatrix}& (2) \end{pmatrix}$
$= \begin{pmatrix} \begin{array}{cc|c} 2&2&4\\ 2&2&4\\ \hline 0&0&2 \end{array} \end{pmatrix}$.
この命題はもっとより一般的に区分けを多くしても言えるのですが, 厳密にやりすぎてやる気を失うのもよくないので, ここでは省略しておきます. 気になる方は例えば, 斎藤正彦先生の線型代数入門(東京大学出版会) のp39などを参照されるとよいと思います.
以上, 行列の区分けについてでした!!
ここでは行列の行と列を入れ替えたものである転置行列と成分に複素共役を取った複素共役行列について軽くだけ触れておきます.
まずは転置行列についてです.
$A=(a_{ij}):m\times n$行列
$A$の 転置行列 (transposed matrix) とは, $(i,j)$成分が$a_{ji}$となっている$n\times m$行列のことである.
この行列を ${}^{t}A$ と表記する.
$A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n}\\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n}\\ \vdots & \vdots & & \vdots\\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \end{pmatrix} ~, \quad {}^{t}A= \begin{pmatrix} a_{11} & a_{21} & \cdots & a_{m1}\\ a_{12} & a_{22} & \cdots & a_{m2}\\ \vdots & \vdots & & \vdots\\ a_{1n} & a_{2n} & \cdots & a_{mn} \end{pmatrix}.$
元の行列の$i$行を$i$列に変えただけですね!
実際に例を見てみましょう!
[1] $A=\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\end{pmatrix}$ とすると, ${}^{t}A=\begin{pmatrix}1&4\\2&5\\3&6\end{pmatrix}$
[2] $A=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix}$ とすると, ${}^{t}A=\begin{pmatrix}1&3\\2&4\end{pmatrix}$
転置を取る操作は次の性質が成り立ちます.
やる気が出れば自分でやってみてください!!
(打つのがめんどくさいなんて言えない...)
先ほども言いましたが, この手の類は自分で具体例を作って計算することをおすすめします.
次に複素共役行列についてです.
$A=(a_{ij}):m\times n$行列
$A$の 複素共役行列 (complex conjugate matrix) とは, $(i,j)$成分が$\overline{a_{ij}}$($a_{ij}$の複素共役)となっている$m\times n$行列のことである.
この行列を$\overline{A}$と表記する.
$\overline{A}=$ $\begin{pmatrix} \overline{a_{11}} & \overline{a_{12}} & \cdots & \overline{a_{1n}}\\ \overline{a_{21}} & \overline{a_{22}} & \cdots & \overline{a_{2n}}\\ \vdots & \vdots & & \vdots\\ \overline{a_{m1}} & \overline{a_{m2}} & \cdots & \overline{a_{mn}} \end{pmatrix}$
[1] $A=\begin{pmatrix} 1+i&2-i\\ 3i&4 \end{pmatrix}$ とすると, $\overline{A}=\begin{pmatrix} 1-i&2+i\\ -3i&4 \end{pmatrix}$
[2] $A=\begin{pmatrix} 1&2\\ 3&4 \end{pmatrix}$ とすると, $\overline{A}=\begin{pmatrix} 1&2\\ 3&4 \end{pmatrix}=A$
複素共役を取る操作は次の性質が成り立ちます.
(最後は転置行列の性質といっていいかもしれませんが...)
やる気が出れば自分でやってみてください!!
(打つのがめんどくさいなんて言えない...)
以上, 転置行列と複素共役行列の紹介でした!!
ここでは正方行列を紹介し, その中でも特に重要な正則行列について解説します.
まずは正方行列を定義しましょう!
正方行列とは行と列の数が同じ行列のことです!!
$A:$行列
$A$が (n次)正方行列 (square matrix) であるとは, $A$が$n \times n$行列であることをいう.
$A=\begin{pmatrix}a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n}\\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n}\\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots\\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn} \end{pmatrix}$
$n\times n$行列 $A=(a_{ij})$ に対して, $a_{11},a_{22},\ldots,a_{nn}$ を 対角成分 (diagonal elements) という.
対角成分が全て1で, それ以外の成分が0である(n次)正方行列を (n次)単位行列 (identity matrix) といい, $E_n$ と表記する.
$E_n= \begin{pmatrix} 1&0&\cdots&0\\ 0&1&\cdots&0\\ \vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\ 0&0&\cdots&1 \end{pmatrix}$
$\begin{pmatrix} a_{11}&0&\cdots&0\\ 0&a_{22}&\cdots&0\\ \vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\ 0&0&\cdots&a_{nn} \end{pmatrix}$
[1] $A=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix}$ は $2\times2$ 行列なので, $2$次正方行列
[2] $A=\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\\7&8&9\end{pmatrix}$ は $3\times3$ 行列なので, $3$次正方行列
単位行列の重要な性質を見ておきましょう.
$A=(a_{ij}):m \times n$行列
$E_n=(e_{ij})$とすると, $e_{ij}= \begin{cases} 1 & (i=j)\\ 0 & (i\ne j) \end{cases}$ である.
したがって, $AE_n$の$(i,j)$成分は $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}a_{ik}e_{kj}=a_{ij}$ となる. よって, $AE_n=A$.
同様にして, $E_mA=A$.
以上より, $AE_n=E_mA=A$.
なんてことないですね!
実数において, 0以外の元には掛けて1になる逆元と呼ばれるものがあります (2だったら$\frac{1}{2}$). 行列でも似たようなことが考えられるでしょうか??
以下で定義する正則行列とは, その行列に掛けると単位行列になるような行列(このような行列を逆行列という)が存在する正方行列のことです.
$A:n$次正方行列
Aが 正則行列 (regular matrix) であるとは, $AB=BA=E_n$ を満たす$n$次正方行列$B$が存在することをいう.
このとき, $B$を$A$の 逆行列 (inverse matrix) といい, $A^{-1}$ と表記する.
[1] $A=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix}$ とする.
このとき, $B=\begin{pmatrix}-2&1\\\frac{3}{2}&-\frac{1}{2}\end{pmatrix}$ とおくと, $AB=BA=E_2$ となるので, $A$は正則行列であり, $B$は$A$の逆行列.
[2] $A=\begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix}$ とする.
この行列には逆行列が存在しないので, $A$は正則行列ではない.
実際, もし$A$が正則行列であると仮定すると, ある$B=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ が存在して
$AB=E_2$ となる.
このとき, $AB = \begin{pmatrix} 1&2\\ 2&4 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a&b\\ c&d \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a+2c&b+2d\\ 2a+4c&2b+4d \end{pmatrix}$ より, $2a+4c=0 $ かつ$a+2c=1$ となる. $a+2c=1$の両辺を$2$倍すると $2a+4c=2$ となり, これは$2a+4c=0$と矛盾する.
実は逆行列が存在するかどうかを判別する方法(同値な言い換え)はいくつかあります. ここでその条件を全て述べるには準備が全く足りないので, 線型代数学をある程度進めたときにまた改めて説明するとしましょう.
逆行列は次の性質を持ちます.
$A:n$次正則行列
$A$の逆行列は一意的である.
すなわち, $B$,$C$ をそれぞれ$A$の逆行列とすると, $B=C$
逆行列の定義から, $AC=E_n$,$BA=E_n$ であることに注意する.
$B=BE_n=B(AC)=(BA)C=E_nC=C$
$A,B:n$次正則行列
次が成立する.
やることは変わらないので, 一つ目だけを示す.
逆行列の一意性から, 実際に $(A^{-1})^{-1}=A$ であることを確かめれば十分.
$A^{-1}$が$A$の逆行列であることの定義から, $A^{-1}A=AA^{-1}=E_n$ が成立.
これはまさに$A^{-1}$の逆行列が$A$であることを意味する.
以上, 正方行列と正則行列についてでした!!
今回のまとめをします.
最後に, 行列を習得するためには何かしら簡単な演習問題を自分でいくつか解くことをおすすめします.
(余裕があるときに作るかもしれませんが, それは何年か先の話かもしれません...)
お疲れさまでした! ちょっと長くなっちゃいました.
ここら辺は定義ばかりで, 特に面白みはあまりないですよね...
(証明も面白くはなく退屈...)
さて, 次回は線型空間を導入する予定です! 一気に抽象度が上がりますが, 個人的にはここからが線型代数学の面白いところです!!
それでは, 最後まで読んでくださりありがとうございました!