!!これは自分用ノートです!!
アティヤ-マクドナルド「可換代数入門」2章の演習問題にある順系と順極限を位相空間上の加群の前層の場合に特化させて記述したもの。開集合 $U$ 上の切断の空間から点$x$における茎への元や射の移行の方法を書いている。
後半には応用として前層の層化の構成で分かりにくかった点を自分なりに考えて補ったメモを載せる。
以下$X$を位相空間とし、点$x \in X$をひとつ固定する。$x$の開近傍全体を$\mathcal{U}_x$で表すことにする。また$A$を単位的可換環とする。
$\mathcal{U}_x$の2元$U_1, U_2$に対して、$U_1 \supseteq U_2$ならば$U_1 \leqq U_2$と定めることにより$\mathcal{U}_x$は半順序集合になる。さらに、$U_{12} := U_1 \cap U_2$は、$U_{12}$は$U_1 \leqq U_{12}$かつ$U_2 \leqq U_{12}$を満たす $\mathcal{U}_x$の元であるから、$\mathcal{U}_x$は有向集合にもなる。(どの $U \in \mathcal{U}_x$も$x$を含むから、$U_{12}$ももちろん$x$を含み、したがって空集合ではないことに注意。)
$\mathcal{F}$を$X$上の$A$-加群の前層とする。
加群の前層の定義から$\mathcal{U}_x$によって添字づけられた$A$-加群の族$\left(\mathcal{F}(U)\right)_{U \in \mathcal{U}_x}$が存在する。$U \supseteq V$なる $U, V \in \mathcal{U}_x$に対して、$\mathcal{F}$の制限写像を $\rho^\mathcal{F}_{V,U}: \mathcal{F}(U) \rightarrow \mathcal{F}(V)$と記すことにする。
前層の制限写像の公理から次が成り立つ:
したがって、$\mathcal{F} = (\mathcal{F}(U), \ \rho^{\mathcal{F}}_{V,U})$は有向集合$\mathcal{U}_x$上の順系を構成する。
$s \in \mathcal{F}(U)$の$V$への制限$\rho^{\mathcal{F}}_{V, U}(s)$のことを$s|_{V}$とも書くことにする。
$C := \bigoplus_{U \in \mathcal{U}_x} \mathcal{F}(U)$とおく。各$\mathcal{F}(U)$を標準的な包含写像$\mathcal{F}(U) \hookrightarrow C$の像と同一視する。$U \supseteq V$かつ $s_U \in \mathcal{F}(U)$のとき、$s_U - \rho^{\mathcal{F}}_{V,U}(s_U)$という形のすべての元によって生成される$C$の部分加群を$D$とする。$\mathcal{F}_x := C / D$とし、$\rho^{\mathcal{F}}_x: C \rightarrow \mathcal{F}_x$を射影、$\rho^{\mathcal{F}}_{x, U}$を$\rho^{\mathcal{F}}_x$の$\mathcal{F}(U)$への制限とする。加群$\mathcal{F}_x$、すなわち、より正確に言えば、$\mathcal{F}_x$とすべての準同型写像$\rho^{\mathcal{F}}_{x,U}: \mathcal{F}(U) \rightarrow \mathcal{F}_x$の族との組は順系$\mathcal{F}$の順極限$\displaystyle\lim_{\longrightarrow}\mathcal{F}(U)$であるが、これが前層$\mathcal{F}$の点$x\in X$における茎である:
\begin{equation}
\mathcal{F}_x = \lim_{\longrightarrow}\mathcal{F}(U).
\end{equation}
準同型写像$\rho^{\mathcal{F}}_{x, U}$を茎への移行写像と呼ぶことにする。(本稿独自の用語。一般的ではない。)
作り方から、$U \supseteq V$のとき$\rho^{\mathcal{F}}_{x, U} = \rho^{\mathcal{F}}_{x, V}\circ\rho^{\mathcal{F}}_{V,U}$が成り立つ。
茎$\mathcal{F}_x$のすべての元はある$U \in \mathcal{U}_x$とある$s_U \in \mathcal{F}(U)$により$\rho^{\mathcal{F}}_{x,U}(s_U)$という形で表される。
$\rho^{\mathcal{F}}_{x, U}(s_U) = 0$ならば、$V \subseteq U$なる$V \in \mathcal{U}_x$が存在し、$\mathcal{F}(V)$において$\rho^{\mathcal{F}}_{V,U}(s_U) = 0$となる。
これを用いると、2つの切断$s, t$が点$x \in X$で定める2つの芽$s_x, t_x$が一致すれば、$s$と$t$は$x$のある近傍で一致するということがわかる。
正確に述べると以下のようになる:
$U, U' \in \mathcal{U}_x$ について それぞれの上の切断$s \in \mathcal{F}(U)$, $t \in \mathcal{F}(U')$が点$x$で定める芽$s_x, t_x \in \mathcal{F}_x$が等しいとする: $s_x = t_x$, ただし $s_x = \rho^\mathcal{F}_{x,U}(s)$, $t_x = \rho^\mathcal{F}_{x, U'}$.
このとき、ある $V \in \mathcal{U}_x$で $U \supseteq V$かつ$U' \supseteq V$なるものが存在し、$s$と$t$は$V$上に制限すると一致する: $s|_{V} = t|_{V}$.
$\mathcal{U}_x$が有向集合であるから$U \supseteq W$ かつ $U' \supseteq W$なる$W\in \mathcal{U}_x$が存在する。$s, t$の$W$への制限$s|_W$, $t|_W$はともに$\mathcal{F}(W)$の元であるからそれらの差を考えることができる。そこで$\Delta = s|_W - t|_W$とおく。$\Delta$を$x$における茎へ移行する、すなわち $\rho^{\mathcal{F}}_{x,W}$を施すと、
\begin{align}
\rho^{\mathcal{F}}_{x,W}(\Delta) &= \rho^{\mathcal{F}}_{x, W}(s|_W) - \rho^{\mathcal{F}}_{x,W}(t|_W) \\
&= (\rho^{\mathcal{F}}_{x, W}\circ\rho^{\mathcal{F}}_{W,U})(s)
- (\rho^{\mathcal{F}}_{x,W}\circ\rho^{\mathcal{F}}_{W,U'})(t) \\
&= \rho^{\mathcal{F}}_{x, U}(s) - \rho^{\mathcal{F}}_{x,U'}(t) \\
&= s_x - t_x \\
&= 0 \ \ (\text{仮定より}).
\end{align}
すると例4の後半より、ある$V \subseteq W$なる$V \in \mathcal{U}_x$が存在して、$\Delta |_V = 0$となる。すなわち、
\begin{align}
0 &= \Delta |_V \\
&= (s|_W - t|_W)|_V \\
&= \rho^{\mathcal{F}}_{V,W}\left(\rho^{\mathcal{F}}_{W,U}(s) - \rho^{\mathcal{F}}_{W,U'}(t)\right) \\
&= (\rho^{\mathcal{F}}_{V,W}\circ\rho^{\mathcal{F}}_{W,U})(s) - (\rho^{\mathcal{F}}_{V,W}\circ\rho^{\mathcal{F}}_{W,U'})(t) \\
&= \rho^{\mathcal{F}}_{V,U}(s) - \rho^{\mathcal{F}}_{V, U'}(t) \\
&= s|_V - t|_V.
\end{align}
$\therefore \ s|_V = t|_V$.
$\mathcal{F}$, $\mathcal{G}$を$X$上の$A$-加群の前層とする。
$\mathcal{F}_x$, $\mathcal{G}_x$を点$x \in X$におけるそれぞれの茎とし、
$\rho^\mathcal{F}_{x, U}: \mathcal{F}(U) \rightarrow \mathcal{F}_x$,$\rho^\mathcal{G}_{x, U}: \mathcal{G}(U) \rightarrow \mathcal{G}_x$をそれぞれ対応する茎への移行写像とする。
前層の射$\Phi: \mathcal{F} \rightarrow \mathcal{G}$, すなわち、$A$-準同型写像の族$\left\{\phi_U: \mathcal{F}(U) \rightarrow \mathcal{G}(U)\right\}_{U \in \mathcal{U}}$で、下の図式を可換にするものが与えられたとする。
$$ \xymatrix{ \mathcal{F}(U) \ar[r]^{\rho^\mathcal{F}_{V,U}} \ar[d]_{\phi_U} & \mathcal{F}(V) \ar[d]^{\phi_V} \\ \mathcal{G}(U) \ar[r]^{\rho^\mathcal{G}_{V, U}} & \mathcal{G}(V) } $$
このとき $\Phi$は茎における$A$-加群の一意の準同型写像$\phi_x = \displaystyle\lim_{\longrightarrow}\phi_U: \mathcal{F}_x \longrightarrow \mathcal{G}_x$で、
${}^\forall V \in \mathcal{U}_x$に対して$\phi_x\circ\rho^\mathcal{F}_{x,V} = \rho^\mathcal{G}_{x,V}\circ\phi_V$を満たすものを導く(下図参照)。
$$ \xymatrix{ \mathcal{F}(U) \ar[r]^{\rho^\mathcal{F}_{V,U}} \ar[d]_{\phi_U} & \mathcal{F}(V) \ar[d]^{\phi_V} \ar[r]^{\rho^\mathcal{F}_{x, V}} & \mathcal{F}_x \ar[d]^{\phi} \\ \mathcal{G}(U) \ar[r]^{\rho^\mathcal{G}_{V, U}} & \mathcal{G}(V) \ar[r]^{\rho^\mathcal{G}_{x, V}} & \mathcal{G}_x } $$
具体的には、$\phi_x$は次のように構成する:
$s_x \in \mathcal{F}_x$とすると、ある$U \in \mathcal{U}_x$ と $s_U \in \mathcal{F}(U)$が存在して、$s_x = \rho^\mathcal{F}_{x, U}(s_U)$と代表される(例4の1つ目の statement 参照)。
この $s_U$を用いて$\phi(s_x) := \rho^\mathcal{G}_{x,U}\circ\phi_U(s_U)$と定める。
TODO: これが代表元の取り方によらないことを示せ。
TODO: これが${}^\forall V \in \mathcal{U}_x$に対して$\phi\circ\rho^\mathcal{F}_{x,V} = \rho^\mathcal{G}_{x,V}\circ\phi_V$を満たすことを示せ。
この節は上野健爾著:代数幾何(以下[上野]とする)の記述に基づく。それによれば、前層$\mathcal{G}$の層化${}^a\mathcal{G}$の$U \subset X$上の切断の空間は
$$
{}^a\mathcal{G} := \left\{
\{s(x)\} \in \prod_{x\in U} \mathcal{G}_x \middle|
\begin{matrix}
&\text{$x$の開近傍$V \subset U$と $t \in \mathcal{G}(V)$を} \\
&\text{$t_y = s(y)$, $y \in V$ が成立するように選ぶことができる.}
\end{matrix}
\right\}\tag{1} \label{sheafification-condition}
$$
と定義される。そしてこのとき、前層の普遍的な射$\theta: \mathcal{G} \longrightarrow {}^a\mathcal{G}$が
\begin{align}
\theta_U: \mathcal{G}(U) &\longrightarrow {}^a\mathcal{G}(U) \\
t &\longmapsto \{t_x\}_{x \in U}
\end{align}
によって定められる。ただし$U$は$X$の開集合、$t_x$は$t \in \mathcal{G}$の点$x$での芽である。
元の前層$\mathcal{G}$とその層化${}^a\mathcal{G}$について、点$x\in X$上の両者の茎$\mathcal{G}_x$と${}^a\mathcal{G}_x$は同型である。
これは[上野]例題4.2に相当する。そこでは $s_x = t_x$と主張されているが、実際には等号ではなく同型とするのがより適切に思われる。[イヴァセン]命題2.4では等号ではなく同型と主張されている。
hom-at-a-stalkにより$\theta_U: \mathcal{G}(U) \rightarrow {}^a\mathcal{G}(U)$ が茎に誘導する加群の準同型写像$\theta_x: \mathcal{G}_x \rightarrow {}^a\mathcal{G}_x$が同型であることを示す。
まずhom-at-a-stalkによると、$\theta_x$は次のように定まるのだった: $\mathcal{G}_x$の各元は$x$のある開近傍$V$とその上の切断$t \in \mathcal{G}(V)$を用いて $t_x := \rho^\mathcal{G}_{x, V}(t)$と表される。(これはex15の前半から言える。)この$t$を用いて$\theta_x(t_x) := \rho^{{}^a\mathcal{G}}_{x, V}\circ\theta_V(t)$と定めるのであった。これが代表元$t \in \mathcal{G}(V)$の取り方に依らないこともそこで述べた。$\theta_V(t) = \{t_y\}_{y \in V}$という形をしていて、これを茎に移行した$\rho^{{}^a\mathcal{G}}_{x, V}(\{t_y\}_{y \in V})$というものが少し分かりにくい点に難しさがある。直感的には$\rho^{{}^a\mathcal{G}}_{x, V}(\{t_y\}_{y \in V}) = t_x$としたいところであるが、本当は波括弧$\{\}$で束ねられたものを茎へ移行せねばならず、あくまでも定義どおりにやるならばこれは$t_x$そのものではない。
さてともかく同型を示すために、逆方向の写像を構成してみよう。${}^a\mathcal{G}(U)$の元$s_U$はもとの前層の芽$s(x) \in \mathcal{G}_x$を$x \in U$に渡って束ねた形をしている: $s_U = \{s(x)\} \in \prod_{x \in U} \mathcal{G}_x$.したがって、射影$\pi_U: {}^a\mathcal{G}(U) \rightarrow \mathcal{G}_x;\ s_U \mapsto s(x)$を考えることができる。(これは波括弧$\{\}$で束ねた芽$s(y), y\in U$たちから点$x$における芽だけを引き抜いてくる写像である。)これは明らかに加群の準同型写像である。
(TODO: アティマク演習問題16相当の例を書く。)
$\pi_U$を${}^a\mathcal{G}$の茎に移行すれば、所望の写像$\pi_x: {}^a\mathcal{G}_x \rightarrow \mathcal{G}_x$が得られる。[アティマク演習問題16相当]によるとこの$\pi_x$は$s \in {}^a\mathcal{G}_x$を代表する$V$と$s_V = \{s(y)\}_{y\in V}\in{}^a\mathcal{G}(V)$ s.t. $s = \rho^{{}^a\mathcal{G}}_{x, V}(s_V)$を見つけてきて、$\pi_x(s) := \pi_V(s_V) = s(x)$とする写像である。
次に、この$\pi_x$が$\theta_x$の左側逆写像であること、すなわち、
$$
\pi_x \circ \theta_x = \text{id}_{\mathcal{G}_x}
$$
であることを示す。
$\mathcal{G}_x$の元がある$V \in \mathcal{U}_x$と$t \in \mathcal{G}(V)$によって$t_x := \rho^{\mathcal{G}}_{x, V}(t)$と表されているとしよう。上に述べたことにより、$\theta_x(t_x) = \rho^{{}^a\mathcal{G}}_{x, V}\circ\theta_V(t) = \rho^{{}^a\mathcal{G}}_{x, V}(\{t_y\}_{y\in V})$.これはさらに$\pi_x$について述べたことにより、$\theta_V(t) = \{t_y\}_{y\in V}$が$\theta_x(t_x) \in {}^a\mathcal{G}_x$を代表していることを意味する。したがって$\pi_x(\theta_x(t_x)) = \pi_V(\theta_V(t)) = \pi_V(\{t_y\}_{y \in V}) = t_x$.これで$\pi_x \circ \theta_x = \text{id}_{\mathcal{G}_x}$が示された。
さらに、$\theta_x$が全射であることを示す。
$s \in {}^a\mathcal{G}_x$とする。ある$V \in \mathcal{U}_x$と$s_V = \{s(y)\}_{y\in V}$により$s = \rho^{{}^a\mathcal{G}}_{x, V}(s_V)$と表される。層化の切断の空間の条件\eqref{sheafification-condition}より、必要なら$V$をさらに小さな$x$の開近傍に取り直せば、ある$t\in\mathcal{G}(V)$によって$s(y) = t_y, \ y\in V$が成り立つようにできる: $s_V = \{t_y\}_{y \in V}$. これは$V$上で$s_V = \theta_V(t)$であることを意味する。したがって$s = \rho^{{}^a\mathcal{G}}_{x, V}(s_V) = \rho^{{}^a\mathcal{G}}_{x, V}(\theta_V(t)) = \rho^{{}^a\mathcal{G}}_{x, V}\circ\theta_V(t) = \theta_x(t_x)$. 以上より$\theta_x$は全射とわかった。
最後に$\theta_x$の単射性はすぐに分かる。$t_x, t'_x \in \mathcal{G}_x$に対して$\theta_x(t_x) = \theta_x(t'_x)$であるとすると、左から$\pi_x$を作用させれば$t_x = t'x$. よって単射である。
$\theta_x: \mathcal{G}_x \longrightarrow {}^a\mathcal{G}_x$ は全単射準同型であり、さらに準同型な左側逆写像$\pi_x: {}^a\mathcal{G}_x \longrightarrow \mathcal{G}_x$が存在することが言えたので同型写像であることが言えた。$\therefore \mathcal{G}_x \simeq {}^a\mathcal{G}_x$.
$\psi = {}^a\psi \circ \theta$である。すなわち以下の図式は可換である:
$$
\xymatrix{
\mathcal{G}(U) \ar[rr]^{\psi_U} \ar[dr]_{\theta_U} & & \mathcal{H}(U). \\
& ^a\mathcal{G}(U) \ar[ru]_{{}^a\psi_U}
}
$$