実行列$A=(a_{ij})$に対して,$||A||=\sum_{i,j}|a_{ij}|$とおく.行列
$$B=\begin{pmatrix}3&1&-1\\-2&1&1\\0&1&1\end{pmatrix}$$
について,$\lim_{n\to\infty}||B^n||^{1/n}$を求めよ.
まず,
「$n$次行列$A$のべき乗$A^k$の挙動は$A$の固有値の挙動と密接な関係を持つ」という事実がキーとなります(参考文献[1]).
このことを説明するために,スペクトル半径という概念を導入します.
$n$次行列$A$の固有値を$\lambda_1,\cdots,\lambda_n$とし,
$$\rho(A)=\max_i|\lambda_i|$$
とおく.$\rho(A)$を$A$のスペクトル半径と呼びます.
これについて以下が成り立ちます.
$$\lim_{k\to\infty}A^k=O\Leftrightarrow\rho(A)<1$$
また,$\rho(A)>1$ならば,$\displaystyle \lim_{k\to\infty}||A^k||=\infty$が成り立つ.
ジョルダン標準形の理論により,$A$はある正則行列$P$を用いて
$$P^{-1}AP=\begin{pmatrix}J_1&&\\&\ddots&\\&&J_m\end{pmatrix}=J$$
とかける.ここに各$J_i$はジョルダンブロックを表す.
$J_i$の次数を$p$とすれば,$k\ge p$のとき
$$J_i^k=
\begin{pmatrix}
\lambda_i^k&
\begin{pmatrix}k\\1\end{pmatrix}\lambda_i^{k-1}&
\begin{pmatrix}k\\2\end{pmatrix}\lambda_i^{k-2}&
\cdots&
\begin{pmatrix}k\\p-1\end{pmatrix}\lambda_i^{k-p+1}\\
&
\lambda_i^k&
\begin{pmatrix}k\\1\end{pmatrix}\lambda_i^{k-1}&
&
\vdots\\
&
&
\ddots&
\ddots&
\vdots\\
&&&\ddots&\begin{pmatrix}k\\1\end{pmatrix}\lambda_i^{k-1}&\\
&&&&\lambda_i^k
\end{pmatrix}$$
となるので,
$$\lim_{k\to\infty}J_i^k=O\Leftrightarrow\lim_{k\to\infty}\begin{pmatrix}k\\j\end{pmatrix}\lambda_i^{k-j}=0$$
が成り立つ.
$\begin{pmatrix}k\\j\end{pmatrix}$の部分は$k^i$のオーダーで増加するので,
$$\lim_{k\to\infty}\begin{pmatrix}k\\j\end{pmatrix}\lambda_i^{k-j}=0\Leftrightarrow|\lambda_i|<1$$
である.
よって
$$\lim_{k\to\infty}A^k=O\Leftrightarrow\lim_{k\to\infty}J_i^k=O\Leftrightarrow|\lambda_i|<1\Leftrightarrow\rho(A)<1$$
である.
二つ目の主張は例えばジョルダンブロックの対角成分を考えれば明らかであろう.
さて,これを用いて本丸の定理を示しましょう.
$$\rho(A)=\lim_{n\to\infty}||A^n||^{1/n}$$
$\varepsilon$を任意の正の実数とする.このとき,
$$\tilde{A}=(\rho(A)+\varepsilon)^{-1}A$$
について,$\rho(\tilde{A})<1$が成り立つので,定理1より
$$\lim_{n\to\infty}\tilde{A}=O$$が成り立つ.よって,自然数$N_1$が存在して,「$n\ge N_1\Rightarrow||\tilde{A}^n||<1$」が成り立つ.$\tilde{A}=(\rho(A)+\varepsilon)^{-1}A$を代入して,ついでに両辺を$1/n$乗すれば,
「$n\ge N_1\Rightarrow||A^n||^{1/n}<\rho(A)+\varepsilon$」が成り立つ.
次に,
$$\hat{A}=(\rho(A)-\varepsilon)^{-1}A$$
を考えると,$\rho(\hat{A})>1$より,自然数$N_2$が存在して,「$n\ge N_2\Rightarrow||\hat{A}^n||>1$」が成り立つ.上と同様に,「$n\ge N_2\Rightarrow||A^n||^{1/n}>\rho(A)-\varepsilon$」が分かる.
ゆえに定理が成り立つ.
もう後はいいですよね.
$$B=\begin{pmatrix}3&1&-1\\-2&1&1\\0&1&1\end{pmatrix}$$
の固有値は計算すると$1,2$なので,答えは$2$です.
今回の記事はWikipediaさんにお世話になりました.Gelfandの公式の証明なんてどこに載っているんでしょうね(泣)