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大学数学基礎解説
文献あり

major indexによるq-二項係数

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正方格子路にmajor indexと呼ばれる統計量を定義し,それに関する母関数がq-二項係数になることを示す.
本記事の元ネタの文献 [1]によると,これはもともと MacMahon の仕事らしい.

major indexによるq-二項係数

ωL(n,r)qmaj(ω)=(n+rr)q
但しL(n,r)(0,0)から(n,r)まで,ステップ(1,0)(0,1)を使って行くパス (注:そういうのを正方格子路という).

元ネタ文献 [1]の練習問題6.4では,area(ω)=kな正方格子路ωmaj(ω)=kな正方格子路ωにうつす全単射を構成して示してたが,以下では趣を変えてパスカルの三角形を経由して示してみる.

ちなみに,統計量majの面白いところは,正方格子路の特殊な場合であるDyck路をmajで数えると,以下のように積で書けるところである [1, 定理6.10].

major indexによるCatalan数のq-拡張

ωDyck(n)qmaj(ω)=1[n+1]q(2nn)q

本稿を通じて以下のq-類似を表す記号を使う.
[n]q1+q++qn1,[n]q![1]q[2]q[n]q,(n+rr)q[n+r]q![n]q![r]q!.

q-二項係数が満たす以下の性質は,もう知ってるとする.(計算すればわかる.)
この式については例えば [2]にも書いてある.

q-二項係数の対称性

(n+rr)q=(n+rn)q

q-パスカルの三角形

(n+rr)q=qn(n+r1r1)q+(n+r1r)q

準備

major index

全順序集合Sの語 (注:語とは元の有限列のことだと思ってよい)ω=ω1ω2ωr(ωiS)に対して,その降下点集合 (set of descents) D(ω)
D(ω){iωi>ωi+1}
と定める.そして,語ωmajor index maj(ω)を,
maj(ω)iD(ω)i
と定める.

major indexの例1

S{1,2,,8}ω=47523816なら,D(ω)={2,3,6}でありmaj(ω)=2+3+6=11である.

major indexの例2

S{A,B} (A>B)ω=BABAABBABなら,D(ω)={2,5,8}でありmaj(ω)=15である.

正方格子路

次に,正方格子路を定義する.ベクトルA,BA(1,0)B(0,1)と定める.

(0,0)から(n,r)への正方格子路とは,
ω=ω1ωn+r(ωi{A,B})
で,その総和が
ω1++ωn+r=(n,r)を満たすものである.
(0,0)から(n,r)への正方格子路の集合をL(n,r)とかく.

ベクトルA,Bの順序関係をA>Bと定めることにより,集合L(n,r)の上の関数majを定義する.

正方格子路の反転操作

正方格子路の集合L(n,r)の部分集合で,末尾がA,Bであるものをそれぞれ
LA(n,r){ω=ω1ωn+rL(n,r)ωn+r=A},LB(n,r){ω=ω1ωn+rL(n,r)ωn+r=B}
と定める.

正方格子路の反転操作.

ωL(n,r)に対する操作flipを,ωに出てくるABを,をれぞれBAに入れ替える操作と定義する.
すると,flipLA(n,r)からLB(r,n)への全単射であり,
ωLA(n,r)に対して
maj(flip(ω))r=maj(ω)
が成り立つ.

これを示すために,正方格子路を置換として扱う方法を考える.

正方格子路の置換への埋め込み

(0,0)から(n,r)への正方格子路をn+r文字の置換へ写す単射
σ:L(n,r)Sn+rをつくる.

ω=ω1ωn+rL(n,r)とする.
ωi=Bとなるような添字iを,小さい順にi1,,irとする.
また,ωj=Aとなるような添字jを,小さい順にj1,,jnとする.
そして,置換σωSn+r
σω(ik)k,(k=1,,r)σω(jk)r+k,(k=1,,n)
と定める.

下記上段のωL(6,4)に対して,下記下段のσωS10をえる.
ω=ABABBAABAA,σω=51623784910.
左にあるBから順にラベル1,2,,をつけて,それが終わったら左にあるAから順にラベルr+1,r+2,をつけると思ってもよい.絵で描くと以下のような感じになる.
埋め込みの例 埋め込みの例

この単射は,統計量majを保存する.つまり,

ωL(n,r)に対してmaj(ω)=maj(σω).

次に,置換を,majが1大きい別の置換に写す操作を考える.

置換のmajor indexを1だけ増やす操作.

{1,,n}の置換σ=σ1σnSn (σi{1,,n})σn1を満たすとし,σi=1 (i<n)だとする.
置換φ(σ)Sn
φ(σ)(σ11)(σi11)n(σi+11)(σn1)
と定める.すると,
maj(σ)+1=maj(φ(σ))
が成立.

言葉で書くと,写像φは,置換に出てくる1nに変えて,それ以外を全部1する写像である.

補題5の証明

もしi1ならば,i1D(σ),iD(σ)であり,
D(φ(σ))=(D(σ){i1}){i}
が成り立つのでmajor indexが1増える.
もしi=1ならば,1D(ω)であり,
D(φ(σ))=D(σ){1}
なので,この場合もmajor indexが1増える.

σ=47523816のときφ(σ)=36412785.
D(σ)={2,3,6}, D(φ(σ))={2,3,7}.
補題5の写像!FORMULA[113][1017910466][0]の説明 補題5の写像φの説明
絵で描くと、写像φは、一番下の段を一番上に移動することに相当する。

補題3の証明

ωLA(n,r)とし,置換への埋め込みσωを考える.
ωの末尾がAこの置換σωは,
φk(σω)(n)1,(k=0,,r1)
を満たし,写像φr回当てることができる.
そして,φr(σω)は,flip(ω)の埋め込みである.補題5より
maj(σω)+r=maj(φr(σω))
であり,補題4から
maj(ω)+r=maj(flip(ω))
を得る.

補題3の説明 補題3の説明
写像flip,σ,φは上図のような可換図式で表される関係にある.

定理1の証明

母関数ωL(n,r)qmaj(ω)が,以下の漸化式を満たすことを示す.

ωL(n,r)qmaj(ω)=qnωL(r1,n)qmaj(ω)+ωL(n1,r)qmaj(ω).

命題6の証明

正方格子路ω=(ω1,,ωn+r)L(n,r)の最後のステップωn+rA,Bのどちらなのか注目すると,以下のように書ける.

ωL(n,r)qmaj(ω)=ωL(n,r),ωn+r=Bqmaj(ω)+ωL(n,r),ωn+r=Aqmaj(ω).

最後のステップがAなら,それを取り去ってもmajor indexは変化しないから,まず
ωL(n,r),ωn+r=Aqmaj(ω)=ωL(n1,r)qmaj(ω)
が言える.
次に,最後のステップがBなら,補題3で定義した操作flipを当てる.すると,flipしたあとの格子路は最後のステップがAになるから,それを取り除く,つまり
ωL(n,r),ωn+r=Bqmaj(ω)=qnωL(r,n),ωn+r=Aqmaj(ω)=qnωL(r1,n)qmaj(ω).

定理1の証明

n+rに関する帰納法による.命題6に帰納法の仮定を使い,二項係数の対称性 (公式1),パスカルの三角形 (公式2)を使って式変形する.
ωL(n,r)qmaj(ω)=(n+r1r)q+qn(n+r1n)q=(n+r1r)q+qn(n+r1r1)q=(n+rr)q

参考文献

投稿日:2023830
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  1. 準備
  2. major index
  3. 正方格子路
  4. 正方格子路の反転操作
  5. 定理1の証明
  6. 参考文献