0

東大数理院試過去問解答例(2021B04)

87
0
$$$$

ここでは東大数理の修士課程の院試の2021B04の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2021B04

$a\mathbb{Z}+b\mathbb{Z}+c\mathbb{Z}=\mathbb{Z}$なる正整数$a,b,c$に対して、環$A=\mathbb{C}[X,Y,Z]/(X^a-Y^bZ^c)$を考える。
(1) $A$ は整域であることを示しなさい。
(2) $a=b$とする。$\mathbb{C}$-代数の単射準同型$A\to\mathbb{C}[V,W]$で以下の条件
(i) 分数体の同型を誘導する
(ii) $\mathbb{C}[V,W]$$A$-加群として有限生成
を満たすものを一つ挙げなさい。

  1. $f:=X^a-Y^bZ^c$が既約多項式であることを示せばよい。まず$\mathbb{C}(Y,Z)$の代数閉包$K$に於いて、$1$の原始$a$乗根を$\omega$としたとき、因数分解
    $$ \prod_{i=1}^a(X-\omega^iY^{\frac{b}{a}}Z^{\frac{c}{a}}) $$
    が取れる。ここで上記の因数分解の$a$個の素因子のうち、$k$個を掛けたものの($K$-係数多項式と見たときの)定数項は$cY^{\frac{bk}{a}}Z^{\frac{ck}{a}}$の型をしている。ここで$f$が既約でないとすると、ある$k< a$について$a|kb$かつ$a|kc$を満たす必要があるが、条件$a\mathbb{Z}+b\mathbb{Z}+c\mathbb{Z}=\mathbb{Z}$より、このようなことは起こり得ない。よって$f$は既約であり、$A$は整域である。
  2. 初めに
    $$ \begin{split} F:\mathbb{C}[X,Y,Z]/(X^a-Y^aZ^c)&\to\mathbb{C}[V,W]\\ f(X,Y,Z)&\mapsto f(VW^c,V,W^a) \end{split} $$
    を考える。これはwell-definedな環準同型である。次に$f(VW^c,V,W^a)=0$とする。ここで
    $$ f=(X^a-Y^aZ^c)g+X^{a-1}g_1+\cdots+Xg_{a-1}+g_a $$
    と表した($g_i$$Y,Z$についての多項式)とき、$(X,Y,Z)=(VW^c,V,W^a)$を代入すると、まず$\mathrm{gcd}(a,c)=1$から各$X^{i}g_{a-i}$の中に於ける$W$の次数を$a$で割った余りは等しく、この余りは項毎に異なる。よって$g_1=\cdots=g_a=0$が従うから、$F$は単射である。次に$F$の像は$B=\mathbb{C}[VW^c,V,W^a]$である。ここで$\mathbb{C}[V,W]=B[W]$であるが、$W$$B$上整であるから、$\mathbb{C}[V,W]$は有限生成$B$-加群であり、条件(ii)が満たされている。次に$as+ct=1$なる整数$s,t$について
    $$ W=\frac{(VW^c)^tW^{as}}{V^t} $$
    であるから、$B$の商体は$\mathbb{C}(V,W)$であり条件(i)が満たされている。以上から$F$は所望の条件を満たしている。
投稿日:20231024

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

佐々木藍(Ai Sasaki)です。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。X(旧Twitter)→@sasaki_aiiro

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中