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大学数学基礎解説
文献あり

ラドン測度はσ有限集合上内部正則である

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下記の定理を証明します.

ラドン測度はσ有限集合上内部正則である.

RVに, この定理が"One can show that ..."と書いてありましたが, 証明がなかったので, 自分で補いました.

なお, 本稿における用語の定義は, RVに従っています. 文献によっては定義が本稿のものと微妙に異なる可能性がありますのでご注意下さい.

はじめに, 測度の定義を復習します.

$\sigma$加法族・可測空間

$X$を集合, $\mathscr{M}_{X}$$X$の部分集合の族とする. $\mathscr{M}_{X}$$X$上の$\sigma$加法族であるとは, 以下の条件をみたすことである.

  1. $X \in \mathscr{M}_{X}$.
  2. $\mathscr{M}_{X}$は補集合について閉じている. すなわち$A \in \mathscr{M}_{X}$ならば, $X \backslash A \in \mathscr{M}_{X}$.
  3. $\mathscr{M}_{X}$は可算合併について閉じている. すなわち$A_{1}, A_{2}, \cdots \in \mathscr{M}_{X}$ならば, $\displaystyle \bigcup_{i=1}^{\infty} A_{i} \in \mathscr{M}_{X}$.

$\sigma$加法族$\mathscr{M}_{X}$の元のことを可測集合とよぶ. 可測空間とは, 集合$X$と, $X$上の$\sigma$加法族$\mathscr{M}_{X}$の組$(X, \mathscr{M}_{X})$のことである. 誤解のおそれがなければ, 単に$X$のことを可測空間とよぶ.

条件(1), (2)より, $\sigma$加法族は空集合$\varnothing$を含み, 条件(2), (3)より, $\sigma$加法族は可算交叉についても閉じていることがわかります (ド・モルガンの法則).

測度・測度空間

$(X, \mathscr{M}_{X})$を可測空間とする. $\mathscr{M}_{X}$上の関数$\mu: \mathscr{M}_{X} \rightarrow [0, \infty]$$(X, \mathscr{M}_{X})$上の測度であるとは, 以下の条件をみたすことである.

  1. $\mu(\varnothing) = 0$.
  2. $A_{1}, A_{2}, ... \in \mathscr{M}_{X}$が互いに交わりを持たない可測集合ならば, $\displaystyle \mu(\bigcup_{i=1}^{\infty}A_{i}) = \sum_{i=1}^{\infty}\mu(A_{i})$.

測度空間とは, 集合$X$, $X$上の$\sigma$加法族$\mathscr{M}_{X}$, $(X, \mathscr{M}_{X})$上の測度$\mu$の組$ (X,\mathscr{M}_{X},\mu)$のことである.

可測集合$A,B$$A \subset B$をみたすならば, 条件2より$\mu(B) = \mu(A) + \mu(B\backslash A)$なので, $\mu(A) \le \mu(B)$であることがわかります.

ボレル集合族・ボレル測度

$X$を位相空間とする. $X$のすべての開集合を含む最小の$\sigma$加法族$\mathscr{B}_{X}$$X$ボレル集合族といい, $\mathscr{B}_{X}$の元をボレル集合, 可測空間$(X, \mathscr{B}_{X})$上の測度をボレル測度という.

$\sigma$加法族の定義から, $\mathscr{B}_{X}$$X$の開集合および閉集合の可算合併と可算交叉を含むことがわかります. とくに, $X$がハウスドルフ空間であれば, コンパクト集合は閉集合なので, コンパクト集合はボレル集合になります.

続いて, ラドン測度を定義します. RVでは局所コンパクト空間しか扱わないので, 測度空間に局所コンパクト性を課していますが, 実際は任意のハウスドルフ空間に一般化できます.

外部正則性

$X$をハウスドルフ空間, $E$$X$のボレル集合とする. $X$上のボレル測度$\mu$$E$において外部正則であるとは, $\mu(E) = \mathrm{inf} \{\mu(U) | E \subset U, \ U \text{は}X\text{の開集合}\}$がなりたつことである.

内部正則性

$X$をハウスドルフ空間, $E$$X$のボレル集合とする. $X$上のボレル測度$\mu$$E$において内部正則であるとは, $\mu(E) = \mathrm{sup} \{\mu(K) | E \supset K, \ K \text{は}X\text{のコンパクト集合}\}$がなりたつことである.

ラドン測度

$X$を局所コンパクトハウスドルフ空間とする. $X$のボレル測度$\mu$ラドン測度であるとは, 以下をみたすことである.

  1. $X$の任意のコンパクト集合$K$に対して, $\mu(K) \lt \infty$.
  2. $\mu$$X$の任意のボレル集合$E$において外部正則.
  3. $\mu$$X$の任意の開集合$U$において内部正則.
σ有限性

$X$をハウスドルフ空間, $\mu$$X$上のボレル測度とする. $X$のボレル集合$E$$\sigma$有限であるとは, $E$$\mu(E_{i}) \lt \infty$となるボレル集合$E_{i}$の可算合併で表されることをいう.

定理1の証明

$X$のボレル集合$E$$\sigma$有限とする.

まず, $\mu(E) \lt \infty$の場合を考える. 正の数$\epsilon$を任意にとる. $\mu$$E$において外部正則なので, $E$を含む開集合$U$が存在して, $\mu(U) \lt \mu(E) + \epsilon$となる. また, $\mu$$U$において内部正則なので, $U$に含まれるコンパクト集合$K$が存在して, $\mu(U) - \epsilon \lt \mu(K)$となる. $\mu(U \backslash E) \lt \epsilon$と外部正則性から, $U \backslash E$を含む開集合$V$で, $\mu(V) \lt \epsilon$となるものが存在する. $K \backslash V$$E$に含まれるコンパクト集合である. ここで,

$$ \mu(K \backslash V) = \mu(K) - \mu(K \cap V) \gt \mu(U) - \epsilon - \mu(V) \gt \mu(E) - 2 \epsilon . $$

$\epsilon$は任意だったので, これは$E$が内部正則であることを意味している.

続いて, $\mu(E) = \infty$の場合を考える. $E$$\sigma$有限だから, $\mu(E_{i}) \lt \infty$となるボレル集合$E_{i}$の可算合併で書ける. 自然数$N$を任意に取る. $\mu(E) = \infty$だから, ある自然数$n_0$が存在して, $\displaystyle \mu(\bigcup_{i=1}^{n_0}E_{i}) \gt N$とできる. $\displaystyle \mu(\bigcup_{i=1}^{n_0}E_{i})$は有限だから, 前半の証明より$\displaystyle\bigcup_{i=1}^{n_0}E_{i}$に含まれるコンパクト集合$K_{n_0}$が存在して, $\displaystyle \mu(\bigcup_{i=1}^{n_0}E_{i}) \ge \mu(K_{n_0}) \gt N$とできる. $N$は任意だったので, これは$\mathrm{sup} \{\mu(K) | K \subset E, K\text{はコンパクト} \} = \infty$を意味している. $\square$

参考文献

[1]
Dinakar Ramakrishnan , Robert J. Valenza, Fourier Analysis on Number Fields, Graduate Texts in Mathematics (GTM, volume 186), Springer, 1999
投稿日:122
更新日:124

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投稿者

名古屋の大学生です。整数論を研究したいです。

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