この記事は初心者が書いています。間違いや曖昧な表現、分かりずらい書き方などがあるかもしれません。書き慣れていないので何卒。アドバイスが有れば是非是非、優しく教えていただけると嬉しいです。
尚、ここでは半群は非空とします。ここだけで使っている用語や気号には「ここだけ造語$_{(仮)}$」のように$_{(仮)}$を付けておきます。オリジナル用語アレルギーがある方は気を付けて下さい。既存の概念もあると思いますが、リサーチ力が弱々なのでご容赦を。
あと、この記事(正確にはオリジナル)は誤って消してしまいました(カナシイ)。一度PDF化してたものがあったので、それを元に書き直しているので以前内容が変わってしまっているかも知れません。まあ、もう一度見た人で無ければ関係ない話ですが。
いくつかの用語を定義します。
半群$H$としたとき$0$が$H$の零元であるとは、任意の$a∈H$に対して$a0=0a=0$が成り立つことを言う。零元は存在するなら一意的であり、このとき$(H,0)$は零元付き半群という。誤解がなさそうならば$H$と書く。
半群$H$に対して、新たに$0$という元を加えた$H∪\{0\}$に、任意の$0$に対して$a0=0a=0$として積を入れると、これは零元付き半群になる。これを半群$H$の零元の添加といい、ここでは$H_0$と書く。
零元付き半群のもっともな例には、環の乗法半群があります(普通は乗法モノイドといいますよね)。
パッと見、零元付き半群は半群の特殊例のよう(実際そう)なんですが、零元の添加という操作によって全ての半群は零元付き半群と見ることができます。零元付き半群の方が半群よりも豊かな構造を持っていると思うことができます。
次に半群と零元付き半群に付随する環(擬環ですが)を定義します。群環とかモノイド環の一般化なので定義は大体同じです。
半群$H$に対して、この元を基底とする自由加群$⊕_{a∈H}ℤa$には$(\sum_{a∈H}m_aa)(\sum_{b∈H}n_bb)=\sum_{c∈H}(\sum_{c=ab}m_an_b)c$という積を定義できる。$⊕_{a∈H}ℤa$にこの積を入れた擬環を$H$の半群環といい、$ℤ[H]$と書く。
零元付き半群に対して、この非零元を基底とする自由加群$⊕_{a∈H-\{0\}}ℤa$には$(\sum_{a∈H-\{0\}}m_aa)(\sum_{b∈H-\{0\}}n_bb)=\sum_{c∈H-\{0\}}(\sum_{c=ab}m_an_b)c$という積を定義できる。$⊕_{a∈H-\{0\}}ℤa$にこの積を入れた擬環を$H$の零元付き半群の環$_{(仮)}$といい、$ℤ\{H\}_{(仮)}$と書く。
再度の注意になりますが、半群環とか零元付き半群の環とか言ってますが、これは単位元を持つとは限りません。本当なら擬環と言うべきなんですが、クドクドになっちゃいそうな感じがするのでこのまま行きます。
半群環の定義は見慣れたようなものですが、零元付き半群の環の定義はとか出てきて外様感があります。これは半群における零元がちゃんと環におけるになって欲しいっていう気持ちからこうなってます。
この定義は極々自然なもので、半群環と実際以下の関係があります。
を半群としたとき、$ℤ\{H_0\}=ℤ[H]$
まあ、そんなに地に足ついていないような定義じゃないってことです。これによって半群環のことを考えようってことは、より一般に零元付き半群の環を考えることに結び付きます。
零元付き半群$H$に対して部分集合$\mathrm{Ob}H=\{e∈H|e^2=e≠0かつ任意のa∈Hに対してae=aまたはae=0、ea=aまたはea=0\}$を$H$のオブジェクト$_{(仮)}$という。非零元$a∈H$に対して、$ae=a$となる$e∈\mathrm{Ob}H$を$a$の始域$_{(仮)}$といい、$ea=a$となる$e∈\mathrm{Ob}H$を$a$の終域$_{(仮)}$という。
任意の非零元に対して始域と終域が存在する零元付き半群を全域半群$_{(仮)}$という。
なぜオブジェクトとか始域とか終域とか、なぜそんな名前を付けたかと言うのはおまけに書いておきます。
モノイドの場合は単位元というものがありますが、半群にはありません。オブジェクトとは単位元の一般化だと見ることができます。ただこれだけでは全ての元について単位性っぽいオブジェクトがあるというのが言えず、不十分です。全域にオブジェクトが意味を持って欲しいなって、そういうキモチが全域半群にはあります。
次に必要な補題を証明します。
(1)$e,e’∈\mathrm{Ob}H$に対して、$e≠e’$なら$ee’=0$
(2)始域や終域は存在すれば一意
(1)$ee’$を$e$を左から掛けたものとみると$ee’=e’$または$ee’=0$である。また、$ee’$を$e’$を右から掛けたものとみると$ee’=e$または$ee’=0$である。$e≠e’$であるから$ee’=0$でなくてはならない。
(2)非零元$a∈H$を任意にとる。$e,e’∈\mathrm{Ob}H$が共に$a∈H$の始域であるとすると、(1)の結果と合わせて$a=ae’=aee’=0$となるが、これは$a$が非零元であったことに矛盾する。終域の場合も同様である。
いよいよタイトルの話題を証明と思います。
零元付き半群$H$に対して、$ℤ\{H\}$が単位的$\Longleftrightarrow$$H$がオブジェクトが有限な全域半群
($\Rightarrow$)
$ℤ\{H\}$が単位的だとして、その乗法単位元を$E=\sum_{i=0}^nm_i e_i$と書く(但し$i≠j\Rightarrow e_i≠e_j$)。
$\mathrm{Ob}H=\{e_0…,e_i\}$であることを示す。
$e_i=e_iE=\sum_{j=0}^nm_j e_ie_j$であり、$\{e_0…,e_i\}$は基底であるから、ある$j$で$e_ie_j=e_i,m_j=1$となる。
ここで$e_j=Ee_j=\sum_{k=0}^nm_k e_ke_j=e_ie_j$でもあるから$e_i=e_ie_j=e_j$が言えて、$e_i^2=e_i≠0$が言える。更に$E=\sum_{i=0}^ne_i$も言える。
任意に非零元$a∈H$を取った時、$a=Ea=\sum_{i=0}^ne_ia$であるから、ある$i$において$e_ia=a$となり、それ以外の$j$では$e_ia=0$となる。これはつまり$e_k$は$e_ka=a$または$e_ka=0$が言えるということであり、 $a=aE$とすることで、$ae_k=a$または$ae_k=0$も言える。よって $\{e_0…,e_i\}⊂\mathrm{Ob}H$が言える。
$e∈\mathrm{Ob}H-\{e_0…,e_i\}$が取れたとすると、$e$は$e_0…,e_i$のどれとも異なるので補題1の(1)と合わせて、 $e=Ee=\sum_{i=0}^ne_ie=0$となるが、これはオブジェクトの定義に矛盾する。よって$\mathrm{Ob}H=\{e_0…,e_i\}$であり、特にオブジェクトは有限である。
任意に非零元$a∈H$を取った時、ある$i$で$a=aE=ae$であるから、$a$は始域が存在する。同様に$a$の終域の存在も示せるので、$H$は全域半群である。
($\Leftarrow$)
$E=\sum_{e∈\mathrm{Ob}H}e$と定めた時、任意の非零元$a∈H$に対してただ一つ$e∈\mathrm{Ob}H$とれて$ae=a$、それ以外の$e’∈\mathrm{Ob}H$では$ae=0$となる。よって$Ea=a$が言える。$ℤ\{H\}$の元は非零元の線形和で書けるので、$E$は右単位元である。同様に$E$の左単位性も示せるので、 $ℤ\{H\}$は単位的である。
証明できました。上の定理から半群環について、以下の定理を証明できます。
半群環$ℤ[H]$が単位的であるなら、$H$は単位元を持つ(モノイド)
ここでは本筋とは直接関係しないことについて書きます。
準備のところで定義した用語の名称について、どうしてこんな名前にしたかを書きます。「お前が付けた名前だろっ。」と言われればそれまでですが、その通りですが。
小さな圏$C$に対して、$\mathrm{Hom}(C)∪\{0\}$という集合を考えて、$0$を零元、$f,g∈\mathrm{Hom}(C)$に合成可能なら$fg=f∘g$、合成不可能なら$f∘g$として定義するとこれは半群になります。このとき、この半群のオブジェクトとは圏におけるオブジェクト(と恒等射)に対応していて、始域と終域も圏の始域と終域に対応します。圏は射こそが本質的だという話題がありますが、そのキモチを思って名付けました。
逆に、半群にいくつか条件をつけることで半群から圏を構成することもできます。その為にいくつか用語を定義します。
零元付き半群$H$に対して、$ab=0$なら$a=0$または$b=0$が成り立つとき、$H$は整域$_{(仮)}$という。
零元付き半群$H$に対して、$abc=0$なら$ab=0$または$bc=0$が成り立つとき、$H$は偽整域$_{(仮)}$という。
整域の定義は可換環のところで見たことがあると思います。偽整域も、整域の定義に似せています(なのでニセです)。
注意したいのは、整域であるからといって偽整域とは限りらないことと、偽整域だからと言って整域であるとは限らないことです(後者は、3点集合の冪集合に交わりの演算を入れた半群が反例になります)。だから似ているのは定義だけで、整域と関連させるのも避けるべきかもしれません。
しかも、せっかく定義しましたが、整域はある半群に零元の添加したものに同型であり、構造の豊かさはただの半群を考えるのと同じになっていしまいます。ですから偽整域の方が面白い(?)性質であると言えると思います。
偽整域$H$に対して非零元$a,b∈H$に対して$a$の始域と$b$の終域が存在して、これらが一致すれば$ab≠0$
証明は簡単です。この性質は、$a$の始域と$b$の終域が一致すれば合成可能であるということを表します。
この性質を用いることで、偽整域な全域半群から圏を作ることができます。逆に小さな圏から半群を作ったとき、この半群は偽整域な全域半群になってくれることが分かります。これはそれぞれ逆の対応になってくれます(但しこれは関手的ではない)。
以上が名称についての補足でした。
ここでは群環やモノイド環のような構成で半群を定義しましたが、これだと結構小さな環になってしまいます。
局所コンパクト位相群にはハール測度という積分が入り、この上でいい感じの連続関数の畳み込み積として環を定義することができます。副有限群上には逆極限によって環を定義できるようです。このように、半群というものにも何かしら構造を仮定することで、もっと大きな半群環を定義できるんでしょうか。位相半群とか?
また、この記事では半群を圏と関連させてみましたが、圏自体に環を付随させることはできるのでしょうか。また圏も豊穰圏とかn-圏とか(やったことないので詳しくは知りませんが)、より一般に拡張させることができるのでしょうか。圏じゃないですが、箙に対して道代数というものが定義できるようですが、これは関連するのでしょうか。
あと、どうやら圏代数というものがあるらしいです。英語読めないので詳しくは知りませんが、半群環をもう少し拡張できるんじゃないか?なんて希望を持っています。
またこの記事での問題として、色々な対応が関手的でないということがあります。零元の添加とか半群環には射を誘導できるのですが、半群から圏を定義したときこれは圏の射(関手)になるとは限らず、またオブジェクトが有限な全域半群を結ぶ射を零元付き半群の環に上げたとき、これは単位元を保存しません。これらのムズムズする所を解決することはできるのでしょうか。
以上です。何か関連や解答があれば、ぜひぜひ教えて欲しいです。
全然どうでもいいことですが、擬環を単位元(identity)がない環(Ring)ということでRngと書くことがあるようです。また、半環(加法逆元を仮定しない環)は逆元(negative)がない環なのでRigと書くことがあるようです(でもsemi-ringの方が多いのかな)。するとrとgは何を意味するのでしょうか。それだけです。
読んでくれてありがとうございます。間違いや不備がありましたらコメントで、優しく教えてくれると嬉しいです。