とんとん拍子とはいかへんな
教えてとんとん〜
あるとき思いついたことなのですが.
行列$A$が対角化可能であり対角化により
$PAP^{-1}= \begin{eqnarray}
\left(
\begin{array}{cc}
\lambda_1 & & &0\\
& \lambda_2 &&\\
&&\lambda_3&\\
0&&&\lambda_4
\end{array}
\right)
\end{eqnarray} $となるとします.$p$を多項式とすると
$p(PAP^{-1})=Pp(A)P^{-1}=\begin{eqnarray}
\left(
\begin{array}{cc}
p(\lambda_1) & & &0\\
& p(\lambda_2) &&\\
&&p(\lambda_3)&\\
0&&&p(\lambda_4)
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}$が成り立ちます.つまり$\sigma(A)$を$A$の固有値の集合とすると,多項式$p$への代入は$p$の$\sigma(A)$上での値だけで決まります.よって,このとき$A$の固有多項式を$\Phi_A$とすると$\sigma(A)$上$\Phi_A\equiv0$だから$\Phi_A(A)=0(A)=0$.
対角化できるとは限らない一般の場合もこのように示すことは可能でしょうか?そして$\sigma(A)$での値に加え何があれば$p(A)$が定まるのでしょうか?
簡単のためにまずは$2\times2$行列で対角化できない場合を考えていきましょう.三角化によって
$A= \begin{eqnarray}
\left(
\begin{array}{cc}
\lambda & \alpha \\
0 & \lambda\\
\end{array}
\right)
\end{eqnarray} $,($\alpha,\lambda\in\mathbb{C}$)であるとすることができます.このとき$N= \begin{eqnarray}
\left(
\begin{array}{cc}
0 & 1 \\
0 & 0
\end{array}
\right)
\end{eqnarray} $として$n\in\mathbb{N}$に対し
$A^n=(\lambda I+\alpha N)^n=\lambda^n I +n\lambda\alpha N$.この計算によりケーリー・ハミルトンの定理は明らかです.実際,対角化不可能であることから固有多項式は$(t-\lambda)^2$であり,$N^2=0$だからです.さらに次の定理が成り立ちます.
$A$を対角化不可能な行列,$p,q\in \mathbb{C}[t]$,$p(\lambda)=q(\lambda)$,$p^\prime(\lambda)=q^\prime(\lambda)$とすると$p(A)=q(A)$
三角化により$A= \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} \lambda & \alpha \\ 0 & \lambda\\ \end{array} \right) \end{eqnarray} $,($\alpha,\lambda\in\mathbb{C}$)としてよい.また,ケーリー・ハミルトンの定理と割り算によって$p(t)=a(t-\lambda)^2+b(t-\lambda)+c$,$q(t)=a^\prime (t-\lambda)^2+b^\prime (t-\lambda)+c^\prime$としてよい.仮定から$p(\lambda)=q(\lambda)$,$p^\prime(\lambda)=q^\prime(\lambda)$なのでそれぞれ$c=c^\prime$,$b=b^\prime$が従う.ここに$A$を代入すると最高次の項は消えるので$p(A)=q(A)$.$\Box $
よって導関数の固有値での値まで等しければ代入した結果が等しくなることがわかりました.より一般には次のことが成り立ちます.標準形$(\lambda I+\alpha N)^n$と多項式$(x+h)^n$で二項展開の結果が等しいことから導関数が出てきたので証明も同様です.
$A$を複素$n\times n$行列とし,その最小多項式を$\Psi_A(t)=\displaystyle\prod_{j=1}^k (t-\lambda_j)^{m_j}$とおく.このとき多項式$p,q\in \mathbb{C}[t] $に対して
$p(\lambda_j)=q(\lambda_j),p^\prime(\lambda_j)=q^\prime(\lambda_j),\dots,p^{(m_j-1)}(\lambda_j)=q^{(m_j-1)}(\lambda_j)$, ($j=1,2,\dots,k$)
が成り立てば$p(A)=q(A)$
実はこの定理は逆も成り立ちます.証明は最小多項式で割り切れることを使います.詳しくは参考文献のリンクからNote,fanctional calculus for matricesをご覧ください.
証明を見たところ,標準形と微分との関係を考えても一般の場合は三角化では厳しそうだなという印象でした.その方法でできないことを証明もできませんが...
ここまでお付き合いいただきありがとうございました.
参考文献:荷見 守助,長 宗雄,瀬戸 道夫,『関数解析入門』,内田老鶴圃
Alonso Delfín先生のページ