年末年始、私は「できるかぎり抽象的な設定の下、距離空間をEuclid空間$\mathbb{R}^n$に埋め込みたい」という衝動に駆られていました。ここで、$n$は自然数です。なぜなら、もし任意の濃度を許すなら、かの有名な【Urysohnの定理】が「答え」を出しているからです。
コンパクトハウスドルフ空間が可算な開基を持つなら、距離空間$\mathbb{R}^\mathbb{N}$に埋め込める。
余談ですが、可算な開基がなかったとしても、$\mathbb{R}$の直積空間に埋め込むことはできます(証明は、Urysohnの定理の証明をよく読めばわかる)。
コンパクトハウスドルフ空間は、ある集合$S$による直積空間$\mathbb{R}^S$に埋め込める(距離空間になるとは限らない)。
このように$n$が有限という制限は意外と「苦しい」のです(だから面白い)。以下の証明は、この問題に対する私の「回答」ですが、「解答」ではありません。ご了承ください。
距離空間$S$における$\textbf{観測系}$とは、有限点$a_1,\dots,a_n\in S $と定数$c>0$で以下の性質を満たすもののことである。任意の$x,y\in S$に対して、
\begin{align}
|x,y|< c\sum_{k=1}^{n}||x,a_k|-|a_k,y||
\end{align}
$\mathbb{R}$において、任意の異なる2点は観測系である。また$\mathbb{R}^n$では、$n+1$個の点からなる観測系がとれる。
\begin{align}
x_1&=(0,0,\dots,0),\\
x_2&=(1,0,\dots,0),\\
&\dots\\
x_{n+1}&=(0,0,\dots,1),
\end{align}
とすればよい。
距離空間$S$が観測系$a_1,\dots,a_n\in S$を持つなら、$\mathbb{R}^n$への単射一様連続写像$f:S\to \mathbb{R}^n$が存在する。
写像$f:S\to \mathbb{R}^n$を
\begin{align}
f(x)=(|a_1,x|,\dots,|a_n,x|)
\end{align}
と定義する。もし、$x\not=y\in S$で$f(x)=f(y)$なら、明らかに定義1に反するから$f$は単射である。
任意の$\epsilon>0$に対して、$\delta=c\epsilon$とすると、$|x,y|<\delta$なら
\begin{align}
|f(x)-f(y)|&\leq\sum_{k=1}^n||x,a_k|-|a_k,y||\\
&<\frac{|x,y|}{c}\\
&<\epsilon.
\end{align}
したがって、$f$は一様連続である。
補題2の$f$の逆写像$f^{-1}:\Im f\to S$も一様連続である。
$\epsilon>0$を任意の実数とする。$x,y\in S$に対して、$|f(x),f(y)|<\delta=\frac{\epsilon}{n}$なら、
\begin{align}
|x,y|&< c\sum_{k=1}^n||x,a_k|-|a_k,y||\\
&< n\delta\\
&=\epsilon.
\end{align}
したがって、$f^{-1}$も一様連続である。
以上により、次の定理を得る。
距離空間$S$が観測系$a_1,\dots,a_n\in S$を持つなら、$\mathbb{R}^n$に一様連続に埋め込める。
本稿では、「観測系」なる概念を導入し、$\mathbb{R}^n$への一様埋め込みを得たが、「観測系」がどれだけたくさんあるかは明らかでない。しかし、以下の命題が成立する。
$\mathbb{R}^n$において$a_1,\dots,a_{n+1}$が観測系であれば、
$v_1=a_2-a_1,\dots,v_n=a_{n+1}-a_1$は$\mathbb{R}$-ベクトルとして一次独立である。
観測系は平行移動で保たれるから$a_1=0$としてよい。もし一次独立でないなら、直交補空間が$\{0\}$でない。したがって、$v\not=0$で、すべての$v_i$に対して$v\cdot v_i=0$。よって、
$|±v-v_i|^2=|v|^2-|v_i|^2$。
したがって、$v,-v$を考えると矛盾である。
上の命題の逆は直観的には成り立ちそうに思われるが、私はその証明(あるいは反証)を与えることができなかった。そのため、予想として残しておく。平行移動によって観測系が保たれることに注意されたい。
$\mathbb{R}^n$における$n$個の点$a_1,\dots,a_{n}$が一次独立なら、観測系である。
この予想がもし成立するなら、距離付け可能な有限次元ベクトル空間($\mathbb{R}$-ベクトル空間?)は、$\mathbb{R}^n$の部分空間と一様同相であるということになり、注目に値する(もちろん、距離を考慮しないときに同型になることは既知である)。
もし、読者の中で証明を思いつかれた方がいれば、ご一報願います。
私ははじめ「位相空間論は基礎の基礎なのだから、いまさら熟考しても面白くないのでは?」と思っていましたが、自分の中の「重要な問題」フォルダに入ってしまえば関係なくなるということが分かりました。「○○論は基礎だから熟考してもムダ」と切り捨てるのは簡単ですが、それをしてばかりいると育たない何かが数学にはあるような気がします。
最後まで閲覧いただきありがとうございました。