線形代数の本を読んでいると,行列式の定義に写像$\mathrm{sgn}$が必要になる(定義される).思い出すと,写像$\sigma$が$n$個の元からなる集合$X$から$X$への全単射であるときに置換と言う.置換全体の集まりを対称群と言い,$X=\{x_1,...,x_n\}$の置換全体の集まりを$S_n$と書く.特に置換$\sigma$が$X$のただ二つだけの元を並び替える写像なら互換と言う($x_i,x_j$を並び替える互換を$(i \space j)$と書く).ここで突然,$S_n$の元$\sigma$を互換の積で書けば,互換の個数の偶奇性が$\sigma$によって一意に決まる(その証明には$S_n$の差積$:S_3$ならその差積は$(x_3-x_2)(x_3-x_1)(x_2-x_1),S_4$なら$(x_4-x_3)(x_4-x_2)(x_4-x_1)(x_3-x_2)(x_3-x_1)(x_2-x_1)$を使う)ので,写像$\mathrm{sgn}$を置換から偶奇に応じて1,-1を割り当てる写像とするのだったが,差積のくだりからが自然でないと思う.
なので$\mathrm{sgn}$を知らなかったとして,群論側から考えると自然に上の流れをたどることを確認してみる(準同型写像$\mathrm{sgn}$の$\mathrm{Ker}$として交代群$A_n$が定義されるのが普通だと思うが,唯一の全射準同型$S_n\to\{1,-1\}$の核として交代群を定義できた方が気分がいいだろう).
最初は$S_n$に限らない話なので一般の群$G$で考える.$G$があったときに指数$2$の部分群$H$を考えるのは自然である.なぜならこのとき既に$H$は$G$の正規部分群であるから.命題として書くと,
群$G$の指数$2$の部分群$H$は正規部分群.
任意に取った$a\in G-H$によって$G$を$H$の左剰余類,右剰余類で書くと,$G=aH\cup H=H\cup Ha$.これらは共に非交和なので$aH=Ha$を得て,示される.
群$G$の指数$2$の(正規)部分群$H$が存在するかを考える.定義から$S_n/H$は位数$2$の群.素数位数の群は一意で,特に巡回群なので$S_n/H\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$.符号という気持ちを強くするために体$\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$の乗法群(位数は2)によって$S_n/H\cong\{1,-1\}$と書いておく.
$H$が現れない形で書けば,考えるべきは全射準同型$\phi:S_n\to\{1,-1\}$が存在するかである(準同型定理から$S_n/\mathrm{Ker}(\phi)\cong\Im(\phi)=\{1,-1\}$なので).したがって,
群$G$に指数$2$の(正規)部分群が存在することと,全射準同型$\phi:G\to\{1,-1\}$が存在することは同値.
以降$G\coloneqq S_n$とする.$S_n$の元を$\phi$で飛ばした値(符号と書いてしまう)を考えるが,一番シンプルな元である互換の符号を考える.すべての互換の符号が1なら,任意の元は互換の積として書けるので(帰納法で示せる),常に$\phi(\sigma)=1$で全射性に矛盾.よって,符号が-1である互換が少なくとも一つ存在する.それを$\tau_{-1}$と書く.すべての互換の符号が-1になることを示そう.
互換$(i\space j)$と置換$\sigma$を$S_n$から任意に取ったとき,$\sigma(i\space j)\sigma^{-1}=(\sigma(i)\space\sigma(j))$.
$\sigma^{-1}(m)\notin\{i,j\}$なら,$\sigma(i,j)\sigma^{-1}(m)=m$.
$\sigma^{-1}(m)\in\{i,j\}$,特に$\sigma^{-1}(m)=i(m=\sigma(i))$なら$\sigma(i\space j)\sigma^{-1}(m)=\sigma(j)$.$\sigma^{-1}(m)=j$も同様.
任意に取った二つの互換$\tau=(a\space b),\tau'=(c,d)$は共役.
$\sigma\in S_n$があって,$\tau=\sigma\tau'\sigma^{-1}$が成立することを言えばいい.補題から$(a\space b)=(\sigma(c)\space \sigma(d))$を示せばいいが,実際そのような$\sigma$が取れる.
以上より,任意の互換$\tau$に対し$\sigma\in S_n$が存在して,$\tau_{-1}=\sigma\tau\sigma^{-1}.\Im(\phi)$は特にアーベル群なので$\phi(\sigma\tau\sigma^{-1})=\phi(\sigma)\phi(\tau)\phi(\sigma)^{-1}=\phi(\tau)$.したがって$\phi(\tau_{-1})=\phi(\tau)=-1$.よって$\phi$が存在するならば,互換の行き先は常に-1.
任意の元は互換の積で表せるので,全射準同型$\phi$が存在することと,$S_n$の元を互換の積で表したとき,その互換の個数の偶奇性がwell-defined(つまりある元が,偶数個の互換の積と奇数個の互換の積両方で表せてしまわないこと)であることが同値.他方で,最初に述べたようにこれは差積を使って示せる.よって群$S_n$から自然に考察される全射準同型写像$\phi$が一意に存在するので,それを$\mathrm{sgn}$とすればいい.
大学院への代数学演習の問題3.11($S_n$の指数2の部分群は$A_n$に限るか?)では違うやり方でもっときれいに示しているので気になる方は参照してください.
補題3,命題4に関しては赤雪江のより一般的な証明とほとんど同じです.
また,記述の不備を
ノエルさん
が指摘してくれました.ありがとうございます.