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東大数理院試過去問解答例(2023B09)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2023B09の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2023B09

閉区間$[0,1]$上の実数値$L^\infty$関数全体の為すBanach空間$X:=L^\infty([0,1])$をとる(ただし$[0,1]$上の測度としてLebesgue測度を考えている)。
(1) 定義式
$$ (Tf)(x):=\int_0^1\frac{f(y)}{\sqrt{|x-y|}}dy $$
$[0,1]$上の連続関数を定めていることを示せ。
(2) 線型作用素$T:X\to X$の作用素ノルム$\|T\|$を求めなさい。
(3) $f\in X$が等式
$$ \|Tf\|_\infty=\|T\|\|f\|_\infty $$
を満たすとき、$f$は定数関数であることを示せ。

  1. まず$\frac{1}{\sqrt{|x-y|}}$$[0,1]$上で可積分であり、$f$$L^\infty$関数であるから、$Tf$はwell-definedな関数である。次に$|f|$の本質的上界を$c$とする。
    $$ \begin{split} &\int_0^1\left|\frac{f(y)}{\sqrt{|x+\delta-y|}}-\frac{f(y)}{\sqrt{|x-y|}}\right|dy\\ &\leq c\int_0^1\left|\frac{1}{\sqrt{|x+\delta-y|}}-\frac{1}{\sqrt{|x-y|}}\right|dy\\ &=c\left|-\left[2\sqrt{x+\delta-y}\right]_0^{x+\delta}+\left[2\sqrt{x+\delta-y}\right]_{x+\delta}^{1}-\left[2\sqrt{x-y}\right]_0^x+\left[\sqrt{y-x}\right]_x^1\right|\\ &=2c\left|\sqrt{1-(x+\delta})+\sqrt{x+\delta}-\sqrt{1-x}-\sqrt{x}\right| \end{split} $$
    である。上記の右辺は$\delta\to0$で右辺に収束するから、 $\varepsilon>0$及び$x_0$を任意に取ったとき、$\delta$を適切に選ぶことで、任意の$x\in(x_0-\delta,x+\delta)$について
    $|Tf(x)-Tf(x_0)|\leq\varepsilon$を満たすようにできる。以上から$Tf$は連続写像である。
  2. まず$|f|$の本質的上界を$c$とする。$\varepsilon>0$を任意に取ったとき、
    $$ \begin{split} \|T\|&\leq\frac{\max_{x\in [0,1]}\int_0^1\frac{|f(y)|}{\sqrt{|x-y|}}dy}{c}\\ &\leq\frac{\max_{x\in [0,1]}\int_0^1\frac{c}{\sqrt{|x-y|}}dy}{c}\\ &=\max_{x\in [0,1]}\int_0^1\frac{1}{\sqrt{|x-y|}}dy\\ &=\max_{x\in [0,1]}\int_{-x}^{1-x}\frac{1}{\sqrt{y}}dy\\&=2\max_{x\in[0,1]}(\sqrt{1-x}+\sqrt{x})=2\sqrt{2} \end{split} $$
    である。そしてこれは実際$f=1$のときに等号が成り立つ。以上から$\|T\|={\color{red}2\sqrt{2}}$である。
  3. $f\neq0$のときを考える。まず不等式
    $$ \begin{split} \|Tf\|_\infty&\leq\max_{x\in [0,1]}\int_0^1\frac{|f(y)|}{\sqrt{x-y}}dy\\ &\leq \max_{x\in [0,1]}\int_0^1\frac{\|f\|_\infty}{\sqrt{x-y}}dy=\|T\|\|f\|_\infty \end{split} $$
    が成り立っている。この不等式の等号は$|f|$がほとんど至る所$\|f\|_\infty$をとるとき成り立つから、$|f|$は定数関数である。更に$1$つめの不等号の等号は$f$がほとんど至る所$>0$またはほとんど至る所$<0$の場合のみ成り立つ。以上から$f$は定数関数である。
投稿日:20231026

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佐々木藍(Ai Sasaki)です。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。X(旧Twitter)→@sasaki_aiiro

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