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競技数学解説
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九点円の基礎と応用

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かえでです.
私が知る限りの九点円の特徴をまとめます.点,線,円の定義が省かれている場合は以前の定義に則ってください.
また,意味が分からない単語があったら各自調べてください.

初投稿 :2024/04/24
更新 :  

九点円とは

九点円

三角形ABCにおいて,その垂心をHとし,A,B,Cから対辺に下ろした垂線の足をそれぞれD,E,Fとし,BC,CA,AB,AH,BH,CHの中点をそれぞれMA,MB,MC,NA,NB,NCとする.このとき,D,E,F,MA,MB,MC,NA,NB,NCは共円である.これらの9点が通る円を三角形ABC九点円という.

九点円 九点円

以下,証明部分においては三角形ABCが鋭角三角形であるとする.鈍角三角形の場合も同様に証明ができるため各々試してみよ.

共円の証明

以降の内容に大きく通ずるような証明を与える.
相似拡大を考えることにより,D,E,F,MA,MB,MCについてHと対称な点がABCの外接円Γ上にあることを示せばよい.
対称性からD,MAの場合のみ考えればよい.
D,MAについてHと対称な点をそれぞれHA,Aとする.また,Γの中心をOとする.
BHAC=BHC=A+1802A=180A
よって,HAは直線BCについてAと反対側にあるのでA,B,C,HAの共円が示される.
Aの場合の証明は読者に委ねる.
(ヒント:外心Oと中点連結定理を考えてみよ)
よって,以上から九点円の存在及び九点円が外接円に垂心を中心として1/2倍の相似拡大を施したものであることが示された.
!FORMULA[28][488228917][0]を!FORMULA[29][36864][0]中心で!FORMULA[30][-1989117985][0]倍拡大する ΓH中心で12倍拡大する

確認問題

三角形ABCの九点円をΩとし,Ωの中心をNとする.このとき,NHOの中点であることを示せ.
問題1の図 問題1の図

練習問題 OMC158(F)

外接円をΩ,垂心をHとする鋭角三角形ABCにおいて,AからBCにおろした垂線の足をDACの中点をMとし,半直線MDΩの交点をXとするとき,AH=XHが成立した.AC=24,XD=6のとき,ABの長さの2乗を求めよ.
問題2の図 問題2の図

ヒント  九点円は方べきと相性が良いことがある.
大ヒント  以下の図を分析してみよ.
問題2の本質部分 問題2の本質部分

   

  

オイラーの不等式

オイラーの不等式

三角形の外接円の半径をR,内接円の半径をrとする.このとき,この三角形の九点円の半径はR2である.
また,明らかにR2rであるから,R2rが成り立つ.これをオイラーの不等式という.
(ただし,等号成立は三角形が正三角形のとき.)

確認問題

なぜ九点円の半径はR2なのか,簡潔な説明を与えよ.

ヒント  相似拡大とはどういった概念であるか?

       

垂軸

まず,以下に重要な基本性質を記述する.

根軸

異なる2円に対し2円への方べきの値が等しい点の集合を根軸という.
また,根軸は必ず直線である.
赤線:根軸 赤線:根軸

異なる2円について,2円の中心を結ぶ直線と2円の根軸は直交する.

証明は読者に委ねる.
以上は必ず覚えておくべき性質である.
さて,この節の本題に入ろう.

垂軸

三角形ABCにおいて,直線BCと直線EFの交点をXとし,同様にCA,ABについてそれぞれ点Y,Zを定める.
このとき,3X,Y,Zは共線である.
この直線を三角形ABC垂軸という.
赤線:垂軸 赤線:垂軸

共線の証明

三角形ABCの外接円Γと九点円Ωの根軸をΔとする.このとき,
XB×XC=XF×XE (BCEFの共円)
よって,XΔ上の点である.
同様にY,ZΔ上の点である.
よって3X,Y,Zの共線が従う.
(Desarguesの定理を用いるとより簡潔に示せる.)

垂軸とオイラー線は直交する.

これは私が初等幾何に惹かれる要因となった性質である.以下に証明を載せるがぜひ自力で証明を与えてほしい.
※オイラー線の定義は各自調べること

証明 
垂軸はΔであるから定理2より直線ONに直交する.問題1よりこれはオイラー線である.

練習問題 (自作)

内心と外心をそれぞれ,I,Oとする不等辺三角形ABCにおいて,A内の傍心をIAとし同様に点IB,ICを定める.直線ACICBの交点をX,直線CBIBAの交点をY,直線BAIACの交点をZとする.AIO=90のとき,XY=ZYを示せ.

ヒント 
この節で得た知識をフルに活用せよ.

     

演習①

かえで杯 p1

鋭角三角形ABCにおいて,その外接円をΓ,九点円をω,外心をOAからBCに下ろした垂線の足をDAB,ACの中点をそれぞれM,Nとする.また,ΓAにおける接線とωDにおける接線の交点をS,三角形SAOの外接円とΓの交点をTとする.このとき,三角形ADTの外接円とMNAの二等分線上で交わることを示せ.

ヒント  九点円を外接円に移す相似拡大の中心は垂心である.
大ヒント  等長が見えるだろうか?

三角形ABCにおいて,A,B,Cから対辺に下した垂線の足をそれぞれD,E,Fとする.このとき,三角形AEF,BFD,CDEのオイラー線は三角形ABCの九点円Ω上で交わることを示せ.

(重要)

外接円がΓである三角形ABCにおいて,AB,AC及び円Γに接する円はただ一つ存在するのでそれをA混線内接円と言い,これをΩAとする.ΓΩAの接点をTとし,三角形ABCの内心をIA,B,Cに対する傍心をそれぞれIA,IB,ICとする.このとき,TについてIと対称な点TIは円IAIBIC上にあることを示せ.

!FORMULA[147][38352][0](青の面積)を求めよ x(青の面積)を求めよ

       

シムソン線

シムソン線

三角形ABCにおいて,その外接円をΓとする.Γ上に点P(A,B,C)をとり,Pから直線BC,CA,ABに下ろした垂線の足をそれぞれD,E,Fとすると,Pによらず3D,E,Fは共線である.この直線を三角形ABCPにおけるシムソン線という.

容易なAngle chaseにより示される(複数の共円に注意)

定理4において,Pにおけるシムソン線に対し,Pを中心として2倍の相似拡大を施した直線を三角形ABCPにおけるシュタイナー線という.

Pにおけるシムソン線は垂心HPの中点を通る.特に,この点は九点円上にある.

証明は少し難しいが,九点円に直接影響するような議論はしないので省く.以降要望があれば載せようと思う.

以下には非常に複雑な定理が並ぶが,以降の証明で用いることがあるので知っておいた方がよいだろう.

シュタイナー線は垂心を通る.

定理5において,Pを中心とする2倍の相似拡大を施せばよい.

Γ上に直径PQを取る.このときP,Qにおけるシムソン線は九点円上で直交する.

HP,HQの中点をそれぞれX,Yとする.定理5よりこれらは九点円上にあることに留意せよ.九点円を外接円に移す相似拡大を考えることにより,XYは九点円の直径を成すことが分かるので示される.

これらを数オリの問題で使うことは殆ど無いであろうが,より深くシムソン線について知りたい場合は以下のdenta氏の記事を見てみるとよい.(この記事の内容より遥かに難解である)

シムソン線であそぼう!(denta_geometry)        

フォイエルバッハの定理

以下に示す定理は初等幾何学でもっとも興味深いもののひとつである.

フォイエルバッハの定理

三角形ABCにおいて,その九点円をΩ,内接円をωA,B,Cに対する傍接円をそれぞれωA,ωB,ωCとする.このとき,Ωωに内接し,ωA,ωB,ωCに外接する.Ωωの接点を,三角形ABCフォイエルバッハ点という.

フォイエルバッハの定理を証明するにあたって,より強い主張を以下に示す.

三角形ABCにおいて,互いに等角共役な点P,Pと外心が共線ならば,Pの垂足円は三角形ABCの九点円に接する.

等角共役,垂足円の定義は各自調べよ.
Pを内心,傍心にすることでフォイエルバッハの定理が従う.

Γの中心をO,Γの直径PPの両端をX,YX,YからBCに下ろした垂線の足をそれぞれX,YP,PからBCに下ろした垂線の足をそれぞれD,DBCの中点をMΓの半径をRとすると,
MD:MX=OP:R
MD:MX=OP:R
よって,(MD×MD):MX2=(OP×OP):R2
X,Yにおけるシムソン線は九点円上で交わるから,この点をLとすると,定理6よりLXYを直径とする円上にある.よってMX=MLであるから,(MD×MD):ML2=(OP×OP):R2
全く同様に,CA,ABの中点をそれぞれN,KPからCA,ABへ下ろした垂線の足をそれぞれE,FPからCA,ABへ下ろした垂線の足をそれぞれE,Fとすると,
(MD×MD):ML2=(NE×NE):NL2=(KF×KF):KL2=(OP×OP):R2
2円に関するべきの比が等しい点の軌跡は2円と共軸な定円であるから,これは九点円がPの垂足円,点円Lと共軸であることを示している.Lは九点円上の点であるから,この共軸円足の根軸はLにおける九点円の接線である.よってPでの垂足円と九点円は点Lで接する.

定理8によってフォイエルバッハの定理を系として証明できた.

確認問題

!FORMULA[230][14236809][0]を示せ p+y=q+xを示せ

       

演習問題 (難)

フォイエルバッハの定理 (2回目)

ここまでに得た九点円の知識を利用して,定理8を用いずにフォイエルバッハの定理の証明を与えよ.

(フォイエルバッハの定理には非常に多くの証明法が存在している.)

USA TSTST 2011/4

鋭角三角形ABCが円ωに内接しており,その垂心をH,外心をOとする.AB,ACの中点をそれぞれM,Nとし,半直線MH,NHωの交点をそれぞれP,Qとする.直線MNと直線PQの交点をRとするとき,OARAを示せ.

ヒント  いつもの相似拡大と根軸を利用せよ.
ヒント  問題2でのヒントは見ただろうか?
USAMO 2015/2

四角形APBQが円ωに内接しており,P=Q=90およびAP=AQ<BPをみたしている.PQ上に点Xを任意にとり,直線AXωの交点のうちAでない方をSとする.ωの弧AQB上の点XAXXTをみたし,弦S,Tの中点をMとする.Xが線分PQ上を任意に動くとき,Mはある円上を動くことを示せ.

ヒント  三角形ASTに注目せよ.そして,これまで通りのことをする限りである.

最後に

いかがだったでしょうか?これからも問題,定理の追加と修正は繰り返し行っていくので,是非定期的にご覧下さい!
また,初投稿時点(23/04/24)時点の予定として,次は反転のことを入れたいと思っています.
反転,射影,ミケル点などについては高度な内容なので上手くまとまってから追加していきます.
 
訂正や追加して欲しい問題などについては私のdmで教えてくださるようお願いします.
以上です.

参考文献

投稿日:2024424
更新日:2024813
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投稿者

ユークリッド幾何学専門

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  1. 九点円とは
  2. オイラーの不等式
  3. 垂軸
  4. 演習①
  5. シムソン線
  6. フォイエルバッハの定理
  7. 演習問題 (難)
  8. 最後に
  9. 参考文献