少しタイトル詐欺をしてしまいました.
群論にて有名な"ラグランジュの定理"をいくつかの定理から系として得られるようにしてみます.
とりあえず, ラグランジュの定理を述べておきます.
$G:\text{Group.}$ $H\overset{\text{sub.}}{\subset}G$
このとき, $\mathrm{Card}(G)=(G:H)\cdot\mathrm{Card}(H)$ が成立.
わざわざ$|G|$ではなく, $\mathrm{Card}(G)$などと書いているのは一応, 訳がありますのでのちほど.
さて, この定理の証明には同値類の考え方が必要なのは一度ラグランジュの定理を学んだことがある人にとってはわかっていただけると思います.
さて, この定理の証明の準備をしていきましょうか.
そこで, 濃度の積というものを用意します.
$A,B:$集合, $\mathfrak{m}=\mathrm{Card}(A)$,$\mathfrak{n}=\mathrm{Card}(B)$.
$\mathrm{Card}(A\times B):=\mathfrak{mn}$
この定義のwell-definednessを確認しておきましょう.
全域性は, どんな集合にも直積が与えられるので自明です.
なので, 一意性を確認しましょう.
$\mathrm{Card}(A\times B)=\mathrm{Card}(A)\cdot\mathrm{Card}(B)$
が$A,B$という集合によらないことを確認します.
$A\simeq A',B\simeq B'$ $\Longrightarrow A\times B\simeq A'\times B'$
を確認すればよいです. ($\simeq$は集合の対等です)
まず, 仮定から
$\exists f:A\longrightarrow A':\text{bij.}$
$\exists g:B\longrightarrow B':\text{bij.}$
ここで次のように写像を作ります.
$\varphi:A\times B\longrightarrow A'\times B'$ , $\varphi((x,y))=(f(x),g(y))$
は仮定からまさに全単射です.
なので$\mathrm{Card}(A\times B)=\mathfrak{mn}$は$A,B$によらず, この定義は妥当ということがわかりました.
次に一つ定理を証明します.
$E,\Lambda:$集合. $\{A_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}:$集合族. $A_\lambda\subset 2^E.$
$\forall i,j\in\Lambda, i\neq j \Longrightarrow A_i\cap A_j=\phi.$
$\mathfrak{m}=\mathrm{Card}(\Lambda)$, $\forall\lambda\in\Lambda, \mathfrak{n}=\mathrm{Card}(A_\lambda).$
このとき, $\displaystyle\mathrm{Card}\left(\bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_\lambda\right)=\mathfrak{mn}$.
つまりは, ある集合族があって, その一つ一つの濃度が一定であり, すべて互いに素ならその全体の濃度が$\mathfrak{mn}$になるということです.
なんとなく直感的にはそう思えると思います.
次を満たす集合$A^+$を用意する.
$\forall\lambda\in\Lambda,\mathrm{Card}(A^+)=\mathrm{Card}(A_\lambda)=\mathfrak{n}$
つまり, $\forall\lambda\in\Lambda,\exists f_\lambda:A^+\longrightarrow A_\lambda:\text{bij.}$
このとき, 写像$\mathcal{F}$
$\displaystyle\mathcal{F}:A^+\times\Lambda\longrightarrow\bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_\lambda $ , $\mathcal{F}(a,\lambda)=f_\lambda(a)$
が全単射になっていることを示す.
(i)単射性.
$(a,\lambda),(a',\lambda')\in A^+\times \Lambda$について,
$\mathcal{F}((a,\lambda))=\mathcal{F}((a',\lambda'))\Longrightarrow (a,\lambda)=(a',\lambda')$を示せばよい.
$\mathcal{F}((a,\lambda))=\mathcal{F}((a',\lambda'))\iff f_\lambda(a)=f_{\lambda'}(a')$
もし, $\lambda\neq\lambda'$なら$A_\lambda\cap A_{\lambda'}=\phi$なのでなり得ない.
ゆえに, $\lambda=\lambda'$で, $f_\lambda$の単射性から$a=a'$も得る.
したがって, $\mathcal{F}((a,\lambda))=\mathcal{F}((a',\lambda'))\Longrightarrow (a,\lambda)=(a',\lambda')$より単射.
(ii)全射性
$\displaystyle x\in\bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_\lambda$をとる.
このとき, $\exists(a,\lambda)\in A^+\times\Lambda\ s.t.\ \mathcal{F}((a,\lambda))=x$
を示せばよい.
$\{A_\lambda\}$の条件から$\exists!\lambda\in\Lambda\ s.t.\ x\in A_\lambda.$
また, 全射な写像$f_\lambda$があるので, $\exists a\in A^+\ s.t.\ f_\lambda(a)=x.$
これらのことから, $\exists(a,\lambda)\in A^+\times\Lambda\ s.t.\ \mathcal{F}((a,\lambda))=x.$
以上のことから, $\mathcal{F}$は全単射なので$\displaystyle A^+\times\Lambda\simeq \bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_\lambda$.
つまり, $\displaystyle\mathrm{Card}(A^+\times\Lambda)=\mathfrak{mn}=\mathrm{Card}\left(\bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_\lambda\right)$$\blacksquare$
さて, ここで一旦剰余類についてみたいと思います.
$H\overset{\text{sub.}}{\subset}G,\ x,y\in G.$
(1)$x^{-1}y\in H$であるとき, $x\sim y$とする. これは同値関係で, $x\in G$の同値類を$xH$と書いて, $x$の$H$による左剰余類という. $xH=\{xy\,|\,y\in H\}$である.
また, 左剰余類を集めた集合を$G/H=\{xH\,|\,x\in G\}$とかく.
(2)$yx^{-1}\in H$であるとき, $x\sim' y$とする. これは同値関係で, $x\in G$の同値類を$Hx$と書いて, $x$の$H$による右剰余類という. $Hx=\{yx\,|\,y\in H\}$である.
また, 左剰余類を集めた集合を$H\verb|\|G=\{Hx\,|\,x\in G\}$とかく.
左から作用するので左剰余類, 右から作用するので右剰余類ですね.
(本や文献によっては定義が逆になっているときもあります)
さて, ここで大事になってくるのが剰余類が"同値関係"$\sim\,,\,\sim'$によって定まっているということです.
つまり, $G/H$は商集合です. (右も同様です)
一応, $\sim$($\sim'$も同様です)が同値関係になっていることを確かめましょう.
$(E_1)$$\forall x\in G\,,\,x^{-1}x=1_G\in H.$
$(E_2)$$\forall x,y\in G\,,\,x^{-1}y\in H\Longrightarrow (x^{-1}y)^{-1}=y^{-1}x\in H.$
$(E_3)$$\forall x,y,z\in G\,,\,x^{-1}y\in H\,\text{and}\,y^{-1}z\in H\Longrightarrow (x^{-1}y)(y^{-1}z)=x^{-1}z\in H.$
ゆえに同値関係ですね.
これを確認して, 商集合や完全代表系についての命題を紹介します. が, 証明がすこし重たいので, この部分の証明はなげさせてもらいます....
(気が向いたら書きます)
商集合$E/R$に対して完全代表系(Complete System of Representatives.以下C.S.R.)は存在する.
これで, 剰余類からC.S.R.を取り出せます.
集合$E$の商集合$E/R$は$E$の分割である.
さらに, $S:$C.S.R.に対して, $\displaystyle\bigcup_{x\in S}[x]=E$
このことから, 剰余類$G/H$は$G$の分割になっていることがわかります. (右も同様)
また, 完全代表系の数が元の集合をいくつの同値類に分割したのかになっています.
$E:$集合, $R:$同値関係, $S:R$のC.S.R.
このとき, $\exists f:S\longrightarrow E/R:\text{bij.}$
つまり, $\mathrm{Card}(S)=\mathrm{Card}(E/R).$
さて, ここまでくると少しラグランジュの定理が見えてきましたね. ラストスパートです.
$H\overset{\text{sub.}}{\subset}G.$
(1) $\mathrm{Card}(G/H)=\mathrm{Card}(H\verb|\|G)=:(G:H).$
(2) $\forall x\in G\,,\,\mathrm{Card}(xH)=\mathrm{Card}(Hx)=\mathrm{Card}(H).$
(1)
写像$\varphi:G/H\longrightarrow H\verb|\|G$を$\varphi(xH)=Hx^{-1}.$
写像$\psi:H\verb|\|G\longrightarrow G/H$を$\psi(Hx)=x^{-1}H.$
がともにwell-definedで, 互いに逆写像となっていることを確認すればよい.
(2)
写像$\varphi:H\longrightarrow xH$を$\varphi(y)=xy.$
としてこれが全単射であることを確認すればよい.
同様に, 写像$\psi:H\longrightarrow Hx$を$\psi(y)=yx.$
として全単射であることを確認すればよい.
さて, ついにこれが出せます.
$G:\text{Group.}$ $H\overset{\text{sub.}}{\subset}G$
このとき, $\mathrm{Card}(G)=(G:H)\cdot\mathrm{Card}(H)$ が成立.
(まさにラグランジュの定理である)
命題4から$G/H$(もしくは$H\verb|\|G$)は$G$の分割.
命題3から$G/H$(もしくは$H\verb|\|G$)のC.S.R.$S$がとれて,
$\displaystyle G=\bigcup_{x\in S}xH=\bigcup_{x\in S}Hx.$
ゆえに, $\displaystyle \mathrm{Card}(G)=\mathrm{Card}\left(\bigcup_{x\in S}xH\right)=\mathrm{Card}\left(\bigcup_{x\in S}Hx\right).$
命題6と定理2から
$\mathrm{Card}(G)=\mathrm{Card}(S)\cdot\mathrm{Card}(xH)=\mathrm{Card}(S)\cdot\mathrm{Card}(Hx)=\mathrm{Card}(S)\cdot\mathrm{Card}(H).$
命題5から$\mathrm{Card}(G)=(G:H)\cdot\mathrm{Card}(H)\blacksquare$
なにも考えてませんが定理と命題を使うだけでラグランジュの定理が出てきました!
$|\cdot|$ではなく$\mathrm{Card}(\cdot)$を使っていたのは主に濃度の議論みが強いので, 群論で位数を表す$|\cdot|$と違いを強調するためでした.
これで「ラグランジュの定理?自明だよね〜〜」とドヤ顔で言えます!(?)やったー
お疲れ様でした!