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高校数学解説
文献あり

組み合わせ論と母関数1:べき乗和、基本対称式、完全斉次式

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べき乗和、基本対称式、完全斉次式

文字の集合S=a,b,c,d,e, ..に対し、べき乗和、基本対称式、完全斉次式を以下のように定義します。これから述べることはSの要素数が有限のときも無限のときも成り立ちます。

べき乗和

文字のk乗の和をk次のべき乗和といいpkと表す。
pk=jajk

p1=a + b + c + d + ..p2=a2 + b2 + c2 + d2 + ..p3=a3 + b3 + c3 + d3 + ....

基本対称式

異なるk個の文字からなる項の和をk次の基本対称式と呼びskと表す。
sk=j1<j2<..<jkaj1aj2 ..ajk

s1=a + b + c + d + ..s2=ab + ac + ad + ae + af + .. + bc + bd + be + bf + .. + cd + ce + cf + .. + de + df + .. + ef + ..s3=abc + abd + abe + abf + abg + ..acd + ace + acf + acg + .. + ade + adf + adg + .. + aef + aeg + .. + afg + .. + bcd + bce + bcf + bcg + ..bde + bdf + bdg + .. + bef + beg + .. + bfg + .. + cde + cdf + cdg + ..cef + ceg + .. + cfg + ....

skの項数

文字の数がn個の場合、
s1の項数はn
s2の項数は
(n1)+(n2)+ .. +1=n(n1)2=(n2)
s3の項数は
(n12)+(n22)+ .. +1=(n3)
skの項数は(nk)個です。これは定義からも分かります。

完全斉次式

重複を許したk個の文字からなる項の和をk次の完全斉次式と呼びhkと表す。
hk=j1j2..jkaj1aj2 ..ajk

h1=a + b + c + d + ..h2=a2 + ab + ac + ad + ae + .. + b2 + bc + bd + be + .. + c2 + cd + ce + .. + d2 + de + .. + e2 + ..h3=a3 + a2b + a2c + a2d + .. + ab2 + abc + abd + .. + ac2 + acd + .. + ad2 + .. + b3 + b2c + b2d + .. + bc2 + bcd + .. + bd2 + ..c3 + c2d + .. + cd2 + .. + d3 + ..

hkの項数

h1の項数はn
h2の項数は
n+(n1)+ .. +1=n(n+1)2=(n+12)
h3の項数は
(n+12)+(n2)+ .. +1=(n+23)
hkの項数は(n+k1k)個です。これは重複組合せの係数で
((nk))=(n+k1k)
とも書きます。これは以下のような考察で分かります。n個の文字にk1個の数字を混ぜ、そこからk個取り出します。文字はアルファベット順に並べ、しきいの有無により重複を表します。数字が取り出されたら、その番号のしきいを抜きます。
例えば、(a,b,c,d,e)が取り出された場合、(a|b|c|d|e)というイメージになります。(1,a,b,c,d)の場合、1番のしきいが抜かれ、(aa|b|c|d)となりa2bcdを表します。この方法でhkの項を過不足なく作れるので、hkの項数は(n+k1k)となります。

母関数

べき乗和の母関数

P:=az1az+bz1bz+cz1cz+ ..=p1z+p2z2+p3z3+ ..Q:=az1+az+bz1+bz+cz1+cz+ ..=p1zp2z2+p3z3 ..

基本対称式の母関数

R:=(1+az)(1+bz)(1+cz) ..=1+s1z+s2z2+s3z3+ ..S:=(1az)(1bz)(1cz) ..=1+s1zs2z2+s3z3 ..

skの項数はa,b,c, ..を全て1にしたときのzkの係数なので、(1+z)kzkの係数、すなわち(nk) になります。

完全斉次式の母関数

V:=1S=1(1az)(1bz)(1cz) ..=(1+az+a2z2+ ..)(1+bz+b2z2+ ..)(1+cz+c2z2+ ..) ..=1+h1z+h2z2+h3z3+ ..
T:=1R=1(1+az)(1+bz)(1+cz) ..=1h1z+h2z2h3z3+ ..

hkの項数は(1z)nzkの係数なので、一般二項定理より(n+k1k)となります。
(1z)n=1(n)z+(n)(n1)2z2(n)(n1)(n2)6+ ..=1+nz+n(n+1)2z2+n(n+1)(n+2)6z3+ ..

ニュートンの恒等式

R=(1+az)(1+bz)(1+cz) ..
の対数微分より

zdRRdz=az1+az+bz1+bz+cz1+cz+ ..=Q
また
zdSSdz=az1az+bz1bz+cz1cz+ ..=P
よって
P=p1z+p2z2+p3z3+ ..=s1z2s2z2+3s3z3 ..1s1z+s2z2s3z3+ ..Q=p1zp2z2+p3z3 ..=s1z+2s2z2+3s3z3+ ..1+s1z+s2z2+s3z3+ ..
Qの式について係数比較します。どちらの式を使っても同じ結果になります。
  zz2z3z4z5..  s1 2s2 3s3 4s4 5s5 ..= p1p2p3p4p5..s1p1s1p2s1p3s1p4..s2p1s2p2s2p3..s3p1s3p2..s4p1..
これより以下のニュートンの恒等式を得ます。

ニュートンの恒等式

s1=p12s2=s1p1p23s3=s2p1s1p2+p34s4=s3p1s2p2+s1p3p4..

指数表現

zdRRdz=QよりlnR=Qdzz
Qdzz=p1zp2z2/2+p3z3/3 ..
より
ln(1+s1z+s2z2+ ..)=ep1zp2z2/2+p3z3/3 ..
ln(1s1z+s2z2 ..)=ep1zp2z2/2p3z3/3 ..

完全斉次式と基本対象式の関係

V=1/S,T=1/Rより
1=(1+s1z+s2z2+ ..)(1h1z+h2z2 ..)1=(1s1z+s2z2 ..)(1+h1z+h2z2+ ..)
係数比較より以下の関係式が得られます。

完全斉次式と基本対象式の関係

h1=s1h2=s1h1s2h3=s1h2s2h1+s3h3=s1h3s2h2+s3h1s4..

完全斉次式とべき乗和の関係

V=1/S,T=1/Rを微分し
dS/S=dV/VdR/R=dT/T
P=zdSSdz,Q=zdRRdzより
P=zdVVdzQ=zdTTdz
これより
P=p1z+p2z2+p3z3+ ..=h1z+2h2z2+3h3z3+ ..1+h1z+h2z2+h3z3+ ..Q=p1zp2z2+p3z3 ..=h1z2h2z2+3h3z3 ..1h1z+h2z2h3z3+ ..
係数比較より以下の式を得ます。

完全斉次式とべき乗和の関係

h1=p12h2=h1p1+p23h3=h2p1+h1p2+p34h4=h3p1+h2p2+h1p3+p4..

指数表現

TR=1,SV=1より
ln(1+s1z+s2z2+ ..)=ln(1h1z+h2z2 ..)ln(1s1z+s2z2 ..)=ln(1+h1z+h2z2+ ..)
また
1h1z+h2z2+ ..=ep1z+p2z2/2p3/z3/3+ ..1+h1z+h2z2+ ..=ep1z+p2z2/2+p3z3/3+ ..

その他の関係式

1+s1z+s2z2+ ..=R1s1z+s2z2 ..=S1h1z+h2z2 ..=1/R1+h1z+h2z2+ ..=1/S
より
R=R111/R=s1z+s2z2+s3z3+ ..h1zh2z2+h3z3 ..S=S111/S=s1zs2z2+s3z3 ..h1z+h2z2+h3z3+ ..
また
R+S2=1+s2z2+s4z4+s6z6+ ..RS2=s1z+s3z3+s5z5+ ..R+S2RS=1+h2z2+h4z4+h6z6+ ..RS2RS=h1z+h3z3+h5z5+ ..
またP=zdSSdz,Q=zdRRdz,P=zdVVdz,Q=zdTTdz,V=1/S,T=1/Rより
PS=s1z2s2z2+3s3z3 ..QR=s1z+2s2z2+3s3z3+ ..P/S=h1z+2h2z2+3h3z3+ ..Q/R=h1z2h2z2+3h3z3 ..
よって
S=h1z2h2z2+3h3z3 ..p1z+p2z2+p3z3+ ..=p1z+p2z2+p3z3+ ..h1z+2h2z2+3h3z3+ ..R=h1z+2h2z2+3h3z3+ ..p1zp2z2+p3z3 ..=p1zp2z2+p3z3 ..h1z2h2z2+3h3z3 ..
これからRを何通りもの方法で表すことができます。zzで置き換えるとSについての式になります。

Rの表現

R=(1+az)(1+bz)(1+cz) ..=1+s1z+s2z2+s3z3+ ..=11h1z+h2z2h3z3+ ..=s1z+s2z2+s3z3+ ..h1zh2z2+h3z3 ..=s1z+2s2z2+3s3z3+ ..p1zp2z2+p3z3 ..=p1z2p2z2+3p3z3+ ..h1z2h2z2+3h3z3 ..

応用

a,b,c,..としてq,q2,q3 ..を使うと、自然数の分割関数の母関数が得られます。また素数のn乗を使い、z=1とするとオイラー積
V=p11pn=k=1kn
が得られます。

参考文献

投稿日:2024421
更新日:2024519
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17世紀の数学を学び始めました。 https://www.17centurymaths.com/ このサイト素晴らしい。

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  1. べき乗和、基本対称式、完全斉次式
  2. 母関数
  3. ニュートンの恒等式
  4. 完全斉次式と基本対象式の関係
  5. 完全斉次式とべき乗和の関係
  6. その他の関係式
  7. 応用
  8. 参考文献