自明な環でない単位的環 $R$ の 0 でない元に乗法逆元が存在する場合、 $R$ の 0 でない元全体の集合が乗法群をなすことを証明する。
特に $R$ が可換であるとき、$R \setminus \lbrace 0 \rbrace$ が可換群をなすことを証明する。
$R$ を自明な環、つまり $\lbrace 0 \rbrace$ でない単位的環とする。$x \in R \setminus \lbrace 0 \rbrace$ が乗法逆元を持つとき、$R \setminus \lbrace 0 \rbrace$ が乗法に関して群となることを示せ。
特に $R$ が可換であるとき、$R \setminus \lbrace 0 \rbrace$ が乗法に関して可換群となることを示せ。
これは、$R$ に関して乗法演算が定義されるとき、$x \in R \setminus \lbrace 0 \rbrace$ が逆元を持つという条件をひとつだけ課すと、$R \setminus \lbrace 0 \rbrace$ についてもこの乗法演算が閉じていて、かつ、結合則、単位元の存在を満たすということである。
まず $R \setminus \lbrace 0 \rbrace$ が乗法に関して閉じていることを示す。つまり、
$$ x \neq 0 \,\land\, y \neq 0 \,\Rightarrow\, xy \neq 0 $$
を示す。
まず、$x \neq 0 \,\land\, y \neq 0 \,\land\, xy = 0$ と仮定する。このとき、$x$ 及び $y$ は逆元を持つので、$xy = 0$ の両辺に左から $x^{-1}$ を、右から $y^{-1}$ を掛けると、
$$ x^{-1} \cdot (xy) \cdot y^{-1} = x^{-1} \cdot 0 \cdot y^{-1} $$
ここで、$0 \cdot a = (0 + 0) \cdot a = 0 \cdot a + 0 \cdot a$ より $0 \cdot a = 0$ であり、同様に $a \cdot 0 = 0$ であり、さらに結合律が成立することを考慮すると、
$$ 1 = 0 $$
これは矛盾である。従って、仮定の否定である
$$ \lnot (x \neq 0 \,\land\, y \neq 0 ) \,\lor\, xy \neq 0 $$
が成立する。これは示そうとしていた論理式に他ならない。以上より、$R \setminus \lbrace 0 \rbrace$ が乗法に関して閉じていることを示せた。
このとき、乗法は環の定義より結合則を満たす。
仮定より $ 0 \neq 1 $ であるから、$ 1 \in R \setminus \lbrace 0 \rbrace$ であり、これは単位元として成立している。
$x \neq 0$ のとき、$xy = yx = 1$ となる $y$ が存在し、$y \neq 0$ を満たすことを示す。
$x \in R \setminus \lbrace 0 \rbrace$ の $R$ における乗法逆元を $y'$ とおくと、$xy' = y'x = 1$ である。このとき $y' = 0$ と仮定すると $xy' = y'x = 0$ となり矛盾する。従って $y' \neq 0$ である。これは $y$ の値として適当である。
以上より、乗法逆元が存在する。
$R$ において $xy = z$ かつ $yx = z$ であれば、$R \setminus \lbrace 0 \rbrace$ においてもやはり $xy = z = yx$ であり、このとき $z \in R \setminus \lbrace 0 \rbrace$ である。
以上より、$(R \setminus \lbrace 0 \rbrace, \cdot)$ が群となることを示せた。
特に $R$ が可換であるとき、$(R \setminus \lbrace 0 \rbrace, \cdot)$ が可換群となることを示せた。
逆は次のようになる。
自明な環でない単位的環 $R$ の 0 でない元全体の集合が乗法群をなすならば、0 でない元に乗法逆元が存在する。
これは明らかに成立する。
以上より、「自明な環でない単位的可換環 $R$ の 0 でない元に乗法逆元が存在する場合、$R$ は体となる」という説明と、「自明な環でない単位的可換環環 $R$ の 0 でない元が乗法群をなすとき $R$ は体となる」という説明が同値なものであることがわかる。
必ずしも可換でない環と必ずしも可換でない体に関しても同様に同値な表現が可能である。