はじめに
ここでは,多変量正規分布からのランダム標本の標本平均ベクトルおよび標本共分散行列のもつ性質をいくつか見ていく.
※性質の多くは,1変量の場合の結果を拡張したものである.
, がそれぞれ,の十分統計量であることの証明
十分統計量の定義(Neymanの因子分解定理)
一般に,以下の条件を満たす場合に,統計量はの十分統計量であると言える.
尤度関数が以下のように分解される.
・・・(2.54)
ただし,はを含まない関数.
の持つの情報は,により捉えることができる.
具体的には,がの十分統計量であるとき,を(あるいはその不偏な関数)によって推定することができるのだった.
本題
,の十分統計量
多変量正規分布からのランダム標本に対し,その標本平均ベクトルと標本共分散行列はそれぞれ,の十分統計量である.
最後の結果を見ると,とはそれぞれが独立しておよびの十分統計量になるわけではないことがわかる.
一方,とは独立して分布する.
多変量正規分布からのランダム標本に対し,その標本平均ベクトルと標本共分散行列はそれぞれ独立である.
いま, の直交行列で,その第1行がであるような行列を考え,
とする.
このとき, 補題よりは互いに独立に,共分散行列の多変量正規分布に従う.
よって,
またにおいて,の直交性より
が成り立つ.
一方,
となり,はを含まない形で表される.
との独立性から,とは独立.
すなわちとは独立である.
確率行列の各行が独立に共通の共分散行列の多変量正規分布に従うとし,を次の直交行列とする.
このとき,の各行は独立に共分散行列の多変量正規分布に従う.