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積分・級数botを解く integral 1-3

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積分を解く

今週も級数・積分botに記載されている積分を解きます。

解く積分

integral 1-3

$$ \int_{0}^{\infty}\frac{x\sinh{x}}{(1+\cosh^2{x})^2}dx=\frac{\pi}{4}\left(\ln(1+\sqrt{2})-\frac{1}{\sqrt{2}}\right) $$

見るからにやばそうな積分ですね。パッと見た感じ、分子の$x$が悪さをしそうです。
実際この積分は結構大変なので、前置きはこのくらいにして解法に移りましょう。

パラメータの追加

$I(s)$を次のように定義します。

$$ I(s)\coloneqq\int_{0}^{\infty}\frac{x\sinh{x}}{s^2+\cosh^2{x}}dx \quad -1\leq s\leq 1 $$

このとき$I'(s)$を計算することで、

$I'(s)$の計算$$\begin{align} I'(s)&=\frac{d}{ds}\int_{0}^{\infty}\frac{x\sinh{x}}{s^2+\cosh^2{x}}dx\\[5pt] &=\int_{0}^{\infty}\frac{\partial}{\partial s}\frac{x\sinh{x}}{s^2+\cosh^2{x}}dx\quad微分と積分の交換定理の条件を満たすので交換可能\\[5pt] &=\int_{0}^{\infty}-\frac{x\sinh{x}}{(s^2+\cosh^2{x})^2}\frac{\partial}{\partial s}(s^2+\cosh^2{x})dx\\[5pt] &=-2s\int_{0}^{\infty}\frac{x\sinh{x}}{(s^2+\cosh^2{x})^2}dx \end{align} $$
$I'(1)=-2I$すなわち、

$$ I=-\frac{1}{2}I'(1) $$

が成り立つことが分かります。このことから、$I(s)$が計算できれば、
それを微分して$1$を代入することで積分が求まりそうです。

$I(s)$を計算する

では実際に$I(s)$を計算しましょう。

$$ \begin{align} I(s)&=\int_{0}^{\infty}\frac{x\sinh{x}}{s^2+\cosh^2{x}}dx\\[5pt] &=\int_{1}^{\infty}\frac{\mathrm{arcosh}\,y}{s^2+y^2}dy \qquad \cosh{x}\mapsto y\\[5pt] &=\int_{1}^{0}\frac{\mathrm{arcosh}\,1/y}{s^2+1/y^2}\frac{-1}{y^2}dy \qquad y\mapsto\frac{1}{y}\\[5pt] &=\int_{0}^{1}\frac{\mathrm{arsech}\,y}{1+s^2y^2}dy\\[5pt] &=\int_{0}^{1}\sum_{n=0}^{\infty}\left(-s^2y^2\right)^{n}\mathrm{arsech}\,y\,dy\\[5pt] &=\sum_{n=0}^{\infty}(-s^2)^n\int_{0}^{1}y^{2n}\mathrm{arsech}\,y\,dy \end{align} $$

※ここで登場する$\mathrm{arcosh}\,y$$\mathrm{arsech}\,y$は、それぞれ$\cosh{x},\sech{x}$の逆関数です。

最後の行で出てきた積分がもう少し上手く変形できそうです。
そこだけ切り取って計算してみましょう。
そこで$\mathrm{arsech}\,x$の微分をつかいます。

$\mathrm{arsech}\,x$の微分公式

$$ \frac{d}{dx}\mathrm{arsech}\,x=-\frac{1}{x\sqrt{1-x^2}} $$

証明$$\mathrm{arsech}\,x=\sech^{-1}{x}=\cosh^{-1}\frac{1}{x} $$
このことから$\mathrm{arsech}\,x$
$$ \frac{1}{x}=\frac{e^{y}+e^{-y}}{2} $$
のように表すことが出来ます。これを$y$について解くと、
$$\begin{align} &\frac{1}{x}=\frac{e^{y}+e^{-y}}{2}\\[5pt] &e^{2y}-\frac{2}{x}e^{y}+1=0\\[5pt] &e^{y}=\frac{1}{x}\pm\sqrt{\frac{1}{x^2}-1} \end{align}$$
正の分枝を選んで、両辺自然対数を取ると、
$$ y=\mathrm{arsech}\,x=\ln{\left(\frac{1+\sqrt{1-x^2}}{x}\right)} $$
両辺を$x$について微分することで、
$$ \frac{d}{dx}\mathrm{arsech}\,x=-\frac{1}{x\sqrt{1-x^2}} $$が得られます。

これを用いて下の積分の計算を進めます。
(積分変数は、わかりやすさのため$x$に変えておきます。)
普通に逆関数の微分公式を使ってもいいです。

$$\begin{align} \int_{0}^{1}x^{2n}\mathrm{arsech}\,x\,dx&= \left\lbrack \frac{x^{2n+1}}{2n+1}\mathrm{arsech}\,x\right\rbrack_{0}^{1}-\int_{0}^{1}\frac{x^{2n+1}}{2n+1}\frac{-1}{x\sqrt{1-x^2}}dx\\[5pt] &=\frac{1}{2n+1}\int_{0}^{1}\frac{x^{2n}}{\sqrt{1-x^2}}dx\\[5pt] &=\frac{1}{2n+1}\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\frac{\sin^{2n}\theta}{\sqrt{1-\sin^2\theta}}\cos\theta\,d\theta \qquad x\mapsto\sin\theta\\[5pt] &=\frac{1}{2n+1}\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\sin^{2n}\theta\,d\theta\\[5pt] &=\frac{1}{2n+1}\frac{\pi}{2}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!} \qquad \mathrm{Wallis}の積分公式\\[5pt] &=\frac{\pi}{2}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1} \end{align}$$

いい感じに整理できました。これを$I(s)$の式に代入すると、

$$\begin{align} I(s)&=\sum_{n=0}^{\infty}(-s^2)^n\int_{0}^{1}y^{2n}\mathrm{arsech}\,y\,dy\\[5pt] &=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{\pi}{2}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{(-s^2)^n}{2n+1}\\[5pt] &=\frac{\pi}{2}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{(is)^{2n}}{2n+1} \end{align}$$

虚数単位$i$を使って無理やり二乗をくくり出しました。
最後の式のシグマの部分を見ると、あることに気づきます。
そうですね、$\arcsin{z}$のテイラー展開(マクローリン展開)です。

$\arcsin{z}$のテイラー展開(マクローリン展開)

$$ \arcsin{z}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{z^{2n+1}}{2n+1} \quad |z|\leq1 $$

※文字が$z$になっていますが、これは$\lvert z\rvert\leq1$なる複素数で収束することが言いたいからです。

証明$$ \frac{d}{dx}\arcsin{x}=\frac{1}{\sqrt{1-x^2}} $$であることを用いて、一般化二項定理で証明します。
$$ (1+x)^{\alpha}=\sum_{n=0}^{\infty}\binom{\alpha}{n}x^n $$ここで$$ \binom{\alpha}{n}= \begin{cases} \dfrac{\alpha(\alpha-1)\cdots(\alpha-n+1)}{n!} & (n\neq 0)\\[5pt] 1 & (n=0) \end{cases} $$である。
$\alpha=-1/2$を代入して計算すると、
$$\begin{align} &\frac{1}{n!}\left(-\frac{1}{2}\right)\left(-\frac{3}{2}\right)\cdots\left(-\frac{2n-1}{2}\right)\\[5pt] =&\frac{(-1)^n}{n!}\frac{1}{2}\frac{3}{2}\cdots\frac{2n-1}{2}\\[5pt] =&(-1)^n\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!} \end{align}$$なので、
$$\begin{align} \arcsin{x}=&\int_{0}^{x}\frac{1}{\sqrt{1-t^2}}dt\\[5pt] =&\int_{0}^{x}\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^n\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}(-t^2)^ndt\\[5pt] =&\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\int_{0}^{x}t^{2n}dt\\[5pt] =&\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{x^{2n+1}}{2n+1} \end{align}$$この級数は$\lvert x\rvert\leq1$で収束します。
文字を$z$に書き換えると公式2が得られます。

工夫して積分を求める

$I(s)$の式をよく見ると惜しいことが分かります。
$is$の指数が$2n$ですね。ここを$2n+1$にするために$I(s)$$is$を掛けて計算を進めると、
$$ (is)I(s)=\frac{\pi}{2}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{(is)^{2n+1}}{2n+1}\\[5pt] =\frac{\pi}{2}\arcsin{(is)} $$
これを用いると、

$$\begin{align} I'(s)=&\frac{d}{ds}\frac{(is)I(s)}{is}\\[5pt] =&-\frac{i\pi}{2}\frac{d}{ds}\frac{\arcsin{(is)}}{s}\\[5pt] =&-\frac{i\pi}{2}\left(\frac{i}{s\sqrt{1+s^2}}-\frac{\arcsin{(is)}}{s^2}\right)\\[5pt] =&\frac{\pi}{2}\left(\frac{1}{s\sqrt{1+s^2}}+\frac{i\arcsin{(is)}}{s^2}\right) \end{align}$$

$I=-1/2I'(1)$であったので、代入して

$$ I=-\frac{\pi}{4}\left(\frac{1}{\sqrt{2}}+i\arcsin{i}\right) $$

ここで、$\arcsin{i}$が一見よくわかりませんが、
複素対数関数を使った$\arcsin$の表示を使うと上手く整理されます。

$\arcsin{z}$の複素対数関数を使った表示

$$ \arcsin{z}=-i\ln(iz+\sqrt{1-z^2}) $$

証明$$\arcsin{x}=\theta$$とおくと、$$\begin{align} &\sin\theta=x\\[5pt] &\frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}=x\\[5pt] &e^{2i\theta}-2ixe^{i\theta}-1=0\\[5pt] &e^{\theta}=ix\pm\sqrt{1-x^2} \end{align}$$正の分枝を選んで両辺自然対数を取り、変数を$z$に変えると
$$ \arcsin{z}=-i\ln(iz+\sqrt{1-z^2}) $$

公式3より、
$$ \arcsin{i}=-i\ln(\sqrt{2}-1)=i\ln(\frac{1}{\sqrt{2}-1})=i\ln(1+\sqrt{2}) $$
のように計算でき、元の式に代入することで

$$ I=\frac{\pi}{4}\left(\ln(1+\sqrt{2})-\frac{1}{\sqrt{2}}\right) $$

上手く虚数が消えて積分が解けました。

今回の積分はかなり大変でしたね。
もっと楽な解法、エレガントな解法を知ってるよって人は、
是非コメント欄で教えてください!
それではまた。

投稿日:1013
更新日:1028
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