今週も級数・積分botに記載されている積分を解きます。
$$ \int_{0}^{\infty}\frac{x\sinh{x}}{(1+\cosh^2{x})^2}dx=\frac{\pi}{4}\left(\ln(1+\sqrt{2})-\frac{1}{\sqrt{2}}\right) $$
見るからにやばそうな積分ですね。パッと見た感じ、分子の$x$が悪さをしそうです。
実際この積分は結構大変なので、前置きはこのくらいにして解法に移りましょう。
$I(s)$を次のように定義します。
$$ I(s)\coloneqq\int_{0}^{\infty}\frac{x\sinh{x}}{s^2+\cosh^2{x}}dx \quad -1\leq s\leq 1 $$
このとき$I'(s)$を計算することで、
$$ I=-\frac{1}{2}I'(1) $$
が成り立つことが分かります。このことから、$I(s)$が計算できれば、
それを微分して$1$を代入することで積分が求まりそうです。
では実際に$I(s)$を計算しましょう。
$$ \begin{align} I(s)&=\int_{0}^{\infty}\frac{x\sinh{x}}{s^2+\cosh^2{x}}dx\\[5pt] &=\int_{1}^{\infty}\frac{\mathrm{arcosh}\,y}{s^2+y^2}dy \qquad \cosh{x}\mapsto y\\[5pt] &=\int_{1}^{0}\frac{\mathrm{arcosh}\,1/y}{s^2+1/y^2}\frac{-1}{y^2}dy \qquad y\mapsto\frac{1}{y}\\[5pt] &=\int_{0}^{1}\frac{\mathrm{arsech}\,y}{1+s^2y^2}dy\\[5pt] &=\int_{0}^{1}\sum_{n=0}^{\infty}\left(-s^2y^2\right)^{n}\mathrm{arsech}\,y\,dy\\[5pt] &=\sum_{n=0}^{\infty}(-s^2)^n\int_{0}^{1}y^{2n}\mathrm{arsech}\,y\,dy \end{align} $$
※ここで登場する$\mathrm{arcosh}\,y$や$\mathrm{arsech}\,y$は、それぞれ$\cosh{x},\sech{x}$の逆関数です。
最後の行で出てきた積分がもう少し上手く変形できそうです。
そこだけ切り取って計算してみましょう。
そこで$\mathrm{arsech}\,x$の微分をつかいます。
$$ \frac{d}{dx}\mathrm{arsech}\,x=-\frac{1}{x\sqrt{1-x^2}} $$
これを用いて下の積分の計算を進めます。
(積分変数は、わかりやすさのため$x$に変えておきます。)
普通に逆関数の微分公式を使ってもいいです。
$$\begin{align} \int_{0}^{1}x^{2n}\mathrm{arsech}\,x\,dx&= \left\lbrack \frac{x^{2n+1}}{2n+1}\mathrm{arsech}\,x\right\rbrack_{0}^{1}-\int_{0}^{1}\frac{x^{2n+1}}{2n+1}\frac{-1}{x\sqrt{1-x^2}}dx\\[5pt] &=\frac{1}{2n+1}\int_{0}^{1}\frac{x^{2n}}{\sqrt{1-x^2}}dx\\[5pt] &=\frac{1}{2n+1}\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\frac{\sin^{2n}\theta}{\sqrt{1-\sin^2\theta}}\cos\theta\,d\theta \qquad x\mapsto\sin\theta\\[5pt] &=\frac{1}{2n+1}\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\sin^{2n}\theta\,d\theta\\[5pt] &=\frac{1}{2n+1}\frac{\pi}{2}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!} \qquad \mathrm{Wallis}の積分公式\\[5pt] &=\frac{\pi}{2}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1} \end{align}$$
いい感じに整理できました。これを$I(s)$の式に代入すると、
$$\begin{align} I(s)&=\sum_{n=0}^{\infty}(-s^2)^n\int_{0}^{1}y^{2n}\mathrm{arsech}\,y\,dy\\[5pt] &=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{\pi}{2}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{(-s^2)^n}{2n+1}\\[5pt] &=\frac{\pi}{2}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{(is)^{2n}}{2n+1} \end{align}$$
虚数単位$i$を使って無理やり二乗をくくり出しました。
最後の式のシグマの部分を見ると、あることに気づきます。
そうですね、$\arcsin{z}$のテイラー展開(マクローリン展開)です。
$$ \arcsin{z}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{z^{2n+1}}{2n+1} \quad |z|\leq1 $$
※文字が$z$になっていますが、これは$\lvert z\rvert\leq1$なる複素数で収束することが言いたいからです。
$I(s)$の式をよく見ると惜しいことが分かります。
$is$の指数が$2n$ですね。ここを$2n+1$にするために$I(s)$に$is$を掛けて計算を進めると、
$$
(is)I(s)=\frac{\pi}{2}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{(is)^{2n+1}}{2n+1}\\[5pt]
=\frac{\pi}{2}\arcsin{(is)}
$$
これを用いると、
$$\begin{align} I'(s)=&\frac{d}{ds}\frac{(is)I(s)}{is}\\[5pt] =&-\frac{i\pi}{2}\frac{d}{ds}\frac{\arcsin{(is)}}{s}\\[5pt] =&-\frac{i\pi}{2}\left(\frac{i}{s\sqrt{1+s^2}}-\frac{\arcsin{(is)}}{s^2}\right)\\[5pt] =&\frac{\pi}{2}\left(\frac{1}{s\sqrt{1+s^2}}+\frac{i\arcsin{(is)}}{s^2}\right) \end{align}$$
$I=-1/2I'(1)$であったので、代入して
$$ I=-\frac{\pi}{4}\left(\frac{1}{\sqrt{2}}+i\arcsin{i}\right) $$
ここで、$\arcsin{i}$が一見よくわかりませんが、
複素対数関数を使った$\arcsin$の表示を使うと上手く整理されます。
$$ \arcsin{z}=-i\ln(iz+\sqrt{1-z^2}) $$
公式3より、
$$
\arcsin{i}=-i\ln(\sqrt{2}-1)=i\ln(\frac{1}{\sqrt{2}-1})=i\ln(1+\sqrt{2})
$$
のように計算でき、元の式に代入することで
$$ I=\frac{\pi}{4}\left(\ln(1+\sqrt{2})-\frac{1}{\sqrt{2}}\right) $$
上手く虚数が消えて積分が解けました。
今回の積分はかなり大変でしたね。
もっと楽な解法、エレガントな解法を知ってるよって人は、
是非コメント欄で教えてください!
それではまた。