本稿では、圏論的二項関係の合成の定義を紹介する。
圏論的に二項関係の合成を定義する上で、柱体化(cylindrification)という操作が重要になる。柱体化とは積の射影で逆像を取る操作であり、二項関係$R \subseteq A \times B$を三項関係$R \times C \subseteq A \times B \times C$へと自明に拡張する。$R \subseteq A \times B,S \subseteq B \times C$が与えられているならば、柱体化を駆使して、$R \times C \cap A \times S \subseteq A \times B \times C$を取ることによって、二項関係の合成のベースを作ろうという魂胆である。
一方で、圏論的な二項関係とは2-table、則ちjointly monic spanによって表示されるものと定義したのだった。jointly monic spanで二項関係を表示すると、柱体化のintersectionを取る操作をグッと楽に構成する方法があることを最後に提示する。
平面図形を立体図形にする最も自明な方法はなんだろうか?有力な方法の一つは、垂直方向に無限に引き伸ばしていくことである。
無限に延びる円筒
この操作を平面図形の柱体化と呼ぶことにする。
全単射$\mathbb R \times \mathbb R \times \{0\} \leftrightarrow \mathbb R \times \mathbb R,\ (x,y,0) \leftrightarrow (x,y)$により、座標空間中の$xy$平面を、二次元平面としての$xy$座標平面と同一視する。$xy$平面上の図形の柱体化は、$\mathbb R^2$の部分集合から$\mathbb R^3$の部分集合を作る操作である。単位円及びその内部の例で具体的に考えてみよう。
$xy$平面上で単位円及びその内部が成す平面図形$C$は、$C = \{(x,y) \in \mathbb R^2 \mid x^2 + y^2 \leq 1\}$のように書ける。では、$C$を柱体化した立体($V$とする)はどのように書かれるか?簡単である。$V$は$C$の上下無限遠まで延びているから、$z$方向の値は$\mathbb R$の元であれば何でも良い。よって$V$は、次のように表示される。
$$ V = \{ (x,y,z) \in \mathbb R^3 \mid x^2 + y^2 \leq 1 \} $$
この$V$は、次を満たす。
$$ V = \{ (x,y,z) \in \mathbb R^3 \mid \langle \pi_x,\pi_y \rangle(x,y,z) \in C \} = \langle \pi_x,\pi_y\rangle^{-1}C $$
則ち、$C$の柱体化$V$とは、積の射影写像$\langle \pi_x,\pi_y \rangle$による$C$の逆像である。
積の射影の逆像
二項積と引き戻しを持つ圏で考える。対象$A,B$上の二項関係$R$とは、$A,B$上の2-tableの同型類、則ち$A,B$を足に持つjointly monic spanの同型類のことを言った。二項積を持つ圏では、これは$A \times B$の部分対象と自然に同一視できる。(積の普遍性が同一視を与える。)
2-tableとmonic
さて、二項積と引き戻しを持つ圏では、次が成り立つ。
任意の射$f \colon M \to A$と任意の対象$B$に対し、次の図式は引き戻し四角形である。
積の射影が作る四角形
単純計算で確かめられる。$M,B\times A$上のspan$(X;x,y)$を任意に取り、$f \circ x = \pi_A \circ y$を満たすと仮定する。$y = \langle \pi_B \circ y,\pi_A \circ y\rangle$であるから、ある$z \colon X \to B$が存在して$y = \langle z,f \circ x \rangle$と書ける。ここで$\langle z,f \circ x \rangle = (1_B \times f) \langle z,x \rangle$と分解できて、$\langle z,x\rangle \colon X \to B \times M$かつ$\pi_M \circ \langle z,x \rangle = x$であるから、普遍性のうち射の存在は言えた。また、一意性も、積$(B \times M;\pi_B,\pi_M)$の普遍性によって直ちに従う。($\theta'\colon X \to B \times M$で$x = \pi_M \circ \theta'$かつ$y = (1_B\times f)\circ \theta'$ならば、$x = \pi_M\circ \theta'$かつ$z = \pi_B \circ \theta'$を満たし、$\theta' = \langle z,x\rangle$でなければならない。)
普遍性の確認
なお圏が終対象を持つ場合には、次のように引き戻しのpasting lemmaより直ちに従う。
終対象に向かう射の引き戻しは二項積を与える
二項積と射影が成す2-tableは、終対象に向かう射の引き戻しであるから、左側の図式では右の正方形と大外の長方形が引き戻しである。よって引き戻しのpasting lemmaより、左の正方形図式も引き戻し。
comonadより、二項積と引き戻しを持つ圏では、部分対象の柱体化を二項積の表示に従属させて次のように定義できる。
$m \colon M \to A$をmonicとする。これを$A$上の1-table$(M;m)$と見做す。このとき任意の対象$B$に対して、射影$\pi_A \colon B\times A \to A$に関して$m$の引き戻しを取ることによって、$B \times A$上の1-table$(B \times M;1_B \times m)$を得る。これを$(M;m)$の$B$に関する柱体化あるいは円筒拡張(cylindrical extension)と呼ぶ。(本稿では柱体化で統一する。)
積の射影の逆像
comonadおよび引き戻しはmonicを引き戻すことから、図中の$1_B \times m$は確かにmonicであることに注目。
なお、二項積の順序を入れ替えても同様に引き戻しを得られる。
任意の射$f \colon M \to A$と任意の対象$B$に対し、次の図式は引き戻し四角形である。
第一射影の場合
次の図式が成り立つので、pasting lemmaを繰り返して、大外の長方形図式は引き戻しであることが従う。
pasting lemma2連発
中央の正方形はcomonadで示した通り引き戻しである。左右の正方形が引き戻しであることを示すのは容易い(一般に、向かい合う射の一組がそれぞれ同型射であるような可換四角形図式は常に引き戻し図式になる)。
$A,B,C$を集合とし、$R \subseteq A \times B,S \subseteq B \times C$をそれぞれ二項関係のグラフとする。このとき$R$の柱体化として$\{ (a,b,c) \in A \times B \times C \mid Rab \}$、$S$の柱体化として$\{ (a,b,c) \in A \times B \times C \mid Sbc\}$がそれぞれ選べる。ただし$Rab,Sbc$とは、いずれも$(a,b) \in R,(b,c) \in S$の別表記。
部分集合の柱体化
厳密に言えば、$R,S$の柱体化はそれぞれ$R \times C = \{((a,b),c) \mid Rab\} \subseteq (A \times B)\times C,A \times S = \{(a,(b,c)) \mid Sbc\} \subseteq A \times (B\times C)$であるが、二項積に関する標準的な同型$(A \times B) \times C \simeq A \times (B \times C) \simeq A \times B \times C$に基づいて1-tableの同型が成り立つため、$\{(a,b,c) \in A \times B \times C \mid Rab\}$などを表示として選んで構わない。
集合論では、二項関係のグラフ$R\subseteq A \times B,S \subseteq B \times C$に対し、二項関係の合成のグラフ$S \circ R$が次で定義できた。
$$ S \circ R = \{ (a,c) \in A \times C \mid \exists b . Rab \land Sbc \} $$
ただし$Rab,Sbc$は、$(a,b) \in R,(b,c) \in S$の別表記である。前回の記事の内容でも見た通り、$S \circ R$は、集合$T \overset{\mathrm{def}}{=}\{(a,b,c) \in A \times B \times C \mid Rab \land Sbc\}$を積の射影写像$\langle \pi_A,\pi_C \rangle \colon A \times B \times C \to A \times C$によって順像を取ったものに等しい。
前回の記事で、積の射影で順像を取る操作が、射影で消える対象と対応する自由変数で存在量化を取ることと対応する話をした。
圏論では対象の元を取れるとは限らないが、二項積と順像を持つ圏ならば、二項関係の合成に必要な存在量化を積の射影の順像で表示することができる。よって、圏論的二項関係$R \in \mathrm{Rel}(A,B),S \in \mathrm{Rel}(B,C)$でも、集合論の二項関係の合成と同様、適切な$T \in \mathrm{Sub}(A\times B\times C)$を構成できさえすれば、あとは積の射影$\langle \pi_A,\pi_C \rangle$の順像を取ることによって、$R,S$を合成した関係を得ることができる。この節では、この$T$を$S,R$から構成する方法を見ていく。
二項積、引き戻しと像を持つ圏で考える。対象$A,B$上の二項関係$R$と、対象$B,C$上の二項関係$S$が与えられたとする。$R,S$はそれぞれ$A \times B,B \times C$の部分対象と自然に同一視できるから、それぞれの表示を一つ選ぶ。$r\colon M \to A \times B,s \colon M' \to B \times C$を、それぞれ$R,S$を表示するmonicとする。柱体化を用いて、$(M;r),(M';s)$を$A \times B \times C$上の1-tableに持ち上げよう。
まずは$(M;r)$について。
$R$の柱体化
ただし、$\overline{r\times 1_C}$とは、次を満たす射である。
$$ \overline{r\times 1_C} \overset{\mathrm{def}}{=}\langle \pi_A\circ \pi_{A \times B},\pi_B \circ \pi_{A \times B},\pi_C\rangle \circ (r \times 1_C) = \langle \pi_A\circ r \circ \pi_M,\pi_B \circ r \circ \pi_M,\pi_C \rangle $$
同様に、$(M';s)$についても柱体化を行う。
$S$の柱体化
ただし$\overline{1_A\times s}$とは、次を満たす射である。
$$ \overline{1_A\times s} \overset{\mathrm{def}}{=} \langle \pi_A,\pi_B\circ \pi_{B \times C},\pi_C \circ \pi_{B \times C}\rangle \circ (1_A \times s) = \langle \pi_A,\pi_B \circ s \circ \pi_{M'},\pi_C \circ s \circ \pi_{M'} \rangle $$
こうして柱体化$(M \times C;\overline{r \times 1_C}),(A \times M';\overline{1_A \times s})$を得たので、これらのintersectionを取れば良い。これまでの図式をひとまとめにすると以下のようになる。
柱体同士のintersection
このようにして得た$A \times B \times C$上の1-table$(M\times C\cap A \times M';\overline{r \times 1_C} \circ \lambda)$に対して、$\langle \pi_A,\pi_C \rangle$で順像を取れば、$A \times C$上の1-tableで合成関係$S \circ R$の表示となるものを構成できる。
$\cdots$とまあ、論理的にはこれで正しいが、$(M\times C \cap A \times M';\overline{r \times 1_C}\circ \lambda)$が一体どんな$A \times B\times C$の部分対象を表示しているのか、イマイチよく分からないのは矢張り気になる。このmonicは一体、二項関係$R,S$とどういう繋がりを持っているのかをはっきりさせておきたい。
先ほどは、intersectionを利用したいがために、二項関係$R,S$をそれぞれ$A\times B,B \times C$上の部分対象と見做し、$(M;r),(M';s)$というmonicで柱体化を図ったのだった。しかし圏論的な二項関係とは、定義の上では2-tableの形式で表示されるものである。つまり、$R,S$は、jointly monic span$(M;f_1,f_2),(M';g_1,g_2)\ \text{s.t.}\ \langle f_1,f_2\rangle = r,\langle g_1,g_2 \rangle = s$によって表示することができる。二項関係を2-tableで表したとき、関係の合成はどのように表されるだろうか?
ここで、直前の図を思い出すと、右下が欠けているのが気になる。ここは次のようにして自然に埋められる。
積の射影を補充して四つの可換四角形に
これで右下の四角形図式が引き戻しであれば、面白いことが起きるのである。
次の四角形図式は引き戻しである。
積の射影四つ
$\theta \overset{\mathrm{def}}{=} \langle \langle \pi_A,\pi_B \rangle,\pi_C\rangle$とする。$\langle \pi_B,\pi_C \rangle = (\pi_B \times 1_C) \circ \theta$である。
$$ (\pi_B \times 1_C) \circ \langle \langle \pi_A,\pi_B\rangle,\pi_C\rangle = \langle \pi_B \circ \langle \pi_A,\pi_B \rangle,\pi_C \rangle = \langle \pi_B,\pi_C \rangle $$
よって、次の図式が成り立つ。
既知の引き戻し四角形を生やしてpasting lemma
comonad-anotherより、右側の四角形図式は、引き戻しである。また向かい合う辺の組が同型射である左側の四角形図式も、引き戻しであることが容易に確かめられる。したがって、引き戻しのpasting lemmaより、大外の長方形図式もまた引き戻し四角形である。
これにより、次の定理が従う。
$A,B$上の二項関係$R$と$B,C$上の二項関係$S$が与えられ、$(M;f_1,f_2),(M';g_1,g_2)$をそれぞれの表示とする。monic$\langle f_1,f_2 \rangle,\langle g_1,g_2\rangle$に対して、それぞれ$\langle \pi_A,\pi_B \rangle,\langle \pi_B,\pi_C \rangle$で柱体化を施し、$A \times B \times C$の部分対象としてintersectionを取る。このとき、$M\times C \cap A \times M'$は、$f_2,g_1$の引き戻しの頂点$P$と標準的に同型になる。特に、図14に於ける$(M \times C \cap A \times M';\pi_M \circ \lambda, \pi_{M'}\circ \rho)$は$f_2,g_1$の引き戻しである。
$B$に向かう脚同士で引き戻し
$r = \langle f_1,f_2 \rangle,s = \langle g_1,g_2 \rangle$として柱体化を取ると、projectionsより、次の図式が成り立つ。
四つの引き戻し四角形
引き戻しのpasting lemmaを縦横に繰り返し適用して、次が成り立つ。
大外の四角形
ここで$r = \langle f_1,f_2 \rangle,s = \langle g_1,g_2 \rangle$であるから、$\pi_B \circ r = f_2$かつ$\pi_B \circ s = g_1$。したがって、$M \times C \cap A \times M'$は、$f_2,g_1$の引き戻しである。
construction-intersectionより、二項積、引き戻し、像を持つ圏に於いて、$R \in \mathrm{Rel}(A,B),S \in \mathrm{Rel}(B,C)$及びこれらの表示$(M;f_1,f_2),(M';g_1,g_2)$が与えられたとき、二項関係の合成は次の手順で得られる。
2-tableで表した二項関係の合成
積の射影で順像を取る
この構成で得た2-table$(\exists\langle \pi_A,\pi_C \rangle P;\pi_A \circ m,\pi_C \circ m)$が、合成した関係$S \circ R$を表示する。