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大学数学基礎解説
文献あり

【メモ】単因子論とジョルダン標準形

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単因子論を用いたジョルダン標準形の存在証明について,メモしておきます.基本的に『代数の基礎』1を参考にしています.

設定と準備

$k$は代数閉体,$n$は正の整数とする.$A=(a_{ij})\in M_n(k)$のジョルダン標準形の存在を示す.$A$が定める$k$線形写像$k^n\rightarrow k^n$$T$で表す.

$k$代数の単射準同型$k[x]\rightarrow M_n(k),x\mapsto A$の像$k[A]$$k[x]$と同一視して,自然に$k^n$$k[x](=k[A])$加群とみなす.

次の命題は線形代数において基本的:

$k$上有限次元線形空間$V_1,V_2$と,線形写像$\psi_i:V_i\rightarrow V_i\;(i=1,2)$と線形同型写像$\phi:V_1\rightarrow V_2$があり,次の可換図式を満たすとする:

$\xymatrix{V_1 \ar[r]^{\psi_1} \ar[d]_{\phi} & V_1 \ar[d]^{\phi} \\V_2\ar[r]_{\psi_2} & V_2}$

また,$\{v_1,...,v_n\}$$V_2$の基底とする.

このとき,$u_i=\phi^{-1}(v_i)$とおくと,$\{u_1,...,u_n\}$$V_1$の基底であり,この基底に関する$\psi_1$の表現行列と,$\{v_1,...,v_n\}$に関する$\psi_2$の表現行列は等しい.

特に,$\psi_2$の表現行列がジョルダン標準形になるような$V_2$の基底が存在するとき,$\psi_1$の表現行列がジョルダン標準形になるような$V_1$の基底も存在する.

$k[x]$加群準同型を考える

ここからしばらくは$k[x]$加群に関する議論を行う.出てくる準同型も$k[x]$加群の準同型であることに注意する.

$k[x]^n$および$k^n$の元で,$i$番目の成分が$1$で残りの成分が$0$であるものをそれぞれ$e'_i,\;e_i$と書く.$e'_i$$e_i$に移す$k[x]$加群の準同型$\eta:k[x]^n\rightarrow k^n$を考える.

$j=1,...,n$に対して$f_j:=xe'_j-\displaystyle\sum_{i=1}^na_{ij}e'_i\in k[x]^n$とおく.このとき,$\{f_1,...,f_n\}$$\text{Ker}\;\eta$$k[x]$加群としての基底である.(1命題3.2.20.)

さて,$e'_j$$f_j$に移す$k[x]$加群の準同型$\lambda:k[x]^n\rightarrow k[x]^n$を考える.すると次の$k[x]$加群の系列が完全系列になる:

$\xymatrix{k[x]^n \ar[r]^{\lambda} & k[x]^n \ar[r]^{\eta} & k^n\ar[r]& 0\quad(\text{exact})}$

ここで,$\lambda$の基底$\{e'_1,...,e'_n\}$に関する表現行列は$xI_n-A$となる.上の完全系列により,$k[x]$加群としての同型$k^n\cong \text{Coker}\;\lambda$がある.

単因子論を用いる

$k[x]$加群としての同型$k^n\cong \text{Coker}\;\lambda$があることがわかったので,単因子論を用いて$\text{Coker}\;\lambda$を調べていく.$\lambda$$k[x]$加群の準同型である.$k[x]$$\text{PID}$なので,$k[x]$成分の行列$xI_n-A\;(=\lambda$の表現行列)に対して単因子論を用いることができる.

単因子論により,$d_1(x),...,d_s(x)\in k[x]$が存在して,

$xI_n-A\sim\Lambda:= \begin{pmatrix} 1&0&\cdots&\cdots&\cdots&0\\ 0&\ddots&&&&\vdots\\ \vdots&&1&&&\vdots\\ \vdots&&&d_1(x)&&\vdots\\ \vdots&&&&\ddots&0\\ 0&\cdots&\cdots&\cdots&0&d_s(x) \end{pmatrix} $となる.

行列$\Lambda$が表す$k[x]$加群の準同型$k[x]^n\rightarrow k[x]^n$もそのまま$\Lambda$で表すとすると,$k[x]$加群として$\text{Coker}\;\lambda\cong \text{Coker}\;\Lambda\cong \displaystyle\bigoplus_{i=1}^s k[x]/d_i(x)$となる.

$k[x]/(d_i(x))$に対して中国式剰余定理を用いることで,$\alpha_1,...,\alpha_t\in k$および$n_1,...,n_t\in\mathbb{N}$が存在して,

$\text{Coker}\;\Lambda\cong \displaystyle\bigoplus_{j=1}^t k[x]/((x-\alpha_j)^{n_j})$

となる.($j_1\not=j_2$でも$\alpha_{j_1}\not=\alpha_{j_2}$とは限らない.)

こうして,$k[x]$加群の同型$\phi:k^n\rightarrow V:=\displaystyle\bigoplus_{j=1}^t k[x]/((x-\alpha_j)^{n_j})$が存在することがわかった.

$k$線形写像に移る

ここで$k[x]$加群の話から$k$線形空間の話に移る.このパートが重要.

$\phi$$k[x]$加群の準同型なので,$f(x)\in k[x]$$z\in k^n$に対して,

$\phi(f(x)\cdot z)=f(x)\cdot\phi(z)$が成立する.これは,写像

$k^n\rightarrow k^n,\quad z\mapsto f(x)\cdot z$

$\psi^{(1)}_{f(x)}$と書き,写像

$V\rightarrow V,\quad v\mapsto f(x)\cdot v$

$\psi^{(2)}_{f(x)}$と書くことにすると,次の可換図式が成立するということである:

$\xymatrix{k^n \ar[r]^{\psi^{(1)}_{f(x)}} \ar[d]_{\phi} & k^n \ar[d]^{\phi} \\V\ar[r]_{\psi^{(2)}_{f(x)}} & V}$

ここで$f(x)=x$の場合を考える.

今,$z\in k^n$に対して,$\psi^{(1)}_x(z)=x\cdot z=Az=T(z)$であるから,$\psi^{(1)}_x=T$.よって,次の可換図式を得る:

$\xymatrix{k^n \ar[r]^{T} \ar[d]_{\phi} & k^n \ar[d]^{\phi} \\V\ar[r]_{\psi^{(2)}_{x}} & V}$

ここで,$T,\psi^{(2)}_x$$k$線形写像であり,$\phi$$(k[x]$加群の同型でもあったが$)k$線形同型でもあることに注意する.($\leftarrow$これが重要!)よって命題1により,$\psi:=\psi^{(2)}_x$の表現行列がジョルダン標準形になるような$V$の($k$上の)基底を見つければいいことがわかる.

$\psi$を調べる

$\psi:V\to V$は,各$j$に対する

$\psi_j:\;V_j:=k[x]/((x-\alpha_j)^{n_j})\to V_j,\quad f(x)\mapsto xf(x)$

を集めたものであるから,$\psi_j$の表現行列がジョルダン細胞になることを見れば十分である.$V_j$の基底$\{(x-a_j)^{n_j-1},...,x-\alpha_j,1\}$に対する$\psi_j$の表現行列は次の通りサイズ$n_j$のジョルダン細胞になる:

$ J_j:= \begin{pmatrix} \alpha_j&1&0&\cdots&0\\ 0&\alpha_j&1&\cdots&0\\ \vdots&\vdots&\ddots&\ddots&\vdots\\ 0&\cdot&\cdots&\alpha_j&1\\ 0&0&\cdots&0& \alpha_j \end{pmatrix} $

こうして$V_j$たちの基底を集めて$V$の基底とすれば,$\psi$のその基底に関する表現行列は$J_1,...,J_t$を斜めに並べたものになり,ジョルダン標準形である.

よって命題1により$k^n$の基底をうまく取れば,$T$の表現行列をジョルダン標準形にできることがわかった.これは,正則行列$P\in GL_n(k)$が存在して$PAP^{-1}$がジョルダン標準形になることを意味する.

参考文献

[1]
清水勇二, 代数の基礎, 数学の魅力, 共立出版, 2024
投稿日:16日前
OptHub AI Competition

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