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非整数階微分作用素の入ったシャッフル積について

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こんにちは、itouです。今回は 前回 の最後で触れた式に関して進展があったので、解説していきます。

非整数階微分演算子

微分作用素ddxに対し、(ddx)12という作用を考えることはできるでしょうか。この疑問に答えるのが分数階微積分学(fractional calculus)です。まず、整数n,関数f(x)=xkに対して、
f(n)(x)=k!(kn)!xkn
です。階乗をガンマ関数に置き換え、
f(a)(x)=Γ(k+1)Γ(ka+1)xka
ここでaは実数とします。これを

非整数階微分演算子

Daxk=Γ(k+1)Γ(ka+1)xka

と書きます。この作用素の基本的な性質は以下の通りです。

f,gは関数,a,cは定数.

Da(f+g)=Da(f)+Da(g)Da(cf)=cDa(f)Da(fg)=j=0(aj)Dj(f)Daj(g)

上二つは当然成立してほしいので、うれしいです。三つ目は積の微分法則の一般化です。一般化二項定理と同じ形ですね。

ここで紹介したのはリーマン-リウヴィル分数階微分積分と呼ばれるものですが、ほかにも非整数階微分作用素の定義があるようです。また、この作用素の厳密な定義は文献[1](Product_rule_for_vector_fractional_derivatives)を参考にしてください。

シャッフル積分

さて、この作用素を使ったシャッフル積を考えてみましょう。a階積分をf(x)dxaと表します。(シャッフル積分も同様) 前回 と同様に、μ階積分について
Mは操作前のtの次数)

ε(t)dtμMの変化係数に乗じられる式
dtμtaMMa+μΓ(Ma+1)Γ(Ma+μ+1)
上でa=μのときMMΓ(M+1μ)Γ(M+1)
tadtμ1tMM+mi+a+μΓ(M+mi+a+1)Γ(M+mi+a+μ+1)
上でa=1μのときMM+mi+1Γ(M+mi+2μ)Γ(M+mi+2)

を得ます。これより、
01dtμtμdtμtμk11 個t1μdtμ1tdtμtμdtμtμk21 個t1μdtμ1tdtμtμdtμtμka1 個t1μdtμ1t=m1>m2>>ma>0(Γ(m1+1μ)Γ(m1+1))k1(Γ(m2+1μ)Γ(m2+1))k2(Γ(ma+1μ)Γ(ma+1))ka

を得ます。さて、多重ポリログの一般化を定義します。

多重ポリログの一般化

Fkμ(z):=m1>m2>>ma>0(Γ(m+1μ)Γ(m+1))kzm1

(この記事ではインデックスは左向き)
μ=1で多重ポリログに一致します。次の補題が成立します。

(ddx)μFk1,k2,,kaμ(z)

={z1μ1zFk2,,kaμ(z)(k1=1)1zμFk11,k2,,kaμ(z)(k1>1)

(多重ポリログの場合と同様に示せます)
MZV同様のシャッフル積を入れたいのですが、a1のとき、次は成立しません。

誤った式:
Da(fg)=(Daf)g+f(Dag)

そのため、通常の積についてはシャッフル積が入りません。そこで、次の演算を導入します。

演算μ

fμg=Dμf(Dμg)+Dμg(Dμf)

f1g=D1f(D1g)+D1g(D1f)=D1(D1(fg))=fgです。
この演算についてシャッフル積が入ります。すなわち、

w1,,wk,w1,,wkdtμtμまたはt1μdtμ1t,ただしwk=wk=t1μdtμ1tとするとき,|z|<1について以下が成立.
(0zw1wk)μ(0zw1wk)=(η1,,ηk+k)(0zη1ηk+k)
ただし(η1,,ηk+k)η1,,ηk+kのシャッフル全体についての和.

証明)
k+kについての帰納法で示す.k+k=2,つまりk=k=1のときは,
Dμ(F1(z)μF1(z))=2z1μ1zF1(z)=2DμF1,1(z)より、
F1(z)μF1(z)=2F1,1(z)なので成立.k+k<nのときを仮定し、k+k=nのとき、成立することが分かる.(シャッフルと演算μの定義より)□

計算

Fkμ(z)μFkμ(z)を2通りに計算してz1とすることで、非自明な級数どうしの関係式を得ることができます。
p,qを2以上の整数として、Fpμ(z)μFqμ(z)を計算してみましょう。

シャッフル積で計算

Fpμ(z)μFqμ(z)|z1=i=0p1(q1+ii)m1>m2>0(Γ(m1+1μ)Γ(m1+1))q+i(Γ(m2+1μ)Γ(m2+1))pi+i=0q1(p1+ii)m1>m2>0(Γ(m1+1μ)Γ(m1+1))p+i(Γ(m2+1μ)Γ(m2+1))qi

となります。(MZVのシャッフル積と同様なので過程は省略)

級数展開で計算

Fpμ(z)μFqμ(z)|z1=DμFpμ(z)(DμFqμ(z))+DμFqμ(z)(DμFpμ(z))|z1=DμFpμ(z)1zμFq1μ(z))+DμFqμ(z)1zμFp1μ(z))|z1=m1,m2>0(Γ(m1+1μ)Γ(m1+1))p(Γ(m2+1μ)Γ(m2+1))q1(Γ(m1+m2+1μ)Γ(m1+m2+1))+m1,m2>0(Γ(m1+1μ)Γ(m1+1))q(Γ(m2+1μ)Γ(m2+1))p1(Γ(m1+m2+1μ)Γ(m1+m2+1))

第2行から第3行へは級数展開して積分しました。(tex打ちめんどい…)
結局、次を得ます。

m1,m2>0(Γ(m1+1μ)Γ(m1+1))p(Γ(m2+1μ)Γ(m2+1))q1(Γ(m1+m2+1μ)Γ(m1+m2+1))+m1,m2>0(Γ(m1+1μ)Γ(m1+1))q(Γ(m2+1μ)Γ(m2+1))p1(Γ(m1+m2+1μ)Γ(m1+m2+1))=i=0p1(q1+ii)m1>m2>0(Γ(m1+1μ)Γ(m1+1))q+i(Γ(m2+1μ)Γ(m2+1))pi+i=0q1(p1+ii)m1>m2>0(Γ(m1+1μ)Γ(m1+1))p+i(Γ(m2+1μ)Γ(m2+1))qi

μ=12を代入する

上式にμ=12を代入します。
βn=(2nn)22nとします。Γ(n+1/2)Γ(n+1)=βnπに注意し、両辺をπp+qで割ることで、以下を得ます。

m1,m2>0βm1pβm2q1βm1+m2+m1,m2>0βm1qβm2p1βm1+m2=i=0p1(q1+ii)m1>m2>0βm1q+iβm2pi+i=0q1(p1+ii)m1>m2>0βm1p+iβm2qi

感想

過去1でtex打ちがしんどかった……微分作用素をもってくれば級数にシャッフル積の構造を入れられることが分かったので、他の微分作用素でもやってみようと思います。最後の式は純粋な級数変形だけで示せるのでしょうか?ちなみに演算μについて、
fμg=2fg2j>0(μj){Djμ(f)Dj(g)+Djμ(g)Dj(f)}
が成立します。(定理1の3個目の式より)
これを使っても関係式が得られますが、無限個の級数がでてきてしまうのでやりませんでした。調和積の出番がどこかであるはずなのですが、、

参考文献

[1](Product_rule_for_vector_fractional_derivatives)

謝辞

ここまで読んで下さりありがとうございました。誤植等指摘お願いいたします。

投稿日:2024313
更新日:2024314
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itou
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