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競技数学解説
文献あり

IMO2023 解いてみた

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 数オリの体験記が流行りそうなので便乗します.

趣旨の説明など

 これは,IMO2023を解いたときの思考過程を記憶の限り詳しく書こうという趣旨の記事です.
 この記事では,簡単のため,以下のような表記法を用います.

表記法
  • ISL $\cdots$ IMO ShortListの略.
  • MS $\cdots$ 得点の与え方に関するガイドライン.Marking Schemeの略.
  • 「時刻h:mm」で,開始からh時間mm分後を表す.

Day1

 分野はNGAです.早くも残念な気分になってきました.
  [Day1](https://www.imo-official.org/problems.aspx) Day1

Problem 1

 素べきと$pq$型を実験したところ,素べきは条件を満たし,$pq$型はダメでした.
解は素べきだけだと予想して考察を進めます.

 $pq$のときの結果から,$d_{n-2}がd_{n-1}$を割り切らないと$n$が解にならないと気づきました.
もうちょっと考えてみると,$n/p_2$あたりで詰むことがわかります.

 これをちゃんと答案にすれば終わりです.
答案を書き終えて$2$番の問題文を読んでいるあたりで,時刻0:30になりました.

Problem 2 (1回目)

 Problem 2は幾何だったので,さっさと3に行きたくなってきました.
ここでスキップしてProblem 3が激ムズだと点数が嫌なことになるので,我慢して図を書いていきます.
図を$3$つぐらい,というかまあ$3$つ書いて,考察を始めます.

 複素座標を検討し,却下.
 直交座標を検討し,却下.
 反転を検討し…却下.
普通にやるしかなさそうです.

 まずは結論を言い換えます.
$S$の対蹠点を$M$とすると,示すべきは,$P$における$\omega$の接線が,$AM,BS$と共点であることです.
$P$の接線と直線どこどこの交点」というのは明らかに扱いにくいので,結論部分を,「$AM$$BS$の交点$Q$に関して,$QP^2=QB \cdot QD$」と言い換えます.

 結論の言い換えができたあとは,$P$$DL$$SE$に写す回転相似の中心であることに気づき,ミケル点由来の共円をいくつか見つけましたが,これはどうもあまり良い方針ではなかったそうです.
 
 そんな感じで,$30$分か$60$分だか覚えていませんが,結構時間が経ってきたので焦ってきます.
そこで,以下のような理由から,Problem 2をスキップすることにしました.

  • IMO直前にISLのGをやっていたが全くできず,Gの自信を失っていた.
  • そろそろG以外をやりたくなってきた.
  • Problem 3の問題文がチラチラ見えて気になっていた.
  • 日本チームの中では,今年の$3$番級は非常に簡単だということになっており,本当に簡単かもしれないと思った.

一応,爆死を防ぐため,時刻2:30あたりまで経ってあまりにも進展がなかったら,撤退してProblem 2に集中することを約束しました.

Problem 3

 幾何から解放され(逃亡し)ました!
分野はA.より詳しく言うと数列と多項式.解ける気がします.
早速問題文を読んでみます.変な条件ですね.
 大小に関する考察が効きそうです.テーマも数列なので,この問題は今年のJMO本選の$3$番と同じといっても過言ではありません.
3番級は3番級でもJMO3番級だったようですね.おめでとうございます.あなたの勝ちです.
ということで,単調性が言えるんじゃないかな,という気持ちになってきました.ひとまずそれを目標にします.

Step1:単調性

 ところで,こういう「連続する$k$個が〜」みたいな条件は,差分的なものをやると整理されて使える式になるものと相場が決まっている(出典:直前にやってたIMOバチャ)ので,$n$の式と$n+1$の式を比較してみました.
 得られた式は$P(a_{n+1})/P(a_n) = a_{n+k+1}/a_{n+1}$です.
つまり,$a_{n+1}$$a_n$の大小関係と$a_{n+k+1}$$a_{n+1}$の大小関係が等しいことがわかりました.
よって,どこかで一度$a_n>a_{n+1}$となるとさらに減少して$a_n>a_{n+1}>a_{n+k+1}$となってしまいます.
ということは,$a_{n+1}$$a_{n+k+1}$の間の項を「離散的な中間値の定理」とかを使っていい感じに選ぶと,どんどん減少列を伸ばしていけて$\mathbb{N}$の整礎性に矛盾させられるのではないでしょうか.
そう思って色々探してみると,$a_n>a_{n+1}$から無限降下列を実際に構成できました.
これは,$\lbrace a_n \rbrace$の非減少性が示されたということです.これは確かな進捗です

 さて,非減少性が示されたなら,単調増加性まで延ばせるかを確認すべきです.
この問題の場合,どこかで$a_n=a_{n+1}$だと非減少性と$a_{n+1}=a_{n+k+1}$より$a_{n+1} = a_{n+2} = \cdots = a_{n+k+1}$となって,元の条件から$P(x)=x^k$となります.
よって,$\lbrace a_n \rbrace$は一定であるか単調増加であるかの$2$択です.

Step2:一次の積への分解,十分先で等差

 目標であった単調性が示せたので,軽く休憩しながら次に何をやるかを決めます.
深追いせずここで撤退するか,Problem 3を続けるかで一瞬悩みましたが,欲が出たのでProblem 3をやることにしました.

 単調性の次にできることがすぐには分からなかったので,$\lbrace a_n \rbrace$が定数であれば十分であることを確認しました.
ここで,解の予想をまだやっていなかったことを思い出しました.
解が定数だけということはなさそうだったので色々探してみると,等差数列が見つかりました.
 解は等差数列だけだと予想し,他の可能性を削るためにオーダー的な議論をすることにしました.
いつまで経っても$a_{n+1} \geq 2a_n$みたいな$n$が残っていると,$P$$k$次の係数は$2$以上になるしかなく詰んでしまうので,そんなことにはなりません.$2$どころか$1+\epsilon$でもダメです.
 $a_{n+1}-a_n$$\omicron (n)$に属すようですが.$\omicron (\sqrt n)$にも属すでしょうか?$\omicron (\log n)$には?
というか,解が等差ということは,これが有界であることがすぐに示せたりするのでは?
と思い,よく見たら$\max \lbrace c_{k-1}, c_{k-2}, \cdots, c_0\rbrace$あたりの数値で抑えられてました.

 この瞬間,$P(a_n)=a_{n+1}a_{n+2} \cdots a_{n+k}$という条件を完全に理解し,勝利を確信しました.
そうかそうか,つまり君はそういうやつだったんだな.

 十分大きい$n$を固定し,$a_{n+i} = a_n + \beta _i$とします.
これを使って条件を書き換えると,$P(a_n)=(a_n + \beta _1)(a_n + \beta _2)\cdots(a_n + \beta _k)$になります.
こう書くと,因数分解に見えますよね.
実際,$a_n$$\beta_1, \cdots, \beta_k$に対して十分大きいので,$P(x) = (x + \beta _1)(x + \beta _2)\cdots(x + \beta _k)$となることがわかります.
ということは,十分先で$a_{n+1}-a_n$は定数です.

 もちろん,このままだとちょっと厳密性が足りません.
いい感じの記述が難しかったので,休憩をはさんだりしつつここまでの解答を書き上げました.

Step3:全体で等差

 Step2の記述が予想よりも時間を食ってしまい,気づけば約束の時刻2:30を回っていました.
とはいえ,Problem 3も,あともう少しで解けるのでここで撤退はしません.

 あとは条件式をそのまま使って,等差の限界を一つずつ手前に持ってくれば全体が等差数列になります.
Problem 3を書き終わったときの時刻は2:30から3:00あたりです.

Problem 2 (2回目)

 まだ時間はあります.春の2Gが解けたので,1時間半あればこれも解ける気がしてきました.
 1回目で結論部分の言い換えをやってましたが,いまいち自信が持てなかったため,何度か別パターンの結論でやろうとし,失敗しました.
こういうのを避けるために,それは確かな進捗ですか?という問いをしっかり意識するべきでした.

 しばらく散漫なangle chaseをしてましたが,何の成果も得られませんでした.
$AM,BS$の交点の方べきを結論とする」という方針をしっかり再確認し,長さ計算でさらなる言い換えができないかを探っていると,ついに見つけました.
$AD \parallel SM$$A,B,M,S$の共円性より,$QB \cdot QD = QA^2$です.
これで,よく分からない共点性が$QA=QP$に帰着されました.
MSによると,これで$3$点が与えられるそうです.

 しかしもう時間がありません.
このあとは$P$の特徴づけなどをやるべきでしょうが,時間がないことに焦りモチベを見失っていたのでスルーしてしまいました.

 結局,これ以上の部分点を獲得することができないまま,Day1が終了しました.自己評価は717.

Day2

 ACN,特にProblem 6にNが来ることを期待して問題を開きました.
 分野はACGでした.無慈悲.
今回のIMOにまともなNが存在しないことが確定した瞬間でした.
[Day2](https://mathlog.info) Day2

Problem 4

 不等式です.最悪$0$完もあるので嫌ですね.
 問題を見た瞬間,解法が見えました.整数列で$3034$ということは,$1$項あたり$1.5$の増加ペースなので,${}+1$${}+2$が交互に出るのが多分最小ケースです.
しかも,「相異なる」を外せば全部$1$にすることができて$a_n=n$なので,${}+1$が連続するとそこの$x_i$が等しくなって矛盾するというオチでしょう.
 最初に見たとき$x_i$が「正の整数」に見えたのですが,よく見ると「正の実数」でした.
ということは,$x_{n+1}$を最小ケースからちょっとでも離せば増加量が$1$を超えるはずです.

 この辺の予想は全部当たっていました.結局,記述も含めて$30$分強で終わりました.

Problem 5

 Cです.まずは実験をします.
$n=1$なら$1$$n=2$なら$2$$n=3$なら$2$$n=4$なら$3$$n=5$なら$3$$k=\lceil n/2 \rceil$でしょうか?
実際,与えられた図の上$4$段のを延長するようなやり方で右端$2$列を赤く塗っていくと,$\lceil n/2 \rceil$を達成できます.

 いや,違いますね.$n=6$$k=3$を達成できます.2Cと聞いて 嫌な記憶 が出てきましたが,今回はちゃんと嘘に気づけました!
 ピラミッドをいい感じに引き伸ばすことで,$1,2,2,3,3,3,4,4,4,4,5,5,5,5,5\cdots$みたいな構成ができて,$\sqrt n$のオーダーまで改善できます!
 今回は嘘に早く気付けたので,しっかり2完できちゃいますね〜.

 構成の記述が面倒で,苦戦しながら書き上げました.
構成が終わったので評価をやっていたのですが,おかしいです.いつまで経っても進展が得られません.
さらなる異変に気づいたのは時刻3:30ごろです.$k$$\sqrt{2n}$ぐらいになることと多分同値な命題を作りましたが,これがもっともらしくありません.
薄々感じてはいましたが…もしかして,また何かやっちゃいました?

 はい.やっちゃってました.あーあ.
この直後に,別の評価の方針を見つけたのですが,それだと$\log _2 n$あたりまでしか抑えられません.
そこで,この評価だと弱すぎて別のところで矛盾してくれるんじゃないかと期待して反例を作りにかかったのですが…

$n=7$で,$k=3$が構成できてしまいました.

 あとは$\log_2 n$の構成を書いて,それっぽい考察を時間に追われながらやりました.
 結局1完か…

Problem 6

 Problem 5が忙しかったので,途中でチラッと図を書いただけです.

結果

 最終的な得点は737720で,合計26点です.銀!
5の嘘に気づけてよかったです.

参考文献

投稿日:2023719

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