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大学数学基礎解説
文献あり

アーベル圏について.

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定義2.71 アーベル圏

Aがアーベル圏であるとは,

(1)Aは零対象Oをもつ.
(2)任意のA1,A2Ob Aに対して積A1×A2および和A1A2が存在する.

(3)Aにおける任意の射の核および任意の射の余核が存在する.
(4)Aにおける任意の単射(mono)はある射の核であり,また任意の全射(epi)はある射の余核である.

定義2.12 部分対象 商対象 同値

Cを圏とする.
AOb Cの部分対象とは,BOb Cと単射(mono)f:BAの組(B,f)のこと.
AOb Cの商対象とは,BOb Cと全射(epi)f:ABの組(B,f)のこと.
AOb Cの部分対象(商対象)(B,f)(C,g)が同値とは,ある同型(iso)φ:BCが存在して,gφ=f(φf=g)が成り立つこと.このとき(B,f)(C,g)またはBCまたはfgと書く.

命題2.51

Cを圏とする.
Cの二つの射fi:AB(i=1,2)の差核g:CAが存在するとき,それは単射(mono)である.(従って(C,g)Aの部分対象となる)
Cの二つの射fi:AB(i=1,2)の差余核h:BDが存在するとき,それは全射(epi)である.(従って(D,h)Aの商対象となる)

差核の定義よりg:HomC(X,C)HomC(X,A)は集合の単射なので,
gは単射(mono).
差余核の定義よりg:HomC(D,X)HomC(B,X)は集合の単射なので,
gは全射(epi).

補題2.73

Aをアーベル圏とする.
Aにおける単射(mono)f:ABに対し,fker(cokerf)である.また,
Aにおける全射(epi)f:ABに対し,fcoker(kerf)である.

まず前半について.
合成AfBcokerfCokerfは余核の定義より,零射である.
よって核の定義より
  !φ:AKer(cokerf) s.t. ker(cokerf)φ=f
次に,fは単射(mono)なので,アーベル圏の定義(4)より,
  g:BC s.t. f=kerg
このとき合成AfBgCは零射なので,
  !ψ:CokerfC s.t. ψcokerf=g
するとgker(cokerf)=ψcokerfker(cokerf)=0なので,
  !φ:Ker(cokerf)Kerg=A s.t. fφ=kergφ=ker(cokerf)
このときfφφ=ker(cokerf)φ=fとなり,fが単射(mono)より
 φφ=idA
またker(cokerf)φφ=fφ=ker(cokerf)となり,
ker(cokerf)も単射(mono)(命題2.51)なので
 φφ=idKer(cokerf)
以上よりϕは同型でker(cokerf)φ=fをみたすので定義2.12よりfker(cokerf).
Ker(cokerf)ker(cokerf)!φ0A=Kerg0f=kerg!φ0BcokerfgCCokerf!ψ

後半について.
Aopにおいてfop:BAは単射(mono).
従って前半の主張よりfopopkerop(cokeropfop)opkerop(kerf)opop(coker(kerf))op
よってfcoker(kerf).

命題2.58

Cを零対象Oをもつ圏とする.
(1)零射0:XYが単射(mono)ならばX=O
          全射(epi)ならばY=O
(2)零射0:XYの核はX
        余核はY
(3)単射(mono)f:XYの核はO
全射(epi)f:XYの余核はO
(4)Xi(i=1,2)の和i=12Xiが存在するとき,普遍射(ιi:Xii=12Xi)i=1,2のファイバー積はO

(1)まず前半の主張を示す.
合成OXOは零対象Oの普遍性からidO
合成XOX0Y
合成XidXX0Yはどちらも零射0なので,零射0が単射(mono)であることより
合成XOXidX
よってO=X
後半の主張はCop0opが単射(mono)よりY=O
(2)任意のZCに対し
idX:HomC(Z,X){φHomC(Z,X)|0φ=0φ}は集合の同型
従ってKer0=X同様にCoker0=Y
(3)x:OXが核の普遍性を満たすことを示す.
任意のZC,任意のg:ZXに対して,fg=0gとする.
fg=0g=0=f0であり,fは単射(mono)なので,g=0
つまり,!g~:ZO s.t. g=xg~なので,Kerf=O
これもまた後半の主張はCopで考える.
(4)(pi:OXi)i=1,2(ιi:Xii=12Xi)i=1,2のファイバー積
ZC,(fi:ZXi)i=1,2に対して,
  ι1f1=ι2f2!g:ZO s.t. fi=pig
Zf1!gf2Op1p2X2ι2X1ι1 i=12Xi
gOが終対象であることより,一意に生える.
ι1f1=ι2f2fi=pigを示せばよい.
以下j={1 (i=2)2 (i=1) とする.
まず,(li:XiO)i=1,2とおくと,i=12Xiの普遍性により,
!gi:i=12XiXi s.t. giιi=idXi, giιj=pilj
Zf1!gf2gZf1!gf2gOp1p2X2ι2l2p1l2Op1Op1p2X2ι2idX2X1ι1idX1i=12Xi!q1X1ι1l1p2l1i=12Xi!q2X1Op2X2
fi=idXifi   
  =qiιifi   giの生やし方より
  =qiιjfj   f1,f2の取り方より
  =piljfj   qiの生やし方より
  =pig      gの一意性より
よって示された.

命題2.74

アーベル圏Aにおける射f:ABが単射(mono)かつ全射(epi)ならば同型.
(命題2.11により逆も成り立つ.)

cokerff=0=0fかつfは全射(epi)より命題2.58(3)からcokerf=0
補題2.73よりfker(cokerf)=ker0
命題2.58(2)よりker0idBとなるのでfidB.
つまり,同型φ:ABが存在する.

命題2.75

アーベル圏Aにおける任意の2つの射f1,f2:ABの差核,差余核が存在する.

まず差核について.
p1:A×BA,p2:A×BBを積の普遍射とする.
これの普遍性から,!fi~:AA×B (i=1,2) s.t. p1fi~=idA,p2fi~=fi
AidAfi~fiA×Bp1p2BA
C:=Ker((cokerf2~)f1~),g1:=ker((cokerf2~)f1~)とおく.
cokerf2~(f1~g1)=0より!ψ:CKer(cokerf2~) s.t. f1~g1=ker(cokerf2~)ψ
さらに,p1f2~=idA:同型射より単射(mono).命題2.10よりf2~も単射(mono).
補題2.73よりf2~ker(cokerf2~).
つまり,ある同型射φ:Ker(cokerf2~)Aが存在してker(cokerf2~)=f2~φ.
従ってg2=φψ:CAとおくと,f1~g1=f2~g2が成り立つ.
このとき,
g1=idAg1
  =p1f1~g1
  =p1f2~g2
  =idAg2
  =g2
そこで,g:=g1=g2とおく.
f1g=p2f1~g
   =p2f2~g
   =f2g
である.
 この(C,g)f1,f2の差核であることを示す.
XA,h:XA
f1h=f2h!h:XC s.t. gh=hを示せば良い.
(cokerf2~)f1~h=0を示せれば,Cが核であることから示せる.
まず,f1~h=f2~hを積A×Bの普遍性から示す.
p1f1~h=idAh=p1f2~hおよび
p2f1~h=f1h=f2h=p2f2~hが成り立つので,
集合の同型
HomA(X,A×B)HomC(X,A)×HomC(X,B);d(pid)i=1,2
により,f1~h=f2~hが成り立つ.
従って,
(cokerf2~)f1~h=(cokerf2~)f2~h=0h=0
よって示された.
次に差余核について.
Aopはアーベル圏なので,f1op,f2opの差核CAopが存在する.このCAにおけるf1,f2の差余核である.

この二個目の系の消し方どなたか教えてください…

系2.76

Aをアーベル圏,I|MorI|<なる圏とする.
D:IAを図式とすると,limD,limDは存在する.

Aをアーベル圏の定義(1),(3)を満たす圏とする.
f:ABAにおける射とする.
(Imf,imf):=(Ker(cokerf),ker(cokerf))fの像という.
このときimfは単射(mono)で,またcokerff=0よりimfq=fを満たす射q:AImfが一意的に存在する.

補題2.78

Aをアーベル圏,f:ABAにおける射,
AqImfimfBを上の通りとする.
f:ABAqCiBとして書け,さらにiが単射(mono)であるとする.このとき,射φ:ImfCφq=q,iφ=imfを満たすものが一意的に存在する.

まずiが単射(mono)であることより,補題2.73より
iker(coker i)
つまり,ψ:Ker(coker i)C s.t. ker(coker i)=iψ
coker iimf=0が示せれば,核の普遍性から
!h:ImfKer(coker i) s.t. imf=ker(coker i)h
φ:=ψhiφ=imfを満たす一意な射となる.
さらにこのとき,
iφq=imfq=f=iqで,iは単射(mono)なので,
φq=qも成り立つ.
以下coker iimf=0を示す.
cokerfは全射(epi)より補題2.73より
cokerfcoker(ker(cokerf))=coker(imf)
つまり,d:Coker(Imf)Cokerf s.t. cokerf=dcoker(imf)
さらに,coker if=coker iiq=0q=0
より,!π:CokerfCoker i s.t. coker i=πcokerf
g:=πdcoker i=gcoker(imf)を満たす一意な射.
このとき(coker i)(imf)=gcoker(imf)(imf)=g0=0より示された.

補題2.79

q:AImfは全射(epi)である.

qが全射(epi)
CA,α,β:ImfC
   αq=βqα=β

CA,α,β:ImfCが,αq=βqを満たすとする.
(D,γ:DImf)α,βの差核とする.
αq=βqより,!δ:AD s.t. q=γδ
さらに,f=imfγδであり,imf,γはどちらも差核の普遍射より単射(mono)なので,imfγは単射(mono).従って,補題2.78より
!ϵ:ImfD s.t. imfγϵ=imf
imfは単射(mono)よりγϵ=idImf
するとα=αγϵ=βγϵ=β
よってqは全射(epi).

余像

Aをアーベル圏の定義(1),(3)を満たす圏とする.
f:ABAにおける射とする.
(Coimf,coimf):=(Coker(kerf),coker(kerf))fの余像という.
このときcoimfは全射(epi)で,またfkerf=0よりicoimf=fを満たす射i:CoimfBが一意的に存在する.

補題2.81

Aをアーベル圏,f:ABAにおける射,
AcoimfCoimfiBを上の通りとする.
f:ABAqCiBとして書け,さらにqが全射(epi)であるとする.このとき,射φ:CCoimfφq=coimf,iφ=iを満たすものが一意的に存在する.

補題2.82

i:CoimfBは単射(mono)である.

この二つの補題はAopに対する補題2.78,2.79より従う.

定理2.83 準同型定理

imfqkerf=fkerf=0imfは単射(mono)よりqkerf=0
従って!φ:CoimfImf s.t. q=φcoimf
このφは同型射

q=φcoimfは全射(epi)なので,命題2.10よりφも全射(epi).
さらに,imfφcoimf=imfq=f=icoimfcoimfは全射(epi)なので
imfφ=iiは単射(mono)なので,命題2.10よりφも単射(mono).
従って命題2.74よりφは同型射

群の圏Grpは例えば包含射像f:(12)S3の余核が存在しないのでImfが核,余核の合成として定義できない.しかし,f:GHに対して,群論で定義したように,Imf={f(x)H|xG}と定義すれば,群の準同型定理はこの定理2.83の系と思える.

系2.84

Aをアーベル圏,f:ABAにおける射とする.
kerf=0fは単射(mono)
cokerf=0fは全射(epi)

まず前半の主張について.
Coimf=Coker(kerf)=Coker(0:KerfA)
命題2.58(2)よりCokerf0=A,cokerf0=idA
補題2.82よりiは単射(mono),idAは同型射より単射(mono).
従ってf=icoimf=iidAは単射(mono).
後半はAopで考える.

アーベル圏を(1),(2),(3),(4)で定義できる.
(4)Aにおける任意の射f:ABに対して定理2.83で定義したφ:CoimfImfは同型.

定義2.86完全列

アーベル圏における図式AfBgCが完全列
defBの部分対象としてKergImfである.
(Bの商対象としてCoimgCokerfである.)

長完全列

それぞれの形の図式に対して,
A1f1A2f2fn1An,
f0A1f1A2f2fn1An,
A1f1A2f2fn1Anfn,
f0A1f1A2f2fn1Anfn
が完全列
defiに対してAifiAi+1fi+1Ai+2が定義2.86の意味で完全列

短完全列

OA1A2A3Oの形の完全列を短完全列という.

命題2.87

(1)アーベル圏における図式OAfB(AfBO)が完全列
fが単射(mono)(全射(epi))
(2)アーベル圏における図式OAfBgC(AfBgCO)が完全列
fkerg(gcokerf)
(3)アーベル圏における射f:ABに対して,
OKerfkerfAcoimfCoimfO,
OImfimfBcokerfCokerfO,
OKerfkerfAfBcokerfCokerfO
は完全列
(4)
アーベル圏における可換図式
AgfBhAfB
に対して,これを拡張した可換図式
O.Kerfg¯kerfAgfBhcokerfCokerfh¯OOKerfkerfAfBcokerfCokerfO
が自然に誘導される.

(1)命題2.58(1),(2)よりIm(0:OA)=Oより
図式OAfB(AfBO)が完全列
Kerf=O
命題2.58(1),系2.84より
Kerf=O
fは単射(mono)
(2) (1)より
図式OAfBgCが完全列
fは単射(mono)かつimfkerg
補題2.73よりimffなので,
図式OAfBgCが完全列
fは単射(mono)かつfkerg
(3)
ker(coimf)=ker(coker(kerf))=im(kerf)
ker(cokerf)=imf
imfは単射(mono)なので補題2.73より
imfker(coker(imf))=im(imf)
従ってker(cokerf)im(imf)
kerfim(kerf),ker(cokerf)=imf
(4)f(gkerf)=hfkerf=h0=0から
!g¯:KerfKerf s.t. gkerg=kerfg¯
(cokerfh)f=cokerffg=0g=0から
!h¯:CokerfCokerf s.t. cokerfh=h¯cokerf

命題2.88

アーベル圏における図式AfBgCが完全列
gf=0かつcokerfkerg=0

fAqImfimfBと分解しておく.

仮定よりgimfgkerg=0なので
gf=gimfg=0q=0
またcokerfkerg=cokerfimf=0

(gimf)q=gf=0qが全射(epi)より
gimf=0なので,Kergの普遍性から,
!φ:ImfKerg s.t. kergφ=imf
また,cokerfkerg=0よりImf=Ker(cokerf)の普遍性より
!ψ:KergImf s.t. imfψ=kerg
このとき
imf(ψφ)=kergφ=imf=imfidImfimfは単射(mono)より
ψφ=idImf
kerg(φψ)=imfψ=kerg=kergidkergkergは単射(mono)より
φψ=idkerg
従ってKergImf

参考文献

[1]
志甫 淳 著, 新井 仁之 (編集), 小林 俊行 (編集), 斎藤 毅 (編集), 吉田 朋広 (編集), 層とホモロジー代数, 共立出版, 2016
投稿日:318
更新日:320
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