写像が連続であればコンパクト集合の像はコンパクトですが,この逆はいつ成り立つか,というのは素朴な疑問だと思います.有限位相空間に異なる位相を入れることで反例自体は容易に与えることができます.今回は広く成り立つ場合を2つ紹介しようと思います.
まずはこれから扱う写像を定義します.
$f:X\to Y$を位相空間$X$から位相空間$Y$への写像とする.$X$のコンパクト部分集合$A$の$f$による像$f(A)$が常にコンパクトであるとき,$f$はcompact preservingであるという.
第一の場合です.コンパクトハウスドルフ空間はとても性質のよいクラスですね.
$X,Y$をコンパクトハウスドルフ空間,$f:X\to Y$を次の$2$条件を満たす写像とする.
このとき$f$は連続である.
$a\in X$とし$\mathscr{H}$を$a$の閉近傍全体からなる集合族とする.$X$は正則だから$\mathscr{H}$は$a$の基本近傍系となる.$\mathscr{G}=\{f(H):H\in \mathscr{H}\}$とおく.$\mathscr{G}$は$Y$の閉集合の族であり$f(a)\in \bigcap \mathcal{G}$である.
任意の$x\in X$に対し$F_x=f^{-1}(f(x))$とおく.$x\in X\backslash F_a$とすると$F_a,F_x$は互いに素な閉集合である.
よって$H\in\mathscr{H}$で$H\cap F_x=\emptyset$となるものが存在するので$f(x)\notin f(H)$,従って$\bigcap\mathscr{G}=\{f(a)\}$である.
もし$f$が$a$で連続でなければ,$f(a)$のある開近傍$U$で任意の$H\in \mathscr{H}$に対し$f(H)\nsubseteq U$となるものが存在する.$K=Y\backslash U$とおく.明らかに$K\cap \bigcap\mathscr{G}=K\cap \{f(a)\}=\emptyset$.一方,$f(H)\cap K\neq \emptyset$が任意の$H\in\mathscr{H}$で成り立つので$\{K\}\cup \mathscr{G}$は有限交叉性をもつ.
実際,$H_1,H_2\in \mathscr{H}$として$\emptyset \neq f(H_1\cap H_2)\cap K\subseteq f(H_1)\cap f(H_2)\cap K$
よって$K\cap \bigcap\mathscr{G}\neq \emptyset$が$Y$のコンパクト性からわかり矛盾する.背理法により$f$は$a$で連続であり,$a$は任意だったので$X$で連続である.$\Box$
次の命題もそうですが,次回以降で紹介する命題は点列を使った議論が多いです.今回のように点列を使わない議論がうまく回るのはコンパクト性の強さなんですかね.
距離空間に対しても同様のことが成り立ちます.さすが距離空間!
まずは証明の大部分を占める補題を示します.
$X,Y$を距離空間,写像$f:X\to Y$はcompact preservingであるとする.$f$が$p\in X$で不連続であるとき,ある$q\in f(X)$と$X$の点列$\{p_n\}$であって$p_n\to p$($n\to \infty$),$q\neq f(p)$,任意の$i$に対して$f(p_i)=q $を満たすものが存在する.
不連続性から$f(p)$のある近傍$V$と$X$の相異なる点からなる点列$\{x_n\}$で$x_n\to p$,$f(x_i)=q_i\notin V$を満たすものが存在する.もし補題の結論が成り立たないとすれば,任意の$i$に対し$q_i$は有限個の$x_n$たちの像である.このとき$\{x_n\}$の部分列$\{y_n\}$で$S=\{y_1,y_2,\dots\}$上で$f$が単射となるものが存在する.しかし,$S\cup \{p\}$はコンパクトなので$f(S)\cup \{f(p)\}$もコンパクト,さらに$f(S)\cap V=\emptyset$から$f(S)$もコンパクトである.従って,ある$j$に対し$f(y_j)$は$f(S)$の集積点である.しかし$(S\backslash \{y_j\})\cup \{p\}$はコンパクトだから$f(S)\backslash \{f(y_j)\}$もコンパクトとなり矛盾である.$\Box$
$X,Y$を距離空間,$f:X\to Y$を次の$2$条件を満たす写像とする.
このとき$f$は連続である.
もし連続でなければ,補題の$q$に対し$f^{-1}(q)$は閉でないので矛盾する.$\Box$
どちらの状況も空間に強い制約がありますね.次回は連結性も関係する命題を紹介しようと思います.