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【相対論】Petrov分類2

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Petrov分類の記事一覧

  Petrov分類1 の続きです。前の記事で導入した記号、概念、命題などはそのまま使います。前回は幾何学寄りの方法でPetrov分類を導入しましたが、今回はより代数的な切り口になっていきます。

principal null vector

 これまではself-dual principal null plane を使ってPetrov分類を行ってきましたが、principal null vectorによる定義もあり、その準備をします。

 まず、self-dual null planeとnull vectorがスカラ倍を除いて一対一に対応することを見ます。 P+:VU+は基底を
P+(2e1k)=mkP+(2e1l)=m¯lP+(2e3e0)=lkmm¯
のように写しました。基底{2e1k,2e1l,2e3e0}と基底{mk,m¯l,lkmm¯}に関する計量はそれぞれ
(020200004), (010100002)
となることから、P+が相似写像であることも分かりました。

 self-dual null planeをβ=mkと表します(このとき、kは実数倍を除いて一意的に定まることに注意)。 βU+が定める複素直線をVで考えてみます。複素数α=a+ibに対して、
P+1(αβ)=αP+1(β)=(a+b)2e1k=2(ae1+be2)k
なので、βが定める複素直線はVでは{xk; xk, x:spacelike}という集合になります。これは本質的にはnull vector kのみで決まります。逆に、null vector k に対して、xkとなる任意のspacelike vector xを取り、xkP+で写したものは、self-dual null planeを複素数倍の不定性を除いて一意的に定めます。このようにself-dual null planeとnull vectorは互いに複素数倍と実数倍を除いて対応しています。self-dual null plane βが定めるnull vectorの直線をN(β)と書くことにして、次のように定義します。

self-dual principal null plane βU+に対して、null vector kN(β)principal null vectorと呼ぶ。

principal null vector の重複度

 self-dual principal null plane βに対応するprincipal null vector kN(β)の重複度をβの重複度として定義します。このとき、次の命題が成り立ちます。

principal null vectorの重複度の性質

self-dual principal null plane βに対応するprincipal null vector kN(β)の重複度をqとする。このとき次が成り立つ。
(i) q=1 βW+の固有ベクトルでない。
(ii) q=2 W+β=λβ, λ0
(iii) q=3 W+β=0かつdimkerW+=1
(iv) q=4 W+β=0かつdimkerW+=2

β=mkとなるようにnull tetradを取る。このとき
W+=(Ψ2Ψ42Ψ30Ψ22Ψ1Ψ1Ψ32Ψ2), β=(100)
となっている。

(i)
上記の表示から、βが固有ベクトルでないこととΨ10は同値である。

(ii)
Ψ1=0,Ψ20であることとW+β=Ψ2β,Ψ20となることは同値である。

(iii)
Ψ1=0,Ψ2=0,Ψ30であることと、
W+=(0Ψ42Ψ30000Ψ30)
となることは同値であり、これはW+β=0かつdimkerW+=1と同値である。

(iv)

Ψ1=0,Ψ2=0,Ψ3=0,Ψ40であることと、
W+=(0Ψ40000000)
となることは同値であり、これはW+β=0かつdimkerW+=2と同値である。

 またprincipal null vectorの重複度を使ってPetrov分類を行うことができます。これは前の記事のPetrov分類の同値な2つの定義を考えれば自明な言い換えです。

Petrov分類

type I:重複度1のprincipal null vectorが4つある[1,1,1,1]
type II:重複度2のprincipal null vectorが1つと重複度1のprincipal null vectorが2つある[2,1,1]
type D:重複度2のprincipal null vectorが2つある[2,2]
type III:重複度3のprincipal null vectorが1つと重複度1のprincipal null vectorが1つある[3,1]
type N:重複度4のprincipal null vectorが1つある[4]

 それぞれのtypeの状況を図で表す以下のような表記法があります。
Petrov分類のprincipal null vectorによる表現 Petrov分類のprincipal null vectorによる表現

Jordan標準形によるPetrov分類

 3つ目の分類方法はW+のJordan標準形による方法です。

 trW+=0なので、W+のJordan標準形として可能な形は以下になります。
まず、3つの異なる固有値を持つ場合は、固有空間でない一般固有空間はあり得ないので
(Jordan-I)
W+(λ1000λ2000λ3), iλi=0
という形になります。次に2つの固有値を持つ場合は、一つの固有値に関して2次元の固有空間がある場合と2次元の固有空間でない一般固有空間がある場合があるので、
(Jordan-II)
W+(2λ000λ100λ), λ0
(Jordan-D)
W+(λ000λ0002λ), λ0
となります。最後に固有値が一つの場合は0になるしかないので、3次元の固有空間でない一般固有空間を持つ場合、1次元の固有空間と2次元の固有空間でない一般固有空間を持つ場合、0行列の場合があるので、
(Jordan-III)
W+(010001000)
(Jordan-N)
W+(010000000)
(Jordan-O)
W+O
となり、この6種類は背反であり、これで全部です。

 全てのPetrov分類のW+は上記の6種類のどれかになるので、それを見ていきます。

Petrov type Nのとき
W+=(0Ψ40000000)=(Ψ400010001)1(010000000)(Ψ400010001)(010000000)
となるので、これはJordan-N型です。

Petrov type IIIのとき
W+=(0Ψ42Ψ30000Ψ30)=(2Ψ32Ψ400010Ψ30)1(010001000)(2Ψ32Ψ400010Ψ30)(010001000)
となるので、これはJordan-III型です。

Petrov type Dのとき
W+=(Ψ2000Ψ20002Ψ2)
となるので、これはJordan-D型です。

Petrov type IIのとき、重複度2のprincipal null vectorが1つだから、self-dual nullの固有ベクトルは1つだけで、その固有値は0でないです。0でない固有値を持って、type Dでないから、Jordan-I or IIです。W+g(β,W+γ)=g(W+β,γ)を満たすから、異なる固有値に関する固有ベクトルは直交します。固有ベクトルの1つがnullのとき異なる固有値を3つ持つことは不可能なので、異なる固有値は2つです。従ってJordan-II型となります。

Petrov type Iのとき、重複度1のprincipal null vectorしかないので、self-dual nullの固有ベクトルは存在しない。従って、Jordan-I以外はあり得ないから、Jordan-I型である。

 以上より3つ目のPetrov分類の同値な定義を得ます。

Petrov分類

type I
W+(λ1000λ2000λ3), iλi=0
type II
W+(2λ000λ100λ), λ0
type D
W+(λ000λ0002λ), λ0
type III
W+(010001000)
type N
W+(010000000)
type O
W+O

 各Petrov typeのJordan分解の様子を象徴的に表した図として以下のようなものがあります。
!FORMULA[73][-203138665][0]の固有ベクトルと一般固有空間の様子を表す図 W+の固有ベクトルと一般固有空間の様子を表す図

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投稿者

Submersion
Submersion
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専門は相対論やLorentz幾何です。Einstein系の厳密解の構成や接触幾何の応用などの研究をしています。Ph.D保有者の中ではクソ雑魚の部類です。

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